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中国で有名な上海ガニは標準和名をシナモクズガニ。これをまるで遠い存在のように輸入し、高額な値段を支払って中華料理店で食べている。まあなんとも愚かなことよ! と四国の山育ちの身には思えてならなない。秋になると「そろそろ上海ガニを食わないとダメだね」なんてあせっている仕事仲間が哀れに思える。実際に中華料理店で紹興酒で蒸し上がった上海ガニが値段ほどの価値があるのだろうか?
ないと思うんだな。なぜならこの国の河川にも、しかもたぶん中国よりもきれいな河川にもシナモクズガニとほとんど変わらないカニが生きている。そして秋になると肝心金目の内子を持って川を下り始めるのだから。これを川漁師さんたちが「ど」という道具で生け捕りにする。
我が故郷徳島県では吉野川、静岡県では狩野川など、日本各地でモクズガニが取り始めたという声が聞こえ始めるのも秋深しを思わせる。なかでも高知県はうまいモクズガニがとれるので有名である。
「つがにがとれ出しましたよ」
10月になったばかりのときに浦戸湾の漁師・永野廣さんから電話があった。これは「モクズガニがとれ始めた」のではなく「内子が入ったメスがとれるようになりました」という連絡である。
「つがに」「づがに」「川蟹(かわがに)」「髭蟹(ひげがに)」「もくぞうがに」「もくがに」なんて各地での呼び名は数知れず。それほど人々に愛されているということだ。そのモクズガニが年々減少してきている。それは国土交通省や地方自治体の行っている無駄な河川改修による。面白いのはあれほど自然の川の姿で全国的な観光地となった四万十川ですらどうどうと景観破壊(河川改修)が続けられているのだからこの国のあり方がいかに愚かしいかわかる。
それでもさすがに高知県は素晴らしい河川に恵まれている。
「今(うまいの)は物部川ですかね。それから仁淀川、鏡川となりますね」
そのなかでももっとも「味がいいでしょう」という物部川の「つがに」が永野廣さんから送られてきた。
「つがに」が送られてきたら、まず流水で洗う。生きて元気に歩き回るのでくれぐれも逃がさないように。これを蒸すならハサミの真下、脇の下に金ぐしを刺して締める。茹でるなら水からカニと塩を入れて火をつける。このとき盛んにカニが逃げようとするので蓋が必要である。
後は茹でるだけだ。このとき完全に火を通すこと。我が家では15分ほども茹でたはずだ。なぜならモクズガニは扁形動物のウェステルマン肺吸虫の宿主であるからだ。これは肺に入ると結核のような、また脳にはいると脳腫瘍のような症状を引き起こす。このウェステルマン肺吸虫の危険は上海ガニ(シナモクズガニ)にも存在するということを忘れてはならない。
さて我が家では子供の頃のやり方である、水から入れて塩ゆでにする。熱湯に放り込むと足がとれてしまう。
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茹で上がったら熱い内に身を半割にしてミソ、内子ごとかぶりつく。このミソ・内子だけではなく身の方も非常に美味であることはすぐにわかるはずだ。山間部である我が故郷では大振りのオスをよく食べたものだ。この身の旨さは、カニの風味を楽しむもので、そこに甘味がふわりと浮き上がってくる。このカニの風味こそ、タラバガニにもケガニにもズワイガニにもないモクズガニ独特のものだ。
浦戸湾の女川漁師・永野昌枝さんと、廣さん夫婦に改めて感謝!
土佐の廣丸へ
http://www.zukan-bouz.com/zkan/hiromaru/index.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑に取り上げたうまいもんは「市場魚貝類図鑑・商店街」へ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、モクズガニへ
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