漁師料理・郷土料理: 2008年7月アーカイブ

tukimori080712.jpg
●クリックすると拡大

 島根県出雲地方、石見地方ので「へか」、もしくは「へか鍋」、「へか焼き」。
 同じく益田市周辺で「いり焼き」。
 同じく浜田市で「煮ぐい」というのがある。
 これは要するに地元であがる様々な魚貝類を醤油味で煮ながら食べる、鍋物のこと。
 このような料理は島根に限ったものではなく関西地方ではハモ、長崎県では鶏、また魚貝類を使ったものは無数に存在する。
 でも共通するのは、ともにあまり作られなくなってきているということだ。

 なぜ廃れてきているのか、というとまずいからではなく、材料を揃えるのが大変であったり、核家族化が進んでいたり、また最近の家庭での生活状況が変化していることもあるだろう。

 それでは「へかやき」とはどんなものなのだろう。
 大田市和江の月森元市さんに実際に作って頂いた
 月森さんは大田市(おおだし)和江(わえ)で長年漁協組合長を努め、和江の小型底引きの基礎を築き、また現在問題となっている韓国との争議でも先頭に立ち獅子奮迅の働きをしてきた。

 さて、月森さんのお宅にうかがったのは、まだ4月のこと。
 大田市和江の港は小型底引きの水揚げで賑わっていた。
 その豊富で、生きのいい魚に圧倒され、また和江の女性の働き者で、また魅力的であるのにも惹かれてしまった。
 そのとれたての魚を持ち帰って、「へかやき」をつくる。
 材料はカナガシラ、チダイ、ソウハチガレイなどの小振りの魚。
 ようするにその日とれたものならなんでもいいのだ。
 これが島根半島などではマサバが主役で、あまり他の魚は使わない。
 そこにワカメ、大根、ネギ、豆腐にコンニャクなどを添える。

 まずは鍋に水と生醤油をいれる。
 そこにカナガシラ、チダイ、ソウハチガレイを入れて、少し煮込む。
 少し待ち、大根、コンニャク、豆腐、野菜を加えて、あとは好みの煮え加減で食べるだけだ。

heka080701.jpg
●クリックすると拡大
汁は水と醤油だけ

heka080713.jpg
●クリックすると拡大
そこに魚を入れる

heka080714.jpg
●クリックすると拡大
あとは野菜やコンニャク、豆腐などを無造作に放り込む

heka070715.jpg
●クリックすると拡大
漁師料理だから、あまりきれいじゃない。でも味は最高。旅館などで出すときには、もっと彩りを工夫すればいい

 意外に思えた材料がソウハチガレイ。
 カレイを鍋にいれるという発想がなかった。
「月森さん、えてがれい(ソウハチガレイ)を鍋に入れるのは珍しいですね」
「そうかえ、ここらでは普通だね。カレイはまいよ(うまいよ)」
 確かに、「まずはソウハチガレイから」と、食べて感激至極。
 卵(こ)が甘い。
 身が練り絹のように適度に口の中でほぐれて、これも甘味がある。
 煮汁の味付けが醤油だけというのが信じられない。
 チダイ、カナガシラとどんどん口に頬張り、小骨を出しだし、またソウハチガレイをむさぼり食う。
 合いの手に食べる野菜がうまい。
 豆腐が絶品である。
 これは明らかに魚から大量の出しが出ているに違いない。
 コンニャクが唐突に思えたのだが、これがまたうまいのだ。
 水と醤油だけで、酒も入れないのに魚の生臭みをまったく感じない。

 これは小型底引きの魚がとても新鮮だからだ。
 小型底引きの魚は、水揚げ時にまだ生きている。
 ピョンピョンはねている。
 その生きの良さに酒などはいらないに違いない。
 また小型底引きの魚を使う限り、あまり甘味を加えない方がいいようだ。
 これは大田の街、石見銀山周辺、大田市の温泉地で食べる場合にも砂糖などは不要かも知れない。
 あまりにうまいので、大田に観光にこられる方達にもぜひ、この小型底引きであがった魚で「はかやき」を楽しんで頂きたいものだと思った。

 鍋だけでお腹がいっぱいになる。
 しかし、これほど「へかやき」というのが美味であるとは想像だにできなかった。

nisin080712.jpg
●クリックすると拡大
とれたばかりのニシンの刺身。とても脂がのって美味であった。

kamaboko080712.jpg
●クリックすると拡大
これが和江名物、漁協蒲鉾。ほんまにうまいのである。

naraduke080712.jpg
●クリックすると拡大
月森さんの奥様手製の奈良漬け。島根県では奈良漬け作りが盛ん。家庭家庭の味がある。

 さて、当日は珍しくニシンの水揚げがあり、これも刺身で堪能した。
 このニシンの刺身がうまいこと。
 和江漁協の「漁協蒲鉾」のうまさも再認識した。
 最後に月森さんの奥様手作りのおいしい奈良漬けでしめくくった。
 まことに月森さんには「ごちそうさまでした」。
 感謝の致しようがありません。

島根県大田市観光ガイド
http://www.iwamigin.jp/ohda/kankou/index.html
へかやき
http://www.iwamigin.jp/ohda/kankou/ryori/hekayaki.html
和江漁業協同組合
http://www2.ocn.ne.jp/~waefu/
JFしまね
http://www.jf-shimane.or.jp/
島根県庁
http://www.pref.shimane.lg.jp/
島根県水産課
http://www.pref.shimane.lg.jp/industry/suisan/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

mizunamasu0807035.jpg
●クリックすると拡大

「水なます」を初めて食べたのは、もうかれこれ25年も前のことになる。
 当時、釣りキチそのもので毎週土曜日には外房へ、相模湾へ、遠く茨城県、福島県、静岡県にまで深夜クルマを走らせていた。
 さて、時期は梅雨の最中。
 外房はイサキ釣りの最盛期を迎えていた。
 でもたどり着いた千葉県館山市布良の海は大荒れだったのだ。
 午前4時過ぎ。
 宿の前、釣り人の「今日はダメだろ」が挨拶代わりだった。
 やはりその日は船が出なかった。
 こんなとき釣り師は悩むのだ。
 不眠のためにクルマで眠っている間にも海は凪いできている。
 明日は出るに違いない。このままここに泊まってしまおう。
 時間をもてあましたので舘山の町をぶらり歩き、また布良にもどって民宿を探す。
 なかなか泊めてくれる宿がない。
 一軒だけ、船宿が一間だけあいていて、ついでに日曜日はそこから出船することになった。
 その夜に出てきたのが「水なます」だった。
 夕食なのに目玉焼きがある、イサキの塩焼き、ゆでたクルマエビ(?)、冷えたお吸い物、ナスの炒め物などにがっかりしていたら、真ん中にどかんときたのが氷がいっぱい入ったガラスのボウル。
 これが「水なます」だった。
 静岡県にも同じような料理があって、そちらは「がわ」という。
 ようするに魚のたたいた身が入った冷たいみそ汁だ。
 そこに青じそ、ネギ、ミョウガやキュウリなどがせん切りになってたっぷり放り込まれている。
 ごまが入ることもあるし、辛い青唐辛子が入っていることもある。
 ネギではなく玉ねぎのときもある。
 あまりにも簡単に出来て、夏には最高の料理なので、一度食べたら病みつきに。
 今では我が家の定番料理のひとつとなっている。

 魚はイサキ、マアジ、ソウダガツオ類などなんでもいい。
 なんでもいいが、鮮度だけはよくないと生臭くなってしまう。
 できるだけ新しく、出来れば旬のもので脂がのっていてほしい。
 さて、そこで今期初めての「水なます」作りに選んだ魚が島根県浜田市の「吉勝丸」が巻き網であげた「どんちっちあじ」だ。
 巻き網なら鮮度は望めないように思えたのだが、触ってみたらいい感じなのだ。

 大きさは1本100グラムほど。
 3本ほど買い求めてきて、三枚に卸して皮を引き、とんとんと細かく切る。
 片や青じそ、キュウリ、ミョウガを刻んでおく。
 みそをすり鉢ですり、水を入れてといていく。
 そこに氷をたっぷり。
 みその量は氷が入ることも鑑みて大目にする。
 みそ汁状のものがチンチンに冷えたら、アジの身を放り込む。
 アジの欠片がチリっと音を立てるように収縮し、表面にキラキラした脂が浮き上がってくる。
 後は薬味を放り込み、煎りごまも振り、ご飯にかけて食うだけだ。
 我が家では「水なます」だけ作ることはない。
 隣には煮込みハンバーグやポテトサラダがあるのに、太郎はぶっかけ飯で三杯目。
 一年ぶりの「水なます」は最高である。

 うっとうしい曇り空、高い湿度、身体がだるくて不快指数高し。
 そこに冷たくみそ辛い、汁がなんともいい。
 汁にはマアジの脂と、その甘味、そして旨味がほどほどに溶け込んでいる。
 やはり「水なます」用にも脂ののった魚がいいということに気づかされた。

 さて、そろそろ7月も中旬に近い。
 梅雨は明けないのであろうか? 高木ブーじゃなくてゴロゴロ様来てくだされ。

島根県浜田市「どんちっち」
http://www.city.hamada.shimane.jp/kurashi/nousui/suisan_don.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マアジへ
http://www.zukan-bouz.com/aji/aji/maaji.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

青鯛の手こね寿司

0

aodai08071245.jpg
●クリックすると拡大

 このところ遅く外出して、深夜に帰宅する日が続いている。
 それでも朝の市場通いは欠かすことがない。

 八王子魚市場で見事なアオダイを見つける。
 入荷の仕立てから神津島、八丈島のものに違いない。
 背中のコバルトブルーが鮮やかだ。
 値段はキロ当たり1800円なり。
 アオダイは関東では人気があり、常に高値で取り引きされる。
 一本選ぶと、ほとんど一キロあって、2千円出しておつりはツーコイン。

 刺身、塩焼き、グリエなどにして、残りは適度に切り味醂と醤油に漬け込む。
 これを久方ぶりに「手こね寿司」にする。
 やや甘めの寿司酢を作り、ここに漬けタレを少々加える。
 炊きたてのご飯で寿司飯を仕立てて、ここに漬け込んだアオダイの身を混ぜ合わせていく。
 そこに刻んだミョウガや青じそを散らし、白ごまをふって出来上がる。

「手こね寿司」とは三重県の郷土料理であり、釣り上げたばかりの魚を適当に刺身にして、それを甘辛い醤油入りの寿司酢に漬け込む。
 飯時には漬け込んだ魚ごと寿司酢を炊きあがったばかりのご飯に混ぜ込んでいく。
 めっぽう忙しい船上であるから、しゃもじでは間に合わず、手で素早く混ぜ合わせるので「手こね」となるわけだ。
 主にカツオなどを使うようだが、ブリでも、またアオダイのように白身魚でも大いに結構。
 簡便さ、手軽さから家庭料理にも取り入れたい料理のひとつだと思っている。

 これを朝ご飯で食べ、茶碗いっぱい残して、寂しいお父さんのお昼ご飯にもする。
 ひとり慌ただしく食べていると梅(猫である)が来て「魚だけおくれ」となく。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アオダイへ
http://www.zukan-bouz.com/fuedai/aodai/aodai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2008年7月以降に書かれたブログ記事のうち漁師料理・郷土料理カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは漁師料理・郷土料理: 2008年6月です。

次のアーカイブは漁師料理・郷土料理: 2008年8月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。