一年でもっともマアナゴの少ない時期だ。このようなとき悪戦苦闘するのが『市場寿司 たか』である。
格安で江戸前寿司を提供しているので、ちょっと材料が値上がりすると手が出なくなる。
「おまかせに(おまかせ握り)に穴子がなけりゃ困るよな」
なんてぼやく日々が続いている。そこで登場してくるのが「煮いか」である。
不思議なことに今年は「ばらいか」が少ない。これはスルメイカの若いもので、市場に入荷してくるときに、並べないでどさっとランダムに放り込まれてくるものだ。「煮いか」にはこの小振りのスルメイカがいちばん向いている。
仕方ないので、産卵期の大振りのスルメイカを「煮いか」に。今年は「ばらいか」がないせいか下氷のスルメイカも高い。
そんなこんなで仕込んだ「煮いか」が煮穴子ほどには人気がない。これほどうまいネタもないだろうと思うのに、なぜなんだろう。答えは知名度がないためだ。「煮いか」は古くから基本的な寿司ネタのひとつだが、市販品もなく、最近では手間がかかる(本当はかからない)といって作る寿司屋が減ってきている。
だから、だれも知らない寿司ネタになってしまったのだ。
「オレの手間はただみたいなもんだからさ」
売れない「煮いか」を握りながら、たかさんがぼやく。
ぼやきながら握られた、「煮いか」のうまいこと。たかさんが作るのは“煮る”のではなく、軽く煮汁に通す程度である。当然スルメイカは柔らかく、甘味などはツメでおぎなっている。このスルメの味わいがいいのである。ふわっと来るのはなんだろうね。スルメイカが持つグリシンなどの旨味だろうか、そして甘味、香りのようなものも感じるが心地よいものだ。
ふと、マアナゴは当分とれなくてもいい、と思うのであった。
市場寿司 たか
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八王子の市場のことは
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、スルメイカ
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