食べるエビ・カニ学: 2007年11月アーカイブ

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 ズワイガニを漢字で書くと「頭矮蟹」となる。これは頭が足に対してやけに小さいという意味合い。と言うことは、「頭矮蟹」とはオスガニのことであって、メスガニは「頭大蟹」となる。またメスガニは小さくて可愛いので松田「せいこ」ガニと呼ばれている、というのは嘘であってただの「せいこがに」。もしくは「香箱がに」。このメスガニの呼び名にも多々あり、その謂われも諸説あるのだけど、今じょじょに整理中なので、ここでは触れない。

 このメスガニの値段が今年1匹300円から400円ほど。小売店でも500円前後だと思う。国産のオスガニは大きさもあって5倍以上するのでとても手が出ない。ということで我が家はもっぱらメスガニ専門となる。

 買ってきたら、食べる直前に塩ゆでにする。やや塩辛いくらいの熱湯で10分ほど。小さいのであっという間に茹で上がり、アツツツといいながら甲羅を外して2つ割にする。

 後は食べるだけ。
 メスガニを食べると、もう冬到来なんだなー、と一年の短さを思って悲しくなる。
 この感傷的な思いも一瞬のことでしかない。とにかく片身の甲羅下の内子いっぱいのところをかぶりつく。メスガニの場合、とても身をせせるなんてせっかちのボクにはできない。なんだかワケもわからず、足はバリバリ、甲羅下の身はむしゃむしゃと咀嚼して、その旨味の濃厚であること、甘いことに感動する。

 カニで困るのは酒の肴にならぬことだ。いかにうまいものとはいえ、身をせせり、足をガリガリと噛み砕きながら、酒を一献とはいきかねる。ただただ無心にカニを食うしかない。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ズワイガニ・メス
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 中国で有名な上海ガニは標準和名をシナモクズガニ。これをまるで遠い存在のように輸入し、高額な値段を支払って中華料理店で食べている。まあなんとも愚かなことよ! と四国の山育ちの身には思えてならなない。秋になると「そろそろ上海ガニを食わないとダメだね」なんてあせっている仕事仲間が哀れに思える。実際に中華料理店で紹興酒で蒸し上がった上海ガニが値段ほどの価値があるのだろうか?
 
 ないと思うんだな。なぜならこの国の河川にも、しかもたぶん中国よりもきれいな河川にもシナモクズガニとほとんど変わらないカニが生きている。そして秋になると肝心金目の内子を持って川を下り始めるのだから。これを川漁師さんたちが「ど」という道具で生け捕りにする。

 我が故郷徳島県では吉野川、静岡県では狩野川など、日本各地でモクズガニが取り始めたという声が聞こえ始めるのも秋深しを思わせる。なかでも高知県はうまいモクズガニがとれるので有名である。
「つがにがとれ出しましたよ」
 10月になったばかりのときに浦戸湾の漁師・永野廣さんから電話があった。これは「モクズガニがとれ始めた」のではなく「内子が入ったメスがとれるようになりました」という連絡である。

「つがに」「づがに」「川蟹(かわがに)」「髭蟹(ひげがに)」「もくぞうがに」「もくがに」なんて各地での呼び名は数知れず。それほど人々に愛されているということだ。そのモクズガニが年々減少してきている。それは国土交通省や地方自治体の行っている無駄な河川改修による。面白いのはあれほど自然の川の姿で全国的な観光地となった四万十川ですらどうどうと景観破壊(河川改修)が続けられているのだからこの国のあり方がいかに愚かしいかわかる。

 それでもさすがに高知県は素晴らしい河川に恵まれている。
「今(うまいの)は物部川ですかね。それから仁淀川、鏡川となりますね」
 そのなかでももっとも「味がいいでしょう」という物部川の「つがに」が永野廣さんから送られてきた。

「つがに」が送られてきたら、まず流水で洗う。生きて元気に歩き回るのでくれぐれも逃がさないように。これを蒸すならハサミの真下、脇の下に金ぐしを刺して締める。茹でるなら水からカニと塩を入れて火をつける。このとき盛んにカニが逃げようとするので蓋が必要である。

 後は茹でるだけだ。このとき完全に火を通すこと。我が家では15分ほども茹でたはずだ。なぜならモクズガニは扁形動物のウェステルマン肺吸虫の宿主であるからだ。これは肺に入ると結核のような、また脳にはいると脳腫瘍のような症状を引き起こす。このウェステルマン肺吸虫の危険は上海ガニ(シナモクズガニ)にも存在するということを忘れてはならない。

 さて我が家では子供の頃のやり方である、水から入れて塩ゆでにする。熱湯に放り込むと足がとれてしまう。

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 茹で上がったら熱い内に身を半割にしてミソ、内子ごとかぶりつく。このミソ・内子だけではなく身の方も非常に美味であることはすぐにわかるはずだ。山間部である我が故郷では大振りのオスをよく食べたものだ。この身の旨さは、カニの風味を楽しむもので、そこに甘味がふわりと浮き上がってくる。このカニの風味こそ、タラバガニにもケガニにもズワイガニにもないモクズガニ独特のものだ。

 浦戸湾の女川漁師・永野昌枝さんと、廣さん夫婦に改めて感謝!

土佐の廣丸へ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑に取り上げたうまいもんは「市場魚貝類図鑑・商店街」へ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、モクズガニへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 さて「えがに」について。これは高知県でのトゲノコギリガザミとアミメノコギリガザミの呼び名である。「えがに」は「江蟹」の意味であると思う。すなわち入江に入ってきて、ときに川をのぼるカニということだ。
 トゲノコギリガザミとアミメノコギリガザミはガザミ科であり、熱帯から温帯に広く棲息する。ボクが見た限りでは太平洋側では東京湾が北限。たぶん漁の対象となる北限は浜名湖だろう。
 この仲間は関東では「わたりがに」と呼ばれる。でも「わたりがに」を代表するのはガザミやタイワンガザミ、ときにジャノメガザミなどで大きくなっても300グラム、甲長10センチ前後にしかならない。これと比べると「えがに」は怪物としかいいようがない。その重さ2キロ以上、甲長20センチ近いものもとれるとか。これを見ただけで、その凶暴なハサミとともに恐怖感を抱かざる終えないだろう。
 この「えがに」は分類学的にはガザミ科ノコギリガザミ属になる。高知市浦戸湾ではもう一種、アカテノコギリガザミがとれる。我が国であがるノコギリガザミ属は3種なので、高知市では全種があがり、味わえると言うことになる。

 その外観が怪物級なら味わいも度肝を抜いている。粘質感のある絹のような繊維質の身は甘く、カニの旨さが濃い。それ以上に濃いのが晩秋から冬にかけての内子だろう。この内子を鑑みると「えがに」の旬はこれからだ。
 この微かに渋みを感じさせる濃厚な旨味のえんじ色した物体は、口に入れると爆発するのだ。旨味が口中を満たしきってしまう。だから、食べるときには内子とカニの身だけにしたい。他の合いの手になる食い物が煩わしい存在になる。だからひょっとしたら酒すらも存在価値はないのかも知れない。

 この「えがに」を今期も味わえて幸せだなと感じる。また浦戸湾でうら若き女性にして、この怪物級のカニをとる永野昌枝さんに感謝する。また送ってくださった永野廣さんにも感謝感謝! 土佐の廣丸(永野夫婦の店)では通販も行っているので味わってみて欲しい。ときにノコギリガザミ三種合い混ぜというのこ可能だ。

 さて「えがに」が届いたら、まずは締める(殺す)か冷凍で失神状態にする。締めるときには、まだ私には会得できていないのだが、ハサミの真下(脇の下)に金ぐしを差し込むと死ぬ。他には冷凍庫で30分ほどおくと仮死状態、もしくは死ぬ。
 これを蒸し器で20分から30分蒸すのだ。

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ハサミの下から金ぐしをなんどか差し込むと締めることが出来る。ただしなかなかコツがいる

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