岐阜県にある「ヤマ食」の莫久来といえば今や珍味では横綱クラス。ちょっと気の利いた居酒屋には必ずと言っていいほど置いてあって、日本酒好きを気取るヤカラが「一四代」や「田酒」あたりと合わせて注文するとしたら「いかにも」といった光景となる。
この「いかにも」がいい年をしたオヤジには耐え難いものなのだけれど、マボヤとこのわた(マナマコの腸の塩辛)との取り合わせの妙には脱帽せざる終えないのだ。驚くことにはこのわた、マボヤともに渋みと苦みのなかに旨味と甘味が混沌とあるわけだけれど、その四方からくる味わいが少しずつ、当たり前だけど違っている。でもこれを合わせて、そのバラバラの味覚がすーっと良い方に変化するなどダレが知るものか。しかし「ヤマ食」は偉い。
この莫久来の瓶詰めは八王子の食材屋にもあって、なんどか買ってしまっているが1びん3000円近くする高級品。しかも業務用だから量的にも持てあますほどである。
じゃあ、マボヤもこのわたもすぐ手に入るものなんだから自分で楽しむ分は自家製するべし、と我が家ではマボヤ一個分をそのつど作っている。本来合わせて熟成とかプロならではの技があるのかも知れないが、この簡便な肴がなんともうまい。
そして久しぶりにマボヤを一個買い、今回は広島県倉橋島の「日美丸」さんにいただいた、このこ(マナマコの卵巣の塩辛)を合わせてみた。酒は静岡県島田市の銘酒「おんな泣かせ」である。このわたで作るものと比べると複雑で濃厚な旨味は感じられないが、その分あっさりとして上品である。また甘く感じるのはコハク酸由来だろうか、まろみがある。このところ久しく酒がうまいとは感じなかったのが、これで飲(や)る酒は甘露であった。
「日美丸」さんの瀬戸内海では真っ白なマボヤがとれる、これにこのこを合わせると純粋に瀬戸の味わいが出来そうで、これも羨ましいではないか。
広島県倉橋島「日美丸」へ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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