さかな季語事典: 2007年12月アーカイブ

yuuan071212.jpg
●クリックすると拡大

 ボクの個人的な意見ではあるが、世に出回る魚の中でシマガツオ(エチオピア)ほど重宝な魚も少ないだろう。
 刺身で良し、焼いて良し、煮て良し、また洋に染まって良し。これほど優良な魚であるのに、値段が安いというのも、うれしい限りだ。

 そんなシマガツオを八王子総合卸売センター『高野水産』で見つけて、もっとも大きいのを選んで買い求める。なんとキロ当たり800円(卸値)で1本1600円ほど。

 その夕べ、まずは刺身。頭部は梨割りにして一塩、ビニール袋に放り込んで一夜冷蔵庫。程良い風、天気晴朗なれど風強しのなか干す。片身を下げて、『市場寿司 たか』へ向かい、握りを堪能。
 さてさて、残りましたる身は海老名の海老さんにいただいた柚で幽庵焼きにする。

 幽庵焼きの地、基本は酒・味醂・醤油を1対1対1だけど、今回のシマガツオはやや身が柔らかいので味醂2に醤油1とする。そして翌日がちょうどいい漬かり具合だった。
 当然、夕ご飯はシマガツオの幽庵焼きとなる。
 金ぐしをして遠火で焼く間も、なかから脂がにじみ出る。柚の香りは焼いていてもしない。
 こんがり焼いて、食卓に。
 一口ほぐして口に放り込むと初めて柚の微かな香りがして、シマガツオの旨味が口に広がる。醤油と味醂の甘さは酒にもご飯にも合う。

 シマガツオは今が走りであり、年を越すと益々入荷が増えてくる。週に一度は買い込んで、ときに幽庵焼き、ときにみそ漬け、ときに干物につくる。
 やはり、こんな重宝な魚は、他には見あたらない、と毎年のように思い知る。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、シマガツオへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki3/simagatuo/simagatuo.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

hirezake071212.jpg
●クリックすると拡大

 フグ目フグ科トラフグ属の魚が一般にいわれるところの「河豚」である。総てのトラフグ属にテトロドトキシン、青酸カリの千倍ほどの猛毒が含まれる。ただし筋肉(所謂身)はほとんどのフグが無毒か、少量の毒しか持っていない。だから身を食べる分には安全なのであるが、ここで問題なのが多くのトラフグ属の皮に強い毒があるということ。この皮には鰭(ひれ)も含まれるわけで、残念ながら鰭酒(ひれざけ)として使えるフグは少ない。
 その少ない中の一種類がトラフグであり、よく「ひれ酒用の鰭」として売られているものはシマフグだったりする。世間に出回る安いフグであるショウサイフグ、マフグなどはともに皮に毒があるので注意が必要だ。
 せっかくトラフグを手に入れたのなら鰭(ひれ)は有効に使いたい。
 フグをさばくとき、最初に鰭を切り取とる。切り取った鰭は発泡スチロールに貼り付けて、干す。よく干し上げたいので晴天の日、二日ほど干した。

hirezake0712123.jpg
●クリックすると拡大

hirezake0712124.jpg
●クリックすると拡大

 これを備長炭でこんがり、ところどころ焦がして焼き上げる。焼き上げながら安い本醸造を沸き上がるほどの熱燗にする。温めた湯飲みに、焦がした鰭を放り込み。そこに沸騰した酒を注ぎ入れる。そのままフタをして、待つほどもなく、待ち、熱いうちにすする。
 うまい鰭酒を作るコツはしっかりヒレを焼き上げること。日本酒は吟醸系はダメで、純米酒か本醸造を使うこと。ボクがいちばんおすすめなのは島根県の「王禄 本醸造」。これを沸騰するまで熱する。

「アチチ」と言いながら、そーっとすする、その唇全体が熱く、そして舌先からジワリと旨味が広がってきて、そこから口腔の上の方にアルコール分がはい上がる。
 トラフグには腹ビレがない。だから胸ビレ、背ビレ、尻ビレ、尾ビレ、5つの鰭が一匹分だ。小虎なのでこの鰭全部使って一杯の鰭酒とした。それも湯飲みを持つ手がヒリヒリとするほど熱燗で、そこにトラフグの鰭の香ばしい香りがツーンとくる。そして深い旨味が口全体、胃の腑までしみ通る。

 さて、トラフグの鰭酒のうまさは、寒さとともに増してくる。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、トラフグへ
http://www.zukan-bouz.com/fygu/fugu/torafugu/torafugu.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

wakegi0712123.jpg
●クリックすると拡大

 今期初めて分葱(わけぎ)を買った。送ってもらったときは忙しくて、冷凍保存してあった倉橋島日美丸さんからの針いか(コウイカ)のゲソと和えた。
 これが不可解なことに、これから冬の寒い時期になろうかというのに春を感じて、爽やかな気分になれてうれしかった。(この“うれしい”は与謝蕪村の「夏川を こすうれしさよ 手にぞうり」の“うれしさ”と同じだ)
 分葱は秋に苗を植えて、春を待ち、そしてようよう彼岸の頃にとれるもの。当然、八王子綜合卸売協同組合『河村青果』のお姉さんのところで見つけたのは促成野菜だ。今でこそ、「温室育ちか」と興ざめだけど、ほんの数十年前までは「促成栽培」は高級野菜に冠された言葉である。
 もちろん春の分葱ほど香りが強くなく、辛みも薄い。でも旬の針いかのゲソの旨味の中にある「生“臭み”」を、その「青“臭み”」で消し散じてくれる。

 これがとにかく例えようもないほどにうまい。
 慌ただしく、疲れ切っていて、体調不良の日々に、こんな味わいが欲しかったのだ。こんな“うれしさよ”と思わせるもの。

 産卵期は春から初夏のコウイカは寒の時期がいちばんうまい。だから身に甘味がある。そこに春野菜の分葱がきて、京都の白みそと合わせて、酢みそ和えとなる。
 東京都といえども丘陵地の日野市、八王子市は寒いのだ。四国では見たこともなかった霜柱の、毎朝10センチ以上にも伸びるのを見て市場に向かう日々が始まっている。冬来たりなば、春が恋しい。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コウイカへ
http://www.zukan-bouz.com/nanntai/kouika/sumiika.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2007年12月以降に書かれたブログ記事のうちさかな季語事典カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブはさかな季語事典: 2007年11月です。

次のアーカイブはさかな季語事典: 2008年3月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。