さかな季語事典: 2006年2月アーカイブ

桜鯛

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 まことに鯛は美しい。このように締められて市場に並んでも、どうしてこのように美しいのか? 長い間、相模湾、東京湾、外房などでマダイ釣りに熱中したのだが、その発熱の根源はこの美しさにある。
 しゃくり竿をしばし沈めて、軽く上げる、そのとき微かな違和感を感じて、合わせにリールを4回、5回巻き上げる。ここでしっかとマダイにハリかがりさせて2度、3度、しゃくり竿が押さえ込まれる。マダイののしに耐えて、水深40メートルからリールを巻き上げる。そして水面にコバルトブルーの胸ビレ、そこから紫水晶が水中にはじけて、赤い魚体が舞い上がってくる。春、3月になり、2キロもののマダイは胸ビレのあたりを黒く汚している。明らかにのっこみのオスである。
 この2月下旬から3月のマダイを桜鯛と言うのはおかしい。やはり桃鯛、梅鯛と呼ぶべきか? ただどうにも決まらない音ではないか? サクラダイという標準和名を持つサクラダイには申し訳ないが、やはりここは「桜鯛」としておこう。
 マダイがいちばんうまいのは2月までだと思う。3月には「うま〜い」ピークは過ぎている。それでもやはり春めいた夕風に桜鯛の霜皮造りで、酒は吟醸香が穏やかな三千盛の純米酒。これは人知れず極楽気分ではないか。

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2月23日、八王子魚市場特種にあった天然マダイ

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 立春を過ぎても季節は春とはならない。むしろ東京湾猿島回りには寒風が吹く。そんな春未だ遠しの海に出てワカメをつみとってもらった。面白いのはワカメをつむだけで春めいて感じられるのだ。
「ワカメを干すときは寒い海風が欲しい」と三浦のワカメ養殖をする人に聞いたことがある。すなわちワカメとりの最盛期は寒さも頂点となった2月なのだ(今年の寒さは別)。それなのにワカメに春を感じるのは若竹煮のためだろう。でも生ワカメのうまい2月に竹の子なんてあるわけない。それでも市場には竹の子があるのだけど、これは九州からの促成もの(この言葉は江戸時代からあるはず。間違っているかな)、もしくは中国産である。
 生ワカメが硬く長けたときにやっと出てくるのが地ものの竹の子。しかも走りである。3月、4月となって名残の生ワカメは硬くなり苦みを持つ。これを一度ゆでこぼして(苦みがあるので)竹の子と煮るのもいいだろう。ただ、ワカメは干したものの方が味はよい。徳島は鳴門の糸わかめを使った若竹煮が本来の我が家風である。それでも到来した生ワカメに工夫を凝らしてみた。
 東京湾横須賀のワカメは軟らかいのが特徴。徳島育ちには思いも寄らなかったのはこの軟らかなワカメの味が素晴らしいことだ。そして煮るのではなく、熱い煮汁にワカメを入れてすぐに火をとめる。煮浸しが生には向いている。竹の子は我が家の家計に響かない中国産。しっかりアクを抜いたもの。
 竹の子の苦み、ワカメのまったりした旨味、海の風味。天盛りにする木の芽がないので脇役で中国野菜のコウサイタイを使ってみた。出来上がって、これでは料理屋の料理ではないかと反省したが、うまいので良しとする。

寒風を 一瞬とめる 若布刈り(秋野まさし)

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 まだ寒の内、旧暦の大晦の日に見つけたのが北海道は礼文島のニシン。腹に触ってみると丸く乳房のように膨らんでいる。これは買いだな、と2匹だけ持ち帰って晩酌の友とした。目当ては「数の子」すなわち卵巣である。ワックスエステルなどの油分に微かな苦みがあるのだろう、これが味わいを深くしている。そしてほろっとした甘さ。脂があるので身も表面が揚げ物のように香ばしい。
 春は未だ遠いが、この味わいに北国の海の移り変わりが見て取れる。春の季語だな子持ちのニシン。

ニシン焼き 腹に孤島の苦み 子を放て(秋野まさし)

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