鍋図鑑: 2008年1月アーカイブ

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 寒くなると見違えるようにうまくなる魚は多々ある。なかでも買うたびにその真価を知るといった魚が「寒鯛」である。だいたいこの「寒鯛」という名自体“寒い時期が旬である”ことから来た名前に他ならない。
 ちなみに標準和名はコブダイ。あまりに簡明直截すぎる。

 冬が旬だけあって、寒くなると大分県などからよく入荷してくる。この国の沿岸域、磯回りなどに普通に見られる魚で、とれる量自体は少ないので、実際に食べたことのある人は多いとは思われない。
 だいたい市場に来る料理人と言われる人も、「寒鯛」には見向きもしないのだ。それでだろう、イシダイがキロ当たり5000円しているときに、「寒鯛」はキロ当たり800円ほどなんてことがある。
「寒鯛」は大きくなる魚で3キロ、5キロなんてものが市場にも並んでいる。でもこの大きさではとても一般家庭では扱いきれない。ボクなどが狙うのは2キロ弱。なんと2007年暮れに500グラムの石鯛2500円の半値が2キロの「寒鯛」であった。

 これを持ち帰り、水洗い。大きな頭部を落とし、梨割りにして干物に。身は刺身にして、そして寿司ネタとして楽しむ。これが思った以上にうまい。

 残りの中骨、半身で鍋に仕立てる。
 残念ながら磯魚は大方暖かい時期にはまずい。それがどうしてなのか、冬になると美味に変わるのである。ベラ科の魚には皮目に独特の風味がある。これが旬の時期にはまことに好ましい。また「寒鯛」の大方の旨味も皮と皮下に集中するのだが、冬ともなると身にも脂がある程度混ざって存在するようだ。

 鍋の汁は昆布と塩酒のみ。ここに湯引きした「寒鯛」の中骨と刺身にした片身の皮、腹骨を沈ませる。この骨にこびりついた身がなかなか味わい深い。皮は奪い合いとなる。ことこととたく間に汁に充分の旨味成分を放出する。
 そして皮付きの身であるが、このねっとりした皮と身の旨味をどう表現したらいいのだろう。マダラのちりなどではとても見いだせない濃厚で妖艶な旨味。これは暑い時期に手当たり次第に甲殻類だとか貝だとかを飽食して、冬に向けてため込んだ賜といったところか。
 一切れ一切れが口の中で火傷のように旨味を貼り付ける。それこそ2キロの「寒鯛」半分があっという間に消え去る。

 魚の出しでたっぷり食べた野菜、豆腐も食べ尽くし、さて鍋のなかはスッカラカンの空っぽである。最後に仕立てた雑炊もよかった。

 片づけをしながら、つらつら思うに、2キロ弱の「寒鯛」というと女なのか男なのか? ベラ科の魚なので、ある程度成長するとみな男に性転換する。この姿形を見るに男女どちらであるか微妙である。これはボクの思い込みではあるが、「寒鯛」は女として脂ののりきった性転換直前がいちばんうまい。そして男になったらやや大味になる。それほど大型の「寒鯛」を飽食したわけではないので、断言はできないのだが、これは間違いないのではないか? 今宵は年増「寒鯛」の色香に迷ったということだ。

 さて、昨今のテレビ番組や雑誌での鍋特集をみるとマンネリ化が著しい。「かにすき」、「たらちり」、「ふぐちり」、そろそろこの人気鍋にも飽きがくる頃だろう。鍋世界にも新しいスターの登場が待ち望まれているわけで、そこに「寒鯛」登場なんていいと思うなー。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コブダイへ
http://www.zukan-bouz.com/bera/bera/kobudai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 年末のテレビ番組、水産物ではやはりマグロばかりだったようだ。それほどにこの国の人はマグロが好きなんだろうか? と疑問に思う。そう言えば築地場内でもマグロ屋というのはいかにも偉そうに感じて近寄りがたい。
 市場の一般営業は昨日30日で終了、自主営業だけだった。そこでもマグロは主役となっており、売り場には客が並んでいる。
「どれがいいかしらね」
 お年寄りが、様々な形のメバチマグロの冷凍ブロックを手に取り、売り手に聞いている。
「これは脂があるけど、スジっぽいからね。これなんかどう、スジはないし、染みもないでしょ」
 残り少ないブロックはどんどん値が下がっていく。当然最後まで残っているものは筋の多い部分となるが、値が下がり、また下がりで、
「ええい、最後だから4つで千円、7つで1500円だよ」
 最後になると、マグロ屋もいい加減である。

 そのスジっぽいところがボクにとっての狙い目。実はマグロでいちばんうまいのがスジだと思っているからだ。もちろん生で食べるわけにはいかない。これを「葱鮪鍋(ねぎま鍋)」にするのが目的だ。
 暮れの慌ただしくなる前に買った冷凍マグロのブロックがある。
「尾ビレに近くて筋っぽいけど味はいいよ」
 八王子魚市場のムッシュに聞いて買い求めたもの。確かに脂はのっているものの、筋が多く、平造りの刺身にできるのは三分の一ほどだろう。

 江戸時代、魚の保存方法と言ったら水をかけるくらいが関の山。当然、マグロだって刺身で食べられるのはとれた日か、翌日までだろう。しかも医療の発達しない時代に食あたりでもしたら大変である。
 だからマグロも刺身ではなく、煮る、焼く、そして汁にするのがほとんどであったろう。そのマグロを使った汁が「葱鮪汁」。これを座敷にコンロを持ち込んで「葱鮪鍋」となる。
(注/鍋という形式は以外に新しいのではないか? 明治期、大正期くらいまでは特種なものだった。例えば一般家庭で鍋物が普及するのは昭和になって、ガスの利用が始まってからだろう)

 マグロの筋肉に走っているのがスジである。これは内筋周膜(筋肉を包む)とか腱であり、主にコラーゲンから出来ている。対するに刺身などにする部分はタンパク質の集まりだ。コラーゲンは熱を通すと軟らかくなり、タンパク質は硬くなる。当然、煮る料理にはコラーゲンとタンパク質の比率が重要となる。だから「ねぎ鮪鍋」に欠かせないのがスジっぽいブロックであるのがわかっていただけただろう。
 刺身にする部分に多いのがタンパク質だと書いたが、脂がのっていると筋肉内にコラーゲンも多いことになる。だから「なぎま鍋」だって大トロを使うと最高にうまい。お金が余っている方達はぜひ「大トロのねぎま鍋」もやっていただきたいものだ。我が家には「そんなの関係ない」けれど。

 さて、「ねぎ鍋」に欠かせないのが白ネギである。農業の世界では一本ネギなんて呼ぶ。これは脇芽を出さないネギの品種で、高く高く土を盛り上げて軟化栽培をしたもの。この最高峰が「下仁田ネギ」だろう。八王子総合卸売センター『土谷食品』のオヤジさんに「下仁田ネギ」をたっぷりいただいている。
 本日はネギとメバチマグロだけで「ねぎま鍋」にしたいと家人に話すと、「おいしかったので使ってしまったわ」なんて残り少ない袋をベランダから持ってきた。なんと痛恨の至り、あと3本しか残っていない。

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 仕方なく小松菜、ニンジン、シイタケも加えて鍋の具は揃った。
 汁は醤油1、味醂1、ほんの少しの鰹昆布だし、水。鍋にかつお節出しをたくさん使うのはやめたい。できるだけ控えめに、マグロから染み出してくる旨味を大切にしたい。味醂、醤油の量は好みで加減してほしい。
 またすき焼きの地で「いり焼き風」にするのも絶品だと思う。でも酒をやるにはせわしない。ゆったりしたいなら醤油味の吸い物よりほんの少し塩辛い地でマグロを煮て、汁に搦めながらマグロとネギを楽しんで欲しい。

 このトロトロ煮えてきたマグロのかたまりを汁と一緒にくらう。スジがゼラチン状になっていて甘く、そして身がほどよくほどける、その旨味が、五十路のみにはうれしい。
 合わせるのは島根県安来市「月山」の特別純米。この適度に冷えた辛口が極楽気分にしてくれる。

 ぼんやり、テレビを見ていると芸人さんが海に潜って魚を銛で突いている。ボクはアイポットでブラームスのピアノ協奏曲一番を聞いているので、いったいこの芸人さん達が何をやっているのか全然わからない。でもその突いた魚がフエフキダイの仲間だというのわかる。でも種が判然としない。「アミフエフキかなー?」なんて思いながら、眠くなってくる。午後、府中大國玉神社そばの『ほてい家』でやった昼酒がきいてきたのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、メバチマグロへ
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