さかな季語事典: 2008年12月アーカイブ

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 今年も沼津の山丁菊貞・菊地利雄さんから西伊豆安良里の「潮かつお」が届いた。
 もちろん昔ながらのやり方で大振りのカツオで作った本格的なもの。
 つくりますのは魚武水産である。

 毎年いただくので、この「潮かつお」がないと新年がものたりなく感じる。
 最初の年には部屋に飾って新年を迎えた。
 翌年は菊地さんにおたずねして「暮れに切り分ける」ことにする。
 やはり団地というのはこのようなものを飾るには無理があり、それよりも早く食べたいというのが先に立つ。
 それで数え日前なのであるが、切り分けて、一部を築地土曜会の方達にお裾分け。
 さっそく久しぶりの「潮かつお湯漬け」を食べる。
 残りご飯にのせて熱湯をそそぐだけの至って簡単な、料理以前の一膳がすこぶるつきにうまい。
 面白いもので塩辛い「潮かつお」からたっぷりとだしが出る。
 そのうまみでご飯を書き込むのだけど、ひとりこっそりサラサラやっていたら、我が家の姫が真似をしてサラサラ。
 この湯漬けは家族の大好物でもある。

 さて、一年というのはまことに短い。
 あっという間に過ぎ去ってしまう。
 湯漬けをかき込みながら、ふともの悲しくなってくるのはなぜだろう。

潮かつお かきこむ暮れや もの悲し
             ぼうずコンニャク

 静岡県沼津市菊地利雄さんに感謝。

魚武水産 静岡県賀茂郡賀茂村安良里655-1
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カツオへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/saba/katuo.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


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 八王子魚市場内『海老辰』に「阿武隈川産背焙り鮎」と書かれた発泡があった。
 蓋をとるとアユの焼き干しが入っている。
 このような特種すぎるものが流通の場にくることは珍しい。
 明らかに天然物。
 脂のすくない落ち鮎を使ったものだろう。
 わらで連にしてある。

「いくらだい」
「千円でいいかな」
「千円か、微妙な値段だね」

 値を聞いただけで通り過ぎる。
 翌日、それは同じように店先にあった。
 ぜんぜん売れていない。
 たぶんどのように料理するのかわからないのだろう。
 だから千円という値段が微妙に思えるのだ。
 たぶん注文を受けて仕入れてきて余ったものに違いない。

 普通焼き干しは水で戻してたきものに、もしくは焙って熱燗をそそいで旨味風味を楽しむ。
 急激に冷え込んできているので「鮎酒」も一興ではないか。

 さて、飛騨焜炉におこした炭を入れる。
 火の盛りに、故郷から来た餅を焼き、干し芋を焼く。
 これは子供達の楽しみだ。
 [夕食にご飯を食べなくてもいい]というのが食卓に開放感を生む。
 さて、その内に炭の勢いが衰える。
 そこに焙り鮎を乗せて、じっくり待つ。

 焦げ目がついてきた頃、酒たんぽで燗をする。
 熱燗も熱燗、火がはいるほどの熱燗にする。
 器は陶器で厚みのあるもの。
 今回のは小坂明さん作の見るからに暖かみのある深鉢にした。
 これも熱湯の中に放り込み、とても手で触れない状態となっている。
 ここからが勝負だ。
 熱湯のなかから器を取りだし、香ばしく焼けたアユを入れ、火燗をそそぐ。
 アユがジュっと音を立てる。
 ここに木でできた羽釜の蓋を乗せて待つ。
 計っているわけではないが、この間が長い。
 無限に思える瞬間というのがある。
 他のことをいろいろ考えればいいのだけど、時計の秒針をついつい見てしまう。
 長い(?)待ち時間のはて、蓋を取ると酒がうっすらと琥珀色を帯びている。

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 あとは熱いウチにいっきにすすり込む。
 思った以上に濃厚な旨味を染み出させていて、酒の中でアユ独特の川の香り、日向の香りが浮き上がってくる。
 しかも飲み口はサラリとしてる。
 酒はすすり。
 口に含み含み飲まなくてはいけない。
 この「阿武隈川産背焙り鮎」のいいところはよく焼き枯らしている点。
 まったく生臭さがなく、カツオがカツオ節になる如く、「焙り鮎」という乾物として完成しているのがいい。

 残ったアユに薄口醤油を垂らして、これもぬる燗のアテとした。
 酒は一の蔵「掌」。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アユへ
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 寒くなると関東の市場に目立って増えてくるのが「ぶわたら」。
 マダラの加工品で「ぶわ」は腑分けのこと。
 すなわちマダラを解体して、身だけにしたもので、「生」と「塩蔵」がある。
 今回はスーパーなどでもよく見かける「塩蔵ぶわたら」の話だ。
 これが便利で優れものなのである。
 マダラ自体はアラスカやカナダからの輸入物ながら加工のメッカは宮城県。
 なかでも石巻は目立った存在だ。
 もともと宮城県はマダラの加工がさかんに行われてきた。
 生の、地先のマダラを解体(ふわけ)して「生ぶわ」、「塩蔵ぶわたら」として、鮮魚としても関東に送り込んでいた。
 関東と宮城県の水産的な繋がりは当然、古く明治期に開通した東北本線に行き当たる。
 昔、水産物の流通は鉄道が頼りだった。
 今のようにトラック輸送にかわったのは、そんなに昔のことではない。
 現在でも過去にでも地方の水産物に頼ること大であった東京にあって、東北宮城は一大供給地だったのだ。
 当然のこと、「ぶわたら」は関東でも明治期以来の伝統食材であるはずだと想像して止まない。

 なぜ関東に「ぶわたら」が入荷してくるかというと居酒屋に“湯豆腐”という品書きがあって、ここに必ず入ってくるからだし、関東の家庭でも鍋物の主流が「ぶわたら」を使ったものだからだ。
 この「塩蔵ぶわたら」を使ったものを私流ながら勝手に「関東風湯豆腐」と呼ぶことにする。

 「関東風湯豆腐」の出合いは30年以上も前、東京下町小岩で暮らししていたときだ。
 居酒屋で湯豆腐をお願いして、やって来たのが野菜も入った鍋物。
 そこになにやら見慣れぬ魚が入っていた。
 白身魚らしいけどわからない、その正体が「ぶわたら」だったのだ。
 四国徳島人にとってマダラの存在は遠い。
 湯豆腐といったら、だしのなかで豆腐が浮かんでいるだけ。
 単純なものを予想していたので、間違って別の見知らぬ鍋物がやってきたと思ったほどだ。
 後々考えてみると、関西の湯豆腐よりも高目となっている。

 と言うことで、東京で初めて食べた湯豆腐がうまかった。
 以来30年、「関東風湯豆腐」が好きだ。
 それであれこれ理想の「塩蔵ぶわたら」を探していて行き当たったのが『天佑丸冷凍冷蔵』のもの。
 だから『天佑丸冷凍冷蔵』の「ぶわたら」を見つけるとついつい買ってしまうことになる。

 大振りのマダラを使っているため、半身買いでも一キロくらいになる。
 当然湯豆腐だけでは食べきれない。
 残ったらバターで炒めてパンに合わせたり、塩抜きしてフライにしたり、ホワイトシチューに使ったりと大活躍だ。
 面白いものでトマトと煮込んでもうまい。
 昔、イギリスとアイスランドでマダラ漁をめぐって紛争が起こり、これを俗に「タラ戦争」という。
 マダラが好きなのはこの国だけではなく、ヨーロッパ諸国も同じなのだし、その理由がパンやジャガイモなどとまことに相性がいいためなのがよくわかってくる。
 ああ、そうだマダラはご飯よりもパンに合うというのも書いておくべきだ。

 さて「東京風湯豆腐」の作り方は簡単極まりない。
 ぶわたらは湯通し、そえる野菜は白菜と春菊くらいでいい。
 後は主役の豆腐だが、できれば豆腐屋さんの豆腐といきたいな。
 だしは昆布のみ。
 味付けをするのだけど、酒と少量の塩のみ。

 鍋に向かって燗酒をやる。
 まずは「塩蔵ぶわたら」を総て鍋に落として、豆腐を泳がせる。
 豆腐がふわっと浮いてきたら、豆腐を皿にとる。
 ぶわたらも皿に取り、また野菜を加える。
 そこにあうのは生醤油で、生姜と白ネギを用意する。
 あと、柚、スダチ、一味唐辛子。
 この鍋、酒がすすむし、また豆腐の温まる間がとてもよろしいな。

 そのうち身体が熱くなってくる。
 食べ、呑み疲れて、ふと窓を開けたときの新しい空気の冷たさが気持ちいい。
 こんなときに限ってドコドコドコーカンカンカンカーンと中央線が八王子に向かう音がする。

天佑丸 宮城県石巻市魚町1の10の8
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マダラへ
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