魚貝類を探す旅: 2007年8月アーカイブ

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 遅ればせながら土曜日の船橋からの市場便り。千葉県にはいくつも市場があるが、船橋がもっとも規模が大きい。なんと県庁所在地メガロポリスの千葉市の中央卸売市場よりも船橋の方が活気もあるし、仲卸の数も圧倒的に多い。当然全店舗見るのは大変である。しかし、見応えは充分と「疲労の元は取れる」と言っておきたい。

 船橋の市街地にほど近い市場に到着したのが7時過ぎ。当然相対取引、大物の競りは終了した後。のんびりと仲卸の店を見て回る。

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 残念ながら猛暑とお盆明けで荷は少ない。それでも船橋ならでは三番瀬のアサリやホンビノスガイ(白はまぐり)、サルボウ(小赤)があるし、今では日本一とも言えそうな東京湾のスズキがある。

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北アメリカ原産のホンビノスガイ。今では東京湾奥では名物となっている。船橋では「白はまぐり」

 また船橋の凄いところは築地に負けず劣らず陸送(よそからの魚貝類)でもいいものを持ってきているところ。これがお盆明けか、と見疑うようなイワガキもあるし、富津あたりのだろうかマコガレイもある。マアナゴが多いのも内房ならでは。

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 通路から通路に抜ける間だが薄暗いので、なんだか仲卸の店、そして店の空間に趣を感じる。その奥で新子を卸す人、アサリをむいている人。マグロ屋は白熱灯を多用しているので場内に浮かんでいる夜店のように思える。

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 土曜日のせいだろうか? 一般客をにらんで小分けにした魚や、半身売りが目立つ。ボクにも盛んに声をかけてくる。
「おにいさん(オジサンだけど)、マグロ買ってかない。これ一本どう、500円。今なら二本で800円でもいいよ。ダメ、ダメなら三本で千円よ。買ってかない」
 冷凍メバチだろうけど場内のマグロ屋の一般向けのパックや柵が築地よりもかなり安い。マグロ屋には明らかに一般客がついている。
 一時間ほど行ったり来たりして、やっぱりお盆明けで魚貝類の品薄なのにがっかりする。船橋名物とも言える竹岡や富津からの地魚がない。また思い切った高級魚も見受けない。

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 船橋中央卸売市場に目立った特徴はない。それを敢えて探すと貝に行き当たるだろう。市場のそこここで貝を剥いている。また貝を中心にしている店もある。これなど八王子魚市場内にありながら船橋が本拠地の源七にも言えることだ。他には船橋は寿司屋の多いところで味もいいという。そんな寿司屋に卸しているのが、場内の仲卸。新子(こはだ、すなわちコノシロの稚魚)、新いか(コウイカの子供)が目に付いた。また新子を卸しているのを見て思わず買って帰りたくなってしまう。

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 たくさんのマグロ屋、魚屋、惣菜屋のなかで一軒だけ、淡水魚を扱う「鶴長」が目を引く、4人の職人さんが膨大な量のウナギを一気に割いていく。また仲卸の店では焼いて蒸して、白焼きに、またタレをくぐらせた蒲焼きなども販売している。この白焼き、蒲焼きはうまい。ボクがお勧めの船橋土産である。

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 仲卸でもひっそりとした一角で男性が新子を女性が「小赤」を剥いて割いている。「小赤」というのはサルボウのことで剥いて開いたものを買ってきた。これを自宅でササッと洗って刺身にする。

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 今回は日曜日に大きなデータ処理、改訂があるということで、剥き「小赤」と活けのスズキだけを買ってきた。これが絶品である。

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 船橋に来るたびに思うのは、江戸の食文化を残す築地、そこにあってもっとも大切なものは一般には見えない「小技」ではないだろうか? 例えば新子を割いたり、またアカガイを剥いて「良し悪し」を見たり、はたまたマアナゴの首根っこをつかんで締まり具合を見たり。そんな見えない食文化が築地移転のよって「消え去る」かも知れない。その「小技」が産地でもある東京湾湾奥の船橋に残っている。もしも東京都が築地移転なんて暴挙をやらかすと「江戸の食文化がここだけに残存することになる」かも。船橋の江戸前「小技」の継承者達よがんばって欲しいものだ。

船橋中央卸売市場
http://www.city.funabashi.chiba.jp/ichi-kanri/index.htm


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遠くに末広大橋が見える

 徳島市はこの国でも屈指の大河吉野川、勝浦川、鮎喰川などが紀伊水道に流れ出るところで、改めて地図を見ると、それこそ川に浮く都市なんだなと思う。その前海は河川の吐き出し口だから大量の栄養塩類が流れ込み魚貝類豊富なところだ。
 その徳島市の中心からほど近くにあるのが津田港、徳島漁業協同組合だ。ここから紀伊水道に底引き網で出船している。
 漁獲されるのはハモ、マアナゴ、サワラ、「ちぬ(クロダイ)」、スズキ、「ぼうぜ(イボダイ)」、タチウオ、カワハギ、マコガレイ、ヒラメ、シリヤケイカ、ガザミ、クルマエビ、クマエビ、小エビ類(サルエビ、トラエビ、ヨシエビなど)など多彩。なかでも徳島のハモは京阪神では最上級品とされる。

 7月12日、徳島中央卸売市場をのぞき、市内観光をして昼過ぎに徳島県水産課の里さんに水揚げを見に連れて行っていただいた。徳島市津田は徳島駅からもほんの30分ほどの距離。新町川、園瀬川、勝浦川に浮かぶのが津田島(今では単に市街地)である。

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 津田港に到着したとき、すでに水揚げは始まっていた。次々に着岸する底引き船。その前面に見えるのは市内を流れてきた新町川の河口に当たる。

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アカエビとトラエビ

 まず、目に付いたのが小エビ類。アカエビ、トラエビ、サルエビ、そして「足赤(クマエビ)」、ヨシエビ。以外にシャコが少ない。

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 大型のガザミが揚がっている。漁協の方が大型のガザミが抱卵しているのを見つけると甲羅に「2(漁協の番号)」と書いている。これを海に帰してやるのだ。これは資源保護のためにも、また外子を持ったガザミは味わいからするとけっしてうまいものではない、ということからも合理的だ。

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 マエソ、マルアジ、「ちぬ(クロダイ)」、スズキ、メイタガレイ、マアナゴに名産のハモ。タチウオはまとまった水揚げとなっている。
 ハモは慌ただしく奥の生け簀に運ばれる。これが京阪神に送られて夏の味わいである「牡丹鱧」や「鱧ちり」になるのだろう。
 この日、探したのが「ぼうぜ(イボダイ)」である。これがまったく見つからなかった。気になって、帰宅後、里さんに水揚げされる魚種を問い合わせるとやはり「ぼうぜ」は多いようである。この魚、徳島の郷土料理「姿ずし」に使われる。
 台風4号の接近で水揚げは決して多くはない。また魚貝類の種類もいつもより少ないようだ。

 水揚げされるものは岡山など瀬戸内海で見たものと魚種的にかわらない。小エビやクマエビ、シャコ、カニ、マアナゴなど。これら沿岸の魚貝類は料理法によっては美味極まりないものとなる。これが県庁所在地、市街地といえそうなところで揚がるということ。しかも朝と昼の2回の水揚げがある。昼揚がる魚貝類などまだ生きているような状態で市内の魚屋、スーパーなどに並ぶ。これなら岡山県日生、兵庫県明石など瀬戸内海の小魚によって観光地となった先進地にひけをとることはないだろう。そう言えば日生といえばマガキで有名なのだが、徳島にもマガキはある。徳島市も明石などを見習い、地ものの魚貝類を観光客などに積極的に売り込むべきだ。
 例えば、ボクなど徳島出身とはいえ今ではただの観光客に過ぎない。そんなボクが今すぐにでも欲しいのが地ものの魚が手に入る店、また食べられる飲食店の地図やリストだ。たまたま観光に来たとして、地ものの魚貝類を期待して料理屋などに入る。そこで甘エビなどが出てきたら、それこそ死ぬほど後悔することになる。対するに水揚げされたばかりの小エビの天ぷらが、「ちぬ(クロダイ)」のお造りが何気なく出てきたらワクワクするだろうね。もう一度来たくなる。自治体の水産担当者の方に期待するのは、こんな観光客への親切心なのだ。

 水揚げを見ていたら、「ウミガメがのっているようです」と里さんから声がかかる。その船の船長さんにことわって船の艫(後方)に走ると、大きなアカウミガメがじっとうずくまっている。その目がどこか不安げである。これは後ほど沖合まで運び逃がしてやるのだという。

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 水揚げを見ていたのは小一時間ほどだろうか? いかんせん帰郷の途中である。故郷には年老いた父が待っているので、午後3時には津田港を後にする。次回はもっと時間をとって見学したい。また底引き網にも乗船したいものである。

徳島市漁業協同組合
http://www.e-osakana.jp/01toku/index.asp?s=0&z=0
「漁師さんが選ぶ!旨い魚たち」
http://www.pref.tokushima.jp/generaladmin.nsf/topics/13C8210F531DFC7B49257243002A74EA?opendocument


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 各地の中央卸売市場で見逃してはならないのが関連店舗である。各地の中央市場を歩くと飲食店・食堂、酒屋にディスカウントショップ、ぜんぜん食品とは関係のないダンス教室やヨガや指圧、はたまた薬屋さんや郵便局など様々な店舗・施設が見られる。それがまた個性的で面白いのである。しかるに徳島中央卸売市場にあるのはいたっておとなしい店舗ばかり。見た限りでは薬屋さん以外は総て食料品関連。

 特に目立つのが練り製品を扱っている店舗。関東での薩摩揚げ(さつまあげ)は徳島を含む関西文化圏では「天ぷら」と言う。その天ぷらの徳島での基本形は上天という平たいのもと小判型のものである。

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 そこに徳島ならではという竹ちくわと魚カツがどの店にも山積みになっている。

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魚カツは魚のすり身にカレー味をつけてフライにしたもの。丸、楕円、四角がある

 そして赤板だ。これは要するに赤い蒲鉾なのだがどこかしら関東の紅白蒲鉾の「紅」よりもマゼンタが薄い。まさに桃色の蒲鉾なのである。これを安っぽい蒲鉾などと簡単に思われると困ってしまうのだ、徳島県人は。なぜならば徳島うどんはこの赤板なくしては「徳島うどん」とならないからである。店先に並ぶ赤板の量に徳島うどん健在の証を見るのである。

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子供の頃、これを「いたつけ」と呼んでいた。今でもそう言うのか確かめられなかった。小田原などで作るものよりも甘口で足(弾力)が弱い

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 乾物の店も多く、目立つのは鳴門ワカメである。鳴門ワカメといっても他県や輸入ものを加工したものもあるが、ここには地元のほんまもんがあるはずである。岡山中央卸売市場で見たと同様にここにも「でべら(タマガンゾウビラメの乾物 広島県尾道産)」はある。これは明らかに瀬戸内海的な産品であるというのを知って置いて欲しい。
 板東商店などには小松島や阿南などでのちりめん(関東でのしらす干しのよく乾いたもの)、干しエビが何種類か置かれている。この小松島のちりめんは京都などでもっとも高価に取り引きされるもの。炊きたてのご飯に山盛りにのせてスダチを搾るというのが、ちりめんの徳島風食べ方である。

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 また沖州市場を特徴づけるのが肉屋の少なさだろう。青果、水産とあっても精肉などの卸は数店舗あってもしかるべき。それが一店舗しか見つけられない。またコロッケなどの揚げ物を売る店が一店舗。

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 菓子や弁当、パンなどを扱う仲卸も一軒みつけた。そこには徳島ならではの生姜風味の焼き菓子、おへぎ(おかき)、ういろうがある。この蒸し菓子のういろうも徳島のものは独特の素朴な味わいのものだ。また眉山名物の「滝の焼き餅」を思わせる和菓子もある。

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阿波の焼き菓子というのも徳島ならでは。生姜の香りのする素朴なお菓子で、これを食べると祖母を思い出す

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徳島のういろうはとても素朴なもの。小豆の風味があって美味。ボクはこれが大大大好きなのだ。

 この食料品売り場を歩きながら疲れからか立ちくらみがする。そこで市場の薬屋で250円なりの栄養ドリンク。姫に「お父、がんばれよ」と言われて、市場を後にするのだ。

徳島中央卸売市場 徳島県徳島市北沖州4の1の38
http://www.city.tokushima.tokushima.jp/chuo_ichiba/index.html
徳島大水魚市
http://www.tokushima-daisui.co.jp/
徳島魚市場
http://www.tokushima-uoichi.co.jp/


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