食べるエビ・カニ学: 2006年8月アーカイブ

 東北岩手から北海道、オホーツクの浅いアマモ場などに棲息する小型のタラバエビ科のエビである。ホッカイエビと言ってもまず知る人はなく、一般には「北海しまえび」として記憶されている。
 産地としては厚岸湖、野付半島、サロマ湖など。野付半島尾だい沼などでの夏の風物詩打たせ網と共に観光資源としても重要なものである。
 産地では特産品としての意味合いから値段が高いものだが、流通の場にあるとその価値はじゃっかん低くなる。この点、中央市場などで取り扱うときには「特産品」としてしっかりした説明が必要だろう。

 野付半島尾での打たせ網は豊かなアマモ場を保全しながら営まれている。帆走する船での底引き網は全国でも希少なもので自然と漁業とのバランスからしてとても貴重な財産となっていると思われる。すなわち古くは漁業自体が自然の営みに優しいものであったはずであり、漁業者がいちばん自然保護の役割を果たす。今、各地で漁師さんによる自然保護や回復の運動がなされているがその嚆矢として注目したい。また漁としてはより自然に優しいカゴ漁もあるが、打たせ網という伝統漁法自体もかけがえのないものだと思われる。流通の場でこれら浅海の貴重な資源を取り扱うときにはこのようなことも肝に銘じておくべきだとおもわれる。

 さて、このホッカイエビは生ではほとんどお目にかかれない。流通しないのである。ただ唯一、手にはいるのは初夏にスナエビなどとともに混ざって入荷してくるもの。ここで丁寧に選別すると20匹前後は簡単に見つかる。この生は残念ながら甘味が薄く、近縁の甘エビ(ホッコクアカエビ)などと比べると数段落ちる。それに比べると塩ゆでは絶品である。ぐんと甘味も旨味も増してホロっとした食感と共に名状しがたい。野津半島、サロマ湖などから茹でて冷凍したものが入荷してくる。これは産地でまだ生きているものを塩ゆでしたもの。確かにこれも捨てがたいが、茹でたてがいちばんうまい。できたら鮮魚として流通して関東でも茹でたてが食べられるとなると魅力的なのではないか?

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市場魚貝類図鑑のホッカイエビへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 市場で見かける甘エビといえば普通、本家本元の「甘えび」、「ぼたんえび」、「縞えび(しまえび)」の3種である。「甘えび」は言わずと知れたホッコクアカエビ、「ぼたんえび」はトヤマエビ、そして「縞えび」がモロトゲアカエビである。ホッコクアカエビ、トヤマエビが今では輸入冷凍物ものも多く寿司ネタなどの定番となっているのに対して、本種は入荷量が少なく、総てが鮮魚としての入荷、より「特種」なネタと言えそうだ。
 産地は北海道の日本海側、この周辺でトヤマエビなどのカゴ漁に混ざってとれる。北海道以外の日本海側でとれる量は少なく、市場では希に見かける程度である。入荷の時期は真夏と厳寒の時期は少なく、春から初夏にかけてやや多い。
 値段は高く、安値でキロ当たり卸値で2000円、高いと10000円前後になる。
 甘味は甘エビほど強くなく、粘液質のうまみを膨らませるアミノ酸も少ないようでどこか軽い。その分、プリっとした食感があり、味の余韻がとてもいい。個人的にはこのタラバエビ科3種ではもっとも好きなもの。
 寿司ネタにしてもむき身にしたとき表面の赤い縞模様が残って美しい。当然、刺身にしても色合いの美しさ、味の良さから魅力的な素材だと言える。
 そう言えば、最近のすし屋、料理店などでは市場に買い出しに出てこないというのも珍しくない。いまどき電話一本で仕入れはすんでしまう。そうすると当たり前だがネタがマンネリ化してしまう。市場の仲卸で聞いていても「白身はカンパチ、エビは甘えび、イカは……」なんてやりとりが日常茶飯事だ。これではついつい入荷量が少ないエビに目がいかないということになる。すなわちすし屋のネタケースにモロトゲアカエビなどがある店というのは、こまめに市場通いしている可能性が高い。

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画像は新潟県能生町。佐渡周辺でのホッコクアカエビに混ざってとれたもの

市場魚貝類図鑑のモロトゲアカエビへ
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 甘エビが初めて我々の周辺に登場してきたのはそんなに古いことではない。実を言うと北海道でのエビ漁は比較的浅い場所にいるトヤマエビ(ぼたんえび)から始まっている。それが水深の深い場所にいるホッコクアカエビをカゴ漁でとるようになったのは1960年代なのだ。
 その漁獲が増えたホッコクアカエビが「甘えび」という名で一般に広まり始めたのは1970年代からだと記憶する。この時代に始まり盛んになったデパートでの物産展やアンノン族、ディスカバージャパンなどでの旅のブームで徐々に「甘えび」の名が挙がるようになる。
 そして「甘えび」というものを一般名称化させた最大の要因は北大西洋からのホンホッコクアカエビの輸入、そして回転寿司の登場だろう。1958年に大阪に誕生した回転寿司だが、1970年代後半には東京でも珍しいものではなく、ありふれた存在となっていた。そこに輸入の甘えびがあったのだ。ここで初めて生のエビを食べるという経験をした。生といえばイセエビやクルマエビの踊りなどがあるがあまりに高価すぎるし、本当に生がうまいのか疑問に感じる代物である。
 それに対して甘えびは生で食べてこそうまい。甘えび(ホッコクアカエビ)はどうして生でうまいのだろう。それは身にグリシンなどの甘味を感じさせるアミノ酸が豊富にある。また水溶性のタンパク質が大量に含まれていて身が粘液質でトロリとしている。これが相まって甘味が非常に強く感じられるのだ。すなわち甘えびの旨さはまさに「甘さ」にあるとでもいえそうだ。そのトロっとしたタンパク質の粘りが熱を通すと凝固してしまう。甘味の元であるグリシンなどはイセエビやクルマエビよりも少ないために相乗効果がなくなって旨味甘味とも半減してしまうのだ。
 この甘えびの産地は輸入ではロシアが圧倒的に多く、アラスカなどが次ぐ。国内では鳥取県から北海道の日本海側、道東、オホーツク海など。なかでもダントツに漁獲量が多いのが北海道西岸である。漁獲方法は底引き網とカゴ漁である。値段味わい共にカゴ漁でとるものがよく、底引き網漁のものは落ちる。市場で見る限り値の張る甘エビは主に北海道西岸からくるエビカゴ漁のもの。
 留萌、羽幌、増毛、江差、古平など北海道の西岸には甘えびの産地が目白押しであり、ここから来るものは遠路にもかかわらず取り扱いが丁寧であり鮮度がいい。当然高値がつく。また噴火湾のものは色が薄く、小振りのものが多いように思える。他には新潟県からのものにいいものが目立つ。
 市場で値段を見るとロシアなどからの冷凍もので1キロ1000円前後から1600円くらい。国産鮮魚で小振りのものでキロ当たり1400円くらいから、平均して2000円前後、高いときには10000円近いときもある。少ないながら活けものもあり、これは非常に高価である。
 さて、一般家庭では甘えび(ホッコクアカエビ)は冷凍物を食べているものと思われる。スーパーなどで解凍したものを発泡トレイなど移し替えて売っている。確かにこれはこれでうまいのであるが、少し贅沢をして生で流通した国内ものを食べてみてはいかがだろう。その甘さ、そして上品な旨味とプルっとした食感に驚くはずだ。我が多摩地区周辺にもデーパートのみならず魚屋でも生の甘エビ(ホッコクアカエビ)を置いてあるところは少なくない。値段が高いと言ってもあまり大量に食べるものではない。意外に値段はお手軽なものでだ。土日、ファミレスでレトルト食品を食べるよりもずーっと安くつくはずだ。たまには家族揃っての夕ご飯に甘えびなどいいと思うけどな?

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新潟県能生町にて。エビカゴ漁であがったばかりの「南蛮えび」。

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国産の生は透明感があり、プルっとした食感が楽しめる。

市場魚貝類図鑑のホッコクアカエビへ
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