市場図鑑・市場案内: 2008年1月アーカイブ

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 沼津魚市場の地物競り場が生まれ変わって、不思議でわけのわからん名前「イーノ」になった。もっとまともな名前はなかったのか、この国の言語が益々好きになっているボクには理解不能だ。
 だいたい、この「イーノ」というのはギリシャ神話からとったものだというが、沼津とギリシャのどこに接点があるのか、最近、この国の政治や、このような施設を作る人の感覚が幼児化してきているのが気になるな。

 さて、午前3時過ぎに沼津に着き、ちょっと前まで底引きの競り場だった部分を通り越して、「イーノ」に入る。入るときに浅い水槽を通り、手を洗う。午前3時半近くの競り場はまだひっそりとして、いちばん端っこの活けと、底引きに人の気配がする。

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 底引き網の選別の場所に来ると、志下トロの雰囲気がちょっと変である。というかとても近寄りがたい、おっかないのである。太共丸の奥さんが「大変なのよ」と、これが朝のご挨拶。大成丸の女性達は、「邪魔だから下りてくるな」と初っぱなからけんか腰だ。仕方なく遠くから見ていると、通りかかった人が「近寄らない方がいいよ」と声をかけてくる。
 戸田の底引きが到着してくる。こちらの方もどこか動きがぎこちない。そのわけは一目見ればわかるものである。狭いのだ。
 底引きの選別している人に言わせると実質的には「前の半分だね」とのこと。
 この「イーノ」を設計した会社がどのようなコンセプトで作ったのかは、だいたい理解できる。昨今の衛生面での配慮が前面に出ているし、これは将来のことを鑑みるに仕方のないこと。でもこの会社は、現場を見ないで建物をマニュアル通りに作ってしまったのだ。明らかに、ここでどんな作業が行われている、行われるのかを一度も見ているはずがない。はっきり言っていろんなところに無理がある。この建物を設計した会社は実際に使っている人たちからは不愉快な対象になってしまっている。

 さて、志下の選別はまったく見ることが出来ない。主に戸田の船を見て歩く。
 9月、10月はそれこそ1船あたり大きなバケツが7個も8個も、ときに10個もあり、それこそ選別の手伝いまで大集合して大変な騒ぎとなる。それが今日は水揚げが少なく静かである。静かであるけど労働量は建物のせいで倍になってしまっている。選別の主体になっている人たちの年齢は若くて50歳代だが、中心としているのは60歳、70歳台だろう。そこに立ちはだかるのが高い段差だ。そして狭すぎる選別場所。たぶん何も見ないで設計した人間は充分にスペースをとっていると思っているんだろうけど、それは作業の流れをまったく見ていないためだ。もしくはよほど不漁の日に一度くらいは来ているのか?
 仲買の一人が志下の場所に来て、「9月の解禁だったら死人が出てるだら」と言って去っていった。
 作業場が狭いのは大きなシャッターを閉めているためだと思い、戸田の解放されている方の後ろに回る。ところが決して通路側にせり出せないのがすぐにわかる。
 日ノ出丸、光徳丸、清正丸、招徳丸、福徳丸ときて戸田の場所でも作業の滞りが目立つようになってきている。招徳丸の、ご夫婦は老齢のためかこの高い段差を超えられない。間違いなく上がり下りが出来ない。

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 選別を見ているとき接岸している定置の船がエンジンをかけた。すると選別の場所に大量の排気ガスが流れ込んできた。ボクは疲れがたまっているせいなのか、この濃度の排気ガスの中では気分が悪くなる。
 菊貞・山丁菊地利雄さんが通りかかったので、「排気ガス入らないように出来ないのですかね?」と聞いてみる。
「あれ見てください。(イーノの競り場とは反対側の一番高いところに)換気扇が並んでるでしょ。だからこっちからの排気ガスが全部場内に入ってくるんですよ。排気ガスが入ってきたら息を止めてください」
「そんなことしたら死にますよ」

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 底引きから巻き網の選別場にくる。こちらは比較的うまく選別が行われている。これが選別台があるからだ。選別台の落とし口を競り場に持ってくれば段差が気にならない。
 やはり新しい建物というのは落ち着かないものだ。既に並んでいる八丈島などの魚貝類を見て回る。たくさんのサヨリやタチウオはいつもの如く。明るいので撮影は楽になった。その画像がきれいである。

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 さて、「イーノ」の第一印象は決していいものではない。あえて言うと設計があまりにも計算され尽くしていて、遊びがなく、ゆとりがない。このような低級な設計は“現場を調べない、見ない出作り上げる、今時の傾向”とも言えそうだ。これが築地の移転先の豊洲にも受け継がれると思うと薄ら寒い気すらする。

 沼津魚市場便りはまだまだ続く。


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 久しぶりの築地である。しかも新年早々、築地場内巡りと「築地で“つきじろうする”」のが目的という豪華版。
 さて、場内でのここまでのことは、はしょりまして、場内食堂棟の「かとう」の前に来たら、今回の“築地で外食の案内人”つきじろうさんが店内を睨んで仁王立ちしている。そして新年の挨拶もしないまま、店内に。そこで食べたものは別の機会に書くが、恐ろしい皿数が並んだことだけは明記したい。
 ちなみにボクの場合、いつもは場内に入る前には軽く麺類とか、場内売店でパンと牛乳とかで腹を少々落ち着かせるだけにしている。

 かなり食べ過ぎの感があって、歩く足取りが思い。ただでさえ体が重いのに大丈夫だろうか?
 場内に入る前に「ドライアイスを買い込みますので、ちょっと氷屋に寄ります」と言うと、つきじろうさん「私も寄りたいところがあります」と言うやいなやかけだして、食堂棟『センリ軒』でカツサンドを買い込んでくる。

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この店でトーストとコーヒーという朝ご飯も魅力的だ。

「歩くとき何か食べないとダメなんです」
 つきじろうさん、カツサンドを食べながら茶屋を抜け、ターレ(ターレットトラック)や人をヒョイヒョイと避けていく。凄い!
 この方意外に運動神経が優れている。しかも場内に入り、振り返るとカツサンドはすっかり消えてしまっている。魔法のようだ。

 残念ながら場内は荷が少なく面白いものはほとんどなかった。ここで気になったのが、白ばいである。山口県から大量に入荷してきている。対するに島根県は皆無なのだ。
 マダラ、本あんこう(キアンコウ)は素晴らしいものがある。値段の方も、新年なのであまり高くはない。マダラのオス、キロ当たり1800円というのがあり、3キロ程度である。やや小振りなのだが、これは買ってもいい。また場内に1本だけ、バラメヌケを見つける。でも2キロほどの大きさで、キロ当たり4400円には手が出ない。

『中里』という仲卸で「山口県産」と書かれた白ばいがある。しかし中に混ざっているのはやや北方系のエゾボラモドキ、しかもツバイが混ざっている。横から見ると産地は新潟である。この間10秒も立ち止まっていない。しかも店員さんにことわっているにも関わらず、店長らしき人に「どれくらい買うの」と、不快な口調で追い払われる。

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大きいのがエゾボラモドキ、ツバイがひとつ画面下に、後はエッチュウバイもしくはカガバイの若い貝

 この店は一般客には優しくない模様だ。ちなみにそのときツバイの混ざり具合によっては「ある程度、買ってもいい」と思っていたのだ。なんだか新年から不愉快な場内巡りとなってしまった。

 この日、場内は人が少なく、やや低調だった。だいたい荷が少なすぎる。仲卸半分を見回ったところで荷受けに入り、ちょっと雑談。その雑談、つきじろうさんには退屈だったかも知れない。

 場内を大物競り場方面からはいるが、やはり面白いものが見つけられない。唯一、生け簀にセミエビを生かしている店があるが、何度見ても探しているコブセミエビはいない。

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総て大型のセミエビ

 また真冬なのに野間池(なんと鹿児島県南さつま市笠沙)からのボラ子を見る。でもそんなにモノはよくない。

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 こんなものを見ると、ヒモマキバイさん達が秋に恵洋丸さんから買い求めたのが、いかに正解であったかがわかる。

 途中、『イリヤマ斎藤』を探すが迷う。そこで鮟鱇さん(この方、場内の店舗に関しては本当に詳しい。しかもボクのように方向音痴ではない)に『富士恭』の位置を教えてもらって、なんとか史郎さんの元に辿り着く。
 相変わらず、史郎さんはリーゼントでピシっと決めている。

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「これに変わりました」

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 史郎さんがハンドルを持っているのが“エレトラック”。市場名物でもあるターレ(ターレットトラック)であるが排気ガスが健康に及ぼす影響が問題になっている。そこで電動化が進んでいるのだ。

 さて、『イリヤマ斎藤』に行くと「小笠原の魚は来ていない」という、そこで『大音』に回る。

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 店先の魚が粒ぞろい、上物が揃っていて思わず買ってしまいたくなる。残念ながら、昼から仕事なのである。『大音』さんにはお年賀のタオルをいただいて、場内を出る。

 ボクの場内巡りは、土曜会などのときは一般受けする形をとっているが、一人っきりのときには非常にマニアックなものだろう。そんな場内歩きについてきた、つきじろうさん、少々退屈ではなかったか、不安。

 場内食堂棟『大和寿司』には行列が出来ている。でもいつもよりは少ないように思える。海幸橋に向かわないで、駐車場方面から長崎県漁連直売所に。

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壁は少々すすけているが、店頭の魚は素晴らしいし、入江さん他、みなさん元気そう。「明けましておめでとうございます」。言い忘れた新年の挨拶をここに!

 新年明けましておめでたいはずではあるが、店内にはいると年末の火災跡が壁を黒くして残っている。でもケースの中は魅力的なモノがいっぱい。新年明けで荷の揃わない場内よりも、今回は明らかに長崎県漁連の方が勝っている。
 天然カンパチ、ヒラマサ、平鰺(カイワリ)、ひげだら(ヨロイイタチウオ)、アヤメカサゴ、カサゴ、ウッカリカサゴ、ウスバハギ、カワハギ、ウマヅラハギ、マハタ、コモンハタ。
 そんなとき入江さんが「オオグチイシチビキ」であると取って置いてもらった魚がハチビキであることがわかる。さて今回の築地行は魚に関しては“つき”に見放されている。気を取り直して割安であるコモンハタを2500円で購入。
 ここに今回の築地市場巡りは終わる。
 さて、時刻は11時を回っている。そろそろ「築地で“つきじろうする”」第二段といきますかね、つきじろうさん。

ターレットトラックに関しては朝霞製作所
http://www.marusen.co.jp/know/knowledge.htm
『千代田水産』のページで
http://www.marusen.co.jp/know/knowledge.htm


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