さて、市場などで「しったか」という貝を見かける。漢字で書くと「尻高」である。この言葉がなんだかわかりづらい。でも磯などの海中を見ると、岩などにたくさんの巻き貝がついている。そのなかでいちばん貝殻の高いのが「尻高」なのではないかと思われてくる。これが千葉県外房などではバテイラにあたる。でも日本全国を見回すと、ニシキウズガイ、オオコシダカガンガラ、ギンタカハマ、クボガイ、クマノコガイ、バテイラ、ベニシリダカなどがともに「しったか」と呼ばれているのがわかる。
ちなみにこの「しったか」の総てがニシキウズガイ科の巻き貝である。その特徴は黒くて、三角錐型であり、磯に棲息するもの。だから磯の食用巻き貝の多くが「しったか」と呼ばれていることになる。
また大分県、長崎県などで「みな」「みーな」と呼ばれるのは磯でとれる食用巻き貝総てをさう。「みな」は築地をはじめ関東の市場にも入荷してくるのだが、ヒメクボガイ、クボガイ、コシダカガンガラ、クマノコガイなどのニシキウズガイ科にアッキガイ科のイボニシ、エゾバイガイ科のイソニナなどが混ざっている。ちなみに「みな」とは巻き貝自体をさす言葉、もしくは古語である。このような磯でとれる巻き貝を各地で「磯もの」ともいう。千葉県外房でバテイラを「しったか」と呼ぶときには、当然、同じ場所にいる「磯もの」のクボガイやヒメクボガイよりも背が高い(貝殻が高い)がための呼び名であることがはっきりする。
では市場ではどうだろう? 例えば築地などでは「しったか」の代表選手は太平洋側のバテイラと日本海側のオオコシダカガンガラ2種である。そこにときどきヘソアキクボガイ、クボガイ、クマノコガイが「しったか」の末席に座っている。仲買でも詳しい人のなかにバテイラ、オオコシダカガンガラに「本」をつけて呼ぶ人がいる。これは明らかに本来「しったか」は関東近県太平洋側からくるバテイラであり、交通網の発達から日本海のオオコシダカガンガラが加わったというのを知っているのだと思われる。
いろいろ磯の貝のことを説明してきて改めて感じたのは「しったか」を丁寧に説明するほどわかりづらくなるということ。そこで我がサイトでは「つぶ」のときに使うA、Bというランク分けを採用する。すなわちバテイラ、オオコシダカガンガラを「Aしったか」、その他のクボガイなどを「Bしったか」、そのもろもろを「磯もの」と呼ぶ。これらを季節季節、目にしたら説明していくことにする。
10月2日のこと、八王子総合卸売センター『高野水産』の社長に呼び止められて、いきなり「尻高(しったか)」をもらったのである。この方、突然、思わぬときに魚などをボクにくれる。
「これ大島産(伊豆七島の)だから食べてみて」
手渡されたのは太平洋側でとれたまさしく「Aしったか」であるバテイラである。市場では本種がいちばん高く、味がいいとされる。見た目は同じく「Aしったか」であるオオコシダカガンガラの方がいいのだが、これは殻長(貝殻の高さ)があり身をとりだし難いために価値が下がる。
「しったか」を買うのは年に数度、めったに買わないもののひとつだ。だからこんな風にいただけるとうれしい。高野社長ありがとう! これを醤油と酒でさらっと煮る。いちばん気をつけたいのが煮すぎである。
昼間に煮て、味見。やっぱりうまいね、と感激。今夜の寝酒の友はコイツだな、とほくそ笑み冷蔵庫にしまった。面白いもので磯ものは関東では「突き出し」に使われることが多い。「突き出し」というのは呑み客が席についてとりあえず出てくる「ちょっとした肴」である。すなわち磯ものはもっぱら酒の肴(関西ではアテ)となるものなのだ。
そして外出、都心でいろいろ仕事などして帰宅は0時過ぎとなる。慌ただしい一日で風呂を浴びても気が落ち着かない。それで九州の「繁升」純米酒をぬる燗に、冷蔵庫から「尻高」を出そうとしたら、ない。どこを探してもない。ということは犯人は姫たちであるのは明白だ。なぜだろう、子供達は酒の肴が大好きなのである。
仕方なくメールの返信をしながら空酒となる。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、バテイラへ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/kofukusoku/nisikiuzugai/bateira.html
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