岡山から持ち帰った情報と画像が多すぎて四苦八苦している間に、市場には新子(コノシロの稚魚)が登場していた。新子を見ると、一年のなんと短いことかと感嘆する。
今年始めて見た1匹3グラムほどの新子だが、もう少し大きくなった方がうまいとはいうものの仲卸では2万円もする。前を通り過ぎる寿司屋が値段を聞いて「まだ手が出ないな」と首を横に振るのも恒例の仕儀である。
キロ当たり/2万円と聞いて驚くのはまだ早い。新子というのは不漁の年には6万円、8万円ということもあり得る。キロ当たり8万円だとして10グラム、すなわち新子3匹で800円ということだってあり得るわけで、これでは1かんにして寂しいと、粋がって20グラム6匹で1かんだとすると1600円が原価ということになる。原価は原価として、信じられないような手間をかけないと新子の握りは完成しない。さて名店といわれる寿司屋でしか出せないに違いない新子は1かん幾らになるのだろう。
この出始めの頃に市場を騒がせるのは九州西岸のもの。これを海水につけて出荷してくる。新子の鮮度の落ちるのは凄まじく早く、仲卸でも目が赤くなり始め、腹が割れてくると、いかな高い値で仕入れたとは言え、後は捨てるしかなくなる。新子だけは値下げして売り払うことはできないのである。だからとる方も売る方も一喜一憂し、寿司屋では採算度返しで季節感をお客に提供する。
「新」にこだわる江戸前ずしならではの光景である。
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