魚貝類を探す旅: 2006年1月アーカイブ

 知らない街を歩く、しかも灯ともし頃である。この時間帯が街歩きには最高なのだ。寒風、灯りをともし始めた家々の情景が摩耗したオヤジの頭脳に少しだけ残っている繊細な感受性を生き返らせる。オヤジの頭脳にあるのは常に寂しさ、悲しさである。こんなことを思って今日のニュースのライブドアや伊藤公助なんてオヤジのことを考えると、この悲しさ寂しさを知らない大バカ野郎ではないかと思ったりする。だいたい正しいオヤジが求めるのは真の癒しであって欲しい。愚かな自己顕示欲や醜さが露出したものではない。おっと、言葉の寄り道をしてしまった。歩いているのは向島の生活感あふれる通りなのだ。

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 さて、曳舟駅からかなり歩いただろう。すっかり日が暮れて「曳舟たから通り」は闇に包み込まれている。肉屋、居酒屋、そば屋などがぽつんぽつんと灯をともして明るい。それでもこの通りは暗く寂しい。そんなとき左手に小さな公園が見えて、その奥に続く目映いばかりの明るい一筋の道。野にあって「ポランの広場」を見つけたような気分である。この明るさは永井荷風の墨東ではない。道は狭くて自転車と人が出たり入ったり、人のぬくもりが感じられて賑やかだ。これが「キラキラ橘商店街」であるらしい。
 古めかしい瀬戸物屋がある。向かいは八百屋、そして薬屋と続いて豆腐屋となる。豆腐屋の先に「かまぼこ 大国屋」という練り物を売る店があり、店頭でおでんを売っている。下町で練り物の店、店頭でおでんというのは決まりものであるらしい。お総菜を売る店が多く、見ていると空腹であることを思い出す。

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 自転車、行き交う人が多く、立ち止まることが出来ない。そんなとき人だかりのする店をみつける。これが魚屋である。庇の上の「青木鮮魚店」の文字が薄汚れていい味を出している。

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青木鮮魚店の活気はすごい。若者よがんばって欲しい

 ここで魚を売るのは二十歳代ではないかと思われる若者だ。この若者がおばさん、おじさんと絶妙なやりとりを繰り広げている。その先にも魚屋、魚屋。ほんの50メートル足らずの間に魚屋が3軒もある。曳舟駅から何軒の魚屋を見てきたことか? 多摩地区では個人営業の魚屋をほとんど見かけなくなっている。さすが下町ではまだまだ魚屋が健在である。

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キラキラ橘商店街には魚屋が多い


 通りのなかほどだろか? 雑誌などでたびたび紹介されているコッペパンの「ハト屋」を見つける。黄色い上下を来たおじいさんと、真っ赤なジャージーのおばあさん。おばあさんはしきりに焼き鳥を子犬に食べさせようとしている。コッペパン120円を5つ買うと、「2つと、3つを別々に袋に入れておきますからね。そして(パンの入った紙袋を薄いビニール袋に入れてビニール袋を結びながら)パンが残ったらまた、ビニールに入れて必ず袋を結んで置いてね」という。この日常的な会話がいい。

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この不思議な絵がいいんだろうな。これがビルになったらどうしようもない

 昼食抜きで歩いているのと厳しい冷え込みで頭がクラクラしてきた。ここでラーメン屋でもあるといいのだが、と通りの端まで行ってもめぼしい店はない。ここに天ぷらとうなぎの店があるが敷居は高そうだ。うなぎ屋に隣接して佃煮屋があった。ここの佃煮もこんど買ってみよう。商店街の端にある店、そこにいた女性にこのあたりの事を聞いてみる。通りを抜けた広い道路が明治通であること、また商店街のことなど熱心に教えてくれる。「ありがとうございました」、と感謝するとともに下町の女性は魅力的だなと頭がポヤ〜ンとする。突然、こんなところに住みたいなと痛切に思う。

 仕方なく通りをもどって、持ち帰りの天ぷらの台を置いたそば屋「五福家」に入る。ここでたのんだカツ丼にがっかりして、また通りを歩く。

「五福家」にいて感じたことは「キラキラ橘商店街」は明らかにお総菜を売る店が主流なのだ。この、そば屋自体が店の前で天ぷらを売っていて、店内で食べる客は他にはたった一人。
 路地の奥にある肉屋さんでは牛煮込み、シュウマイやキムチを売る店。しかし歩き疲れたなと見ると店頭でモツ焼きを売っている店、その奥でいっぱいやっている。入りたいなと思うが、ぎりぎりのところで我慢した。また来るつもりだ。いっぱいやるのは先送りである。
 かなり歩いた。疲れて、とぼとぼと「曳舟たから通り」を東武曳舟駅にもどる。途中、「浪花屋」で鯛焼きを5つ買う。旅はここで終了。
 東武曳舟駅4番ホーム、入ってくる電車は半蔵門線直通である。


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 仕事が早く終わるのはうれしい限りである。でも真冬の夕闇迫る4時ともなると忙しい身には無駄歩きしていいのか、考えてしまうのだ。神保町をそぞろ歩き。アクセスで地方出版物を見て、半蔵門線に下りる。東京駅まで行こうと思ったら「南栗橋行き」なのだ。いったい南栗橋ってどこなんだろう? 考えている内に大手町駅を過ぎている。白川清澄、住吉、押上と来て、次が曳舟である。

 曳舟っていいなと思ったので下りてみた。ここは隅田川の底をトンネルで抜けて向島である。4時を過ぎると夜はどんどん迫ってくる。駅の周辺をとりとめもなく歩く。立ち食いそば屋、昼飯抜きである、うまそうだ。回転寿司、ラーメン屋、そんな商店街に見える通りを多分隅田川に向かって歩く。そこで見つけたのが、佃煮屋である。真新しいビルの1階ではあるが香ってくる匂いに引かれるものがある。斜めに垂らした大きな紺染めの布に『鮒源』とある。曳舟に来て最初にここに入ったのがよかったのだ。雑魚、ハゼ、あさりにカツオの角煮、いかあられ、富貴豆。豊富な品揃えから「いかあられ」、「アサリ」、「しいたけ昆布」を買い求める。これで1480円である。

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 この『鮒源』の店主と女将さんはいたって下町風。ざっくばらんに曳舟に来てしまった話をして、このあたりで昔ならではの商店街を探していることを話す。そこで教えてもらったのが「キラキラ橘商店街」。「でも、ここから20分くらいかかるよ」というので考えてしまう。夕闇は迫り、自宅にはやらなければならないことが目白押しなのだ。それでも西に沈み行く夕日を見て、とても無味乾燥な多摩地区に帰りたくなくなるのだ。

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 とぼとぼと歩く内に踏み切りに出る。カンカンとなるのに一向に遮断機は下りてこないので線路沿いから駅に止まる電車を撮影する。これが京成曳舟線である。渡って向こうにイトーヨーカドーが見える。これを嫌って右に曲がると懐かしい、しかも心温まる商店街に出る。

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 左に風呂屋の日本建築、そのまま進むと『青木豆腐店』。

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 右を見ると泣ける情景が目に飛び込んできたのだ。『魚要』という魚屋さん、奥では食卓を囲む家族。懐かしいな。ほんの昭和40年(1970)代くらいまでの商店街では店の向こうが茶の間であったのだ。我が子供の頃も決して店の前から食卓は見えなかったが、よくお客さんは食卓の側の土間まで入ってきた。

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 その魚屋を過ぎるとまたまた豆腐屋、『平井豆腐店』。ここで「キラキラ橘商店街」の位置がわからなくなる。仕方がないので道行く老婦人に聞くと「遠いんですよ」といいながら教えてくれる。、また進む道は「曳舟たから通り」と言うらしい。
 その通りに井戸水をくみ上げるポンプを修理している男性、お婆ちゃんがいる。どうもここでは飲み水ではないだろうがこれが現役で動いているのだ。進む内にどんどん夕闇は濃く深くなっていく。そして左に公園があり、通りを隔てて右に「キラキラ橘」のイルミネーション。でも右の通りは暗闇に沈む。
 そんな公園の左にきらきらと細く明るい通りが続いている。こんな明るさはまるで石川啄木が見た神楽坂の光景に近いのではないか。(次回に続く)


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 もうかれこれ20年以上、床屋は日本橋室町に通っている。どうしてか? それは安くて早くて、居心地のいい床屋だからだ。我が街、神保町から日本橋はすぐそこ。無駄歩きとまでは行かないが、ほんの少しお散歩気分になれる。

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 年明けの5日、都心まで来たとはいいながら、まだまだ仕事があるわけもなく、ほんのわずかな雑事をこなして、すぐに神保町に渡る。これがアリ地獄のごとく罠の多い誘惑街なのだから、はまるわけには行かない。それで靖国通りを地下鉄に急ぐのだが、神保町に踏み入れた途端、『慶文堂』でつかまってしまった。大阪道修町の資料を見つけ、ついでに佐渡の民俗の本。これで2700円なり。無難な大雲堂で800円なり。もう3500円が消えてしまって、地下鉄を降りたときには後悔しきり。

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 半蔵門線三越前に出て、気になっていたことを確かめる。それは日本橋で一番好きな場所が見あたらないのだ。場所というのも変だが、銀座線三越前駅の神田寄りに不思議な出口があり、それが迷路のような、またそこだけが昭和大正の趣にあふれた異空間なのだ。いつも急ぎ足なので素通りしてしまっていたが、やはりない。そのあたりは、なぜか通路が奥まで広がり、なんだかやたら明るい。しかもこんなところにam-pmが出来てしまっているのだ。あの古めかしい、昔の銀行に迷い込んだような出口は跡形もない。「お〜い、どうしたんだ、我が日本橋は?」。
 仕方なく地上にでると、どうして彼の空間が失われたのか、一発でわかる。まるで不細工なデカイだけの今風の高層ビルがそこに建っているのだ。

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バカ野郎な建物。こんなもの作るヤツは嫌いだ

 トントンと床屋の階段を下りて、2400円なりで整髪。今日は耳のご不自由な方に丁寧に無精ヒゲまで剃っていただいて寒空の日本橋方面に歩く。
 新年でイルミネーションがやたらに似合う三越本店。その斜め横に「越後屋」というとってつけたような建物がある。入ってみると天井ばかり高くてなんにもない。なんだこれは、バカやろうとすぐに飛び出してくる。中にはお土産らしいものがほんの少し並んでいるだけ、これが高い。そしてレストランもあるがこんなところで食えるかという居心地悪そうな店。この空間もったいない。落語家の垂れ幕があるくらいだから、落語でも聞かせてくれるのだろうか。毎日、ずーと落語をやってくれないかな。それならいいぞ、ここ。

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越後屋の内部。なかはがら〜んとしており、つまらない

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意外に面白いのが三越本店。また、この本館は美しい

 裏路地に入って、懐が寂しいので立ち食いそば。この『吉そば』いい味である。乾物の『八木長』を超えて日本橋を渡る。この高速道路をどける計画があるというが、はやくどけてくれ。まったくこんな無粋なモノ作ったのは誰じゃ。渡って『栄太楼』の前を通り、八重洲口北口にいたる。このところ東京駅は工事ばかりしている。北口は工事現場そのもので鉄の塀沿いに構内に入る。自動改札口を出ると無駄歩きは終わりなのだ。


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