秋田の、なべ婦人、踊る中年剣士さんからハタハタの三五八漬けが届いた。うれしかったな、と思うだけでなく三五八漬けを焼く香りに癒された。
仕事明けの土曜日で身体がだるいのもあるが、もっと耐えられないのが神経が休まらないこと。こんなとき多摩地区とは言え東京都というのは殺伐としている。景色を見ても、近所を自転車散歩してもささくれだった心は一向に元に戻らない。
それが三五八漬けの濃厚な香ばしい香りに、ついつい心が和んでくる。どうしてなんだろう? この香りというのはハタハタの硫黄分を含む魚のものと、麹由来の甘い香りが火で炙られて混ざり合ったもの。これがなんとも心も胃袋自体をもゆさぶる。
さて話を「三五八漬け」自体のことに移す。この「三五八」とは「塩3」「米5」「麹8」の割合を示す。これとハタハタを合わせて漬け込むのだ。この「三五八漬け」と言うのは江戸時代から東北地方に伝わるもの。山間部では野菜など、海産物だとニシンやサケを、そして秋田にくるとハタハタを漬け込むのだ。毎年冬を迎えるとともに大量に押し寄せるハタハタ。これを鮮魚として食べる以上に「ハタハタずし(いずし)」「三五八漬け」「干物」「しょっつる」などに加工をする。この海辺で作られた「ハタハタの三五八漬け」は山間部へも運ばれる。古くは干したニシンや塩イワシとともに山辺の冬の貴重なタンパク源、そして贅沢な食べ物であっただろう。また魚を漬け込むというと「みそ漬け」を思い浮かべるかも知れない。でもあれはあくまで調味であって「漬けもの」ではない。秋田のハタハタの三五八漬けはまさに魚の「漬けもの」。ハタハタと三五八を発酵させて旨味を醸し出す。このためにハタハタには麹由来の甘味があり、植物から醸されるグルタミン他の旨味も加わる。
夕方、箱を開けて、麹の香りを思わず吸い込んで、なぜか酒屋に走る。探したのは秋田県横手市の『天の戸 美稲』。これを「えええい」と買ってきて三五八漬けの焼き上がるのに備える。その熱々のハタハタにかぶりつきながら『天の戸』、これは一週間分の疲れをとりさって、まるで玉川温泉のお湯に使ったように癒される。そして飲み過ぎてそのまま深い眠りに落ち込む。
まことに踊る中年剣士さん、なべ婦人には感謝のしようがない。何という絶妙なタイミング。今朝、また三五八漬けを焼き、これでしこたまご飯を食べて、この文章を書いている。ボクが二日で食べたハタハタ7本。秋田の海にも感謝。
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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