さかな季語事典: 2008年4月アーカイブ

katuosa0804.jpg
●クリックすると拡大

 海老名の海老さんから、たっぷりと山椒(さんしょう)の葉をいただいた。
 自宅の庭に山椒の木があるなんてうらやましい。
 いただいた山椒の葉をむしり取り、まな板に置くと、小山のようになった。

katuosa070422.jpg
●クリックすると拡大

 これを八王子総合卸売センター『総市』のさぶちゃんから買い求めたカツオの中落ちとたく(ボクの言語は関西系なので、煮ると炊くは分けない)。

 その昔、市場の仲卸というのは、それこそ買い求めていく人が、箱単位だったり、最低でもカツオなら1本だった。それが最近では、「おろしてくれ」とか「半分ほしい」とか、どんどん専門家(魚屋、料理店)といっても少ない単位で買うようになってしまっている。
 そんなこんなで仲卸で板前をやっている、さぶちゃんの目の前には中落ちが山になってたまっていくことになる。
 その小山を「いくらだい」と聞くと、「100円でいいよ」。
 市場の楽しみはこんなところにある。

 中落ちは、まず湯通し、冷水にとり汚れを落とす。
 水からあげた中落ちの水分をよーく、よーく拭き取る。
 深めのテフロンフライパンにたっぷりの味醂(みりん)と水を入れて煮立たせる。ここに醤油(しょうゆ)を入れて味加減を整える。
 煮汁が何度か煮たってきたら、中落ちを入れる。煮汁がよく馴染んできたら、大量の山椒を加えて、アルミホイルの落としぶたをして、後は一気に煮上げていく。
 この料理の肝心なところは、「勢い」だと思った方がいい。煮汁は常に中落ちを覆うように火加減を強くする。
 最後に煮汁の粘度が上がったら落としぶたをとり、煮汁をからめるようにして出来上がる。
 煮汁の残り具合も微妙なもので、完全になくなるとダメ。我が家では、鍋のまましばらく置き、またなんどもなんども煮汁をからめて鉢に盛る。

 料理店ではないので、天盛りは気恥ずかしい気がするが、青い山椒をこんもりと。
 カツオの山椒だきは「季節を食べる」如く感じるものだ。

 海老名の海老さん、香り高い山椒をありがとう。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カツオへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/saba/katuo.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

fukitaki0804111.jpg
●クリックすると拡大

 冬眠から覚めた海老名の海老さんから新鮮なフキを頂いた。
 まだ「出始めであまり大きくないし、少ないんだけど」と軽く一束もらったのが、なんとも春を盛りと感じさせてくれて喜ばしいものだな。
 フキの入ったビニール袋を手に通り抜ける雑木林は、芽吹いた葉がかなり大きくなって、まさに「山笑う」の候となっている。

 フキの茎は北海道産アサリと一緒に混ぜご飯の素をつくる。
 アサリは蒸し上げて、殻から外す。

fukitaki080422.jpg
●クリックすると拡大

 フキは塩刷りしてゆでて、皮を剥く。
 フキの葉はゆでて刻んで、水にさらす。
 フキの葉の濃い緑が、我が家でいちばん大きなボウルに広がってきれいだ。
 姫が「なんだこれは」と脇からつまんで、おもむろに口に入れて「父ちゃん苦い」と顔をしかめている。
 フキに加えるのは冷蔵庫にあったニンジンとシイタケだけ。
 フキもニンジンもシイタケも刻む。

fuki080433.jpg
●クリックすると拡大

 アサリを蒸したときの汁は使わない。後々のみそ汁などに使うとして保存。

 テフロンフライパンにほんの少しの太白胡麻油を入れて、野菜を炒め、酒、味醂、少量の水を入れる。
 野菜が酒、味醂、胡麻油でしっとりしてきたら、アサリを投入。
 具材に甘味がつき、馴染んできたら島根県益田市桐田醤油店の甘い濃い口醤油を加える。
 混ぜご飯の味付けは出来る限り単純にするのがコツ。
 こんなものにかつお節だし、アサリの煮汁を使う人がいるが、明らかにやりすぎだ。
 うまければうまいほど、食べて重く感じるのだ。
 フキの香りが生きてこない。
 混ぜご飯の素は手早く、単純に作るべし。

 混ぜご飯の素を作っている間に、フキの葉のゆでて刻んだものが入っているボウルの水をなんども替えアクを抜く。
 なんども替えて、まだ苦いなと感じるほどの状態で水を硬く堅く絞っておく。
 これを太白胡麻油を薄く敷いた行平に入れて、手早く煎りつける。
 胡麻油が馴染んできたら、まずは島根県松江市米田酒造七寶本味醂で甘味をつけ、そこに東京都あきる野市五日市のキッコーゴ丸大豆醤油をからめて手早く水分を飛ばす。
 これで「蕗葉の佃煮」が出来上がる。

 やや少な目に水加減したご飯が炊きあがったら、手早く具を混ぜ合わせる。
 ある程度混ざったら、軽く湯がいた芹を加えて出来上がりだ。
 混ぜ合わせたら、大急ぎで食べよう。

 ほんの少しのフキの香りが、ご飯の中で浮き上がってくるのがいいね。
 フキの風味、渋みはほんまに春そのものじゃあーりませんかね。
 アサリの旨味も存分に感じるし、身に甘味があるのがいい。
 さて、混ぜ合わせて、つぎ分けたら、4合炊いたご飯なんて、ほんの10分ほどで消えてなくなる。
 春を感じる混ぜご飯も、もっとゆっくり食べられるといいんだけどな。
 
 軽くお腹を満たした後の、これも島根県松江市米田酒造の『辛口純米 金吾郎』がよろしいな。

fuki080444.jpg
●クリックすると拡大

 アテは当然、「蕗葉の佃煮」となる。蕗の葉をたくと、ひょっとしたら茎の何十倍もうまいのではないか、と思ったりする。

 海老名の海老さん、おいしいフキをありがとう!

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アサリへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/marusudaregai/asari.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

bakagai0804.jpg
●クリックすると拡大

 春になると来る日も来る日も貝ばかり食べていたくなる。なかでもその適度な渋みと独特の風味で春らしい気分に浸れるのがバカガイである。
 バカガイとはこれまた直截的な名前だが、この語源は「その昔、東京湾でバカみたいにとれたから」らしい。よく本などに足(舌とも)がだらしなく貝殻から出ているからだという説が出ているが、さすがにこれは間違いだろう。
 この前海である江戸湾(現東京湾)でバカみたいにとれたものだから、庶民はさかんにバカガイを食べた。さすがにすぐ先浜でとれるものだけでは足りなくなって上総からも持ってくるようになり、その中継点が現在の千葉県市原市青柳だったため江戸市中では「青柳(あおやぎ)」と呼ばれるようになった。やはりバカガイよりも「青柳」の方がうまそうで、しかも今まさに柳の新芽が芽吹き始めている。

 今回のものは北海道産の活けバカガイ。貝で「活け」というのは殻付きのまま入荷したもの。
 その昔、大きくなること、貝殻の表面の文様がはっきり出ることから「エゾバカガイ」と別種扱いされていたこともある。
 5つ、6つ、買い求めてきて、剥き。貝柱をとり、足の部分を半割にして、ほんの1、2秒湯通し。

 これがボクの晩酌のアテになる。
 窓を全開にして、ときおり吹き込む風を感じながら冷えた日本酒を飲むというのは幸せなもので、そこに一皿の青柳があるのはより幸福感を高める。
 バカガイを刺身にするのは、いたって短時間で簡単にできる。しかも貝の中でも、もっとも安いのがバカガイだとくると、一般家庭でもっとありきたりによく食べられてもいいと思う。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、バカガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/bakagai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

katuo0803.jpg
●クリックすると拡大

 静岡県駿河湾の真ん中で年老いた漁師と、カツオ談義に花が咲いた。
 ボクが「やっぱり脂ののったくだりが好きですね」と言うと、
「そんなことねーな。オラは春から初夏かな。秋になっと刺身じゃくわねーよ。このへんじゃくだり(秋のカツオ)は角煮にするだら」
 どうして秋のカツオを刺身にしないのかというと、静岡県では腹側を皮付きで刺身にする。秋になると皮が硬くなって、皮引きしないと食べられないからだという。
「カツオは皮がうまいだら、もったいねーだよ」

 確かに春のカツオは皮がうまい。皮下の薄い脂を帯びた層は身自体よりもうまいと思うことが多いので、「くだり」よりも「のぼり」ガツオの方が刺身にするによしと、老漁師が力説するのもうなずける。

 さて、本日の皮付きのカツオは千葉県産だというが産地ははっきりしない。八王子総市(仲卸)のさぶちゃん(今年で70歳)が2,5キロの小振りのを4つ割にしていて、その腹皮を500円で買ってきた。
 当然皮付きのまま、柳包丁も出さずに、文化包丁で無造作・適当に切りつけた。薬味はショウガ、別の皿にエシャロット(ラッキョの若いもの)を添えて、若いカツオを食らう。

 やはり脂はほとんどない。むしろその分、カツオの酸味がかった旨味が浮き上がる。皮はほどよく柔らかく、噛みしめると微かに脂が甘味のとって感じ取れる。これこそ爽やかな春を感じる味覚である。脇に添えたまだまだ値の張るエシャロットもぴりっと辛くていいものだ。

 外は満開の桜が、花びらをそこら中に撒き散らしていて、睡眠不足のためかやたらに酒の回りが早い。
 今年は、毎週カツオを食い、皮の硬くなって、脂がのってくるのを確かめよう。きっといつの間にか春は去り、夏となって秋が来てしまうに違いなく、一年ももはや去りにけりなんてなりかねない。まことに五十路オヤジの思いは重い。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カツオへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/saba/katuo.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2008年4月以降に書かれたブログ記事のうちさかな季語事典カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブはさかな季語事典: 2008年3月です。

次のアーカイブはさかな季語事典: 2008年5月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。