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早春、市場に溢れているもの、それはハウスものの山菜いろいろ。天然、露地物と比べて香りが薄いなんて言われるが、三多摩地区の寒い冬がやっと終わりそうなのに終わらない。梅の花が「春らしいけど、まだまだ春じゃない」という冷たさのなかにある。万年疲労で、日々息切れ気味の五十路オヤジは、春を待ちきれないで、やっと値下がりし始めた山菜を2種類買い求めた。ギョウジャニンニクと「うるい(オオバギボウシ)」の2パックで7百円ほどの出費。
オオバギボウシは多摩地区にも見られる山菜で、これだけは天然、栽培ものとそんなに大きな違いはない。どちらかというと、なぜにこれが野菜として日常に取り込まれなかったのか不思議なほどクセがない。対するにギョウジャニンニクは個性豊というか、名前の通り「ニンニク臭」に近い香りがあるが、あきらかにまったく独自のもの。オマケに葉物としての旨味が強い。この2種の取り合わせはまったくの偶然で、深い意味もなく、あえて選んだ根拠は八百屋のお姉さんが安くしてくれたため。だいたいいつも、ぼうずコンニャクの料理作りはこんなことに始まる。
合わせるのは青柳だ。青柳(バカガイ)は現在の千葉県の市原市の地名。その昔、このあたりが千葉県の青柳の集散地だった。この地名によった名前は江戸の町で使われたもので、産地である千葉県内房では「ばかげ」、「ばか」なんて身も蓋もない呼び方をする。この「ばか」は足(舌)の部分がだらしなく出ているからではなく、むしろ「ばか」みたいにとれる貝であるからというのが真実だろう。その昔には、貝殻を石灰の材料に出来るほどにたくさんとれた。
青柳のうまさの神髄は甘味をともなった苦みにある。この個性があって初めて、青柳の価値がある。だから当然、春らしい苦みを楽しむ和え物にはもってこいだ。苦みには、苦み、もしくは山菜などの風味が絶対に欠かせない。例えば青柳と白ネギではダメだけど、分葱ならいい。そしてもっといいのが山菜なのだ。
ギョウジャニンニクの臭み、強い旨味、青臭さ、そこにシャキシャキした「うるい」があって、それら山菜自体がほろ苦い。そしてこの間にあって生きてくるのが青柳に豊かな個性。
和え衣は西京味噌と、酢と、砂糖の単純なもの。味醂や出しは排除してしまった。これをとにかく特撹拌し少し寝かせて、具材とざくっと一気に和える。
料理屋などでは、こんな単純な料理を作るのにも懲りすぎの感がある。あれはダメだ。むしろ単純に和え衣を作ろう。すると辛子でぴりっと鼻にくるとき、トンと口中上の方に青柳の甘味を伴った風味が素直に抜けてくる。これがなかなか余韻としては長く、しかも心地よいものだ。酒の肴であるから、飽食するものではないが、ほどよく作ってはもの足りぬものなのだ。
どうしてなんでしょうね。こんな一品が、冬のささくれだった、疲れ果ててしまった心も体も癒してくれる。だいたい五十路オヤジを癒してくれるのは、今ではこんな些細なものでしかない。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、バカガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/bakagai.html
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