食べるエビ・カニ学: 2006年11月アーカイブ

 久しぶりにアブラガニを食べた。「うまいね」。寿司図鑑の撮影をしながら「市場寿司 たか」渡辺隆之さんと大満足。「アブラガニは偽物だってどんどん言ってくれると値が下がっていいかな」そこに通り合わせた市場人が呟く。「そりゃアブラガニがかわいそうでしょ。これだけうまいんだから高くてもいいでしょ」カニ大好き人間のたかさんが正論をはく。「このアブラがね、キロあたり1500円、そして今日タラバガニの値段が2500円から2800円だから、安いよね」とボク。「オレはタラバガニよりアブラガニが偉いと思うな」、庶民派たかさんの意見に大賛成である。味の良さからタラバガニと同じ値段になると嫌だけど、「ボクはアブラガニの身方です」。

 師走を目前にして目立ってきたのがアブラガニ。たぶん「アブラガニ」という言葉を多くの人が知るようになったのは2004年の「アブラガニをタラバガニと偽って販売」事件以来のことではないか? このときは全国的に「アブラガニってなに?」ということで注目されたはずである。
 アブラガニは日本海ロシア海域、カラフト、オホーツク海北部、ベーリング海に棲息。十脚目異尾類タラバガニ科に属している。こタラバガニ科の甲殻類(エビやカニの仲間)はハサミ第一胸脚から数えて5番目の脚がない。本当はあるのだが甲羅の下に隠れて鰓の掃除など目立たぬながら重要な役目を果たしているのだ。それでハサミを含めて8本の脚しか見えないのが特徴である。異尾類にはヤドカリ、カニダマシなどがあって本には「タラバガニってヤドカリの仲間」なんて見出しがついていることがある。でも「ヤドカリは異尾類を代表するもの」かもしれないが「食べ物」としては魅力を増す表現とは言えない。良識的にいって「タラバガニ科というおいしいエビカニの仲間がいる」と思った方がいい。

 国内ではとれないのでアブラガニのすべてが輸入ものである。北海道でとれるタラバガニ科には2種ある。代表的なのがタラバガニ、そしてハナサキガニ。これが我が国海域内での資源が年々減少している。そこに登場してきたのがアブラガニである。昔から輸入されたり遠洋でとれていたもの。別段、タラバガニとして売られていてもその道のプロにしかわからない存在であったのではないか? それがJAS法の施行での取り締まりを契機に悪者、偽物のように思われている。生鮮品の産地表示、また標準和名を基本にするなど優れた法律なのだが「違反するとそれがまがい物のように受け取られがち」である。
「アブラガニをタラバガニと偽るのは犯罪」だが「アブラガニをうまい」と言って売るのは大正解、また消費者にとってもありがたいことではないかと思う。よくニュースなどでカニの専門家然とした人が「タラバガニと比べてアブラは味が落ちますね」なんて言うがボクにはどうにもそれが納得できない。アブラだってタラバガニに負けずにうまい。そこでどうも「アブラガニは輸入もの」だから「タラバガニの偽物」として扱われるのだろうか? と邪推する。でもタラバガニも市場で見る限りほとんどが輸入ものである。生鮮品として状況は2種とも変わらないのだ。またはっきり言って流通するタラバガニにもいいものと劣悪なものが混在する。タラバガニ、アブラガニが並んでいるとき殻を押して身の入り具合などを見て種に関わりなく仕入れていくプロ(魚屋)も少なくないのである。
 それで結論だが、現自民党政府はますます庶民いじめをしたいらしい。改革も忘れて昔ながらの箱もの行政や庶民生活の切り捨て、ゆるせない自然破壊を続行するみたいでもある。昔「貧乏人は麦を食え」と池田勇人という首相が言った。それならボクは「賢い消費者は実をとれ」と言いたい。

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市場魚貝類図鑑のアブラガニへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 深い場所を曳くトロール船のある港でときどき目にするのがイガグリガニである。我が娘はこれを見て思わず「かわい〜〜い」と叫び。底引きの船頭は「幾らにもなりゃしねー」と蹴飛ばし。沼津の甲殻類学者飯塚さんは「これはいい標本が出来そうだ」と笑みを浮かべる。そしてボクは思わず「うまそうだ」と思いながらも「いたそうだな」と躊躇する。そんな甲殻類なのだ。
「まさかこんなぬいぐるみのような生き物を食べるの? 可愛そう」なんて思うのはあまりに了見が違う。「可愛いから殺してはいけない。頭がいいからイルカを保護しろ」なんて言うグリーンピースのような陥穽に落っこちることだけは絶対にやめよう。周辺海で海産物をうまーく利用しなければならない我が国の人類であるなら「食えるもの、また殺してしまったものは食うのだ。これが宿命なのだ」。水産物をうまく利用しないと自然など保護できるわけがない。
 と言うことで要するにイガグリガニはうまいのである。料理法は蒸してもいいし、塩ゆででもいい。とにかく毬(いが すなわち栗の実に似ている)の痛さに絶えながら、それでも乏しい足の肉、甲羅の下の肉をちまちまと食う。微かだが甘味があるし、旨味というか味にコクもある。
 味がいいのはさておき「歩留まりが悪い」、「棘とげで取り扱いが大変」、「あまりとれない」の3点を持って商品価値はかなり低い。それでも水産物に興味のある、また好奇心旺盛、食の冒険が大好きな人、これは是非一度お食べてみて欲しい。

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市場魚貝類図鑑のイガグリガニへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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