7日になったばかりの高速道路、なんとBMWの四輪駆動にのって常磐道に入る。オフロードカーとはいえ、車内は無音、するすると土浦、水戸、福島に入り、いわき市、楢葉、原町と来て、高速をおりる。
運転するのは「ヘンリーブロス」の江嶋力さん。飲食店や市場の経営する会社の若い社長である。江嶋さんは飲食店、魚の流通にたずさわるなら「水揚げ地をしっかり見ておこう」という考えを持っている。ボクはそのお供としての福島なのだ。そして相馬市に入り懐かしい原釜港の灯りが見える。
午前3時過ぎ。港には刺し網の船が帰って来つつある。マガレイ、マコガレイ、アイナメが生きていけすに入れられる。その脇には「みずどんこ(クサウオ)」。5時になると底引きの選別が始まる。こちらでもカレイ類が膨大である。それにミズダコ、ヤナギダコ。確か原釜はタコの水揚げ日本一ではなかったか。
ケガニ、ホタテ、マダラにスケトウダラ。マサバにゴマサバ。
「今日はね。底引きは少ないんだ」
相変わらず魅力的な浜の女が残念そうに教えてくれる。それでも様々な魚貝類が競り場を埋め尽くす。驚いたのは刺し網のマサバである。1キロを超えるのがゴロンゴロンと並んでいる。
刺し網船は後から後から着岸してくる。「みずどんこ」をむくおっかさん。
「みずどんこはどうやって食べたらいいでしょうね」
「そうだっぺな。大根おろしで食べるんだ。刺身に切ってさ。おろしで和えて」
「生で食べるんだ」
「だす、だす」
岸壁の向こうに入ってきたのは「ほっき」の船。船の舳先のカゴをおっかさんが乗り込んで水揚げする。
そのほっき(ウバガイ)のかたわらではナマコを洗っている。そしてナガバイ、ネジヌキバイ、エゾボラモドキにチヂミエゾボラ。
「これは“ほかがい”だ。ほっき、とか長いつぶ(シライトマキバイ)の“他”って意味だな」
江嶋さん共々、朝3時過ぎからの市場巡りでぐったり疲れ果ててしまう。そして休息室に逃げ込むと、ここにも浜の女たちがいる。どうして原釜の女たちは美人揃いなんだろう。これは江嶋さんも驚いているようだ。銀座黒尊のまわりには化粧臭いお水なお姉さんがたも大量にいるが
「ここにくると全然銀座の女性に魅力を感じませんね」
独身の江嶋さんの女性観を浜の女たちが変えつつあるのかも。
そこでいろいろ地元の仲買さんにお魚を買ってもらって11時過ぎには原釜を後にする。クルマの後ろには丸々太ったマサバをはじめ大量の荷が積まれている。
外気温は零度前後、凍えながら8時間近く港にいたわけになる。
「疲れたね」
ふとため息をもらすと、江嶋さんは疲れを知らぬげに常磐道を南下するのだ。
銀座黒尊
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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