漁師料理・郷土料理: 2009年7月アーカイブ

白ミルは焼くのだ

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漁師だという人から匿名のメールをいただいた。
我がサイトは原則としてメールは受け付けない(原則的に掲示板)のだけど、内容が面白かった。
なぜ匿名なのか、もしくは名前を書き忘れただけなのか、本人にお聞きしたいな。
メールの内容は「白ミルはゆでるんじゃなくて焼いた方がええよ」というもの。

[白ミル(ナミガイ)]は、まず貝を外し、ワタを取り、原則的に水管のみ湯引きして、冷水に落として、皮をむいて刺身とする。
この湯引きする、というのをやめて焼いてみろ、という意味合いだろうか。

[白ミル(ナミガイ オオノガイ目キヌマトイガイ科)]は[ミルクイ(ミルクイ マルスダレガイ目バカガイ科)]の代用品と見なされている。
これは身(足、水管)に含まれる旨味成分の少なさが原因とされて、一段下手のものと見なされているわけだ。
ゆでると、少ない旨味成分をわずかだが失うのではないか? だから焼いた方がいいといっているように思える。

ここで[白ミル(ナミガイ)]を焼くとは、本当に塩焼きにするという意味かもしれない。
もしくは我が家でときどき作る[白ミル(ナミガイ)]の干物だって、焼くことでは変わらない。
「おおい、漁師さんで匿名さん、もっと詳しく説明してくれ」

とりあえず貝殻から外した水管とその周辺部を、直火であぶる。
急速に炎のなかで熱を通して、冷水にとり皮をむく。
水分をよくよく拭き取って、さて刺身に造る。

味はよくなったのか、久しぶりに本わさびをすって、うやうやしく食べていると、確かに確かに旨味・甘みが強く感じられる。
しかも食感すらもよくなっているのだ。
冷やした一ノ蔵特別純米がうまい。
これからはゆでるのではなく、焼くのだな、得心する。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ナミガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/oonogai/namigai.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ミルクイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/mirukui.html
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http://www.zukan-bouz.com/index.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 函館本線室蘭鷲別の駅近くには室蘭魚市場、青果市場があり、その周りに一般人でも利用できる2つの市場がある。
 まことに素朴で、観光化されていないところで、市場好きには堪えられないところだ。

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日の出町共同売場は観光地化されてなくて、素朴で、しかも暖かい

 そのひとつ日の出町共同売場内『味丸 氏家食品』で見つけたのが「鰊漬」だ。
 ニシンの漬け物というと、会津若松などでつくられるニシンの酢漬けなんかが思い浮かぶが、北海道のものはより漬け物らしくて、主役は身欠きニシンではなく、野菜となる。

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 主役がキャベツというのがいい。明治になって北海道の開拓が始まったとき、いち早く西洋野菜の栽培が行われた。
 ジャガイモ、ニンジンにキャベツ。
 だからキャベツはまことに北海道らしい野菜に思える。
 大根とニンジンと切り昆布がきて、もどした身欠きニシンが切り込んである。
 白く点々と見えるのが麹。
 すなわち北海道のニシン漬けとは、身欠きニシンと野菜の麹漬けなのだ。

 麹からの甘みとキャベツの甘み、ほんのり昆布の旨味があって、そこに身欠きニシンの旨味と微かな渋みが加わっている。
 どこかまったりして円やかな、のどかな味わいがする。
 旨口のぬる燗の日本酒にもってこいの味ではないか。

 蛇足になるが、ニシン漬けはばくばく食べられる。
 まるでサラダを食べているようだ。

日の出町共同売場 北海道室蘭市日の出町2丁目
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ニシンへ
http://www.zukan-bouz.com/nisin/nisin.html
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 室蘭生まれの伊藤裕行さん、宮森水産の女将さんから聞いたお話で、もうひとつ面白かったのがカレー。
 室蘭から苫小牧は全国有数のホッキガイ(ウバガイ)産地で、サラガイ(白貝)はその副産物に過ぎない。
 しかし副産物なのに、こんなにうまくていいんだろうか。
 本当に白貝ってやつはすごい。
 すごいついでにカレーの話。
 伊藤さん曰く、この辺りではホッキでもカレーを作る、だが断然白貝の方が上だ、という。
「白貝の方が旨味が出るというんでしょうか、カレーがまろやかな味になるんですよ。ボクらホッキだって、なんだっていいんだけど、やっぱりカレーは白貝ですね」
 作り方は肉の代わりに剥いた白貝。
 野菜と一緒に最初から炒めて、野菜が柔らかくなったら市販のカレールーをとくだけ、なんだという。
 そこで中央沿線帰り道、白貝カレーのためのルー探し。
 振り出しは日本橋三越、いろいろあるけど全部ダメ。
 新宿伊勢丹もダメ。
 三鷹駅構内クイーンズシェフもダメだな、と思っていたら。
 片隅にあったのだ、これだと思うカレーが。
 じゃじゃっっじゃーん、それはですね、グリコワンタッチカレーなのですよ。
 貝の味わいを殺すようなやりすぎスパイスが入っていない。
 味のバランスが抜群にいい。
 なによりも子供でも食べられる。
 それなら何も中央沿線途中下車しなくてもいいじゃない、と思われそうだが、あれこれ、それなりに考えての結論、その過程は苦難の連続であった。
 そういえば、最近ご当地の海産物を使ったカレーというのがあって、いろいろ工夫の跡が見える。
 でも全部失格。
 どうしてこのようなことになったかというと、カレーにこだわり過ぎているからだ。
 サザエ、カレイのカレー、ホッキガイ(ウバガイ)、どれを食べてもろくなもんじゃない。
 海産物を使ったカレーは普通でいいのだ。
 平凡だから海産物本来の味わいが生きてくる。

 それに、伊藤さんとか北海道で育った人が、子供の頃から食べていたカレーなのだから、カレールーはいたって平凡なものだったわけでしょ。
 それがうまかったという、その素直な気持ちが正しいのだよ。
 グリコワンタッチカレーとジャガイモ、ニンジン、タマネギだから、平凡すぎるくらい平凡だよな。
 非凡なのは肉ではなく白貝(サラガイ)のむき身だというだけ。

 さて作ってみたら、お、お、お、これは本当にうまい。
 とてもうまい。
 ライスカレーがこんなにうまいものだった、とは久しく思わなかったこと。
「今日のカレーは肉じゃないの」
 不満そうだった子供たちが、夢中で食べる。
 面白いことには優等生的なグリコワンタッチカレーの味に、しっかりと白貝の旨味が感じられる。
 その上、煮込んでしまったにも関わらず、白貝は柔らかいのだ。
 結論めいたことを改めて書いておくと、貝を使ったカレーのルーは平凡なものが向いている。
 平凡に徹するべし。

白貝カレーの作り方
1 白貝をむき身にする。薄い塩水で洗っておく。
2 むき身は2等分にする。
3 ジャガイモ、ニンジン、タマネギのサイコロと白貝を炒める。
4 水を加えて、ジャガイモが柔らかくなったら、ルーを溶き入れ火を消す。
注/白貝カレーのカレールーはなんでもよろしい。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サラガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/nikkougai/saragai.html
八王子市場案内へ
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑
http://www.zukan-bouz.com/


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 北海道室蘭市室蘭魚市場は楽しかった。
 市場が楽しかった上に宮森水産の伊藤裕行さんにお会いでき、しかも地元の話をたっぷり聞かせていただいた。
 室蘭生まれの伊藤さん、宮森水産の女将さんから聞いたお話で、意外で、また思っても見なかったサラガイ料理があって、それが野菜炒めだ。
 伊藤さんによると至って平凡な家庭料理だけど、なかなかうまくて、毎日食べても飽きがこないのだという。
 サラガイはぬたにしたり、刺身で食べたり、なめろうにしたりとクセのない貝なので、料理を選ばない。
 酒蒸しにしても、味わい深いのは、いいだしが出るからだろう。
 野菜とサラガイのだしを絡めるように、ささっと野菜炒めを作ってみよう、そんなことを考えて歩いていると、「おお! なぜか中華『さくら』の前に来ていた。
 この店の野菜炒めは絶品、すごいのである。
 野菜炒めで感動できる店なんて、多摩地区広しといえども、『さくら』以外には考えられない。
 店をのぞくと、まささん、お母さんが麺の仕込みに急がしそうだ。
 まあ、人が忙しいことなんてどうでもいいことなので、前を通りかかったついでに白貝の野菜炒めを作ってもらう。
 むき身を手渡し「野菜炒めを作ってよ」とお願いすると、
「丸のまま入れるの。野菜炒めじゃない方がいいんじゃない」
 困ったことに別の料理を作ってしまいそうだ。
「野菜炒めを作ってね。普通のヤツね」

 まささん、いやいやながら、白貝をむき身丸ごと放り込み、ささーっと野菜と炒める。
 野菜はキャベツ、セロリ、もやし。
 味付けは塩こしょうと、『さくら』特性のたれ。
 作る時間はほんの数分。

 なんともあっけなく出来上がった野菜炒めだけど、困ったことに味は名状しがたい。
 うますぎるのだ。
 まささん曰く。
「オレの味付けがいいからうまいんだ」
 こんなことを言ってくれるが、明らかに間違っている。
 今回に限り、まささんの腕が3割、白貝の味のよさが7割で、このウルトラうまい野菜炒めが出来上がったとみるべきだ。
 サラガイのよさは、熱を通してもあまり硬くならないことだろう。
 炒めるそばから旨味がにじみ出て、しかも、それなりに炒めているのにむき身は程よく柔らかい。
 塩こしょうが中心となって、酒、醤油などが少々混ざっているのだけど、サラガイの旨味と相乗効果しているようなのだ。
 この炒めて、にじみ出てきた汁のからんだ野菜がまたうますぎる。
 たぶん、ご飯と一緒に食べたら最高なんだろう。
 朝ご飯をすましてきたことに強い後悔の念が浮かんでくる。

 さて、サラガイの入荷が続いている。
 当分の間、我が家で白貝の野菜炒めが続きそうだ。

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