食べるエビ・カニ学: 2006年7月アーカイブ

 一般に「ぼたんえび」と呼ばれるのはトヤマエビである。日本海は京都から北、北海道の噴火湾からオホーツク海、ベーリング海をへてカナダにまで分布している。甘エビ(タラバエビ科)ではもっとも大きくなるもので20センチを超えるものも珍しくない。
 標準和名はトヤマエビなのだが、別に富山湾に多いわけではなく種として登録するときに富山湾のものがあったというだけ。むしろ京都、福井、富山、新潟ではほとんどとれず、市場には秋田、青森から少量入荷するていど。多くは北海道日本海側と噴火湾(内浦湾)でとれるもの。この「ぼたんえび」というのも噴火湾あたりでの呼び名であるようだ。
 味わいは甘味がありながら筋肉に弾力がありプルンとした食感で非常に美味である。甘エビ(ホッコクアカエビ)よりも水分量が少ないので焼き物にしても美味。
 市場ではありふれた存在ながら値段は非常に高く、大きければ大きいほど高い。小さなものでキロあたり2000円前後、大きくて鮮度がいいと10000円を超えてしまう。甘エビの仲間では生命力が強く近年活けでの入荷も見られる。またロシア、アラスカ、カナダなどからの輸入もあるが、冷凍ものであっても値段は高く安定している。
 ときとして魚屋、スーパーなどでも見られるが冷蔵流通で大きいものはすし屋、高級料理店でしかお目にかかれない。

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北海道島牧町「山下水産」からきたもの。見事としかいいようがない

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トヤマエビは焼き物や、画像のようなしゃぶしゃぶにしても美味である

市場魚貝類図鑑のトヤマエビへ
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エビなど甲殻類の目次へ
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エビについての詳しい情報は宮木屋さんの「赤えびエイト」へ。非常に勉強になる
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/8495/untitled4_001.htm


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 ボタンエビを食べたことがある人は少ないのではないか? 「そんなバカなときどき寿司屋で食べているよ」という方が食べているのは間違いなくトヤマエビである。実際に築地などを歩いていても「ぼたんえび」と呼ばれているのはトヤマエビなのであって、ボタンエビではないのだ。
 面白いのはあまりお目にかかれないボタンエビが十数年ぶりにたくさん入荷したのが2003年。このとき多くの仲買が「これがボタンエビである」ということがわからなかったはずだ。知っているのはエビを専門に扱う店の店員のみ。
「なんだか色合いの悪いエビだな」
 値付けに苦しんでいる仲買を実際に見ている。

 さてこのボタンエビであるがだいたい宮城県以南の太平洋、東シナ海までの深海に棲息する。色合いはやや黄色みが買ったオレンジ色。ここに紅のボタンの花びらを散らしたような文様がある。銚子から茨城にかけの底引き網、東京湾、相模湾、駿河湾でのエビカゴ漁、駿河湾、熊野灘などでの底引き網でそこそこに漁獲されていた。それがすぐに資源が枯渇。今では銚子、駿河湾での底引き網で少量揚がるのみ。当然、日本海側である程度の漁獲量を誇っている「ぼたんえび(トヤマエビ)」と比べるとなかなか市場でも見かける機会は少ない。
 味わいは甘エビ(ホッコクアカエビ)よりも甘味は少ないものの、ブルッとして食感があり、非常に美味である。また身に含まれる水分量があまり多くないので焼く、煮るなどの料理にも甘エビよりも向いている。
 価格はやはり甘エビの仲間では高い方で最低でもキロあたり2500円、高いと10000円くらいする。当然、小売りではなかなこれを扱える店はなく、主に寿司屋、高級料理店で味わうことになる。

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銚子産ボタンエビ。築地場内にて

市場魚貝類図鑑のボタンエビへ
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 一般に甘エビを知らない人はいないだろう。「甘海老」「甘えび」「アマエビ」、刺身で食べて甘いから「甘エビ」というわかりやすいネーミングである。この「甘エビ」の正体がホッコクアカエビなのである。でもこの標準和名を知る人は皆無だろう。知っているとしたらかなりの魚通。
 このホッコクアカエビとはどういったエビなのか? 大まかに説明するとエビであることは間違いない。エビの仲間のタラバエビ科に属している。ではタラバエビ科とはなんぞや? と言われると意外に多くの方達がホッコクアカエビ以外のエビにも接しているのである。ただ、このタラバエビ科を分類学的な呼び名で説明しても多くの方がとまどいそうである。それで「タラバエビ科」のなかで唯一一般の方でもエビの姿までたどり着けそうな「甘エビ」すなわちホッコクアカエビをさす言葉を使って説明する。

 ここでは以後、タラバエビ科=「甘エビの仲間」として説明する。また、この甘エビ類で、よく食べられている順番に揚げてみる。

ホッコクアカエビ=甘エビ
ホンホッコクアカエビ=甘エビ(アイスランド、ノルウェーなど)
トヤマエビ=ぼたんえび
モロトゲアカエビ=しまえび
ボタンエビ=ぼたんえび
ヒゴロモエビ=ぶどうえび
ホッカイエビ=ほっかいしまえび
スナエビ
ミツクリエビ
パナマミノエビ=サクラボタン(パナマなど)
以上が市場で見かけるもの。

ジンケンエビ
ミノエビ
アカモンミノエビ
テラオボタンエビ=はくぼたん
これは一部の産地ででまわる。

ブドウエビ
テンジクジンケンエビ

まず一般には見ることすらない

 この市場で流通するエビはどれもやや値のはるものばかり。またトヤマエビ、ホッコクアカエビなどは輸入も盛んである。この甘エビ(タラバエビ)の仲間をていねいに解説していきたい。

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新潟県能生町であがったばかりの「甘エビ(ホッコクアカエビ)」。当地では「なんばんえび」「こしょうえび」と呼ぶ。「なんばん」「こしょう」ともに赤い唐辛子の意味

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 市場では木の芽時になると寿司屋が「かつぶし入ってるかな」と茹でシャコを光にすかしているのが見られる。
「ちゃんと子持ちって書いてあるでしょ」
 仲卸が言うと、
「入ってなかったら大変だろ? こっちは客に出すんだから」
「かつぶし」とは関東でのシャコの卵巣のこと。この卵巣が千金に値する。この「子持ちシャコ」が到来すると夏近し、また夏なのである。そう言えば大阪湾の住吉さん夫婦の今年のシャコの水揚げはどうだたんだろう。

 さて、7月になって、東京では連日30度を超える暑さ。そんなときに我が家に送られてきたのが青森県陸奥湾産の大きなシャコ。これは当地でホタテ養殖をなさっているパラ・ペツさんからのもの。
「シャコ送りました」
 連絡をいただき。
「そちらではどうやって食べているんですか?」
「醤油とみりんでたくんです」

 到着したばかりの荷を開けるとビックリするほど大きなシャコ。オスメスに分けられている。雄は「刺身で食べてください」とあるが、これには少々手こずる。また「醤油で煮て食べてください」とあるものを、さっそく醤油とみりんでたいて、食卓に出した。これは思った以上に面白い味わい。シャコ自体の旨味というか、甲殻類にはふさわしくない表現だが脂がのっているというか、濃厚でしかも豊かな味わい。そこにみりんの甘味が微かに感じられるのと、当然だが醤油の植物系の旨味成分が加わって素朴な味わいとなっている。
 また、今回はみりんでやや品よく作りすぎた感がある。たぶん、陸奥湾の浜では、みりんではなく砂糖を無造作に投げ入れて、醤油をドボリ。それでシャコをざざっと大量に煮あげてしまう。それを老若男女、手づかみで食うのではないか? その方がうまそうだ。

 ぼんやり考え事をしながらシャコを食べていると、
「お父さん、ちょっとたきすぎだよ」
 かつぶしが硬いと娘に文句を言われてしまったが、新しい味わいに満足満足なのだ。

 陸奥湾のパラ・ペツさんありがとう。

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