長年クロダイ師であったので、その味わいは知り尽くしている「わけではない」。なぜならばヘボ釣り師であったからだ。釣り雑誌にコラムを持っているのに、「ヘボ」はないだろうと思われるかもわからないが、釣りの醍醐味の半分は坊主(釣果ゼロ)にあると思っているのでへっちゃらである。
そのクロダイが旨くなるのは秋口から寒い時期までではないだろうか? 「乗っこみ(産卵期)」には市場に溢れるほど入荷してくることがある。値段も安いのだが、味はイマイチ落ちるように思える。そこからすると秋から寒くなるにしたがい旨味も脂ものってくる。
このクロダイは当然、刺身ということになるが、鍋にしてもいいのである。瀬戸内海で「ちぬ飯」と言うクロダイを丸のまま使った炊き込みご飯がある。ご飯に炊き込むというのは出汁の出る、旨味のある魚だから出来ることだ。だから鍋に使ってもうまい出汁が出るし、絹のように軟らかな繊維質の身も味わいは上々と言える。
遅く帰る日が続き、家族は食事を終えている。冷蔵庫を探してクロダイは半身、豆腐、水菜しかないけれど、これで充分、ひとり鍋ぐらいは作れる。クロダイは適当に切り、粗塩をまぶしておき、熱湯にくぐらせる。昆布だしをとり、酒と塩で味を調える。ここにクロダイ、豆腐、水菜をぶっこむだけの簡単至極な小鍋である。ここに島根県松江市米田醤油店の「白だしぽん酢 ゆずほの香」の小鉢を添えて、酒は「三千盛 純米酒」。
クロダイの身は思った以上に脂がのり旨味甘味があり、しっとりしている。鍋にしみ出た旨味も上々で、ポン酢ともども汁として飲んで、また愉快になるほどに味がいい。
これで仕事でささくれだった心身共に「ゆるーい気分」にほぐされていく。やっぱり遅く帰った日のお父さんには小鍋仕立てがいちばんだ。
そう言えば9月も終わり、過ごしやすい日々となってきた。とともになんだか人恋しいな。だれかボクと大酒を呑む人いませんか?
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、クロダイへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/taika/kurodai.html
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