さかな季語事典: 2007年9月アーカイブ

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 マボヤの産卵期は冬から春。産卵のために秋から、産卵期、そして産卵後の回復期は旨味が減り、また身がやせ細ってきてしまう。そして産卵後、盛んに海水中の微生物、プランクトンなどを吸い込み初夏には旬を迎える。さて夏の最盛期から、秋になって、寒くなってもマボヤの入荷は続く。いつまでこのマボヤのうまい時期が続くのか、ボクは市場で定期的に購入して試しているのだ。

 今回のものは青森県産の小振りの天然もの。マボヤに関しては、味と大きさはあまり関係がないようだ。これがうまい。養殖と天然ものの違いはその食感だと言われている。天然ものの方がシコっとしているのだという。確かに言われてみれば、さすがに天然だけのことはある、と思うものの、それほど大きな違いは感じられない。むしろ味わいよりも天然ものの姿のよさを愛でながら、ぐさっと半割にして刺身にする。

 これを塩とスダチで食らうのだ。マボヤに三杯酢とか醤油とかいろいろ好みはあるだろうけど、ボクは塩と柑橘類以上にうまい食い方を知らない。またマボヤには甘口旨口の酒が合うように思える。だから石川の菊姫を1本買ってきて、その肴とする。
 そろそろ朝晩は肌寒さを感じるようになってきた。この個性派の肴と旨口の酒がしみじみいいのであるよ。

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 さて毎年、10月になると殻付きのマガキがどっと入荷してくる。それが近年、9月に早まっているのだけどなぜだろう? でも初物が来たとなったら試してみるに限る。
 それで土曜会で共同購入。5個持ち帰って食べてみた。
 産地は岩手県山田湾のもの。この山田湾はまことに美しいところで、たぶん早々に出荷検査をクリアしたのも海がキレイである証拠だろう。でもそれとマガキのうまさは関係ない。

 残念ながらお彼岸直前のマガキはまだまだ痩せていた。味の点でももうひとつというところ。この画像をみても剥いたときの膨らみが感じられないのがわかっていただけるだろう。

 この箱に入った三陸からの殻付きのマガキは寒くなるにしたがい、どんどん身を太らせて味もよくなってくる。だから毎週食べてみるとその季節の歩みが感じられる。最近では季節を感じられるものも少なくなってきている。マガキを食べながら秋の進み具合をみてとるというのも一興かも知れない。

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 と、言ったのは『市場寿司 たか』の渡辺隆之さん。うれしそうに小イサキ(うりぼう)を選んでいる。
「片身1かんには大きいかなー」
 半身で1かんが望ましい寿司ネタの世界で、ちょいと大きめに育ちすぎた感はあるが、キロ当たり500円は安すぎる。今年はイサキが高いのである。
 さて、今回の小イサキは15センチから18センチほど。イサキの産卵盛期は4月から6月うらいまで、これは昨年生まれたものであろう。これが秋から冬にかけて、今年生まれの、脂ののった、それこそ「片身1かんサイズ」が入荷してくる。だからこの時期は小イサキの前哨戦といったところだ。

 市場で見ていると小イサキに手を出す料理人は手練れだというのがわかる。例えば、魚は小さいほど安い。でも小さくても味がいい種がいてイサキなどその最たるものなのだ。
 たかさん、これを10本ほど買い求め(これは出来るだけ当日に使い切れる分の仕入れを心がけているから、これでこそ「市場寿司」なのだ)、大急ぎで店にもどり仕込みにかかる。まずはウロコをとらないで頭を落とし、はらわたを取り、三枚に卸す。血合い骨を毛抜きで抜き取り、皮を引く。これをさっと洗って出来上がり。その皮だけもらってくる。実はボクも5匹ほど買い求めているのだ。

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 帰宅して頭を落として、たかさん同様に仕込む。やはり今回の小イサキは昨年生まれであるようだ。脂が薄い。それで身をペーパータオルに包んでおく。脂が少ないということは、また水分が多いということ。だから水分をほどよく抜いてやるのだ。

 夕食時、まずは皮を素揚げにする。小イサキを始め、カゴカキダイ、シマイサキなどの小魚を卸すときに絶対にやってはいけないのがウロコ引きだ。これをやると無駄に身を痛めてしまうし、また小魚で作ることのできる「皮揚げ」ができなくなるのだ。ちなみに「皮揚げ」でいちばんうまいのがシマイサキ、小ダイ、カゴカキダイで残念ながら小イサキは平凡である。でも比べなければ小イサキの「皮揚げ」はまさに絶品、「皮を捨てる」と小イサキの価値自体が半減すると思ってもいい。

 ペーパータオルにくるんだ小イサキの身は適度に水分が抜けている。これを片身二等分にして刺身とする。
 脂はないものと思っていたら、ほんのりと脂からくる甘味が感じられる。そして旨味は十二分にある。
 そう言えば小イサキは寒くなるほど脂がのってくる。晩秋など親を凌駕するほどの美味なのもあって、見つけるたびに一喜一憂するのが、これがまた楽しみなのだ。

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 晩酌には山形県の「杉勇」、やや辛口である。これを飲りながら、「皮揚げ」と刺身を肴にする。ウロコつきのまま揚げた皮が香ばしい。刺身も意外にいい味ではないか? そこに淡麗な酒がきてこれはまた幸せな残暑の夜である。

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 春に産卵して夏には「新いか」というとコウイカを思い浮かべる。それが所謂「通」ってもんでしょう。でも、「新いか」=コウイカというのはあまりに短絡的すぎる。
 春に産卵するイカはかなりの種にのぼり、この「小いか」たちがそれなりにうまい。コウイカ科は体に貝殻の痕跡である、サーフィンボードのような骨を持っている。それに対して、より貝殻の痕跡が消えてしまって、それこそ薄い板状になってしまったのがツツイカ目ヤリイカ科のイカ達。そのヤリイカ科のヤリイカの産卵期も春。当然9月、「新いか」の入荷が始まっている。

 胴長(所謂頭の部分)が7、8センチ。掌に4、5バイは乗ってしまうほどの大きさである。このヤリイカの子供、各地で水揚げされ、似たもの通しのジンドウイカとともに定置網などに入る。ジンドウイカとヤリイカでは、後者の方が断然高い。それで、産地でも面倒ながら辛抱強く選別に励んでいうるのだ。

 八王子綜合卸売センター『高野水産』に到来した「新いか」、産地は愛媛県八幡浜。鮮度もよく、出荷の仕方もキレイなので寿司屋などがせっせと仕入れている。そこに割り込ませてもらって二分の一キロほど購入した。「初物」なのでとにかく『市場寿司 たか』に持ち込んで握りに。素晴らしいの一語に尽きる味。皮を剥いて、ほんの一瞬湯に通しただけのものなのに、「どうしてこんなに旨味を感じるのか」。たかさんと感動を分け合って、帰宅した。

 我が家で、「小槍(こやり)」を如何に料理するか? 自分自身の最有力料理は塩焼き。丸のまんま塩コショウ、もしくは塩焼きにする。これはよく「ポンポン焼き」と呼ばれるヤツだ。最近、この塩コショウをしてニンニク、オリーブオイル、バルサミコのソースをかけるというのが大好きになっている。でも夕食で「太郎がご飯に合う方がいい」というので丸のまま煮汁に搦めるようにして短時間で煮あげた。
 この甘辛く短時間で煮あげたイカは我が家の子供の大好物なのである。まだ「小槍」だから柔らかい、それなりにイカの旨味もある。この煮汁をご飯にかけて、また最後には、もう一度煮汁を茶碗に入れて、洗ってしまう。だから後の洗い物も楽だ。

 この「新いか」、もしくは市場での「小槍」から、成長してヤリイカらしくなるのが10月である。このヤリイカの登場は秋もたけなわを思わせる。そして「小槍」の季節、すなわち今なのだけど、ボクなど五十路男が夏バテにあえいでいる時期と重なる。「早くヤリイカに育たないかな」というのは残暑に飽き飽きしている、蒸し暑さから逃げてしまいたい、という意思表示でもあるのだ。

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「そろそろ出てきましたね」。市場の若い衆がボクの目線を追って声をかけてきた。そこにあったのがエゾイシカゲガイである。市場ではなぜか「石垣貝(いしがきがい)」と、わざと間違ったような呼び方をする。
 今回のは陸前高田市広田湾からのもの。これから暮れにかけて三陸、北海道から入荷してくる。

 エゾイシカゲガイはトリガイと同じくマルスダレガイ目ザルガイ科。このザルガイ科の貝はみな美味。本州中部から西ではイシカゲガイがとれるがまだ市場では見ていない。このイシカゲガイを手に入れるのも目標の一つ。ザルガイ、コケライシカゲガイなど他のザルガイ科もこれからとれる。

 さてエゾイシカゲガイの下ごしらえはトリガイと同じ、剥いて開いて湯通しする。まったくの生でもイケルがボクはやはり熱を通した方が好きだ。この湯がいたエゾイシカゲガイの旨さはトリガイ以上ではないかと思っている。トリガイの黒に対して、エゾイシカゲの黄というのはややインパクトに欠けるが、味は負けていない。

 ただ残念なのが年々高騰していることだ。エゾイシカゲガイはそんなに昔から関東で食べられていた貝ではない。寿司ネタとしては目新しい。初めて入荷したときには値がつかなくて困ったほどだという。それが今ではキロ当たり3000円前後で安定している。ときどき4000円を超えることもある。とすると1個60グラム前後のもので180円から240円くらいにつく。
 貧乏なお父さんにとってももっとも食べたい貝、でも値の高いことで悩みの種とも言えるのだ。

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 八王子土曜会、もしくは土佐のエガニ試食会が終わって、八王子魚市場に回る。土曜会のメンバーが『源七』であれこれ選んでいるときに丸い樽型の発泡にサバが三本。
 ヒモマキバイさんなどが「1本500円かー」なんていっているとき、「500円なら安いね」というと「ゴマサバだよ」とマサさんも。でも目の前にあるのが立派なマサバ、よく見ると隣の2本は確かにゴマサバだ。軽く触っただけで脂がのっているのがわかる。あまりに見事なサバなので、皆さん見ているのを尻目に「買い」ということに。
 慌ただしく店頭で三枚おろしにして、振り塩までして持ち帰る。塩で締める時間二時間と決めていたのに、うたた寝をして、三時間。「しまった」と後悔したものの取り返しがつかない。
 仕方なく、ミツカン山吹と海老名の海老さんにいただいた柚、ほんの少しの砂糖の地に漬け込む。

 さて、塩で三時間は間違いだったろうか?
 間違いではなかったのだ。マサバは脂ののりがいいほど塩が利かない。本日のマサバは三時間でちょうどいいほどに脂がのっていたのだ。小柴といえば東京湾、しかも前海を回遊するのは彼の「松輪サバ」の群なのだ。それがゴマサバに混ざっていたことになる。これは大きな拾いものとなった。

 しめ鯖として見るからに柔らかい。箸でつまむとそこが撓む。その柔らかい一切れを口に入れるやトロリと崩れていくのだ。身に甘味があるし、脂がまったりとしている。一切れが濃厚にうまい。

 ここ3、4日、猛暑止み、涼風吹く日々だ。なんだか「秋らしい」。あれほどうるさかったアブラゼミからミンミンゼミ、ツクツクボウシに入れ替わる。当然食卓でもゴマサバからマサバに交代とあいなる。

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