漁師料理・郷土料理: 2009年6月アーカイブ

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 車切りの後に20センチ以上の見事な雄バスの塩焼きが出てくる。
 下あごにくっきりと追い星が見える。
 背ごしには骨の軟らかな雌を、塩焼きには骨は硬いものの身にうまみのある雄を使う。
 たぶん火力の強い熱源で急速に焼き上げたものに違いない。
 包丁目を入れた切り口が、きつね色に盛り上がっている。
 箸をつける前から、香ばしい旨味をともなった香りが立ち上がってくる。
 覚悟はしていたものの、雄バスの小骨の多さ、小骨の硬さはかなりのもの。
 その小骨の煩わしさを、厭い忘れるほどに、この塩焼きはうまい。
 例えば活けのスズキを焼くと、ときどきこのように絶品となるが、それ以上に独特の風味があってハスはスズキに優る。
 身に甘みがあって、皮の香ばしくうまいことは名状しがたい。
 二杯酢が添えられていたのだが、初手こそ形ばかり浸したものの、むしろ邪魔にすら思う。

 塩焼きを、いつの間にか手づかみで食らっていて、指が塩だらけとなる。
 おしぼりで指を拭き、ぬぐっているところに、若い女将さんが、
「ハスを見ませんか?」
 呼びに来てくれる。
 ついていくと、青いバケツをもって、ご主人が立っている。
 のぞき込むと、そこには大振りの雌が1尾。
「車切りにする雌です。これが、なかなか手に入らんのです」
「ちょっと赤いんですね。ふっくら太っているようだし」
「春から、今くらいまでが、いちばんええときですな」

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 この『やまに』は江戸時代には京都二条城に魚を納めていたという。
 それで山に二条城の「二」で屋号となったという。
 現在京料理というと、若狭の「ぐじ(アカアマダイ)」やハモなど海魚が有名であるが、本来内陸の都で食べられていた魚は淡水魚が中心であったはず。
 フナ、コイなどは琵琶湖からの輸送にも耐えただろうし、イサザ、モロコ、アユなどは加工品として京都に送られたのではないか?
 ここで戦国時代に思いを巡らせると、織田信長は尾張の人で、尾張は淡水魚を盛んに食べていたはず。
 永禄11年(1568)京を牛耳っていた三好氏を追い落とし入洛したとき、都で食べたのも淡水魚(湖魚)だったのではないだろうか?
 三好氏に使えた料理人を召し出し、料理を作らせる。これが水くさくてまずいというので、切れと命令したとの逸話が残る。
 この水くさくて薄味だというのは、尾張地方の淡水魚料理、ふなみそや甘煮などに比してのことで、京都・琵琶湖周辺の淡水魚料理の薄味であったことを言っているに違いないのだ。
 この料理人は信長好みの料理を作り直して許される。

 閑話休題。
 塩焼きの後には魚田がきた。

2008年7月21日
滋賀県米原市世継736
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ハス
http://www.zukan-bouz.com/koimoku/danio/hasu.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/
参考/『湖魚と近江のくらし』(滋賀の食事文化研究会編 サンライズ出版)


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

築地土曜会を7月4日に行います。
場内を回る店員は自由枠以外は満杯となりましてが、懇談会のみの参加は募集中です。
今回から、参加者にはぼうずコンニャクバッジをお配りします。
また場内のお魚の試食、お土産つきです。

興味のある方、質問などは。
掲示板に参加してください。
http://csi.or.tv/tsukiji/kb/rb.cgi
詳しいことは
http://csi.or.tv/tsukiji/doyoukai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 ほどなく冬瓜の煮物と湖産鮎の山椒煮がきた。
 実をいうと若女将に「飲み物はどうしますか?」と聞かれて、午後にかけての日程から「お茶にします」と言ったのが、ここでぐらついてくる。

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 鮎の山椒煮がうまいのだ。
 炊き方(関西なので)は平凡ながら、炎暑を来た身に山椒の香りが心地よい。
「冷やが欲しいな」
 なんとほんの数分で初志が崩れてしまう。

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 そして車切りがきた。
 背ごしに切った雌のハスを、洗いにしている。
 口に入れるとコっと一瞬、骨が歯に当たる。
 ハスにはまったくクセも臭いもない。
 むしろ淡い旨味がツンと浮かんできて、はかなく消え去ってしまう。
 消え去ったら、またもどかしく数切れを口に運び運び、これは夏らしい味わいだと、我知らず喜びがこみ上げてくる。

 ハス料理が食べられるのは琵琶湖周辺でも、米原市世継周辺のみだったらしい。
 何軒か軒を並べていたハス料理を出す料亭が、今では『やまに』一軒のみとなっている。
 これは時代とともに人の嗜好が移り変わってしまったことも理由に挙げられよう。
 だがしかし、ハス料理が衰退したもっとも大きな理由は、ハスそのものがとれなくなったからであるようだ。
 生きているハスがなければハス料理は作れない。
 その生きているハスの確保が難しいらしいのだ。
 部屋のすぐ西にある琵琶湖、そこに定置網の一種、えりが見える。
 天野川河口はその昔ハスの宝庫であったという。
 船一艘見あたらない湖面にその面影はない。

 産卵期を目前にして、もっともハスがうまくなるのが4月から7月まで。
 そのハスの十尾に一尾しかとれないのが雌だという。
 生きている雌でしかできないのが車切りであって、めったに出合えない一品なのだ。
 その点、今回はついていた。
 しかも名物にうまいものなし、の真反対、車切りの非常にうまいのにも驚く。
 
2008年7月21日
滋賀県米原市世継736
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ハス
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参考/『湖魚と近江のくらし』(滋賀の食事文化研究会編 サンライズ出版)


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 湖東天野川ほとりに世継ぎという不思議な名の集落がある。
 ここには、その昔「ハス料理」を名物にする料亭が軒を並べていたという。
 そして今に残るのはたった一軒のみ。
 それが『やまに』である。
 江戸時代には二条城に魚を納めていて、そこから山に二条城の「二」を頂いたものだとのこと。

 米原駅からタクシーで数分で琵琶湖に出る。
 少し北上すると、天野川の橋を渡り、川にそってくだると店の前に出る。

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 まさに琵琶湖畔にある。
 天野川では数人の釣り人が湖産アユを釣っており。
 河口に向かうと、思った以上に大きい琵琶湖が見える。
 ちょうど正面に「えり」が見える。
 要するに定置網のことで確か俳句の世界では「えりさす」というのが春の季語であるはず。

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 思ったよりも新しい無愛想な建物の表に「やまに」と看板がある。
「ごめんください」というと若い可愛らしい女将さんが迎えてくれた。
 部屋に通されて、その二方から琵琶湖が望める。
 品書きを見せて頂き、当然ハス料理のフルコース。
 そこに「車切りだけはどうしても食べたいとお願いする」
「車切りはめったに出来ないんですが、少しお待ち下さい」
 待つこと数分、おしぼりを持ってきてくれて、「車切り大丈夫です」とのこと。

 さて、ここからハス料理のフルコースが始まるのだ。

2008年7月21日
滋賀県米原市世継736
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 島根県浜田市の「いそまる本舗」から、「ボベ」が届いた。
 磯などにつくカサガイの仲間を、島根県では「ボベ」もしくは「ベベ」なんていう。
 普通、非常に地域的な食材で、例えば磯遊びというのがある。
 大潮の引き潮どきに磯の貝や海藻などをとる。
 そんなとき中心となるものがヨメガサラ、ベッコウガサ、マツバガイなどのカサガイ類。
 今回の浜田産「ボベ」を同定(種を検索する)するとベッコウガサであった。
 ベッコウガサはカサガイ類でももっとも味が良いとされている。

 しかし、このような地域性の高いものを全国的に売り出すところが、「いそまる本舗」の面白いところ。
 ちょっと顔が恐い工場長や、ナガさんたち送り手側はさぞや毎日、鵜の目鷹の目でうまい、珍しい、そしてなによりも面白いものを探してるんだろうな。

 浜田の浜にでもいかないと食べられない「ボベ」だから出来るだけ、その地の食べ方をしてみたい。
 それが「ボベ飯」だ。
 作り方は、「ボベ」をよく洗う。
 塩湯でして、身を外す。
 外すのはいとも簡単、ほとんどが勝手に外れてくれる。
 この身を軽く水の中で振り洗い。
 ゆでた汁は冷やして、ご飯をたくときに使う。

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ボベは貝殻から身を取り出す。汁は砂などがあるので、漉して、冷ましておく。汁と水で加減して、酒を少々。あとはたくだけ

 「いそまる本舗」のナガさんによると、浜田では塩味だけでたくというが、ボクは好みから少量の酒を加えた。
 また島根県東部安来などではうるち米にもち米を加えて、酒、醤油(甘口)で味つけする。
 これも島根県ならではのものでお試し願いたい。
 ご飯が炊きあがったら、外した身を釜にもどす。
 約15分ほど蒸らして出来上がりだ。
 釜の蓋をあけると、プーーーンと磯の香りがして、これがいやがおうにも期待を高らしめてくれる。

 この炊きたての「ボベ飯」のうまいこと。
 何と言っても磯の香り、そしてワタの微かな苦み、そして身の甘さに、ご飯に染みこんだ、「ボベ」の味。
 ついつい食べ過ぎてしまって、困ってしまう、太り気味の五十路オヤジなのであった。

いそまる本舗
http://www.rakuten.ne.jp/gold/isomaru/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ベッコウガサへ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/kasagaimoku/bekkougasa.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


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