鍋図鑑: 2008年2月アーカイブ

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 島根県に「へか焼き」、「いり焼き」というものがあるというのは何度も書いてきた。ともに起源は農耕での鋤を調理道具にして肉や魚貝類を焼くことからきている。すなわちまさに「すき焼き」である。
 これを調べていくと、島根県出雲地方、岩見地方では「へか焼き」、益田など西部では「いり焼き」と呼ばれているようだ。

 ともに料理法は同じ、ただし現在では魚貝類を使うときにこう呼ばれているらしい。この「へか焼き」がどのようなものかネットや県の方達といろいろ調べてみたが、どれもあまりに洗練されすぎて、本来のよさを大幅に失ってしまっているようだ。料理として確立する方向性が間違っているのだ。
 それでボクが理想とする「へか焼き」の形を示す。

 まずは材料だが魚貝類ならなんでもいい。ただし背の青い魚の方がうまいように思う。理想としてはサバ、サワラ、ブリ。ちょっと落ちるがカワハギ、フグ、アカムツ(のどくろ)でもいいし、要するに、あるものなら何でもいい。

 我が家で今回作ったのは「わらさ(ブリの4キロ弱のもの)。これをまずは刺身にする。そして粗は湯通し。野菜はたっぷり。
「わらさ」は鍋が沸いてくるまでは刺身で食べる。すなわち刺身と鍋を両立させるのだ。すき焼きの地だから酒、醤油、砂糖などでやや濃いめの甘辛い味。
 最初に放り込むのは粗で、そこに野菜。刺身が食べ飽きたら、刺身をしゃぶしゃぶしながら食べる。

 鍋物と刺身を同時進行すると、楽しみが二倍以上になる。いちばん理想なのは、そのときイカだとか、カキだとかカワハギだとか、雑魚だとか多種類の魚貝類を用意して、好みの時間すき焼き地のなかで泳がせて食べる。当然、総て刺身として用意しているわけだから、生のままがいいなら、それを通せばいい。

 この楽しみの多い、豊かさを感じる鍋をボクの理想の「へか焼き」だとしたい。いかがだろう? 魚好きの方々、刺身と魚すきを同時にやって見て欲しい。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ブリへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 八王子総合卸売センター『さくら』はラーメンを種とした中華料理の店。でもこの店が単に「ラーメン屋」と思うのは大間違いである。ときどき牛肉などを使って店主のまささんの作り出す味覚の奥は深く、圧倒される。
 そのような店だから、テーブルに置かれている、自家製の唐辛子味噌が平凡なものであるはずがない。たぶん唐辛子を潰して、なんらかの味つけをし、それから熟成させる。辛みの強い、この赤いペーストが自宅で、思わぬときに思わぬ料理に威力を発揮してくれる。

 今回登場するのは小振りの生食用カキ。これを買ったまま、数日冷蔵庫に置き忘れて、とても生で食べる気にはなれない。そこで鍋物にするのだけど、その日、家族は妻の実家に行っており、久しぶりの「小鍋仕立て」となる。
 冷蔵庫にはシイタケ、ネギ、大根、海老名の海老さんにいただいた柚。これを薄目の鰹昆布だし、酒、味醂、『さくら』の唐辛子味噌で汁を仕立てて煮ていく。

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 唐辛子味噌は最初は少量、徐々に足していくのだけど、最後には汁を飲むと飛び上がるほどの辛さに。このヒリヒリするくらいの汁がうまいのだ。マガキの旨味と熟成した唐辛子は、まことに出合いのものとしか言い様がなく、一人っきりの薄ら寒い部屋で大汗をかく。
 ここにチンチンに冷えた壱岐の麦焼酎の心地よいこと。「たまりませんな」と五十路男は独り言をテレビ画面に呟くのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マガキへ
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八王子の市場に関しては
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 世の中に流通しない魚で、それこそ産地だけで味わえる秘密の味覚、美味というのがある。そんな魚は少なくないのだけど、中でもかなり希少だと思うのが鳥取県での「おとく」である。
「おとく」というのは女性の名前だけど、おかしな事にお婆さんを連想してしまう。例えば江戸時代のおとくさんにも、明治時代の、おとくさんにも若くピチピチした娘時代があったはずなのに、この名前から浮かんでくるのは、お婆さん以外にあり得ない。例えば江戸時代の「おせんさん」とか「おちよさん」とか「おしまさん」とかよりも、より老人的な名である。
 当然「おとく」と呼ばれる魚の顔つきが可愛らしいワケがない。
 しかも標準和名がガンコとくる。ガンコはたぶん頑固親父が怒ったときのような面つきという意味合い。実際にガンコの顔つきはびっくりするほどいかめしい。
 ここで浮かんでくる格言がある。「醜い魚ほどうまい」というものだ。例えば、「あんこう(キアンコウ)」、「おこぜ(オニオコゼ)」、「おにかさご(イズカサゴ)」などなど挙げたら切りがない。
 まさにガンコなどその格言通りに「醜い魚であるから」うまい。これは想像だけど、日本海で底引き網などを曳いている。網が上がってくる。その多種多様な魚貝類、ゴミに混ざって「おとく」があったら漁師はにやりと笑うのではないか? 当然、漁の後は「おとく」で鍋となり、あけた一升瓶からの冷や酒がうまい。

 さて、今回の「おとく」は鳥取に出張していた、まささんが「こんな魚知ってますか?」と画像を送ってくれたことに端を発している。ちょうど島根県での魚貝類を調べていて、底引き網だからタナカゲンゲもいるだろうなと思い至る。そしてこの魚「ばばちゃん」と呼ばれていたな、なんてまたまた記憶が蘇り、我が家の資料をもう一度見直す。そこに出てきたのが鳥取県岩美町である。
 矢も立ても溜まらなくなり、岩美町役場に電話した。「ばばちゃんの事が知りたいのですけど」というのに対応してくれたのが産業観光課の川上寿郎さん。なんとタナカゲンゲを「ばばちゃん」として売り出した仕掛け人である。そして川上さんが紹介してくれたのが『浜勝商店』。ここでも出会いがあり、電話対応に応じていろいろ教えてくれたのが一九百(つづお)さんと言う方。見知らぬ得体の知れないボクのために「ばばちゃん」と「おとく」を見つけて送ってくれたのだ。

 そして久方ぶりのガンコの鍋である。ガンコは何度食べてもうまいもので、例えば同じくブヨブヨ系魚(おれはボクの造語)のなかでも最高峰にあると思っている。

 なにしろ昆布と一緒にたくと、素晴らしいだしが出る。これが絶品としかいいようがないのだけど、この身がまた煮るとうまいのである。
 鍋に仕立てるなら醤油味ではなく塩味に仕立てて欲しい。醤油味にするのは、魚自体にもうひと味たりないときの手段であって、ガンコには醤油のアミノ酸はむしろ邪魔である。
 またガンコの肝は朱色が濃く、そして見た目通りに旨味がある。腸管、胃、皮、骨など、ほとんど捨てる部分がないのもうれしいではないか。

 ガンコがいかにうまいものか、ぜひ味わってもらいたいものだ。ただ唯一困ったことは、ガンコはなかなか手に入いらないということ。どうやら沖でとれてもうますぎる魚であるため、漁師さんが市場に出さないでこっそり食べているらしい。
 ここで漁師さんにお願い。ガンコをもっと我々消費者にも分けて欲しい。

『浜勝商店』
http://www.hamakatu.co.jp/
鳥取県岩美郡岩美町
http://www.iwami.gr.jp/
岩美町観光協会
http://www.iwamikanko.org/index.html
ガンコへ
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 北海道、青森県などで「ごっこ」と呼ばれている、ぶよぶよして、やたらにメタボリックで、不細工で、汚い色合いの魚は標準和名をホテイウオという。この魚を布袋さんに例えたのは天才的な閃きというしかない。前から見てご覧よ、本当に布袋様なんだから。
 この魚、その昔には漁師さんたちが賄いで食べるくらいで、あまり食用として出回るようなものではなかったようだ。それがいつの間にかぶよぶよした不思議な食感のせいか、鍋材料として北海道などで人気が出てきている。値段も決して安いものではない。

 市場にはオスとメスが分けられて入荷してくる。メスが大きくオスが小柄な、それこそノミの夫婦そのもの。そして体格に合わせるかのようにメスの方が断然高い。なぜかというに、そのメスの太り気味のゴムマリのような身体の半分近くが卵巣で占められていて、これがうまいからだ。
 北海道では、メスの「ごっこ(ホテイウオ)」をとにかくぶつ切りにして、卵巣共々鍋にするようだ。ところが、ボクが思うに、この卵巣入りの鍋がうまいとはぜんぜん思えない。湯引きして、滑りを丁寧に水洗いして昆布だしで鍋に仕立てるのだけど、卵巣はバラバラになって沈んでしまう。このバラバラした卵のどこがうまいんだろう、理解不能だ。

 我が家では卵巣は別に醤油漬けにする。そして身は肝、胃袋などとともに湯がき、きれいに滑りをとる。
 これをじっくり昆布だしでたくのだ。そうするとこのぶよぶよした身からジワリと旨味が染み出してくる。素晴らしい出しとなる。味つけは醤油と酒だけでいい。

 ここまで書いたらおわかりだろうけど、鍋にする限りオスでもメスでもなんら違いはない。あえて言えば白子のあるオスの方が旨味に富んでいる。だから「鍋」と決めたらオスを買い求めて、とにかくぶつ切りにして、うまい出しとともにぶよぶよした食感を楽しむのだ。ちなみにボクは、このぶよぶよした身がそんなにうまいと思ったことはない。鍋材料としては下手だな、とも思う。

 でも寒い夜には、このブニュブニュしたとらえどころのない鍋もまた“よろし”と思えるようになっている。五十路になって、間口の広い考え方が出来るようになったということか。これまた感慨深いものである。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ホテイウオへ
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