市場図鑑・市場案内: 2008年4月アーカイブ

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場内の生け簀でおよぐヤリイカ。これが買えるのだからうれしい

“市場”が大好きだ。でも改めて考えるに“市場”って何だろう? それは現在の観念でいうところの卸売市場など公設市場だけではなく、魚が水揚げされる「河岸」、それから通りの名前だったり、また単なる店舗の集合体であったりする。ようするに人々が何かを求めに来る(買いに来る)物資の集散地でもあるし、人が集まる場所自体でもある。すなわち多様な意味を持つ言語と解釈して欲しい。
 だから萩魚市場前に建っている『道の駅 萩しーまーと』も間違いなく“市場”である。新しく作られた“市場”で、これほど人の集まる場所も少ないだろう。この市場の歴史は浅く、建設されたのは2001年のこと。場内は清潔で、また、驚くのは無駄な飾り付けなどは皆無に近い。それなのにどこか有機的で暖かみがある。
 どうして、これほど親しみやすい空間なのかというと、回りにたくさんの食べ物が置かれていて、その密度が高い。また多様性があり、入るといろんなものが目に飛び込んでくる。驚くべきは、これほどの多様性のある“市場”であるのに清潔無比であることだ。場内に腐食した有機質の臭いがまったくない。

 2月のもっとも観光客の少ない金曜日に、ボクは『道の駅 萩しーまーと』をグルグルまわり、その面白さに夢中になった。今回はこの新しいのに、なぜか懐かしい、そして回ってみるだけで楽しい『道の駅 萩しーまーと』の魅力を考えてみたいと思う。
 ここだけの話であるが、萩には行ってみたい場所が数え切れないほどある。幕末の歴史は面白く、高杉晋作、吉田松陰、伊藤博文の足跡はもとより、その美しく古めかしい城下町自体に惹きつけられるだろう。
 でも萩に来て「食べたいものは」と聞かれると、ぜんぜん思い浮かばない。そん不得要領な状態で『道の駅 萩しーまーと』にくるとやっと萩が漁港であり、新鮮な日本海の幸に溢れている街であることに気づくだろう。
 それほどに『道の駅 萩しーまーと』の水産物への貢献度は高いと思う。

道の駅 萩しーまーと
http://www.axis.or.jp/~seamart/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

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 水産棟に入ると、競りは終了している。残っている物が積み上げられることもなく、きれいに片づいた先に仲卸の灯りが見える。
 仲卸の数は39、これは東京足立市場に近いのではないか、どこかしら似た雰囲気がある。また足立市場は青果が分離して活気が落ちたと言われているが、こちらはまだまだ市場内に喧噪感があって賑やかだ。
 仲卸の作りは最近のものと違い、あまりはっきりした仕切がない。だから床に台を置いて、平面を作り、そこに荷が並んでいる。その平面的な一面が一店舗ということになる。

 とにかく手前から見て歩く、ウニ、むきえび、パック詰めのアサリに鮮魚も豊富である。後々わかることなのだが、場内の仲卸はみな店舗が大きく、取り扱う水産物の種類も多い。
 ヤリイカに九州のチダイ、首折れサバ、養殖マサバ。また鹿児島県産のクロホシフエダイがあるのが面白い。この一店舗目の水産会社は新潟県佐渡島に本拠地があるのだという。
 見て回るどの店舗も規模が大きく、置いてあるものは多岐に渡る。鮮魚、塩干、惣菜、冷凍物、練り製品などが雑然と(そう思える)並んでいる。すなわち一店舗でほとんどのものが揃うのだ。

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 きんき(キチジ)、ニシン、マコガレイに青森産のなめたがれい(ババガレイ)、北海道からの八角(トクビレ)。無造作に床に置かれた魚を見て歩く。

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 安達さんに案内されているとはいえ、店と店の区分がわかるようでわからない。
 細い通路を通り抜けると、いきなり目に飛び込んできたのが大きなアカムツで1キロ近くある。値段がキロ当たり13000円というのが凄い。「このアカムツすごいね」というと千葉県内房にある竹岡であがったものだという。

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 航空便のマダイ、東京湾産でも最上級のスズキ、値段もさることながら、こんな店があるというのは柏のすごいところだろう。

 千葉県は水産県でもあり、アサリ、ノリ。東京湾のスズキにメダイにマダイ、外房の「いなだ(ブリの若魚)」、イセエビにアワビ類と豊富である。年間を通すと地物とも言えそうな魚が見られるはずだ。
 また各店舗に置いてあるシジミのほとんどは茨城県涸沼産である。そこに青森県産があって、西日本の島根県産などは見られない。

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 場内を歩いていると、店頭にずらりとマガキ、イワガキが並んでいてなかに島根県隠岐のものがある。これが『柏渡力』という店。
 ボクのバッグに「ぼうずコンニャク」というのを見つけたのか、よく見てますよと声をかけてくれる。
 この店の実力など築地場内にあっても引けを取らないものと見受けられた。

 見て回ること、1時間半ほど。魚の少ない時期なのに、思った以上に荷がある。また高いもの、安いものと多彩なのもいい。
 不思議なのは鮮魚店の数に比べてマグロ屋のが少ないことだ。置いてあるマグロは本マグロを始めて、なかなか素晴らしいのだけど、この市場で目立つのは鮮魚である。
 塩干・惣菜の店を見ているとさすがに千葉県産のものが多い。ここでの主流は銚子産の干物類だ。そこに先ほど旅した島根の海産物を探すがなかなか見つからない。唯一見つけたのが浜田市の「山がれい(ヒレグロ)」の干物である。

 市場から出ると遙か向こうに高層マンションが幾棟も建設中となっている。あれは明らかにつくばエキスプレス柏の葉キャンパスあたり。この『柏市公設総合地方卸売市場』にもっとも近い駅である。
 今、見てきたあまりに有機的な市場の情景と対照的ではないか、考えてみると現代人はあのように無機的なものしか作り出せないようになってしまっている。その無機質な人間が、無機質な言語である「食育」なんて言葉を作るのだ。まったく愚か者め! せめて時代の子供達を無機質な生き物に変えないためにも市場の役割は大きい。柏市の市民よ市場をもっと大切にしろ!

 さて『柏市公設総合地方卸売市場』水産棟の実力は思った以上に高い。例えば、電車を使えば築地まで1時間足らずでたどり着けるだろうけど、そんな必要性は、この品揃えを見るとないように思える。近年地方市場が抱える問題点は丹念に市場まできて品揃えする魚屋、地元のスーパーなどの凋落に起因する。それに加えるとしたら、市場で「自分の目で見て魚を仕入れていく」優秀な板前が少なくなっている。
 市場というものが、いかに食に置いて重要な役割を担っているか、食材を知れば知るほど痛感する。食に関わる人々は、市場をもっともっと活用せねばならない。

柏市公設総合地方卸売市場
http://www.city.kashiwa.lg.jp/cityhall/sosiki/B_KEIZ/KEIZ_KOU/kashiwa_ichiba/Index.htm


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 関東周辺の市場はくまなく見て回りたいと思っている。千葉県の場合、千葉市、船橋市ときて今回は柏に行ってきた。

 我が家から柏市までは、中央線、総武線を乗り継いで秋葉原、秋葉原からは、つくばエキスプレスに乗り替えて柏の葉キャンパスで下車する。ここから歩いても10分ほどで市場到着となる。東京都の西部の我が家からだいたい1時間半でたどり着けるというのは、高速を誇るつくばエキスプレスのなせる技だろう。この新しい鉄道は清潔で快適、また北千住あたりまでは地下鉄であるが地上に出てからの景色もきれいだ。

 柏市は千葉県でも北西部にあって、人口40万人ほどの大都市である。さきほど訪れた島根県の県庁所在地松江市が20万人、我が故郷徳島県の県庁所在地徳島市の人口が26万人であるから、いかに柏市が大きいかがわかるだろう。ちなみに隣接する我孫子市、流山市と合わせると、なんと島根県の人口よりも多い。しかも、つくばエキスプレスによって柏市の北部には高層住宅が林立しつつある。これからますます人口は増えていくのではないだろうか?

 これだけの巨大な人口を抱えるのだから柏の市場はさぞや大きいのだろうと思ったら、あにはからんやこぢんまりと小さい。青果、花き、水産と合わせても8万平方メートルほどに納まる。これはちょっと大きなグランドくらいではないだろうか?
 3つの市場の中では青果が大きく、水産物、花きと続く。市場で頂いてきた資料を見ると、年々取扱量が減少しているのが残念でならない。これは流通(食品を中心に)が市場から離れていっている証拠。市場と離れるということは食べ物が文化的なものから、単に商材として無機質なものに変ぼうしているということだ。
 だいたい近年、個人営業の飲食店ですら市場に行かないなんて、ことがあるらしい。ただでさえ、チェーン店に駆逐されているのに、その大型飲食業界と同じことをしているというのも、本当に愚かしい。これから個人営業の飲食店や食料品店、魚屋が生き残るには市場が重要なポイントになるに違いない。

 さて、今回の柏市場見学は市場の管理を行っている柏市役所の安達さんに案内して頂いた。同行するのは仲良しのマジマジ君である。この方、地方の役人さんにしては勉強熱心だし、なによりも素直なところがいい。あまりにも熱心なのでぼうずコンニャクが弟子いりを許すことにあいなった。
 さて、真面目なマジマジ君との柏市場巡りの始まりなのだ。

柏市公設総合地方卸売市場
http://www.city.kashiwa.lg.jp/cityhall/sosiki/B_KEIZ/KEIZ_KOU/kashiwa_ichiba/Index.htm


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