鍋図鑑: 2007年10月アーカイブ

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 築地場内でも八王子総合卸売センター『高野水産』にも様々なフグが入荷してくるようになった。その代表がトラフグであるけど、これはお高いね。「あがり」すなわち活けで入荷したものが売りにだされる以前にとん死したのや、少々キズありのものならキロ当たり2500円(1本あたりも2500円前後)という破格のものもあるけど、やはり味わいからすると養殖でもキロ当たり3500円以上、天然ならキロ当たり1万円くらいのがざら。とするとやはりお手軽に夕食でとはとてもいかない。
 そんなフグ界の主役がトラフグなら、ここに名脇役がいて、その名がショウサイフグなのである。別名「名古屋」。すなわり「終わり名古屋は城で持つ」の「終わり」に「終わり=死」をかけての呼び名だ。こっちはキロ当たり1000円前後しかしない。しかも総て天然物だ。

 ショウサイフグの毒性は、肝臓、卵巣は猛毒(10グラム以下で致死的)、皮、腸、その他内臓は強毒(10グラム以下では致死てきではない)、筋肉は弱毒(100グラム以下では致死てきではない)。ということにもとづいて厚生省ではショウサイフグの可食部は筋肉のみとしている。
 どうして弱毒のある筋肉を食べていいかというと、かなり飽食しても生命に問題はないということに他ならない。

 ショウサイフグはまず、毒の除去をする。ようするに筋肉だにするということ。頭部にもワタ(毒がある)があるので捨ててしまい。皮を剥くとかなり歩留まりが悪くなる。これをペーパータオルに包み一日寝かせる。こうすると余分な水分が抜け、旨味が増す。
 一日置いたら、ぶつ切りにして軽く湯引きにして「ふぐちり」にする。「ちり鍋」の原則はフグ刺しにしてあまったアラの部分を昆布だしだけで、あっさりと煮ながら食べる。だから本来身自体を使うことはない。すなわち高価なトラフグを骨までしゃぶる料理法だったのだろう。(……ところが最近でも養殖フグの出回っていることから身自体を食べるように変わってきている。……)そこへいくとショウサイフグの場合、庶民的な身がそのままゴロンと入った食べでのある鍋の材料だった。これは江戸時代、そして明治大正、そして現在でも変わらないものだ。
 庶民の味だったわけだから天然トラフグの上物にはかなわない。でも天然トラフグが1本2万円なんてことになると身まで含めた河豚ちりを堪能するのは難しい。そうすると廉価なトラフグのちりはやはり養殖ものとなってしまう。それでもみがき(毒を除去した身)にして晒しに包んで寝かせてくれればいいものを「活けをすぐに」鍋に使うのが当世流行ときている。バカなタレントが旅番組で「まだ身が動いてますね」なんてのを鍋に放り込んで感激する芝居をうっているが、それじゃあね。

 賢い庶民はこんな大バカ野郎は放って置いて、ショウサイフグをひと晩ねかせて鉄刺(てっさ 刺身)でも河豚ちりにでもして堪能するべし。
 ちり鍋の中からボリューム満点の身をつかみだして紅葉おろしでいただく。これそんじょそこいらの河豚屋には絶対に負けるもんじゃない。ずば抜けた旨味、しっかりした身、そして旨味充分の出汁。我が家の姫などは河豚の身を器にとり、出汁とポン酢を合わせて、なかでほぐしながら食べているが、これもうまいねー。鍋を管理するお父さんとしては野菜や最後の雑炊のためにだし汁を残しておきたい。でも結局自らがそんな食い方におつき合いして最後の最後に悔しい思いをする。

 この市民的かつうまいショウサイフグ、なかなかスーパーなどでは手に入らない。八王子総合卸売センター『高野水産』のようにフグ調理師がふたりもいる店はほとんどないのだ。そこに東京湾、外房などで釣りで手に入れるという迂遠だけど楽しい方法がある。道具も簡単だし、釣り上げたものは船宿で毒の除去をしてくれる。これについてはボクも連載人のひとりとなっている『つり丸』などを参考にしてもらいたい。
 また東京湾でも昔からたっぷりショウサイフグはとれていた。当然昔ながらのフグ屋では「名古屋のちり鍋」が楽しめる。下町散策のついでに「ふぐちり」というのもいいだろうな。

 河豚ちりを思うと、早く冬になってしまえと思うのである。ちなみに「ひれざけ」はショウサイフグでは出来ません。熱燗で我慢、我慢。
●ショウサイフグを一般人が料理するときには自己責任においてやっていただきたい。また商用に利用するときにはフグ調理師免許が必要となる。

『つり丸』へ
http://www.tsurimaru.com/
八王子の市場のことは
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ショウサイフグへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 その昔の五十路と言ったら「そろそろ隠居でもしようじゃないか」とか、「老後のことでも考えようか」とかどちらかというと静謐なときに沈み込む年頃のはずではなかったか? それがどうだろう、ボクの場合、どんどん忙しくなり、やりたいこともワンサカあるし、毎日毎日疲労困憊、息切れする日々なのだ。

 そんなときに食うのが栄養学的にも優れているだろうな? と感じる豚肉とマガキの鍋である。
 主役は当然、軽く湯引きしたマガキと豚肉なのだけど、だし汁もシンプルに昆布だしに、酒塩。そこに大量のニラをぶち込み、神奈川県秦野市の『ジバサンズ』というところで買った「あしなが」という天然キノコも白菜もぶち込む。
 コツは酒を惜しみなく使うこと。煮えてきたら、熱いウチに豚もカキもキノコも野菜もグアシっと箸ですくって、出汁も適宜すくいとる。だし汁がもの足りなかったら醤油とか柑橘類とかを振り入れ、とにかく具茶混ぜに口に放り込む。面白いことに、ウハフハ食っているとなかなかいい汗をかいてくるのだ。
 食ったら即、風呂にどぼんと飛び込もう。そしてまた暖まる。こんな鍋のときには酒があまり進まないので、その意味合いでも気分爽快だ。

 なぜかは知らねど、豚肉とマガキは出合いの食材であるようだ。そしてこの共通点がジワットうまみのエキスが鍋汁に染み出してくること。加うるにキノコだニラだ白菜だのの旨味や甘味が加わると出汁の味わいがもうたまらんということになり、このたまらんなかに元気の素が詰まっているのだろうね。豚牡蠣鍋は汁まで飲み尽くせー。

 さあ、今日も明日も明後日もがんばるぞー。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マガキへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/kaki/magaki.html


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シロサバフグの鍋

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鍋を食べている状態での撮影は難しいな。ということで材料を仕立てたところでの一景

 鍋は我が家では手抜き料理のひとつと見なされている。すなわち子供達には不評なのだ。子供達は煮物にしてもハンバーグにしても予め調理するものは料理であるが、鍋は時間がないときにパッパッパと仕立てるので料理ではないと認識する。オマケに鍋だけつつくのがつまらないようだ。だからお父さんは鍋料理のときには、これと平行してハンバーグや唐揚げを作ることになり、普段の倍は忙しいことになる。野菜も鍋以外にサラダを用意するので、鍋の材料も少々いびつに不揃いだ。

 さて今回は鹿児島県南さつま市笠沙のわかしおさんからいただいたシロサバフグ。その昔、サバフグの仲間であるシロサバフグとクロサバフグは無毒であるとされていた。ボク自身、過去に釣り上げたシロサバフグは肝とともに鍋にして毎週のように食べていたこともある。現在でも南シナ海や南シナ海を除けば無毒ではないかと思っているのだけど、我が「市場魚貝類図鑑」は現行の情報に忠実に従うこととする。
 またここにドクサバフグという存在があり、これには身にも強い毒性があり、注意にも注意が必要とされる。この南シナ海、東シナ海に棲息するはずのフグが駿河湾でも希にとれることがある。

 シロサバフグは皮を剥き、適当に切って湯引きする。ここに野菜を加えて材料は揃う。注意したいのは白菜など水分の多いものは予め湯通ししておきたいということ。ただし慌ただしい日々なのだから、そんなことはどんどん手抜きの対象として省いてしまうべし。材料のなかには必ず柑橘類。今回は郷里徳島からきたスダチと海老名の海老さんにいただいた柚。
 我が家の鍋の汁は基本的に昆布だし、酒、塩のみ。酒はかなりたっぷり使う。

 ここにフグの身を入れて、あとは具が煮えすぎないように注意して、最後の雑炊まで楽しむのだ。また我が家では子供と大人が別々の料理を食べて、子供達は鍋をつつく程度となる。すると最後の雑炊を省くこととなる。その場合、残った汁は漉して、翌朝のみそ汁のだしとして利用する。

 さてさて五十路になったせいなのか秋になると毎日でも鍋でいい。これにぬる燗の日本酒を用意して、結構毛だらけ、猫灰だらけなのだ。(どうして“ネコ灰だらけ”なんだろう? ネコ研究家の幸福の王子様に聞きたいなー)

●フグなどを自宅で調理することはお勧めしない。その場合には自己責任とすること
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、シロサバフグへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ドクサバフグへ
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