さかな季語事典: 2006年3月アーカイブ

 ヒジキは漢字で鹿尾菜。これはニホンジカの尾が小さくてちょこんと膨らんでいるのをヒジキの枝に擬したもの。これなど、まさに古代人の優れた発想である。
 春の磯はまことに楽しい。沖の磯部では鹿尾菜刈る人。そして3月3日には家族そろって磯にでる。ここで持ち寄った弁当を広げて、貝や海藻をつんで汁にしたてる。そんな風習はもうほとんど消えてしまっているだろうけど、春は磯に出て、海中にゆらめく海藻の群落を見てみたい。ホンヤドカリやアメフラシと遊びたい。引いていた潮が満ちてきて帰り支度をしていると沖から鹿尾菜刈りの人たち。

 ヒジキは褐藻類。褐藻類にはワカメやカジメ、ホンダワラなどがある。ヒジキはそのホンダワラ科である。北海道の噴火湾から太平洋側、日本海は京都府くらいまでが北限だろう。

 背負いカゴいっぱいのヒジキは、生では渋くてとても食べられない。茹でても同様で決してうまいもんではない。また毒性のある有機質のものではないがヒ素を含んでいるために決して身体にいいとも言えないだろう。
 鹿尾菜刈りを終えると、浜辺で丁寧に根(陸上の植物での根とは違っていて岩にくっついている部分という意味)の部分、砂やじゃりをとり、真水でよく洗い茹でる。茹でる時間は半日以上。千葉県富津市金谷ではドラム缶で一夜茹でるのだという。そしてやっと渋み、ヒ素などを抜き去って食用となる。この茹で上がったばかりのヒジキも意外にうまいんである。
 この茹でたヒジキは翌日、むしろに広げて干す。干し上がるとまさにスーパーなどで見るヒジキそのものである。
 ヒジキの料理は乾物のなかでももっとも簡単である。水に漬けてもどす(千葉ではこれをなぜか冷やかすという)。時間がないときにはぬるま湯につけてもいい。我が家ではこれを軽く茹でて料理に使う。またスーパーなどで「生ひじき」というのがあるが、あれは多分、「生」=「熱を通していない」という意味ではなく、「乾燥させていない」なのだろう。これはすぐに使えて便利だ。
 ヒジキには強い磯臭さも旨味もなく、どのような料理にも合う。油揚げと炒め煮、タコやイカと酢の物に、また炒飯に入れてもうまい。

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