魚貝類を探す旅: 2008年2月アーカイブ

 最近では時期になって初めてホタルイカを見かけるのが冬となっている。そして産地は兵庫県浜坂もしくは鳥取県岩美町網代港である。なかでも目立つのが『浜勝商店』のもので、これはデザイン性が高いだけでなく、品質も高いからではないかと思っている。ということでボクの場合ももっとも初期にホタルイカを買い求めるとしたら『浜坂商店』のものである可能性が高い。

 長閑な朝で、さて、『浜勝商店』にもどると、ぜひとも見たいと思っていたのが、ホタルイカの塩ゆでである。山陰のホタルイカは富山のものとともに大量に関東の市場で見かける。その多くがゆでたホタルイカで市場では三連のケースに収まっている。
「ホタルイカの塩ゆでを拝見させてください」
『浜勝商店』の浜田社長にお願いする。

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 加工場に入ると、なかではハタハタの干物などを作っていた。
 工場内はちりひとつなく、床もきれいに磨き上げられている。働いているオバチャンたちも楽しそうだ。

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 そのいちばん隅にホタルイカをゆでる四角いお風呂ほどの釜がある。工場の方がコックを持って、じっと待っているのは、ホタルイカをゆでるに最適な温度になるのを待っているようだ。
 かたわらには大きな四角いバスケットに入ったホタルイカ。
 十九百さんが、
「まだ少ないけんね。こうやって人がゆでるんですわ、最盛期になると機械に変わります」
 ゆでるタイミングを待っている方がゆで汁をなめてみろと差し出す。
 塩分濃度は思ったよりも低く、飲んで塩辛いというほどでもない。むしろゆで汁から出来上がりのゆでホタルイカの味が想像できる。

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ゆでたホタルイカはできるだけ早く冷やす

 沸騰してきた釜にホタルイカを入れる。時計を見ながら、ホタルイカをゆで汁に沈めて、たぶん数分で、こんどは氷水にとる。
 これをザルに上げて出来上がりなのだけど、ここからホタルイカモドキなどを選別してケースにのせる。
 ホタルイカをゆでるときには塩だけではなくアミノ酸など調味料を使っているのではないか、勝手にそう思っていたが、使っているのは塩のみ。添加物無しの加工品であるのがわかる。

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茹でたてのホタルイカ。ぷっくり膨らんでいる。

 ゆで上げたばかりのホタルイカモドキとホタルイカを食べてみる。ともに茹でたてで非常にうまいのだが、ホタルイカにあって、ホタルイカモドキにないものは唯一旨味の濃厚なワタである。けっしてホタルイカモドキがまずいわけではないが、十九百さんは「これがないとダメなんです」と言う。

 ホタルイカをゆでる工程は単純極まりないもの。しかし塩加減、ゆで加減は非常に熟練をようするものだと思える。また2月のホタルイカは最盛期の2倍以上する高級品。でも漁獲量が少ない分、手仕事で仕上げられているという付加価値もある。

 事務所では奥さん(浜田末子さん)が「ばばちゃん(タナカゲンゲ)」の卵料理を作ってくれて待っている。口の中に残っているホタルイカの旨味を感じながら工場を出る。

鳥取市岩美町浜勝商店
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鳥取県岩美郡岩美町
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 風もなく長閑な朝で、日差しが柔らかい。「いい天気ですね」、のんきに十九百さんに話すと、
「明日から海が荒れてくるようです」
 まさかと思うほどに港から見える沖合は波がない。これから向かう島根は大丈夫だろうか?

『浜勝商店』の建物の前に直売所がある。
 港から、ここまでは指呼の間にあって、さっき競り落とした魚貝類がもう到着している。
 建物に入るとまず目に飛び込んでくるのが大量の「松葉がに」である。

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 この台に乗っているのは比較的お買い得品ばかり。小振りの「若松葉(脱皮したばかり)」なら1ぱい1000円ほどで買える。それに立派な「松葉がに」でも5500円は安いな。ちなみの、この格安なものに加えて、水槽には2キロを超える大物で1万円を遙かに超す高級なカニもある。
 店頭を見ると冬の鳥取はカニだらけなのだ、と改めて思う。

 十九百さんが小振りで赤味を帯びたカニを持ち、
「競り場で話した“ももちゃん”というのがこれですね。ツメがまだ小さいし、ちょっと赤いでしょう。“松葉がに”にはなっておらんのです」

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 さて、「松葉がに」が冬を代表する味覚であるというのは全国的に有名だが、地元の人たちが、こんな高級品を毎日食べているはずもない。そんな庶民派の味覚が「白はた(ハタハタ)」だろう。
 ほどなく店に入ってきた川上寿郎さん(岩美町産業観光課で町の振興に努める)も
「“白はた”はほんまにうまいんですよ。毎日食べても、煮ても焼いてもうまいね」
 この時期大量にとれる「白はた」は干物になったり、鮮魚で出回ったりして岩美町、鳥取市の食卓をにぎわすのだ。

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冷凍庫には珍しい「どぎ」の干物もある。『浜勝商店』で作る干物類も非常に美味。当日味わった小振りのイカを一夜干しにしたものには感激した。また食べたいなー。

「松葉がに漁」の副産物なのだろう。「赤えび(関東では“甘えび”。ホッコクアカエビ)」、「しまえび(モロトゲアカエビ)」のタラバエビ課種。それに「もさえび(クロザコエビ)」、「がらもさ(トゲクロザコエビ)」が並ぶ。「もさえび」などはまだ生きていて、そのまま食べてみたいという誘惑にかられる。

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「赤えび(甘えび ホッコクアカエビ)」と「しまえび(モロトゲアカエビ)」が並んでいるのはうれしいね。でも鳥取など山陰でぜひ食べたいのが「もさえび(クロザコエビ)」と「がらもさ(トゲクロザコエビ)」。

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アカガレイに「白はた(ハタハタ)」は岩美町の冬を代表する味覚だ

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「どぎ(ノロゲンゲ)」は鍋物に汁にするのだけど、最近では関東にもお目見えしてきている。新食材として注目して欲しい

 まだ、開店前なので他にはアカガレイと「どぎ(ノロゲンゲ)」しかない。これが全部揃うと、どうなるのか見てみたい欲求をおぼえるが限られた旅の時間なので断念する。

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『浜勝商店』のラベルデザインは市場という環境からすると複雑すぎてダメなのだけど、何度も見ているとおぼえてしまうもの。現在もっともよくできたラベル。マークの丸の中は「八(8)」ではなく「ハ(は)」だ。

鳥取市岩美町浜勝商店
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 天下に鳴り響いているので、今更説明するのも可笑しいがズワイガニのオスを山陰では「松葉がに」と呼ぶ。
 岩美町はその「松葉がに」の水揚げ量では日本一なのだという。
 それが証拠に、ここ岩美町網代港、目の前には大量の「松葉がに」が置かれている。

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 水槽には関東ではあまり見ることの出来ない最上級、大型のもの。それからやや小振りのものはブルーシートの上に小山になって置かれていて、そこにはキズや指とれなどと書かれた札がある。
「大きさで10段階、汚れ、指とれ、赤、脱皮したての“若松葉”とかで状態で7通りに分かれます」
 気に掛かるのは「赤」というもの。
 これに関しては十九百さんの言葉を補足するように、通りがかりの方が、
「紅(ベニズワイ)との合いの子じゃな。ここ(ハサミを持って)が小さいだろ」
「味はどうなんですかね」
「そうじゃな。松葉よりは落ちるけど紅(ベニズワイ)よりも上じゃな」

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左下がベニズワイとズワイガニのハイブリット。

「後ね“ももちゃん”というのがこれ、ハサミが細いでしょ。まだ『松葉がに』になっとらんのよ」

「松葉がに(ズワイガニ)」の隣にはホタルイカ。まだ身は赤味を帯びていて透明感がある。
「ここにホタルイカに似ているヤツでホタルイカモドキというのがいませんか」
 十九百さんが「おるよ、探してみましょうか」といってホタルイカの発泡からすぐに一匹見つけてくれる。
「ホタルイカのなかには必ずこれがおるな」
 昔漁師さんだったという人が話しかけてくる。
「味はどうですか」
「ホタルイカの方がええね。こっち(ホタルイカモドキ)にはワタがない」

 網代港の競り場は港に向かって東西に細長く、西に向かって見て歩いている。
 そこにあったのが「本もさ(クロザコエビ)」と「がらもさ(トゲクロザコエビ)」、そして「赤えび(ホッコクアカエビ)」。

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 ホッコクアカエビは直に氷に当てない方がいいのではないだろうか? 網代港のやり方が北海道西岸と比べて雑に思える。
「“もさ”はどっちが高いんですか?」
「『本もさ』の方が値がええですね」

 大きな「白ばい(エッチュウバイ)」があって、
「これは主に関西から金沢に行きますね」
 隣に「赤ばい(チヂミエゾボラとエゾボラモドキ)」がある。
 立派なチヂミエゾボラがゴロンと置かれているのだけど、この辺りでは安いものらしい。新潟での高値からすると不思議だ。

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左が「赤ばい(チヂミエゾボラとエゾボラモドキ)」、右が「白ばい(エッチュウバイ)」。

 テナガダコにボウズイカ。ボウズイカは「びんだこ」もしくは「耳だこ」と呼ばれ、
「ほんまはイカなんじゃろ」
 荷を運ぶオバサンが呟く。

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見た目はタコだけど、イカですよー

 十九百さんは8時を過ぎて、「松葉がに」の入札のために水槽の方に消えていく。

 アカガレイが多いのだが卵巣は目立たない。

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「沖いわし(ニギス)」、マダラ、「えてがれい(ソウハチガレイ)」、「べらんす(ヒレグロ)」。
 タナカゲンゲがあって、「なまず」と箱にある。岩美では「ちょうせんなまず」、「ばばあ」とも呼ぶらしい。これは本来、漁師さんのおかずや、練り製品などに使われていたもの。

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ズワイガニ漁などに混ざってとれるもの。鍋物にして美味。

 競り場の中程に発泡の山が出来ていて、これが総て「白はた(ハタハタ)」であった。そこまで来たときに役場の川上寿郎さんがやって来た。

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 この方が「ばば」、もしくは「ばばあ」と呼ばれていたタナカゲンゲに「ちゃん」をつけて、鍋物にして売り出した張本人だ。
 初対面の挨拶もそこそこに、
「『白はた』はこの辺では刺身でも食べるんですよ」
「そうなんですか。関東では酢締めにはしますけど」
「これ(指さして)ハタハタって図鑑にはあるけど、『白はた』とハタハタは別の魚ですね。色が違うでしょ」

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鮮度抜群の「白はた(ハタハタ)」。

 関東では北海道ものも山陰ものも、東北日本海側のも総て揃った状態で見るのだけど。違いはあまりわからない。
 ここからは川上さんと競り場を見て回る。
 それにしても凄い量の「白はた」である。

 競りは「松葉がに」から始められる。一匹が1万円を超すカニの競りであるから、熱気を帯びている。それから西に西に競られていき、最後が「白はた」。

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 6時半前に到着して、実際に競りとなるまでが非常に早く。競り後の荷の片づけも速やかだ。
 ここで活躍するのがやけに肌がすべすべとしたお婆さんたち。このきれいな肌は岩美の魚貝類をたっぷり食べているためだろう。
 競りが終わって十九百さんが戻ってくる。
 川上さんに「浜勝に行きましょう」と声をかけて、十九百さんとクルマで網代港を後にする。

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鳥取市岩美町浜勝商店
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鳥取県岩美郡岩美町
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これではどこにいるのかわからない。鳥取駅前にて

 予め銘記したいのは、今回の旅の目的は「島根県の漁業を見て歩く」というもの。そこで必要なのは、「山陰」とひとくくりにされている地域をできるだけ広く探ることだ。
 そのためにはやっと作った時間を、できるだけ有効に使いたい。いろいろ考えた結果である遠路深夜バスに乗って鳥取を目差す。これは経験しないとわからないことだろうが、バスで東京→鳥取というのは凄まじく大変なのだ。肥満気味のボクには、座席がすっぽり身動きできない幅しかなく、走行中はカーテンが引かれて暗い、車内環境は最悪である。9時間近くかかって鳥取駅前にたどり着いたときには体中が痛くて、しかも睡眠不足のせいか頭がクラクラする。

 鳥取には、かれこれ20年ほど前に来たことがある。駅前は雑然としていて、北に商店街が続き、賑やかな市場がふたつあった。とそんなこと考えていても、現在時刻は6時50分。バスから降りる人以外に人影はなく、思ったほど寒くはないけれど、なんだか街が整然と硬質な感じに冷たく様変わりしている。このような地方都市の区画整理が、本当は街を寂れさせる一大原因であることが、なぜそこにいる人たち、お役人さんたちに理解できないのか、激しく著しく理解不能である。

 ここで『浜勝商店』の十九百(つづお)さんにケータイをいれる。
「10分くらいで行きます」
 ということで、大慌てで駅構内に入り、腹ごしらえできる店を探す。なにしろ昨夕の食事が、お握り一個とワンカップという寂しいもので、お腹がグウウーグウーなっている。
 駅に走り込んで見つけたのが「砂丘そば」という店。ここで天ぷらうどんを食べる。残念ながら鳥取砂丘にちなんだ店名にしては味がよろしくないな、とがっかり。
 食べ終わったとき、十九百(つづお)さんから「どこにいます」というケータイ。大慌てでバス停付近まで走る。止まっていたのは4DWワンボックス。初対面の挨拶もそこそこに、なぜか鳥取砂丘を目差す。
「せっかく鳥取まできたんなら、見て置いた方がええでしょ」
 ボクにはときどき初対面なのに古くからの友人のごとく思える人がいて、十九百さんはまさにそんな人であった。ちょっと残念なのはボクよりも痩せている。ケータイで話していたときの想像では、かなりのメタボリックだと思ったのだけどなー。
 市内から北に商店の並ぶ通りを抜けて行く。肝心の駅前市場を探すが、見あたらない。地下にあった「太平市場」の入り口には居酒屋チェーンの看板しかない。大丈夫か? あの懐かしい市場たちよ! この鳥取駅前の市場の現状は後ほど書く。

 駅から砂丘までは、あっという間の時間だった。
 砂丘というとサンドカラー(グレイ)だと思っていたらサンドベージュで黄色みを帯びている。

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鳥取砂丘は今回の旅で唯一の観光。たった数分だったけど。

 十九百さん、砂丘の向こうを指さして、
「先に海が見えるでしょう。ここはほんまにきれいなとこなんです」
 薄雲の上に青空が見える。風はなく、穏やかであるが、身が引き締まるほど冷たい。
 遠く海の向こうに岬のような場所があり、漁港らしきものが見える。あれが賀露港ではないだろうか? 賀露も鳥取を代表する漁港だ。

 鳥取の真東にある岩美町網代港までは砂丘から10分ほどもかからない距離にあった。
 まずは『浜勝商店』の方に挨拶して、網代港の競り場に。
 網代港は思ったよりも小さな港である。大阪中央市場、築地などでも「鳥取 網代港」のパッチをよく見かけるので、水産に興味があると誰でも知っている港だろう。それがこんなに静かで風光明媚であるとは思ってもみなかった。

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穏やかな網代港。ここで今回の旅の天候は間違いなく最高だ! と確信したのは大間違いだった

 競り場に入って、真っ先に目に飛びこんで来たのが「松葉がに(ズワイガニのオス)」である。水槽に、また床に直においてあるもの、箱に入ったもの、そのどれもがゆっくり脚を動かしている。
 そこに様々な札が置かれていて、「若松葉」は脱皮したてのもの。「指折れ」は脚のないもので、「1本」「2本」とこれも細かく分かれている。
 この「松葉がに」の区分がまことに細かく、その上、大きさも10段階に選別されるのだという。
 床を這っていたカニビルを手のひらにのせて遊んでいると、十九百(つづお)教授の「松葉がに」講義が始まる。

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一九百さんは島根でも有名な人だった

「指のとれたのに1本2本なんてあるでしょ。最後には『だるま』というのもある」
 網代港の競り場はそんなに広くはない。しかし、これを総て見て歩くのはたっぷり時間が必要だろう。
 十九百さんの「松葉がに講義」を含めて、お後は次回に。

鳥取市岩美町浜勝商店
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鳥取県岩美郡岩美町
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 関東で暮らしていて「うまい干物が食いたいな」と考えるとき、静岡県や神奈川県、千葉県と干物業がさかんな地域に囲まれているせいで、なかなか西日本に目がいかない。「干物の島根県」というのはもっと浮かばないだろう。また残念ながら、昨今の干物業全般が包装紙や、パッケージに様々な工夫をしているとき、山陰の干物はどこか泥臭く感じる。

 このように関東の消費者としては島根県の干物は、どうにも「沼津・小田原」ほどにはピンとこない。
 でも島根県に着いてみると、そこにあるのは大量の干物だった。その最たる地が浜田なのであり、当然干物好きとしては喜び勇んで大量買いすることになる。さて、いざ買い込む場所は『浜田市公設水産物仲買売場』である。

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市場で、こんな光景が見られるのがいい

 この『浜田市公設水産物仲買売場』の魚貝類はまことに素晴らしいの一語に尽きる。ただしこの市場には致命的な問題点があって、それは、ここがあくまでプロ相手なので、わかりやすい名前がないということ。だいたい一般の人や観光客が『浜田市公設水産物仲買売場』なんてわけのわからん名前を覚えられるはずがない。このあたりを改善して(建物はそのままでいい。照明など増やす)くれると一般客や観光客も入りやすくなる。
●注/ここは一般客も買い物ができる。ただし、注意するべきは原則的にはプロ相手なので、やや遅めの8時とか9時に行く配慮をすべきだ。売っているものは総て、いいものばかりだ。

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浜田の干物はお取り寄せできる

 そこで見つけたのが、「金太郎」、「温泉ガレイ」、「大穴子」の干物。
「金太郎」と「温泉ガレイ」は『浜崎乾魚店』、「大穴子」は『松下鮮魚店』。方や干物の専門店であり、方や鮮魚を売るかたわら、店の前で簡便に作る呈のもの。まあ魚好きが、この両店の干物を見て黙って通り過ぎることができるだろうか? 否だろうね。

「金太郎」は島根県、山口県でのヒメジの呼び名、「温泉ガレイ」というのは島根県にたくさんある温泉地の朝食用に小振りのカレイを開きにしたものであるようだ。このふたつは「のどくろ(アカムツ)」、「甘鯛(アカアマダイ)」、「きつねがれい(ソウハチガレイ)」、「あじ(マアジ)」とともに島根県の干物の代表的なものだ。
「温泉ガレイ」の味わいは平凡だが、小型のカレイ類を開きにするというのは他に類を見ない。それだけでも賞賛に値する。

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温泉ガレイというのは通称だろう? ようするにソウハチガレイ、アカガレイの小さなものを丁寧に開いたもの。子供にも、お年寄りでも食べやすい。

 対するに「金太郎」が素晴らしかった。塩加減は適度なものだし、脂がのっている。その上、なんといってもヒメジの持つ甘味を伴う風味が絶品としかいいようがない。その上、その上、その上の上、今回、大発見があって、丸干しのヒメジのワタが旨味が強くコクがあるということ。このようにワタの旨さを生臭みなく感じられるというのは原料がよほど新鮮なのだろう。

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「金太郎」は標準和名のヒメジ。焼くと脂がジュウジュウしたたり落ちる。

「大穴子」は『松下鮮魚店』の店頭に干してあった。その大きさに圧倒されるとともに値段が1本1000円というのに、また安くてビックリする。この豪快な干物に海辺ならではのよさを感じる。ちなみに『松下鮮魚店』の鮮魚が干物以上に素晴らしいものであることもつけ加える。
 この肉厚の穴子の身を香ばしく焼き上げたら、これも食べ口は上品なのに、旨味があり、みりん干しであるからつけ加えられている甘味もほどよい。これなど多彩な漁が行われる浜田に来ないと食べられないものかも知れない。

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開いて、干物にして1本1キロ近くになる。このドデカイ干物がなんと1本1000円なのだ。

 ボクも五十路になって、思ったことは、「地方(東京も含めて)は行ってみなければわからないことばかりだ」ということ。これほど島根県の干物がうまいものであるとは、思ってもみなかった。それで改めて、過去のデータを紐解くと、島根の干物に関するものは少なくなく、どれも味わいは上のものばかり。こんは「水産県島根」のイメージが薄かったためだと考えている。その内、関東でも「水産物加工がさかんな島根」というのも認識されるに違いない。

 最後に、肝心要の島根の水産加工品感を書く。日常感じるに今現在でも急速に和食文化が衰退しているように思える。そして「この国のほとんど8割方が食に無関心である」と思っているのだけど大げさだろうか? ボクには大げさどころか、「食育をさけぶやから(この多くが低級かつ愚か)の、その多くを再教育しないといけないように思う」ことからも「2割の真に食に感心あり」の比率も危ういと思っている。
 とするとボクが大好きな「泥臭さ」「懐かしさ」はある程度残しながら、今現在の食品流通に迎合していかないとダメだと思う。すなわち、「家族バラバラの食事」、また「外食でも取り扱いやすさが売りやすさに繋がっている」、スーパーで「売りやすいか(並べやすいか)」。
 これが島根県の水産加工の課題だろう。


島根県庁
http://www.pref.shimane.lg.jp/
島根県水産課
http://www.pref.shimane.lg.jp/industry/suisan/
JFしまね
http://www.jf-shimane.or.jp/


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 厳寒の夜に山陰に旅立った。目的地は島根県であるが、とにかく鳥取県を目差す。
 今回の旅はあくまでも島根県の魚貝類を見るのが目的。主題は島根県だが、予め調べるたくさんの項目があり、また東西隣接する県の漁業も見てみるべきだというのが、ボクの考えだ。
 深夜バスを降りると、思ったよりも寒くない。ここから山陰の旅が始まるかと思うと、拍子抜けするほどだ。

 この山陰到着が11日早朝、ここから夕方には島根県に入る。そして松江市、出雲市、境港市、大田市、浜田市、益田市と長い長い島根県を東西に踏破する。
 鳥取県での松葉がに(ズワイガニ)、ばばちゃん(タナカゲンゲ)、じいぼ(「ジイボ」もしくは「シーボ」と発音)というイソギンチャクなどを見て驚き。
 以後の島根に期待したら、そこは吹雪き、高波でほとんど水揚げが見られなかった。

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これが標準和名のわからない「じいぼ」もしくは「じーぼ」。ツブカゴやズワイの底引き網にはいるもの

 荒天の海を見て、「これは誰のせいだろうか?」ということでヤマトシジミさんが「ボクのせいでしょう」と言ってくれるが、どうやら「責任はぼうずコンニャクにあり」であるようだ。ヤマトシジミさんの欠点はこの優し過ぎるところ。

 それでも島根の水産物は素晴らしいものだった。
 12日、松江市内から魚貝類を見ていく。
 松江魚市場でみた宍道湖の巨大かつ美しいシラウオ、フナ(オオキンブナらしい)、隠岐産の松葉がに(ズワイガニ 島根県隠岐周辺はズワイガニの一大産地である)、サワラ、ブリ、カレイ類(ババガレイを「いんどがれい」と呼ぶのには笑えた)。

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市内で魚屋を営む笑顔が可愛い本川保成さん。

 松江市内、恵曇などの平凡な魚屋、スーパーにおかれた魚貝類の安さ、新鮮さ。これなど旅人をして、感動を呼ぶに充分だ。ボクなど松江の銘菓に加えて、水産物をお土産にするべきだと旅人にアドバイスしたい。
 また出雲市日御碕の大国紀子さん、民宿幕島の女将さんには、そぞの料理を作っていただく。これがまことにうまかったし、出雲女の魅力にも触れられた。

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これぞ日御碕を代表する美女。画像よりも実物の方がより美しい

 大社漁協でのお話しがあって、直売所を覗く。船は出ていない。
 松江市内での宴も素晴らしかったな。結論めいたことを言うようだが、松江にきたら、宍道湖のものだけではなく、豪華絢爛、多種多様な日本海の幸も食べないと損である。この豊富さ、味の良さは有名な富山をしのぎそうだ。

 13日は強行軍だった。早朝、松江市内から鳥取県境港へ向かう。
 鳥取県境港の巨大な市場のほとんどを占めているのが、隠岐をはじめ島根の魚貝類なのも大発見だった。築地などで「境港だから鳥取県産だね」なんて仲卸が答えているのが大きな間違いであるわけだ。
「境港は鳥取にあるが、並ぶ魚貝類のほとんどは島根県産」なのだと銘記されたい。
 美保関での漁師さんたちとの語らいも楽しかった。
 そこから松江市内を抜けて、出雲市を通り、懐かしい多岐を通り過ぎて大田に。和江の港では元組合長の月森さんの話が面白く、また和江で作られる「漁協かまぼこ」が知る人ぞ知る一品であることを、遅まきながら知る。この「漁協かまぼこ」の顛末は後に語る。

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夏の静かな日本海しか知らなかったので、荒れ狂う海も新鮮ではあった。ただし漁船は出られないよな!

 夜には浜田市に入る。なんと夕食は「すし蔵」という回転寿司。ここで、ばとう(マトウダイ)やミズダコの握りを食べたのだが、寿司飯のあまりの甘さ、追い打ちをかけるかのごとき醤油の甘さに八王子『市場寿司 たか』の握りが懐かしくなる。

 14日、早朝は浜田港での水揚げを見る。その量、また種類の多さには圧倒される。また、浜田の水産物を支えているのが干物などの加工業であることもすぐにわかる。懐かしい「水産物仲卸市場」の凄さも、より実感できた。これは五十路オヤジめ! と一喝されそうだが、この市場には美人が多い。この港前の市場はその内お魚好きの聖地ともなりそうだが、名前の長さや知名度の低さが残念でならない。
 浜田市内には『浜田食品市場』という可愛らしい市場があった。この市場は地元のトーボくん(さん)がいてこそたどり着けたものと思われる。ここでたくさんの発見をする。トーボくんありがとう!

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浜田では魚貝類の洪水に合う。このもの凄い量を一度経験すると島根の水産物に対する認識は変わる

 浜田の水産技術センター、漁協などに立ち寄り、興味深い話を聞いて、昼には益田を目差す。
 益田市は県ではいちばん西部にあり、静かな自然豊かな町である。市内を流れる高津川は清流日本一に輝いている。
 ここで県のトーボくん、ヤマトシジミさん、バシさん、中東さんとお別れする。
 またここで向かえてくれたJFしまねの佐々木さんには夕食までご馳走になる。

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佐々木さんにはまことにお世話になった。3月20日の「清流高津川日本一を祝う会」の成功を祈る。

 ここでちょっと話はそれるが、ボクの旅はいろんな人に迷惑をかけて、やっと成立する呈のもの。鳥取の浜勝商店さん、十九百(つづお)さん、川上寿郎さん。
 島根県水産部の方たち、JFしまねの皆さん。漁業者の方達、市場で出会った方達。
 また出雲市日御碕の大国紀子さん、民宿幕島の女将さん。
 山口県では「道の駅萩しーまーと」の篠原充さん、瀬戸内海を愛する、セトポンには萩から山口、山陽道まで送っていただいた。
 まことにみなさんご迷惑でしょうけど、ぼうずコンニャクをこれからもよろしく。また物質的な感謝はできませんが、心から、そして一生感謝致します。

 夜9時半には寂しい寂しい一両編成山陰本線で萩を目差す。ここで初対面の「道の駅萩しーまーと」の篠原充さんの家で休ませてもらい。また翌日にも大変お世話になった。萩魚市場の場長藤田さんにも感謝。
 15日には早朝に萩での水産物の水揚げをみて、篠原さんとFM萩に出演。篠原さんはラジオパーソナリティーとしても有名だったのだ。しかし初めてのラジオ出演は緊張した。

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篠原さんのもうひとつの顔はラジオパーソナリティー。番組をいくつももっている

「道の駅萩しーまーと」にまた戻り、「マフグのフルコース」をご馳走になる。これがうまかった。ついでにつけ加えると萩の「道の駅萩しーまーと」がいかに優れた水産物の施設であるかは、歩いていて楽しく、おいしいものがたっぷり、安く買える。それだけでわかって頂けると思う。萩に行くならお土産は「道の駅萩しーまーと」というのがいい。
 ここでぼうずコンニャクという迷惑きわまりない五十路オヤジを篠原さんからセトポンにバトンタッチ。
 山口市では川端市場を案内してもらう。この市場が、まさにボクがもっとも未来に残したい素晴らしいものだった。こんな市場に出合えるのも、釣りと食を愛するセトポンに出会えたからだ。愛してるよ、セトポン。

 セトポンに徳山まで送っていただき、倉敷を目差す。そう言えば徳山市が「周南市」に名を変えていたのが残念だ。これは市の名前を合併で変更するときには慎重に、いろいろ考えてやるべきだ、という代表的なもの。
 夜8時過ぎには倉敷市酒津の武内立爾さんのお宅にお世話になる。ボクの旅はこうやってどんどん迷惑をかける人を増やしていく。その夜の楽しかったこと。

 翌16日朝には武内さんと岡山を目差す。お別れに送っていただいたお母様と、奥様には感謝。お母様にはお身体に気をつけていただきたい。
 9時過ぎの岡山中央市場は残念ながらすでに終了していた。武内さんに市場案内をするつもりが、残念。ふたりで児島湖、児島湾を一周する。堰にあった波止(防波堤)で老人達がボラを釣っていた。この波止の名が「年金波止場」という。
 中央市場に帰り着き、武内さんと分かれる。「武内さん、こんどはじっくり遊ぼうね」と心に誓いながら、関連棟でビニール袋、アラ(海苔の佃煮)を買う。
 今回の中央市場は岡山県水の合地さんなどに島根の水産物に関してお聞きするため。これがまことに面白いし、また深く考え込まざる終えないものだった。
 岡山駅には合地さんに送って頂く。まことに感謝。
 1時過ぎには、のぞみで帰途に着く。東京ではたくさんの雑用が待っているのだ。

島根県庁
http://www.pref.shimane.lg.jp/
島根県水産課
http://www.pref.shimane.lg.jp/industry/suisan/
JFしまね
http://www.jf-shimane.or.jp/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

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