2008年8月アーカイブ

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 2008年8月、関東では国内産ヤマトシジミ(一般的にシジミというのはこれ)でいちばん値段が高いのが北海道産である。
 次いで青森県産、茨城県産ときて三重県と島根県のものが最下位に甘んじている。
 そんなバカな、と島根県人も三重県人も憤慨するだろうけど、現実は現実だ。
 ヤマトシジミの値段は味もさることながら、大きさによるところが大きい。
 ある程度大きくないと値段がつかない。
 その点、島根県宍道湖産、三重県木曾川河口のものは小振りに過ぎる。

 三重県のものは明らかに無謀な、ある意味歴史的には悪質な河口堰のために良質なシジミがとれなくなっている。
 対するに島根県宍道湖のものは洪水など天災によるもの、また水質が原因など、現在色々研究中だけど、シジミの粒が小さく、またとれる量も少なくなっている。

 そんなとき「島根県でも神西湖のものはとてもうまくて、粒も大きいんです」と島根のトーボさんからシジミをいただいた。
 神西湖は旧出雲市、湖陵町(ともに現在では出雲市)にまたがる湖で良質のヤマトシジミがとれることで有名である。

 さて、ヤマトシジミの値段は大きさだと書いた。
 それに加うるに粒の揃っていること、また貝殻に艶があることなどが挙げられるだろう。
 神西湖のシジミをボウルに開けると、それはそれは美しいメノウ細工を思わせるのがカラカラと飛び出してきた。
 これならば見た目では北海道以上ではないだろうか?

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 定番的なみそ汁の味がまたいいのだ。
 汁に臭みがまったく感じられない。
 二枚貝の持つ、濃厚な旨味があって、しかも貝殻にくっついている身がふっくらしている。
 神西湖のシジミは国内産でも一位二位ときて三位に下ることのない名品だと銘記する。

 ここで断っておきたいことがある。
 ボク、ぼうずコンニャクが島根県水産課のアドバイザーを引き受けていることだ。
 それではきっと島根びいきになっているに違いないだろう、と思われても仕方ない。
 だが、ぼうずコンニャクの特質は身内に評価が辛いことだ。
 例えば宍道湖のシジミは関東に来るものは明らかに小粒で、味わいにも出色の点がない。
 湖内でもっと大きく育てられないか、また砂だしなど衛生管理なども徹底できないのか、宍道湖シジミに課題は多い。
 当然、神西湖のシジミにも多大な期待は持っていなかった。
 そんな状況での結論であるから、たぶん築地にきたとしても出荷形態さえ、きれいであれば最高の評価がえられるだろう。
 神西湖のシジミがブランド化されて、高く売れるようになると島根の他の産地でとれたものも値が上がるかも知れない。
 島根にとってシジミはとても重要な水産物だ。
 水質など、県民総てが環境保護に積極的であることが、シジミの評価を上げるに繋がりそうでもある。
 島根県出雲人は「シジミの身になって暮らす」べきだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ヤマトシジミ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑
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 いまだにサワラの旬を春だと思っている人がいる。
 困ったものである。
 近年は温暖化のせいなのかサワラが豊漁である。
 年間を通して水揚げされていて、年間をとおしてうまい。
 これには訳があって、サワラの産卵期が地域地域で違っているためだろう。
 例えば日本海島根では春以前に産卵してしまう個体が多く、対するに瀬戸内海では晩春に産卵する。
 早く産卵を終えたものは夏に食べてもうまいはずだし、遅く産卵するものは春にうまいのも当然だ。
 もっとも味が安定しているのは、さてサワラでは何時なのか?
 と言うと、間違いなく秋である。
 秋にとれるサワラはハズレがない。
 だからやめようよ「魚偏」に「秋」と漢字で書くのは。

 さて暦では秋となっている8月29日に買い求めたのは1.5キロのサワラだった。
 大きさ的には瀬戸内海などではまだサワラと呼べなくて「柳」とするべきかもしれない。
 キロ当たり1000円だから1本買っても1500円しかしない。
 千葉県産で下氷(氷の上に魚をのせる)のもの。
 千葉県産と言えば最近水氷のサワラが見事であり、できれば水氷を買い求めたかった。
 残念ではあるが、今回のものも鮮度は申し分がない。
 触った感触でも脂がのっていそうだ。

 これを焼き切りにしてみる。
 振り塩をして皮目をあぶっただけで、ほとんど刺身というもの。
 これがまことに美味であった。
 脂がある。
 もちろん、ほどほどにだけど、皮下の旨味とともに絶品である。
 浅葱、ミョウガなどを合わせて、スダチをしぼりかけても食べてみた。
 どれもこれも魅力的だ。

 サワラほど、どのように食べてもうまくて、食べたそばからまた食べたくなる魚も少ないだろう。
 それなのに値段が安すぎるのではないか?
 漁師さんのことを案じながら、不思議でならない今日この頃だ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サワラ
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 暑さ疲れが頂点となった、ちょうどその日に、気温がすとんと10度あまりも落ちたのだ。
 よかったよかったと喜んでいたら来る日も来る日も雨、のち曇り、そしてスコール。
 気温の低さの割りに爽やかさが皆無であるのは、湿度がおおよそ100ぺーセントに近いからだろう。
 まだまだ爽やかなものが食べたい。
 それで毎日のように食べて、それでも食べ飽きないのがニガウリである。
 このニガウリを市場に溢れかえっているゴマサバと合わせる。

 ニガウリは二つ割りにして種と綿綿を取り去る。
 3ミリ幅くらいに切り、塩をまぶしておく。
 一時間ほどたったら、塩を洗い流し、味を見ながら塩出し。
 ニガウリにちょうどいい塩味をつけておく。
 塩コショウしたゴマサバに片栗粉をまぶしてカリッカリに揚げる。
 ニガウリ、みじん切りのニンジン、手で細かく割ったゴマサバを合わせて、酢、しょうゆの二杯酢で和える。
 いろいろ工夫をこらしたドレッシングでもいいのだけど、味付けはすこぶる単純な方がいいようだ。

 一様サラダなんだけど、夏のもっとも好ましい酒の肴になっている。
 例えば、刺身、塩焼き、枝豆なんかがあって、こんなサラダ風酒の肴が最近では非常に好ましい。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ゴマサバ
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 四国四県を総て挙げられる人ってどれくらいいるのだろう?
 やはり少ないだろうな。
 となると「徳島県人流」と書いても“なんだこりゃ”と思われそうだ。
 カタクチイワシの稚魚を干したものを関東のように軽く干し揚げたものを「しらす」、西日本で強く干したものを「ちりめん」という。
 どっちがうまいか、というとボクとしては断然「ちりめん」の方が上だろう?
(注/「しらす」「ちりめん」の原材料はカタクチイワシだけではない。“主に”という意味合い)
 そして、このちりめんの食べ方は「徳島県人流」がいちばんうまいと手前みそながら考えている。

 徳島県人の食卓にあるもので特徴的なもの、それはスダチだ。
 秋口から露地物のスダチが出始める。
 しょうゆにたらすのはもちろん、漬物、野菜にも、魚にも、ときに魚を酢締めするときにも、焼き飯(チャーハン)にも、かつ(フィッシュカツ)にも、天ぷらにもコロッケにも雑炊(おじや)にも、おつい(みそ汁)にもおすまし(お吸い物)にも、なんでもかんでもスダチをかける。
 かけないともの足りない。
 そんなスダチなんだけど、もっとも出合いのものは「ちりめん」である。

 ぼうずコンニャクが考える「徳島県人流ちりめんご飯」とはこうである。
 ご飯はほどほど、できれば少な目にして、「ちりめん」をてんこ盛りにする。
 そこにスダチ、二、三個分をしぼりこみ、あとは一気に食う。
 この世にあって、これほどの美味があってもいいのだろうか?
 食べていて、罪の意識を感じるほどにうまくてうまくて、茫然自失の体になる。
 困ることはついつい三杯飯をくらってしまうこと。

 肌寒の頃には、ご飯に「ちりめん」てんこ盛りとして、そこに熱湯をそそぐ。
 そのお茶漬けにスダチをかけまわして食らうのもうまい。

 さて、徳島には阿波踊り(お盆)前に帰ったのでスダチはまだ高かったのだ。
 阿波踊りにむけて農家がスダチを出荷するようになったため、まるで盛夏のもののように思われている。
 しかしなんといってもスダチの旬は九月になってから。
 安くなったスダチを、これでもか? とかけ回して徳島県人は幸福感を感じるのだ。

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 我ながら疲れている。
 疲れ果てているといっても過言ではない。
 火曜日には島根県松江市への日帰り旅行が待っている。
 仕事、私事、災難ときて、最近年をとったせいか、初めて経験する肋間神経痛に悩まされている。
 肋間神経痛といっても自己診断で、左胸の一点が長く強く痛むだけのこと。

 23日の土曜日、できれば市場には行きたくなかった。
 それほど寝床でじっとしていたかったのだ。
 最近寝床で本を読むのが楽しくて仕方がない。
 我が至福の時である。

 それでも8時前にはクルマで市場に向かう。
『市場寿司 たか』で図鑑の撮影が待っているのだ。
 浅川を法定速度前後で走っていたら、後ろから大型のオフロードカーが迫ってくる。
 基本的にこんな愚かな行為には気にもとめないのだけど、鬱の気もあってよけいに気分が落ち込む。
 だいたい昨今のように出来うる限りエネルギーを節約しなければいけない時代に、大型車に乗っているやつは「愚か者だ」とも思う。
 恥を知れ!

 八王子魚市場、八王子総合卸売センターとまわって『市場寿司 たか』に向かう。
 ぼんやりしてたら、いつの間にか目の前にいたのが横川町『鮨忠』さんなのである。
(注/市場では原則的に屋号に「さん」をつけて呼ぶ)
 ほいよと、丸いプラステックケースを渡してくれて、
「まあ食べてみな。アユの梅干し煮なんだけどな。道志川で釣ったやつなんだ」
 「ありがとうございました」という間もなく忠さんは『高野水産』の店内に消えてしまう。

 この梅干し煮のアユが素晴らしい味だった。
 こっくり甘く、微かに梅干しの風味がする。
 味がはんなりしているのがいい。
 きっと塩だしした梅干しを使ったのだろう。
 手のかかる仕事に違いない。

 この道志川のアユを食べている間に気分がよくなってきた。
 ありがとうございます。
 『鮨忠』さん。

『鮨忠 第二支店』 東京都八王子市横川町477
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今期初のハモの鍋

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 先週末くらいから気温がすとんと、一挙に10度ほども下がった。
 猛暑日からお彼岸あたりの気候に一日で変わるというのは、まことに異常な気がする。
 これは天変地異の前触れなのだろうか?
 これをニュースで見たいと久しぶりにテレビをつけると、一向に天気予報をやらない。
 まったく感心のないオリンピックの結果ばっかりだ。
 しかしなかでもちょっと溜飲が下がる思いをしたのが野球での銅メダルである。
 だいたいアマチュアで臨むべきオリンピックにプロ野球選手が出るのは悪質だろう。
 プロ野球球団のある国だけの、閉鎖的なオリンピックにしてしまった。
 責任者出てこいといいたいな。
 対するにソフトボールはよかったね。
 きれいだよね。
 見ていて清々しい。
 現在の形の右傾化した(ボクは左傾化もきらい。あくまでも人間はリベラルに)オリンピックのなかに咲いた可憐な花のようであった。

 いかん、閑話休題。
 寒くなったので、今期初の小鍋仕立てとする。
 しかも家族はいろんなイベントに参加すべく出払っている。
 活けのハモを買い込み。
 最初、これを落とし(ちり)にしようと考えていた。
 骨切りを始めて、少し脂が薄いと感じて急遽鍋にすることにしたのだ。

 だしは湯通しした中骨、昆布。
 酒と塩で味付けした。
 冷蔵庫を見ると野菜はシイタケと蕪くらいしかない。
 しかも夏の蕪で漬け物にしてうまいけど、熱を通す料理には向かないF1に思える。
 我が家の料理は臨機応変。
 細かいことにこだわっていられない。

 ハモは骨切りして、湯に落とし氷水で冷やし、水分をとっておく。
 これを煮立っただしに沈めて、蕪とシイタケを加る。
 これをほどよく煮てから食卓に。
 たっぷりスダチを添えたのは徳島県人の常識というものだ。

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 ハモはやはり脂が少なかった。
 活けものはじっくり触って買うことができないので、こんなことが多々ある。
 それでもだしのうまさは天下一品である。
 それなりのハモに落胆しながらも、汁を肴に飲む酒がうまい。

 テレビをつけない居間は静かだ。
 窓から“雨の降っている”、そんな気配がする。
 そこにささやかなオカメコオロギの声。
 いったいセミは何処にいったのだろう。
 関川夏央の『昭和が明るかった頃』を再読しているうちに眠くなってくる。

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 徳島県の練り製品を特徴づけるものは一に「竹ちくわ」、二に「かつ」だと思っている。
「かつ」はトンカツ、メンチカツの「かつ」で古くはフランス語の「コートレット」が「かつれつ」と変異したもの。要するにフライのことだ。
 徳島で「かつ」というのは「フライ」、「とんかつ」などをさすのではなく魚肉をミンチ状にしてカレー風味で味付けし、パン粉をつけて揚げたもの。

 このようなものは島根の「赤てん」、山口県、大分県の「ギョロッケ」など似たようなものが各地にある。
 総て現在もある「魚肉ソーセージ」の誕生したとき、非常に人気がでたために多くの練り製品の加工状が打撃を受ける。
 それならと工夫開発されたものたちなのだ。
(開発したメーカーなどについては今回は省く)
 練り製品としては戦後生まれだから比較的新しい。

 昔は単に「かつ」と呼ばれていたはずだ。
 振り売りのオバサンの油揚げや竹輪の横に必ずあったもの。
 子供の頃のものは表面が油で滲んでいて、じめじめしていて、完全にぺったんこ。
 決して上等の食べ物とは言えなかった。

 なぜなんだろう。
 ボクは、幼稚園に通っていた頃、45年ほども前から、この「かつ」が大好物だ。
 だから徳島に帰ると、いろんなメーカーのものを買ってしまう。
 今回のものは「かつ」に「天」とあるが、徳島での「天ぷら」は関東では薩摩揚げのこと。
 この練り製品の地に味付けして揚げた物という意味合いだろう。
 要するに名前はどうでも「かつ」は「かつ」でしかない。
 ただし、あの昔の油でギロギロしたイメージは消え去っており、厚みがある。
 ちょっと下級食品としてのよさが失われて残念に思うのだが、味はいい。
 カレーの風味はやや控えめ、味付けも控えめなのではないか。
 それでもカレー風味で甘味のある練り物の味が惣菜風で親しみやすく、ご飯に合う。

 さて、徳島に帰るとついつい買い求めてしまう「かつ」。
 懐かしい「かつ」。
 今朝は生醤油にスダチをたらしていただく。
「かつ」にソースはいけませんなー。

谷ちくわ商店
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 八王子魚市場の駐車場を下りた途端にものすごーくいい匂いがする。
 抗っても抗えないような、強い吸引力をもった“うまそうな”匂いだ。

 いい匂いの正体はすぐに判明した。
 八王子魚市場マグロ部のムッシュが大型のコンロでマグロカマを焼いている。
 カマとはマグロの頭部の真後ろ、背中から胸鰭(びれ)と腹鰭を結ぶ場所をいう。
 担鰭骨を始め複雑な骨が多い場所で市場でときどき安く売られていたりする。
 今回のものは大きさ、脂の強さから本鮪(ほんま クロマグロ)に違いない。
 ムッシュはさっさと振り塩をしてじっくり寝かせてから、これもじっくり焼き上げた。

 緑の紙にのせたカマをさっそくムッシュが「食べてみな」と差し出してくる。
 まことにうれしい一瞬なのである。
 いちばん大きな塊を割り箸でほぐして、手に受けて口に放り込む。
 塩味と、脂から来る甘味がいきなり口を満たす。
 そして口の中でゆるゆるほぐれながら液状になった脂が塊からほとばしり出てくるのだ。
 酒もビールもいらない。
 それこそ水も飲みたくないというほどにうまい。
 ついに行儀悪く手が伸びてしまう。

 この単純な料理、誰にでも出来るとお思いになるかも知れぬ。
 あにはからんや意外に難しい。
 塩加減、寝かす時間、焼き加減とどこにも気を抜く工程がない。
 総て完璧にやり遂げて初めて見いだせる美味なのだ。
 ムッシュの料理上手はなんども見てきているのだけど、また再度見直すこととなった。

八王子魚市場の市場に関しては
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 8月の声を聞くと北海道から生筋子が到来し始める。
 この暑い盛りに、まっかな筋子を前に「買うべきか、買わざるべきか?」悩みに悩む。
 去年は高かったのだ。
 イクラ作りも2回しかできなかった。
 今年も高いのだろう、と思っている。
 筋子の値段は大体キロ当たり3000円の壁があり、「3500円だと高いな」と思い、「2800円だと安いな」と考える。
 そしてお盆休みの前日14日、八王子総合卸売センター『高野水産』に来た筋子の値段が3000円である。
 北海道産ということだし鮮度も悪くない。
 お盆休みを控えて筋子に今ひとつ高値がつかなかった模様だ。

 筋子3腹買って500グラムほど。
 持ち帰って、すぐに湯をわかす。
 大型のボウルに熱湯を入れ、水で適度に温度を下げる。
 なんとか手をつけられるほどに水温が下がったら、塩をひとつかみ加えて溶かし、筋子を投入する。
 熱い熱い湯のなかで筋子をほぐす。
 卵粒を包んでいる皮膜が白く変色し、周りを取り巻く血管と脂が玉のようになる。
 一度、湯を捨てて、水を流しながら、卵粒を洗う。
 二、三、四回ほども、水を流しながら破けた卵胞や皮膜、血管、脂を洗い流す。
 ザルに上げて、洗い立てのタオルにくるんで、冷蔵庫で一時間ほど寝かせる。
 その間に漬け地を用意する。
 少量の味醂を煮きる(アルコール分をとばす)。
 これを生醤油と合わせる。

 味付けに薄口醤油を使うのもいい。
 イクラがきれいに仕上がる。
 ただし味をいちばんに考えるなら濃い口の方が優れている。
 また、味醂よりも酒の方がいい、のかも知れない。
 ただし我が家のように白いご飯の友とする場合には酒ではさっぱりしすぎる。
 イクラ作りは試行錯誤を繰り返し作ってもらいたい。

 我が家のイクラの味付けは控えめで甘めである。
 なぜならご飯に半分以上もの割合でイクラをのせる困った子供達がいるからだ。
 こうなると茶碗を上から見るとご飯がまったく見えなくなる。
 イクラはご飯の“おかず(脇役)”なのか、“主役”なのか?
 いつも500グラムほどの筋子が二、三回の食事で消え去ってしまう。

 今更書くまでもないことだけど、イクラと酒は合わない。
 酒がちっともうまく感じない。
 我が故郷徳島県で「芳水」という淡麗な酒を買い求めてきたのだけど、魚は別に誂えた。

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 アカガイの産卵期は夏。
 この時期になると貝を剥いて40年という八王子魚市場・あんちゃんにアカガイの状態を毎日のように聞く。
 8月8日の時点でのあんちゃんの返事。
「まだ卵持ってるね。ちょっと買うのは待った方がいいかもよ」
 言うなれば挨拶のようなものだけど、やはり産卵期には味が落ちる。
 その味の落ち加減をみるのも大切なことだ。

 今回のアカガイは韓国産、それでもキロ当たり2000円もする。
 例えば関東での上物、宮城県名取市産、関西での大分県産だったら、この倍近くなる。

 割ってみると、やはりオレンジ色の卵がたっぷり入っている。
 アカガイの身は痩せて、赤身も薄い。

 食べてみると、さすがにアカガイだけのことはある。
 とてもうまいのであるが、冬から春にかけての旨味香り甘味の怒濤のような舌への攻撃を感じない。
 おだやかで平凡なうまさだ。

 これが産卵を終えて、身に栄養分をため込むには数ヶ月を必要とするだろう。
 
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 アカヤガラという魚は一見、煮ても焼いても食えそうに思えない。
 身体の大方の部分が、長大なクチバシで、これを“笛のようだ”とした呼び名もあるし、そんなもんじゃねえ、“大砲のようだ”とする呼び名もある。
 ところがこの怪異でとりつく島のないような細長い魚が「食ったらうまい」のである。

 おおよそ魚を食べるとき、例えば「バターで焼くと」、もしくは「フライにすると」、もっともっと考えて「唐揚げにすれば」食べられます。
 こうなると、この魚は本当はまずいのだ。
 だからいろいろ工夫する。

 そこに「塩焼きがいちばん」というのがあると、これは心底うまい魚であるということになる。
 そしてアカヤガラの塩焼きはまことに「うまーいのだ(赤塚不二夫を偲んでバカボンのパパ風に読んで欲しいのだ)」。
 当然塩焼きがうまいのだから、干物にしたらもっとうまい。
 アカヤガラの頭部、クチバシの後部胸ビレ部分とシッポの部分を一塩して軽く酒にくぐらせる。
 これを猛暑日につき冷蔵庫で半日干してできたのが「やがらのやがら干し」である。
 一見、「つき合いづらそうでいないがら、実はいいヤツ」という人物がいるが、それを「やがらのやがら」のようだと言い換えるのも面白い。

 干物だからあとはじっくりあぶり焼くだけ。
 あぶった皮のうまさをいかに表現するべきか?
 まず言語に置き換えるのは無理だろう。
 皮自体に甘味がある。
 これは酒からくるコハク酸と相乗効果を起こしているのだろう。
 白い身をむしくって食らっても、強い旨味が押し寄せてくる。

 そう言えば昔、岩田昭人さんから尾鷲の魚屋さんが作っているというアカヤガラの干物を頂いたことがある。
 あれは、もっともっとうまかった。
 きっと塩をして尾鷲の風で干しあげたからだろう。
 早く干物の季節が来てほしいものである。

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 今回の四国行はあくまで帰郷。
 年老いた父のためでもあり、墓参のためでもある。
 それでも8月10日朝には徳島中央卸売市場に。

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吉野川であがった巨大スッポン

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徳島では来る日も来る日もうどん三昧。画像は典型的な「徳島うどん」。つるぎ町『剣山木綿麻温泉』にて。


 8月12日には永野廣さん、昌枝さん夫婦に会い、また高知中央卸売市場をたずねた。

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高知市浦戸湾でもっとも若いカニ漁師・永野昌枝さん。

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高知市中央市場で出くわした、よさこい踊り。市内はよさこい祭の真っ最中

 我が古里、徳島県美馬郡つるぎ町(旧貞光町)では、今は見る影もなく荒廃してしまった貞光川でオオヨシノボリに出合えた。
 魚貝類を探すことの少なかった旅ではあるが、いくつかの収穫を公開していきたいと思う。

 最後に、高知市の永野廣さん、昌枝さんにはお世話になりました。
 感謝いたします。

土佐の廣丸
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徳島に帰郷

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来週なかばまで徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)にいます。
徳島県のうまいもん、うまい魚を食べてきます。
あと高知市にも行きたいと思っています。


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 今年はサンマの値段がやや高めではないだろうか?
 土曜日(8月2日)には安くて1本150円、高値で250円だった。
 この150円のサンマを2本買い込んでくる。
 魚屋で二枚に下ろして、緑の紙に包み、ワタを別袋で持ち帰る。
 骨のない方を「わた焼き」に、ある方を「サンマ飯」にする。
 白いご飯が好きなボクも「サンマ飯」は好物なのだ。

 骨の付いている方をとんとんと切り、酒で洗い、醤油で洗う。
 水加減した釜にサンマの切り身を並べて、ショウガを二三かけ。
 本当は針ショウガにしたいのだけど嫌う子供がいて出来ないのが残念。
 意外にたいたショウガはうまいのだ。
 酒、醤油、塩で味を調えて炊く。

 我が家は羽釜なので沸騰してガラガラいい始めて弱火にして8分から9分。

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 蒸らしに15分ほどおく。
 炊きあがったら、まずサンマを取り出す。
 バットの上で骨を取り除いて、ご飯に混ぜ込むのだ。

 茶碗に盛ったら青ネギを散らしたい。
 残念ながら我が家周辺には白ネギしかなく。
 これを水晒しして天盛りにする。

 あとは一気に食らうのみ。
 普通、ご飯は酒の後と決めているが、炊き込みご飯だけは酒の前になる。
 面白ものでサンマ飯だけは酒の合間に食べても好ましい。

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 石巻への旅で天佑丸冷凍冷蔵株式会社社長の尾形清雄さんに何気なくいただいた漬け魚が非常に美味であった。
 頂いたものにコメントをするのはいけないことなのだけど、もっともおいしいと思ったギンダラの仙台味噌漬けにだけは触れておきたい。
 天佑丸冷凍冷蔵株式会社の製品のこだわりは石巻周辺の産物を材料に取り入れることのようだ。
 今回の仙台みそも地元の会社のもの。

 原料のギンダラのよさもさることながら、この仙台味噌の漬けダレが素晴らしい。
 甘からず、塩辛すぎず。
 焼くと芳醇な香りがする。
 脂ののったギンダラに、香り高い仙台味噌の味わいが加わって最上級の焼き物となった。
 食べていて贅沢に感じる加工食品といえるだろう。

 他には粕漬け、塩ダレなど、漬け魚の商品ラインナップも豊富であるが、すべてうまかったということを明記したい。

天佑丸冷凍冷蔵株式会社
宮城県石巻市魚町(さかなまち)1の10の8 電話0225-22-3847


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 6月から毎日のようにマアジを食らっている。
 そんな最中にまたマアジを買い求め、刺身にして、また「なめろう」にする。
 今回のものは長崎産、マアジのメッカとも言えそうな「松浦もの」である。
 水氷に仕立てた荷は完璧で、鮮度も脂の乗りも申し分がない。

 千葉県で「なめろう」というのは魚を細かくたたき。
 みそを加えてネギやミョウガや青じそなどの香辛野菜を加えたもの。
 このみそと香辛野菜を使った料理は日本各地にあり、多くは単に「みそたたき」という。

 この料理のコツは出来る限りよく切れる包丁で切るように魚の身をたたくこと。
 たたく細かさは好みでいい。
 入れる野菜も香辛野菜ならなんでもいい。
 千葉県ではネギだけ、玉ねぎだけというのも普通だし、また「なめろう」に生酢を回しかけて食べるというのもある。
 今回はニンニク、白ネギ、ミョウガ。
 青味が足りないと思ったが、ないからといって「買いに走る」ほどのこともない。
 そんな普段の料理なのである。

 さて、ようよう外ではセミが鳴き始めている。
 ニイニイゼミにアブラゼミも加わってまことに朝から喧しい。

 慌ただしい朝だから、「なめろう」を炊きたてのご飯にのせてかき込む。
「なめろう」はご飯のおかずとしても素晴らしいなー。

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 子供の頃だからもう40年くらい前のこと。
 四国剣山を源流とする貞光川(現徳島県美馬郡つるぎ町)の護岸には勧農(かんのう)という石と木とを組み合わせたものが使われてた。
 この勧農の中は魚の宝庫であり、ウナギ、「どぶろく(ヌマチチブ)」、えび(スジエビかな?)、いだ(ウグイ)、フナ(ギンブナ)などが隠れ住んでいた。
 川で泳ぎながら、この中に置きバリを仕掛けておくと大きな「黒ぎぎ(ギギ)」がいっぱいかかったものだ。
 これを魚籠などに放り込んでおくのだけど、真っ先に死んでしまうのがギギであった。
 このギギをはじめたくさんの生き物が、コンクリートによる護岸のために全滅に近い打撃を被っている。

 この懐かしいギギに広島県三次市で久しぶりに出合えた。
 しかも干物である。
 貞光町では主に煮つけで食べていた。
 それが中国地方の山間部ではからからに干されて乾物となっている。
 これが4匹入りパックで900円。

 三次市には「わに」を見に来たのだ。
 昔から、この備北地方にはサメを食べる習慣があり、現在でも根強く残っている。
 でも考えてみると三次市は可愛川、馬洗川、西城川、神野瀬川を集め、江の川という西日本でも屈指の大河になる場所だ。
 実はあわただしく三次市に立ち寄る計画を立てたときに、この町の川魚の文化のことを完全に忘れていた。
 名著『江の川物語』の舞台となっているのが三次市周辺なのだ。

 どう食べるのかわからないまま好奇心から買い求めてみる。
 中に食べ方の紙が入っていて、「弱火であぶって甘辛いタレをつけて食べる」とある。
 甘辛いタレというのは山間部のことだから砂糖醤油のことだろう。
 我が家では味醂醤油の煮きりをからめてみた。

 カラカラに乾いた乾物だから、弱火であぶると香ばしい香りが立ち上がる。
 その内、やや身が柔らかくなり、パリパリと割れるようになる。
 ここに煮きりをからめて食卓に出す。
 まだ熱いうちに手で割りながら食べる。
 なんとも香ばしい。
 香ばしい中に魚の旨味があり、干してあるために独特の渋みが加わる。
 これは素晴らしい酒の肴だ。

 夏の夕べ。
 家族は近所の祭に出かけて、ひとりっきり。
 酒は会津の『奈良萬』。
 会津の酒ということで期待しないで買い求めたら適度に辛口で、さらりといい酒である。

鮎共販 広島県三次市十日市中3-16-18
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ギギへ
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 琵琶湖は淡水魚の宝庫。
 淡水魚料理の宝庫でもある。
 湖をぐるりと回りると、どの町にだって、一軒二軒の佃煮屋はある。
 そして今津にはかたまって湖魚の店があり、その一軒でイサザの佃煮を買い求めてきた。

 イサザは琵琶湖特産のウキゴリ属のハゼ。
 湖魚のなかでも高級品となっている。
 これはとにもかくにもとれなくなっているせいで、琵琶湖を歩く先々で湖魚の枯渇を嘆く人の声を聞いた。
 このあたりでなんとか手を打たないと、琵琶湖特産魚は高い順にいなくなってしまう。
 ひょっとしたらそれよりも早く漁師さんの高齢化のために琵琶湖の漁業が滅ぶこともあるだろう。

 さて琵琶湖であがるハゼには「ごり」と呼ばれるヨシノボリとイサザがある。
 値段的にはイサザが圧倒的に高い。
 前記したとおり“うまいから高い”、というのもあるが“少ないから高い”というのもありそうだ。
 なぜ、イサザがうまいかというと全体に身が柔らかく、しかもヨシノボリよりも大型だからだろう。
 佃煮は甘辛い味わいの中にほんのり苦みと、ハゼならではの旨味が感じられる。
 琵琶湖でとれたイサザ自体のうまさもさることながら、今津の『魚岩』の佃煮作りも優れているようだ。
 こんなことなら多少高くても、もっとたっぷりイサザの佃煮を買い求めてくるのだった。
 後悔しきりだ。

 さて、琵琶湖にくると、この国の議員、行政者がいかに無駄な自然破壊をしながら生き物を追いつめてきているかがわかるはずだ。
 今、琵琶湖でやらなければならないことは外来魚の駆除よりも、岸辺を昔の形にもどすことだ。
 また、最近淡水魚(湖魚)を食べる習慣が激減、消滅しようとしている。
 それと滋賀県人だけでなく、より多くの方に淡水魚を食べることをお勧めする。
 淡水魚(湖魚)を食べるだけで、一歩琵琶湖が近くなったように思える。
 食べることが自然保護に繋がる可能性大というのがボクの思想なのだ。
 
魚岩 滋賀県高島市今津町今津354-11
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 ベラ科の魚は毀誉褒貶が激しい。
 細長いタイプの場合、例えばキュウセンというベラは関西では珍重されるし、それなりのお値段がする。
 対するに体高のあるテンス、オハグロベラ、コブダイ(寒鯛)、イラなどは一定の評価はないに等しい。
 ボクがこのなかでも味がいいと思っているのがコブダイとイラである。
 コブダイは寒い時期などにまとまって入荷してくることもあるが、イラは入荷しても数匹、一箱にまとまらず、入相(いろんな魚が入っている荷)に混ざることの方が多い。

 知名度がないので関東の市場では堂々と「ぶだい」として売られていたりする。
 今回のイラは和歌山県産。
 一匹1キロ以上あり、値段はキロ当たり1000円ほどだから安いものだ。

 持ち帰って刺身で食べると、モチモチしている。
 これはこれでうまいと思うが、皮付きのまま昆布締めにしてしまう。
 ひと晩寝かせて、翌日、皮目を焼いて切り付ける。
 これがなんとも上等な酒の肴になる。

 白身で上品な味わい、しかもちゃんと旨味もあるのに、イラの問題点は身質にある。
 よほど活けでもないかぎり、モチモチしてシャッキリしないのだ。
 これを一塩して昆布を巻いて寝かせることで、身が締まる。
 包丁がすとんと切り込めるようになるのだ。

 皮目を焼いたイラの昆布締めのうまさは表現のしようがない。
 皮直下の脂質が溶けている。
 これがひとつの層であり、薄いものなのだけど、皮とともに旨味の凝縮された部分を形成している。
 また昆布の香り旨味がついた身の部分だって、まことに深い味わいなのだ。

 さて、先週から毎日のように昆布締めを作っている。
 このどれもがまことに申し分のない味わい。
 また皮付きのまま昆布締めにし、そしてあぶるというのもボクとしては新しい発見なのだ。
 次は何を昆布締めにするべきか?
 
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