魚屋出会い旅: 2006年11月アーカイブ

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 相模原綜合卸売市場「デイトレード」は本来冷凍ものなどを扱っている。本拠地は神奈川県平塚市。それが今年4月に相模原綜合卸売市場に支店を開業。それとともに平塚、大磯、佐島など相模湾海の幸を運んでくるようになった。その魚が素晴らしい。相模湾の地魚というと相模原、三多摩地区からも近くふんだんに見かけてもおかしくないだろう、と思うはず。ところが残念なことに関東での流通は東西にはあっても南北は手薄だ。八王子などにくる相模湾の地物も総て築地や太田、横浜中央から経由して一日置いての入荷となる。
 そんな状況にやっと「デイトレード」を見つけたときにはうれしかった。相模湾であがったばかりのヒラソウダが炭焼き(クロシビカマス)が活けのホウボウが平塚に揚がってから数時間の後には相模原に来る。これから寒くなるとアラやアカアマダイ、マダイなども来るはずで大いに楽しみである。

「デイトレード」は相模原綜合卸売市場の奥の目立たぬところにある。市場内を見て回ると、鮮魚を扱う仲卸は多く優秀な店や貝を多く扱う店などなかなか充実していると感心させられた。でもどの店舗もあまり特徴があるとは思えない。さあ帰ろうかと諦めかけたとき薄暗い通路の奥に相模湾のスマ、白むつ(ワキヤハタ)を見つけたのだ。市場の1区画だけの小さな店舗ながら。店長の小田剛さんをはじめスタッフも若く、従来の仲卸とは一線を画している。
 この小田さんにさっそく平塚の定置網、魚市場の状況をお聞きして、17日には相模湾に向かい早朝の国道を南下した。平塚魚市場、平塚港で見聞きしたことは別に記すが、小田さんを通じて平塚定置の責任者磯崎さん、大磯の大磯森谷さんなど多くの知古を得た。

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 残念ながら当日そして、今週初めまでの相模湾は不漁をかこっており、市場に並ぶ魚は少なかった。でもそこで見たさまざまな魚たちの見事さは水揚げ港ならではのもの。ボクはあっという間に相模湾の魚貝類の虜になってしまったのだ。それから土日を挟んでの3日間、毎日「デイトレード」に通う。

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活けのアイブリ、ホウボウ。どれも「活かし」の難しい魚たちなのだ

 相変わらず不漁続きながら「市場寿司 たか」に多くの寿司ネタをもたらした。それをこの週末から寿司図鑑の1ページにまとめるが、相模原という内陸部で水揚げされたばかりの魚貝類を手にする感激は例えようもなく、またありがたいものである。

「デイトレード」 神奈川県相模原市東淵野辺4-15-1 相模原綜合卸売市場内
相模原綜合卸売市場のことは
http://www.sagamihara-ichiba.co.jp/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

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 時間があると無駄歩きをする。歩くのは下町の商店街が多く、そこで「いいな」と思った魚屋を見つけると「しめ鯖(大阪では生ずし)」を買う。
 個人で経営する魚屋が年々減少している。これはとても残念であるとともに、子供を持つ身には「食を学ぶ場所」が消えつつあるわけで大変嘆かわしい。今時の政治家や都知事は「破壊者」ではあっても「温存」を重要視する、「平和的な存在」ではない。だからまだまだずーっと魚屋の減少は続いて行くに違いない。早く一軒でも多くの魚屋を見て置かなくては絶滅してしまうのだ、魚屋が。

 横道にそれるが、今時流行(流行でしかない)の「食育」というのがある。これを声高々に言っているヤツら、どこかずれている。またおかしい。「食育」が無農薬・自然食と置き換わったり、「料理を楽しみましょう」なんてバカ野郎までいるのだ。「食育」というのはそんなもんじゃないだろ。無駄金、無駄な労力を使うよりも「子供達を、また食に無知なヤカラを魚屋に行かせろ」、その方が何千倍も意義がある。

 閑話休題。
 西日暮里から三河島、そして地下鉄日比谷線三ノ輪橋駅に向かっているとき、突然煌々と灯のともる店が見えた。冷蔵陳列台(この言葉正確ではない)があるので魚屋に違いない。
 時刻は5時前。店の中には優しそうな女将さんがいて「めじまぐろの刺身」を並べている。その横に「しめさば350円」「さんまの酢300円」。

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 これはどうみても自家製のもの。値段も安くて「いいな」と思っていたら、女将さんが出てきて
「なにか差し上げましょうか」
 この間がなんとも絶妙である。
 もう一度陳列台をみる。よく見ると中がピカピカにみがかれてる。「さんまの酢」というのに少し惹かれて迷ったが初志を貫徹して「しめさば」を買う。
「あの少し撮影してもいいですか」
 おずおずと聞くと
「いいですよ。どうするんですか」
「いえ、下町歩いてしめ鯖を買うのが趣味なんです。この店は何年くらいやってるんですか」
「ウチは2代目なんです。お父さん何年くらいね」
 店の前を掃除していたご主人が、
「どこから来たんですか」
「八王子の方なんです」
「へえ驚いた。ええとねウチは60年かな」
「この辺りも昔は賑やかだったんでしょ」
「そうだね。昔はにぎやかだった」

 最近気がついたことだが、魚屋さんや和菓子屋、パン屋さんで創業の時期を聞くと「60年くらいかな」というのが多いのだ。これを単純に考えると終戦後すぐの食糧事情のもっとも悪い時代にあたる。街の復興よりも「まず食べること」が最優先だったのだろう。それを裏付けるかのごとく1946年に復活したメーデーを「食料メーデー」と呼んでいる。

「魚正」の間近にオリンピックというスーパーがある。ボクとしてはスーパーとは今のままでは「食文化の破壊者」でしかない。たぶんまだまだ健在な商店が多いとはいえ、この商店街もこのような大型店舗につぶされてしまうのだろうか?

 ぼんやり考えていると「魚正」のご夫婦が
「また立ち寄ってください」
 優しい声をかけてくれた。

 さて自宅に帰り着いてさっそく「魚正」の「しめさば」を肴に酒を飲む。この「しめさば」がうまいのである。酢はやや控えめ、ほんのり味わいに甘味を感じるのは砂糖を使っているのかも知れない。使っているサバもいい。家人などボクの肴だというのに半分以上横取りをする。失敗したと思ったが遅い。
「さんまの酢も買えばよかった」


魚正 東京都荒川区東日暮里1丁目31-1 03-3801-0046


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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