遅ればせながら土曜日の船橋からの市場便り。千葉県にはいくつも市場があるが、船橋がもっとも規模が大きい。なんと県庁所在地メガロポリスの千葉市の中央卸売市場よりも船橋の方が活気もあるし、仲卸の数も圧倒的に多い。当然全店舗見るのは大変である。しかし、見応えは充分と「疲労の元は取れる」と言っておきたい。
船橋の市街地にほど近い市場に到着したのが7時過ぎ。当然相対取引、大物の競りは終了した後。のんびりと仲卸の店を見て回る。
残念ながら猛暑とお盆明けで荷は少ない。それでも船橋ならでは三番瀬のアサリやホンビノスガイ(白はまぐり)、サルボウ(小赤)があるし、今では日本一とも言えそうな東京湾のスズキがある。
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北アメリカ原産のホンビノスガイ。今では東京湾奥では名物となっている。船橋では「白はまぐり」
また船橋の凄いところは築地に負けず劣らず陸送(よそからの魚貝類)でもいいものを持ってきているところ。これがお盆明けか、と見疑うようなイワガキもあるし、富津あたりのだろうかマコガレイもある。マアナゴが多いのも内房ならでは。
通路から通路に抜ける間だが薄暗いので、なんだか仲卸の店、そして店の空間に趣を感じる。その奥で新子を卸す人、アサリをむいている人。マグロ屋は白熱灯を多用しているので場内に浮かんでいる夜店のように思える。
土曜日のせいだろうか? 一般客をにらんで小分けにした魚や、半身売りが目立つ。ボクにも盛んに声をかけてくる。
「おにいさん(オジサンだけど)、マグロ買ってかない。これ一本どう、500円。今なら二本で800円でもいいよ。ダメ、ダメなら三本で千円よ。買ってかない」
冷凍メバチだろうけど場内のマグロ屋の一般向けのパックや柵が築地よりもかなり安い。マグロ屋には明らかに一般客がついている。
一時間ほど行ったり来たりして、やっぱりお盆明けで魚貝類の品薄なのにがっかりする。船橋名物とも言える竹岡や富津からの地魚がない。また思い切った高級魚も見受けない。
船橋中央卸売市場に目立った特徴はない。それを敢えて探すと貝に行き当たるだろう。市場のそこここで貝を剥いている。また貝を中心にしている店もある。これなど八王子魚市場内にありながら船橋が本拠地の源七にも言えることだ。他には船橋は寿司屋の多いところで味もいいという。そんな寿司屋に卸しているのが、場内の仲卸。新子(こはだ、すなわちコノシロの稚魚)、新いか(コウイカの子供)が目に付いた。また新子を卸しているのを見て思わず買って帰りたくなってしまう。
たくさんのマグロ屋、魚屋、惣菜屋のなかで一軒だけ、淡水魚を扱う「鶴長」が目を引く、4人の職人さんが膨大な量のウナギを一気に割いていく。また仲卸の店では焼いて蒸して、白焼きに、またタレをくぐらせた蒲焼きなども販売している。この白焼き、蒲焼きはうまい。ボクがお勧めの船橋土産である。
仲卸でもひっそりとした一角で男性が新子を女性が「小赤」を剥いて割いている。「小赤」というのはサルボウのことで剥いて開いたものを買ってきた。これを自宅でササッと洗って刺身にする。
今回は日曜日に大きなデータ処理、改訂があるということで、剥き「小赤」と活けのスズキだけを買ってきた。これが絶品である。
船橋に来るたびに思うのは、江戸の食文化を残す築地、そこにあってもっとも大切なものは一般には見えない「小技」ではないだろうか? 例えば新子を割いたり、またアカガイを剥いて「良し悪し」を見たり、はたまたマアナゴの首根っこをつかんで締まり具合を見たり。そんな見えない食文化が築地移転のよって「消え去る」かも知れない。その「小技」が産地でもある東京湾湾奥の船橋に残っている。もしも東京都が築地移転なんて暴挙をやらかすと「江戸の食文化がここだけに残存することになる」かも。船橋の江戸前「小技」の継承者達よがんばって欲しいものだ。
船橋中央卸売市場
http://www.city.funabashi.chiba.jp/ichi-kanri/index.htm
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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