さかな季語事典: 2007年4月アーカイブ

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 駿河湾沼津には底引き網とともに「しらす」という名物がある。このカタクチイワシの稚魚は春と秋の2回漁がなされる。これを西日本では茹でてしっかり干して「ちりめんじゃこ」となり、遠州灘から駿河湾、相模湾、はたまた九十九里や鹿島灘ではあまり干さないで「しらす干し」となるのだ。その「しらす干し」はどこでも買えるものだし、珍しくもないが、駿河湾、相模湾で愛されている「生しらす」、すなわち刺身のことはそれほど世間様に知られているとは思えない。この「しらす」を昔から生で食べていたのは、この国広しといえども相模湾、駿河湾、高知県だけではないだろうか。この「生しらす」を食べると食「の自分地図(これはボクの造語です。うまいまずい、どんなときに食べるなどを地図のように表す」がガラリと変わること受け合いである。


 沼津魚市場には日が昇りきったやや遅い時間に「しらす船」が帰ってくる。
 沼津をはじめ静岡県では春になくてはならないのが「生しらす」。これは誇張ではない、実見したのだが静岡の魚屋にいると「今日は生シラスあります」というふだや貼り紙が必ずある。ここには、どうせみんな「生しらす」を買うんだから、聞かれるのが面倒だ、だから張り出しておくぞ、というのが見て取れる。
 沼津魚市場の岸壁前に大きな水門がある。この水門に「しらす船」が見えると、わっと岸壁に仲買さんが走る。そこに魚市場の職員が待ちかまえ、船から「しらす」を受け取るとたちまち岸壁は競り場となるのだ。

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 さて船から下ろされた袋詰めされた「しらす」を仲買さんが手に受ける。これは大きさを見ているのだ。何と言っても、求めているのは「生しらす」にできるもの。手の上の「しらす」をなんどもなんども見る。このときカタクチイワシにアユが混ざっていないか? マイワシが混ざっていないか? そして大きさ、鮮度。すばやくしかも的確に値踏みをする。そして競りが開始される。

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「おおおいくぞ!」とでも言っているんだろうか、値踏みが一段落するや競り開始だ。そして、終わるとまたぱっと仲買が散る。これが船が着くたびに繰り返される。
 最近、沼津魚市場周辺は人気の観光地となっている。もしも早めに来られるならもっと多くの方達に、この「春らしい光景」を見て欲しいものだ。

 また水門をくぐる「しらす船」を見る。岸壁に仲買が走る。それを見るすべもなく見ていると、その仲買の群がやや魚市場の建物寄りに膨らむ。そこには軽トラックが走り込み。荷台に「しらす」があるのだ。その「しらす」は水切りしただけで袋詰めをしていない。そこに沼津市大岡の「魚惣」さんが走り寄り、一緒に袋詰めを始めている。

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「これはいいのかな」
「いや、生には小さすぎるな。最初に来たのは5000円(キロ当たり)くらいしたけど、これはどうかな」
 カゴの中にこぼれ落ちているのをすくって食べてみる。微かな苦みはあるものの、それ以上に旨味が強く、脂があるとは思えないのにまったりと甘い。ふたりが一生懸命に袋詰めしている脇でとれたばかりの「しらす」に舌鼓を打つ。これはいけないことかも知れないがやめられない。

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「生しらす」にならないものは、そく「しらす干し」にするために加工場行きとなり茹でられる。この茹でたばかりの「釜揚げしらす」などは見ているだけで「どんぶり飯くれ!」と叫びたくなる。ボクなら「釜揚げしらす」だけで軽く白飯3ばいはかき込める。だから太ってしまうんだなー。

 さて富士山は霞んで見えない。海は鏡のように凪いでいる。睡眠不足で頭痛が通奏低音のようにあり、市場はまだ喧噪に包まれているというのに、この暖かい岸壁でぼんやりと眠気をもようしてしまう。駿河地もまさに春たけなわなのである。

魚惣  静岡県沼津市大岡2481-4

市場魚貝類図鑑のカタクチイワシへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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小振りのハタハタ

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ホッカイエビ、ミツクリエビ、スナエビ

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アムールエビジャコ

 3月の終わりに北海道厚岸から小振りのハタハタが到来した。次に来るのは毎年決まっているのだ。そして当然の如く、やっぱり「やってきた」。
 それが厚岸で「砂えび」と呼ばれているアムールエビジャコと、「赤えび」と呼ばれているスナエビ、「青えび」のミツクリエビに「北海しまえび」のホッカイエビである。
 このハタハタもエビたちも道東の汽水が混じり込むような浅場にいるらしい。これが北海度に春近しという合図なのだ。
 このエビたちのことは甘えび学などで後日紹介する。

ミツクリエビ
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スナエビ
http://www.zukan-bouz.com/ebi/tarabaebi/sunaebi.html
ホッカイエビ
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アムールエビジャコ
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 春も長けてきて、花吹雪が地面を埋め尽くすときとなった。この花びらを踏みしめてあるく夜道がなんだかもの悲しいな。
「トリガイもそろそろいちばんいい時期になって、ある日突然いなくなる」
 とは寿司職人のお言葉。そうなのだ活けトリガイは突然市場から消えて、入荷もぽつんぽつんという状態になる。ちなみに活けトリガイとは貝殻のまま活かして入荷したもの。ただ単にトリガイというと開いて湯引きしてタテに並べたものを言うことが多い。生きたものと出来上がったもの。寿司屋で食べても味の違いは歴然としている。とにかく春にはトリガイを毎日でも食いたいものである。
 うまいトリガイが食べたくなると、なんといっても八王子魚市場源七に限る。源七は船橋の貝問屋が経営している。当然貝に関してはプロ中のプロなのである。

 そのトリガイを仕込んで数十年の源七の若だんな。まずはトリガイの貝殻をひねって中身を掴み出す。それを黒い色素が落ちないように滑りのいいプラスティックの板の上で、これまた滑りのいいゴム手袋で軟体を固定して開いていく。きれいに開いたものを湯通しするのだが、そのところは企業秘密。
「何秒だろうね。ボク、わかんない」
 なんてバカ顔をしてとぼけるのだ。
 この熱湯に通す何秒かがトリガイの味わいを大きく左右する。

 そして源七のトリガイの見た目と味の見事さは、食べないとわからない。

市場魚貝類図鑑のトリガイには
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八王子の市場に関しては
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 八王子は郊外にある。だから週末は築地などが寂しいのに反して、一般客が入ってきて市場は賑わいを見せるのだ。そんな八王子綜合卸売センター、『高野水産』には荷が溢れている。トラック2台分。到着の8時半とともに荷が下ろされる。本日の目玉は1匹100グラムほどの形のいいサヨリである。
「そら出たぞ、サヨリちゃん、吉永サヨリちゃんてか」
 突然、日野市の飲み屋のオヤジがサヨリの発泡に下手な洒落をいいながら突入するのだ。
 買い物に来ていて中国の方が不思議な顔をしている。若い主婦もそうだ。ボクだって吉永小百合の全盛期(1960年代)はしらないぞ。
 でもとにかくサヨリちゃんを買わなければ、春じゃないような気がする。
 これがキロ当たり1800円という破格の値段。あわてた割には手にしたのはたったの2本。知り合いの寿司屋に「1本どれくらいある」と言われて計りまで往復したのが敗因となった。1匹だいたい100グラム強。大きいと180グラムもある。

 サヨリの産卵期は春なのである。もう既に腹には真子が詰まっている。多くの魚が真子が大きくなると味が落ちるのに対して、サヨリは産卵の直前まで脂がある。だから産卵期にむかって買い手が殺到するのだ。
 サヨリを買い込んだら八百屋に立ち寄り、スダチを買い込む。まだまだ高いけどサヨリちゃんのためである。なんといってもボクは徳島県人なのだから、スダチがなくてはサヨリが食べられない。

 夕食には旬のホタルイカとサヨリをアテとする。そのサヨリの旨さをなんに例えようか。吉永小百合ではない。これは間違いない。映画『卒業』のキャサリン・ロスだろうな。これも誰もわかってくれねーだろうな。ボクの永遠のマドンナだ。
 なにしろサヨリの旨さは鮮烈である。その一片が舌に触れた途端、サヨリならではの旨味がしみてくる。しかも春だから脂の甘さもある、そして旨味もある。これなら酒の旨口辛口吟醸本醸造などどうでもいい感じである。ただただ舌に春だなという余韻を残してサヨリは一片一片消えていく。加山雄三ではないが「幸せだな」と言った気分になる。

 さてサヨリの旬もそろそろ終了となりそうだ。春を惜しむようにせっせとサヨリちゃんを買い込んで、「幸せだな」という春の宵を楽しまねば。


市場魚貝類図鑑のサヨリへ
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