寒くなると見違えるようにうまくなる魚は多々ある。なかでも買うたびにその真価を知るといった魚が「寒鯛」である。だいたいこの「寒鯛」という名自体“寒い時期が旬である”ことから来た名前に他ならない。
ちなみに標準和名はコブダイ。あまりに簡明直截すぎる。
冬が旬だけあって、寒くなると大分県などからよく入荷してくる。この国の沿岸域、磯回りなどに普通に見られる魚で、とれる量自体は少ないので、実際に食べたことのある人は多いとは思われない。
だいたい市場に来る料理人と言われる人も、「寒鯛」には見向きもしないのだ。それでだろう、イシダイがキロ当たり5000円しているときに、「寒鯛」はキロ当たり800円ほどなんてことがある。
「寒鯛」は大きくなる魚で3キロ、5キロなんてものが市場にも並んでいる。でもこの大きさではとても一般家庭では扱いきれない。ボクなどが狙うのは2キロ弱。なんと2007年暮れに500グラムの石鯛2500円の半値が2キロの「寒鯛」であった。
これを持ち帰り、水洗い。大きな頭部を落とし、梨割りにして干物に。身は刺身にして、そして寿司ネタとして楽しむ。これが思った以上にうまい。
残りの中骨、半身で鍋に仕立てる。
残念ながら磯魚は大方暖かい時期にはまずい。それがどうしてなのか、冬になると美味に変わるのである。ベラ科の魚には皮目に独特の風味がある。これが旬の時期にはまことに好ましい。また「寒鯛」の大方の旨味も皮と皮下に集中するのだが、冬ともなると身にも脂がある程度混ざって存在するようだ。
鍋の汁は昆布と塩酒のみ。ここに湯引きした「寒鯛」の中骨と刺身にした片身の皮、腹骨を沈ませる。この骨にこびりついた身がなかなか味わい深い。皮は奪い合いとなる。ことこととたく間に汁に充分の旨味成分を放出する。
そして皮付きの身であるが、このねっとりした皮と身の旨味をどう表現したらいいのだろう。マダラのちりなどではとても見いだせない濃厚で妖艶な旨味。これは暑い時期に手当たり次第に甲殻類だとか貝だとかを飽食して、冬に向けてため込んだ賜といったところか。
一切れ一切れが口の中で火傷のように旨味を貼り付ける。それこそ2キロの「寒鯛」半分があっという間に消え去る。
魚の出しでたっぷり食べた野菜、豆腐も食べ尽くし、さて鍋のなかはスッカラカンの空っぽである。最後に仕立てた雑炊もよかった。
片づけをしながら、つらつら思うに、2キロ弱の「寒鯛」というと女なのか男なのか? ベラ科の魚なので、ある程度成長するとみな男に性転換する。この姿形を見るに男女どちらであるか微妙である。これはボクの思い込みではあるが、「寒鯛」は女として脂ののりきった性転換直前がいちばんうまい。そして男になったらやや大味になる。それほど大型の「寒鯛」を飽食したわけではないので、断言はできないのだが、これは間違いないのではないか? 今宵は年増「寒鯛」の色香に迷ったということだ。
さて、昨今のテレビ番組や雑誌での鍋特集をみるとマンネリ化が著しい。「かにすき」、「たらちり」、「ふぐちり」、そろそろこの人気鍋にも飽きがくる頃だろう。鍋世界にも新しいスターの登場が待ち望まれているわけで、そこに「寒鯛」登場なんていいと思うなー。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コブダイへ
http://www.zukan-bouz.com/bera/bera/kobudai.html
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http://www.zukan-bouz.com/