市場図鑑・市場案内: 2006年10月アーカイブ

 秋らしく肌寒い日、早朝の中央快速はのろのろと走り、姫が「お父さん、これ各駅停車かな」と聞いてくる。でも土曜日のいいところは西荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺をすっとばしてくれること。結局、都バスから築地4丁目に降り立ったのが7時過ぎのこと。驚いたのは凄まじい人の群。築地場外を新大橋通り沿いに進むのがなんとも大変である。ラーメンの『井上』にはすでに人だかりが出来ている。煮込みの『きつねや』でうまそうに丼をかき込んでいる人。「ここはうまそうな匂いのスクランブル交差点や!」と、姫もボクも激しい空腹感に襲われる。

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長崎県漁連の入江さん

 築地に来るときに都バスを降りるのはいつも築地6丁目なのを、わざわざ遠い4丁目にしたのは『JF長崎漁連 東京直売所』に入江さんを訪ねるためだ。新大橋通から駐車場入り口を見て左に曲がると正面にあるのがやや無機質な外観の『JF長崎漁連 東京直売所』である。忙しそうな入江さんに挨拶して店内を見せてもらう。

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 まず驚いたのが対馬の釣りサバである。1キロを超える見事なものが、なんと2000円弱で置かれている。これを仲卸で買おうとしたらキロあたり2500円以上するはずだ。アオリイカ1ぱい1000円というのも、「あらかぶ(カサゴ)」250円というのも鮮度からするとお買い得。まだまだ陳列などで改良の余地はありそうだが、長崎漁連やるじゃないか! 場外ではまったく買い物をしないのだが、ここははずせない店である。

 波除神社内を見てまた左に、お握りを買おうとしたら、目当ての店がしまっている。「父ちゃんはら減った」と姫が泣くのを無視して場内に入る。水産棟の売店でパンとお茶を買い、一息つく。
 場内にも一般客と海外からの観光客はわんさか集結している。ターラーの行き交う入り口付近に群れている若い集団を見て「あいつらバカじゃないの。クルマに敷かれてしんじめー」と姫が斬る。各地の市場を歩き慣れている姫には一般客が「うざってー」と思えるらしい。
 もうひとつの用件を済ませて、波除神社内に小走りに戻る。走りながらパンを食べる、お茶を飲む。考えてみると姫はこんなことも今では当たり前だと思っているらしい。嫁に行けなくても仕方ないか? 土曜会の待ち合わせ場所である波除神社には鮟鱇さん、nob君、そしてあとふたり。女性のお名前を忘れてしまった。美しい方なのに「どうもすみません」。ここでは仮にAさんとさせてもらう。そして、アバタノオジサン(以降アバさん)。

ここでちょっと場内で見かけた魚貝類・そして人

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10月、11月には築地場内にボラの卵巣が溢れている。みな高いのだが唐墨にするともっともっと手が出なくなる。

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珍しいわけではないが初めて見ると「なんじゃこれ」と思うオオバウチワエビ

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高級魚マハタ、その上にアラ。ふたつ合わせて「アラハタ(荒畑)寒村」なんて誰もわかってくれないだろうな。姫が「しらーー」。

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これはトリガイの超デカイやつ。これが「大トリ(鳳)蘭」というと姫が「知ってる父ちゃん。それでなに?」と聞いてくる

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『虎定』の椿さん。いつものようにキグチの解説をしてくれる。ボクはこのおやっさんを見ると「お元気でよかった」とほっとする。

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「うちは生の甘えび類じゃ日本一だ」と言う話。『高梨』で。

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『いりやま 齋藤』の店頭に並ぶスジアラ、そしてハタ類。

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築地場内の通路。昔、坂本九主演の映画に『上を向いて歩こう』(1962年・昭和37年)というのがあってたぶん改築したばかりの水産棟が出てくる。それから44年も経っているわけで、水産棟の老朽化も激しい。でもこの地面といい古めかしい建物といいボクにはかけがえのないものに思える。

 場内の通路では不用意に止まらないこと、と注意をして棟に入る。場内入り口に近い棟はさすがに混み合っていたが、奥に向かうにつれて人が少なくなる。平日の人混みからするといかにも寂しい限りだが、築地場内を案内するにはとても好都合だ。しかも平日よりも明らかに値が安い。
 土曜日の場内にはあまり珍しいものが見あたらない。特に甲殻類を見に来たnob君には気の毒だがタラバエビ科にしてもクルマエビ科にしても平凡なものばかり。そんななかで彼が探していたのがタイラギに住んでいるドメスティックなカクレエビである。〈注/カクレエビはテナガエビ科の体長2〜3センチのエビ。タイラギの中でかなりの頻度でみつかる)市場を歩いていると嫌と言うほど見かけるのが本日はやっと1匹だけ。nob君はうれしそうにホルマリンの小瓶に投げ込んでいる。カクレエビはまことに夫婦仲むつまじい可愛らしい生き物、それをいきなりホルマリンに放り込むというのも研究者らしい。ボクなど心が優し過ぎるのでとてもこんなことは出来ない。毒蝮三太夫の真似をして「なんまいだぶ・なんまいだぶ」と成仏を願う。
 築地場内をできるだけくまなく歩く。これ距離にしたらいったいどれくらいだろう。実を言うとかなりハードである。それを小柄なAさんはものともしていない。なんだか楽しそうに見える。アバさんも場内歩きを楽しんでいるように思える。それでボクもちょっとうれしくなる。
 いつも立ち寄る「大音」、そして小笠原からの魚を集める「いりやま(山型のマークが2つ重なる)齋藤」でたくさんの珍魚を見る。ここでどう見てもキテンハタらしいのを2体見つけて1体だけ購入する。これはあとあと大失敗であったことが判明する。これをキテンハタと確定出来ないのだ。念のために2体買ってしまうべきだった。
 エビ、とくにタラバエビ科のものを専門に扱う「高梨」では「ぼたんえび(トヤマエビ)、甘えび(ホッコクアカエビ)、それにボタンエビ(「高梨」など築地の数店舗で「本ぼたん」と呼ぶ)を見せてもらう。
 歩く道すがらお土産になりそうなものを探していく。意外に難しいのがマグロの切り落としや刺身なのだ。明らかに本鮪(クロマグロ)が混じっていて300グラム強ありそうな切り落としを見つける。これをAさんにすすめる。それからタテ(プラスティックのトレイ)にのった茹でシャコ。鮟鱇さんは豪奢にもシャコ爪(茹でたシャコの小さなハサミの部分を集めたもの。丁寧に殻を剥くのは大変だ)を買っている。
 場内で秋深しと思わせるものはボラの卵巣、すなわち唐墨の材料がどの店にもある。ババガレイ、マダラ、黒がれい(クロガシラガレイ、クロガレイ)、巨大なアラにクエ、マハタなども明らかに肌寒の時好を感じる。さすがに築地はすごいなと思うのがいつ来てもカラフトエゾボラの大振りが見られること。

 結局8時過ぎから9時半過ぎまでたっぷり満喫して水産棟を出る。ここで待っていてくれたのが尻高鰤さんである。総勢7人で築地厚生会館内『魚四季』で朝ご飯と生ビールで軽い軽い打ち上げをする。この『魚四季』の定食がまたうまい。そして11時過ぎに解散とする。
 皆さん楽しんでいただけただろうか? また近々「築地土曜会」をやるつもりなので、ここのところが少々気にかかる。


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