さかな季語事典の最近のブログ記事

コシナガは秋が旬

0
kosinaga1.jpg

国内でとれるマグロ族でもっとも知名度の低いのがコシナガである。
この魚を知っていたら魚通に違いない。
なかなか手に入らないものだが、珍しくはない。
なんども半身は買っているし、食べた記録も残っている。
でも、この魚の基本となるべきデータが簡単には集まらない。

画像の整理をすると、秋に多いのがわかる。
産地の山陰でも秋の魚だ。
じゃあ秋に買おう。
それで初秋に行った島根県浜田市、松下鮮魚店に送っていただきたいとお願いしていた。

「今年はコシナガが少ないんです。やっと見つけまして」
松下鮮魚のお姉さんから返事が来たのは、かなり秋も深まってからだ。
約3キロ、一見メジマグロ(クロマグロの若魚)のようだ。
違っているのは胸鰭の長いことと、側面に散らばる楕円形の白い斑紋。
無造作に三枚に下ろすと赤さのなかに鈍さがある。
脂がのっている証拠である。

刺身で食べたら、非常にうまいのである。
寒の時期に食べるメジマグロそっくり。
口の中でほどよくとろける。
刺身をとった後の砂刷りの焼き物、中骨の煮つけが、これまた刺身以上にうまい。

山口県北浦、島根県では秋の魚として珍重されているという。
そのわけが、この味にあったのである。
秋の山陰の味、コシナガを覚えておこう。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コシナガへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/maguro/kosinaga.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 ベラ科の魚は関東では嫌われる。
 ほとんど市場では見かけない。
 当然、魚屋でもスーパーでもめったに見られるものではない。
 人気がないだけに、もし入荷してきても安い安い。
 安いからたまの入荷となると迷わずに買う。

 今回の物は和歌山県串本市出口水産からのアカササノハベラ。
 イシガキダイやコショウダイとの入会(いりあい いろんな魚が混ざった荷)。
 最後まで残ったのが当然アカササノハベラとなる。

 これを引き受けてくる。
 一キロ600円だったのを高野水産の社長に400円にまけてもらった。
 だから1本100円しない。

 まずは焼き切りにする。
 三枚に卸して血合い骨を取り、皮をあぶる。
 ようするに焼き霜造りというやつ。
 柚醤油、もしくは韓国風酢みそで食べる。
 韓国風酢みそは、酢、コチュジャン、胡麻油、ニンニクを合わせたもの。

akasaasasaa08121222.jpg
●クリックすると拡大

 熱燗には柚醤油、焼酎には韓国酢みそかな?
 アカササノハベラはほんのり磯臭くて、身にはあまり旨味も甘みもないのだが、皮に風味と、皮下に脂がある。

 残りは背割りにして、振り塩。
 ひと晩寝かせて、寒風に干す。
 やや乾き加減にして、あとは焼くだけ。
 香ばしさと、噛みしめるとジワリと出てくる甘みや旨味をしみじみ楽しむのが寒風干しというヤツだ。

akasasasasaasa081212555.jpg
●クリックすると拡大

 酒のすすみすぎにご注意、ご注意。
 一枚ずつ、飛騨焜炉で卓上にて焼くのだけど、干物をとりにベランダに出ると寒いじゃなくて冷たいのなんのって。
 この冷たさがまことに気持ちがいい。

熱燗のほてりに心地よく つい詫び入る 厳寒の夜風に

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アカササノハベラ
http://www.zukan-bouz.com/bera/bera/sasanohabera.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

siogatuo081212.jpg
●クリックすると拡大

 今年も沼津の山丁菊貞・菊地利雄さんから西伊豆安良里の「潮かつお」が届いた。
 もちろん昔ながらのやり方で大振りのカツオで作った本格的なもの。
 つくりますのは魚武水産である。

 毎年いただくので、この「潮かつお」がないと新年がものたりなく感じる。
 最初の年には部屋に飾って新年を迎えた。
 翌年は菊地さんにおたずねして「暮れに切り分ける」ことにする。
 やはり団地というのはこのようなものを飾るには無理があり、それよりも早く食べたいというのが先に立つ。
 それで数え日前なのであるが、切り分けて、一部を築地土曜会の方達にお裾分け。
 さっそく久しぶりの「潮かつお湯漬け」を食べる。
 残りご飯にのせて熱湯をそそぐだけの至って簡単な、料理以前の一膳がすこぶるつきにうまい。
 面白いもので塩辛い「潮かつお」からたっぷりとだしが出る。
 そのうまみでご飯を書き込むのだけど、ひとりこっそりサラサラやっていたら、我が家の姫が真似をしてサラサラ。
 この湯漬けは家族の大好物でもある。

 さて、一年というのはまことに短い。
 あっという間に過ぎ去ってしまう。
 湯漬けをかき込みながら、ふともの悲しくなってくるのはなぜだろう。

潮かつお かきこむ暮れや もの悲し
             ぼうずコンニャク

 静岡県沼津市菊地利雄さんに感謝。

魚武水産 静岡県賀茂郡賀茂村安良里655-1
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カツオへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/saba/katuo.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

ayu0812121.jpg
●クリックすると拡大

 八王子魚市場内『海老辰』に「阿武隈川産背焙り鮎」と書かれた発泡があった。
 蓋をとるとアユの焼き干しが入っている。
 このような特種すぎるものが流通の場にくることは珍しい。
 明らかに天然物。
 脂のすくない落ち鮎を使ったものだろう。
 わらで連にしてある。

「いくらだい」
「千円でいいかな」
「千円か、微妙な値段だね」

 値を聞いただけで通り過ぎる。
 翌日、それは同じように店先にあった。
 ぜんぜん売れていない。
 たぶんどのように料理するのかわからないのだろう。
 だから千円という値段が微妙に思えるのだ。
 たぶん注文を受けて仕入れてきて余ったものに違いない。

 普通焼き干しは水で戻してたきものに、もしくは焙って熱燗をそそいで旨味風味を楽しむ。
 急激に冷え込んできているので「鮎酒」も一興ではないか。

 さて、飛騨焜炉におこした炭を入れる。
 火の盛りに、故郷から来た餅を焼き、干し芋を焼く。
 これは子供達の楽しみだ。
 [夕食にご飯を食べなくてもいい]というのが食卓に開放感を生む。
 さて、その内に炭の勢いが衰える。
 そこに焙り鮎を乗せて、じっくり待つ。

 焦げ目がついてきた頃、酒たんぽで燗をする。
 熱燗も熱燗、火がはいるほどの熱燗にする。
 器は陶器で厚みのあるもの。
 今回のは小坂明さん作の見るからに暖かみのある深鉢にした。
 これも熱湯の中に放り込み、とても手で触れない状態となっている。
 ここからが勝負だ。
 熱湯のなかから器を取りだし、香ばしく焼けたアユを入れ、火燗をそそぐ。
 アユがジュっと音を立てる。
 ここに木でできた羽釜の蓋を乗せて待つ。
 計っているわけではないが、この間が長い。
 無限に思える瞬間というのがある。
 他のことをいろいろ考えればいいのだけど、時計の秒針をついつい見てしまう。
 長い(?)待ち時間のはて、蓋を取ると酒がうっすらと琥珀色を帯びている。

ayu0812122.jpg
●クリックすると拡大

 あとは熱いウチにいっきにすすり込む。
 思った以上に濃厚な旨味を染み出させていて、酒の中でアユ独特の川の香り、日向の香りが浮き上がってくる。
 しかも飲み口はサラリとしてる。
 酒はすすり。
 口に含み含み飲まなくてはいけない。
 この「阿武隈川産背焙り鮎」のいいところはよく焼き枯らしている点。
 まったく生臭さがなく、カツオがカツオ節になる如く、「焙り鮎」という乾物として完成しているのがいい。

 残ったアユに薄口醤油を垂らして、これもぬる燗のアテとした。
 酒は一の蔵「掌」。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アユへ
http://www.zukan-bouz.com/kyuriuo/ayu.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

buwatara08101010.jpg
●クリックすると拡大

 寒くなると関東の市場に目立って増えてくるのが「ぶわたら」。
 マダラの加工品で「ぶわ」は腑分けのこと。
 すなわちマダラを解体して、身だけにしたもので、「生」と「塩蔵」がある。
 今回はスーパーなどでもよく見かける「塩蔵ぶわたら」の話だ。
 これが便利で優れものなのである。
 マダラ自体はアラスカやカナダからの輸入物ながら加工のメッカは宮城県。
 なかでも石巻は目立った存在だ。
 もともと宮城県はマダラの加工がさかんに行われてきた。
 生の、地先のマダラを解体(ふわけ)して「生ぶわ」、「塩蔵ぶわたら」として、鮮魚としても関東に送り込んでいた。
 関東と宮城県の水産的な繋がりは当然、古く明治期に開通した東北本線に行き当たる。
 昔、水産物の流通は鉄道が頼りだった。
 今のようにトラック輸送にかわったのは、そんなに昔のことではない。
 現在でも過去にでも地方の水産物に頼ること大であった東京にあって、東北宮城は一大供給地だったのだ。
 当然のこと、「ぶわたら」は関東でも明治期以来の伝統食材であるはずだと想像して止まない。

 なぜ関東に「ぶわたら」が入荷してくるかというと居酒屋に“湯豆腐”という品書きがあって、ここに必ず入ってくるからだし、関東の家庭でも鍋物の主流が「ぶわたら」を使ったものだからだ。
 この「塩蔵ぶわたら」を使ったものを私流ながら勝手に「関東風湯豆腐」と呼ぶことにする。

 「関東風湯豆腐」の出合いは30年以上も前、東京下町小岩で暮らししていたときだ。
 居酒屋で湯豆腐をお願いして、やって来たのが野菜も入った鍋物。
 そこになにやら見慣れぬ魚が入っていた。
 白身魚らしいけどわからない、その正体が「ぶわたら」だったのだ。
 四国徳島人にとってマダラの存在は遠い。
 湯豆腐といったら、だしのなかで豆腐が浮かんでいるだけ。
 単純なものを予想していたので、間違って別の見知らぬ鍋物がやってきたと思ったほどだ。
 後々考えてみると、関西の湯豆腐よりも高目となっている。

 と言うことで、東京で初めて食べた湯豆腐がうまかった。
 以来30年、「関東風湯豆腐」が好きだ。
 それであれこれ理想の「塩蔵ぶわたら」を探していて行き当たったのが『天佑丸冷凍冷蔵』のもの。
 だから『天佑丸冷凍冷蔵』の「ぶわたら」を見つけるとついつい買ってしまうことになる。

 大振りのマダラを使っているため、半身買いでも一キロくらいになる。
 当然湯豆腐だけでは食べきれない。
 残ったらバターで炒めてパンに合わせたり、塩抜きしてフライにしたり、ホワイトシチューに使ったりと大活躍だ。
 面白いものでトマトと煮込んでもうまい。
 昔、イギリスとアイスランドでマダラ漁をめぐって紛争が起こり、これを俗に「タラ戦争」という。
 マダラが好きなのはこの国だけではなく、ヨーロッパ諸国も同じなのだし、その理由がパンやジャガイモなどとまことに相性がいいためなのがよくわかってくる。
 ああ、そうだマダラはご飯よりもパンに合うというのも書いておくべきだ。

 さて「東京風湯豆腐」の作り方は簡単極まりない。
 ぶわたらは湯通し、そえる野菜は白菜と春菊くらいでいい。
 後は主役の豆腐だが、できれば豆腐屋さんの豆腐といきたいな。
 だしは昆布のみ。
 味付けをするのだけど、酒と少量の塩のみ。

 鍋に向かって燗酒をやる。
 まずは「塩蔵ぶわたら」を総て鍋に落として、豆腐を泳がせる。
 豆腐がふわっと浮いてきたら、豆腐を皿にとる。
 ぶわたらも皿に取り、また野菜を加える。
 そこにあうのは生醤油で、生姜と白ネギを用意する。
 あと、柚、スダチ、一味唐辛子。
 この鍋、酒がすすむし、また豆腐の温まる間がとてもよろしいな。

 そのうち身体が熱くなってくる。
 食べ、呑み疲れて、ふと窓を開けたときの新しい空気の冷たさが気持ちいい。
 こんなときに限ってドコドコドコーカンカンカンカーンと中央線が八王子に向かう音がする。

天佑丸 宮城県石巻市魚町1の10の8
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マダラへ
http://www.zukan-bouz.com/taraasiro/tara/tara.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 我が家の子供に季節の変わり目というか、「何月から何月までが春で、夏で、秋で、冬なの」と聞かれたことがある。
 常々、疑問に思っていたことなので、「父ちゃんにもはっきりわからいなー、寒くなったら冬だし、暖かくなってきてサクラが咲いたら春かなー。夏は梅雨明けからだろうし、秋は2学期が始まったらじゃない」と不得要領な答えとなってしまう。

 そして最近では秋田の渡辺夫妻(賢さん、なべ婦人)からハタハタがくると「冬なんだな」と思うようになってきた。
 だから我が家の姫にも「ハタハタが秋田から来ると冬だぞ」と教えることに決めている。

 毎年、師走になると秋田ならではの三五八漬けとなったハタハタが送られてくる。
 荷物をあけて、ハタハタ三五八漬けを手に取ると麹の香りとともに、東北の中でも、もっとも東北らしい秋田の冬の厳しさの予感を感じたりする。
 そして大急ぎで焼くのだけど、このやや塩辛さと、麹の甘い香りに、無為に過ごした一年の悔悟の念が浮かんでくる。
 秋田からくるハタハタには「しみじみ自分の時を取り戻す」そんな力など感じてしまうのだ。

 さて今年、秋田からハタハタが届いたのは師走前の十一月二十七日だった。
 ボクが自宅に帰り着くと、姫が「父ちゃん荷物が届いているよ」と持ってきたので、押っ取り刀でガムテープをはがす。
 なかから出てきたのがパンパンに腹膨らませた、ぴかぴかのハタハタなのである。
 とにかく大急ぎで振り塩をする。
 お湯が沸いている、熱燗を用意して、串打ちして煉瓦に乗っかっているハタハタの焼き上がりを待つ。
 強火の遠火でじわじわと焼くのだけど、この余熱で部屋まで暖かくなってくる。
 鍋には昆布が沈んでおり、沸騰する直前にとりだして酒と塩で味を調える。
 塩焼きを食べながら、きれいなきれいなハタハタを鍋に沈めて、これが“湯あげ”という料理法だ。
 この食べ方は1980年代後半に、秋田市内にある市民市場と日本海に魅せられて二度立て続けに行った。
 そのとき市民市場で魚屋のオヤジさんに教えてもらったもの。
 このオヤジさんにはいろいろ秋田の魚のことなど教えてもらったものだ。
 オヤジさんがボクに声をかけてきたきっかけが、薄暗い店頭に置かれた大振りのハタハタ一尾が千円以上であり、つい驚きの声を出したからだった。
 秋田県でのハタハタの不漁は、2001年まで続くのだ。
 それまではトロ箱いっぱい幾らというほどに安かったものが、一転超高級魚と成り変わっていたのだ。

 塩焼きが香ばしく焼き上がった。
 二つ折りにすると成熟のすすんだ“ぶりこ”が飛び出してくる。

hatahata0810101.jpg
●クリックすると拡大
塩焼きは熱い内に手づかみで食べねばならぬ

 これをアチチといいながら食べたのは姫だった。
 ハタハタの卵巣は未成熟のものの方がこくがある。
 しかし成熟したものの方が甘味が強いのではないか?
 姫ならずともほっくりした“ぶりこ”は魅力的だし、どんどんハタハタを焼き、焼き上がっては食べるのだけどとまらない。
 檀一雄の文章に、太宰治が田舎(青森県)から送られてきたハタハタの干物を焼いては野性的に平らげていくという文章があった。
 塩焼(干物でも)を食べるたびに、この文章を思い出すのだけど、思わず箸を捨て、手づかみで食らってしまうハタハタにはそんな野生を蘇らせる濃厚な旨味が存在する。
 さて、食べるのに忙しくて晩酌のアテとはならない塩焼きに続いて、次なる“湯あげ”を今度は静かに楽しむ。

hatahata0810102.jpg
●クリックすると拡大

 この料理、昆布だしに酒と塩で味付けしてあるわけで、ハタハタを汁ごとすくい取って、汁の中で崩しながら食べるもの。
 ハタハタの真味と、だしのうまさを一緒に堪能できる。

 仕事が立て込んでいるために二杯だけと決めていた冷や酒が三杯となってしまった。
 そして、しょっつる(塩汁)鍋、しょうゆ漬けなどハタハタは二日ともたず総て食べ尽くしてしまったのだ。

 秋田の賢さん、なべ婦人、毎年のことながら、まことにまことにありがとうございました。
 寒さと、忙しさの師走、お身体にお気をつけ下さい。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ハタハタへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki/wanigisuamoku/hatahata.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

sinika0809111.jpg
●クリックすると拡大

 「新子」というのはコノシロの幼魚である。
 毎年初夏を迎えると、河岸の話題をさらう。
「今年の初物はいくらかね」
「二万円だったら、今年は豊漁かね」
 それが4万円、5万円(キロ当たり)になると
「今年は不漁だね」
 これは東京だけの話であって、首都とはいえ、ローカルな話だと思っていい。
 ミシュランで三つ星を獲得した有名すし屋、またそれに準じる超高級すし屋が林立する大都会だけの特異な現象ですね。

 またその首都東京に「新いか」というのがある。
 コウイカのまだ生まれたばかりのそれこそ小鳥の卵くらいから、ちょっと大きくなって桃屋の花ラッキョの瓶くらいの大きさのコウイカの子供である。
 早ければ7月下旬、8月には、こちらも河岸を騒がせる。
 はやり初っぱなは2万だ3万だの世界となる。
 でも、そんな「走り」にこだわるのは超高級すし屋だけ。
 ボクの「新いかはじめ」はたいてい9月になってから。
 この頃になると「新いか」も安いのは800円(キロ当たり)、高いので3000円くらいに落ちてくる。
 手が届くときに気をつけなければならないことは、「いいもの」と「わるいもの」との差が大きいということ。
 9月初旬の築地場内。
 探せど、めぼしい「新いか」が見つからない。
 ボクは場内でも荷(魚貝類)ばかり見ているものだから、店なんて無関係に「いいもの」に反応してしまう。

isibasi080911.jpg
●クリックすると拡大

 その日、いちばんのを見つけた。
 目の前の「新いか」、値段はいくらなのだろう。
 まことに表側の色合いがよく、身にふくらみを感じる。
「これいくらですか」
 目の前には小林亜星に似た(小さくしたような)頑固そうなご主人がいて、
「2500円ですよ」
「あの、500(グラム)買えますか」
「いいよ、このしと(人)に入れてやんな」
 若い衆が4尾いれて、
「500だと3尾になりますね」
「それじゃけちくさいな。4尾ください」
 こんな会話に、ガンコそうなオヤジさんが笑う。
 こういった瞬間がボクを築地場内に誘う。
 ちなみに築地場内に通う資格は“いいものをわかろうとする目があること”、それだけでいいと思っている。
 ついでにいっておくと、わからなくても「素直であること」はもっと、もっと大切だ。

sinika0809444.jpg
●クリックすると拡大
コウイカのエンペラをもって、「えいや!」とまな板に打ち付ける。するとトンと甲が飛び出してくる

 この「新いか」が素晴らしいものだった。
 姫に甲羅を抜かせて、水洗いする。
 胴の皮、薄皮をとり、ゲソは塩もみ。
 ゆで上げて、刺身と家族盛り(家庭料理の盛り方)にする。

 「新いか」のよさはやはり上品は甘味と、その軟らかくて、しかも爽やかな口当たりだろう。
 残念ながら4尾でもけちくさかったのだと、改めて気づいた。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コウイカへ
http://www.zukan-bouz.com/fuedai/fuedai/sennendai.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

nisin08051.jpg
●クリックすると拡大

 北海道厚岸から、まとまった量のニシンが入荷してきている。鮮度もよく、触った感じからしても脂がのっている。
 魅力的だなと思って八王子総合卸売センター『総市』のミノルちゃんに値段を聞くと「800円だよ」とのこと。氷水に手を入れて、メスだろうと思うものを2本買い込む。1本あたり150円から200円ほどにしかつかない。

 持ち帰ったニシンは1本はあぶりに、そして1本を塩焼きにする。
 あぶり用におろしたら案の定たっぷり真子を抱えている。これを塩焼き用のワタを取り、そこにもう一腹分の真子を詰め込む。この二腹分の真子でパンパンに脹れたニシンに振り塩をする。
 小一時間おき、やや強火でコンガリと焼き上げる。
 こういったものは手づかみで食らうしかない。
 夕食はニシンとトンカツの2本立て。
 トンカツ用のロースは八王子総合卸売センター『カワベ』、コマちゃん厳選のを、なんといただいたもの。これならニシンは1本でも安全にボクのお腹に納まるはずだと思ったら、脇から太郎が真子だけをくすねていく。確かにニシンの卵巣の旨さは魚でも屈指のもので、上等のロース豚カツをしのぐ魅力が子供にも感じられるようだ。

 穏やかな5月の風が開け放たれた窓から吹き込んでくる。心地よいはずなのに、ボクは悪性の風邪のために、頭が重いのである。風邪を引いても食欲が落ちないのがボクの取り得なのだけど、このニシンを食らっていると、その頭痛を忘れてしまう。「うまい魚は妙薬か?」もね。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ニシンへ
http://www.zukan-bouz.com/nisin/nisin.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

katuosa0804.jpg
●クリックすると拡大

 海老名の海老さんから、たっぷりと山椒(さんしょう)の葉をいただいた。
 自宅の庭に山椒の木があるなんてうらやましい。
 いただいた山椒の葉をむしり取り、まな板に置くと、小山のようになった。

katuosa070422.jpg
●クリックすると拡大

 これを八王子総合卸売センター『総市』のさぶちゃんから買い求めたカツオの中落ちとたく(ボクの言語は関西系なので、煮ると炊くは分けない)。

 その昔、市場の仲卸というのは、それこそ買い求めていく人が、箱単位だったり、最低でもカツオなら1本だった。それが最近では、「おろしてくれ」とか「半分ほしい」とか、どんどん専門家(魚屋、料理店)といっても少ない単位で買うようになってしまっている。
 そんなこんなで仲卸で板前をやっている、さぶちゃんの目の前には中落ちが山になってたまっていくことになる。
 その小山を「いくらだい」と聞くと、「100円でいいよ」。
 市場の楽しみはこんなところにある。

 中落ちは、まず湯通し、冷水にとり汚れを落とす。
 水からあげた中落ちの水分をよーく、よーく拭き取る。
 深めのテフロンフライパンにたっぷりの味醂(みりん)と水を入れて煮立たせる。ここに醤油(しょうゆ)を入れて味加減を整える。
 煮汁が何度か煮たってきたら、中落ちを入れる。煮汁がよく馴染んできたら、大量の山椒を加えて、アルミホイルの落としぶたをして、後は一気に煮上げていく。
 この料理の肝心なところは、「勢い」だと思った方がいい。煮汁は常に中落ちを覆うように火加減を強くする。
 最後に煮汁の粘度が上がったら落としぶたをとり、煮汁をからめるようにして出来上がる。
 煮汁の残り具合も微妙なもので、完全になくなるとダメ。我が家では、鍋のまましばらく置き、またなんどもなんども煮汁をからめて鉢に盛る。

 料理店ではないので、天盛りは気恥ずかしい気がするが、青い山椒をこんもりと。
 カツオの山椒だきは「季節を食べる」如く感じるものだ。

 海老名の海老さん、香り高い山椒をありがとう。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カツオへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/saba/katuo.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

fukitaki0804111.jpg
●クリックすると拡大

 冬眠から覚めた海老名の海老さんから新鮮なフキを頂いた。
 まだ「出始めであまり大きくないし、少ないんだけど」と軽く一束もらったのが、なんとも春を盛りと感じさせてくれて喜ばしいものだな。
 フキの入ったビニール袋を手に通り抜ける雑木林は、芽吹いた葉がかなり大きくなって、まさに「山笑う」の候となっている。

 フキの茎は北海道産アサリと一緒に混ぜご飯の素をつくる。
 アサリは蒸し上げて、殻から外す。

fukitaki080422.jpg
●クリックすると拡大

 フキは塩刷りしてゆでて、皮を剥く。
 フキの葉はゆでて刻んで、水にさらす。
 フキの葉の濃い緑が、我が家でいちばん大きなボウルに広がってきれいだ。
 姫が「なんだこれは」と脇からつまんで、おもむろに口に入れて「父ちゃん苦い」と顔をしかめている。
 フキに加えるのは冷蔵庫にあったニンジンとシイタケだけ。
 フキもニンジンもシイタケも刻む。

fuki080433.jpg
●クリックすると拡大

 アサリを蒸したときの汁は使わない。後々のみそ汁などに使うとして保存。

 テフロンフライパンにほんの少しの太白胡麻油を入れて、野菜を炒め、酒、味醂、少量の水を入れる。
 野菜が酒、味醂、胡麻油でしっとりしてきたら、アサリを投入。
 具材に甘味がつき、馴染んできたら島根県益田市桐田醤油店の甘い濃い口醤油を加える。
 混ぜご飯の味付けは出来る限り単純にするのがコツ。
 こんなものにかつお節だし、アサリの煮汁を使う人がいるが、明らかにやりすぎだ。
 うまければうまいほど、食べて重く感じるのだ。
 フキの香りが生きてこない。
 混ぜご飯の素は手早く、単純に作るべし。

 混ぜご飯の素を作っている間に、フキの葉のゆでて刻んだものが入っているボウルの水をなんども替えアクを抜く。
 なんども替えて、まだ苦いなと感じるほどの状態で水を硬く堅く絞っておく。
 これを太白胡麻油を薄く敷いた行平に入れて、手早く煎りつける。
 胡麻油が馴染んできたら、まずは島根県松江市米田酒造七寶本味醂で甘味をつけ、そこに東京都あきる野市五日市のキッコーゴ丸大豆醤油をからめて手早く水分を飛ばす。
 これで「蕗葉の佃煮」が出来上がる。

 やや少な目に水加減したご飯が炊きあがったら、手早く具を混ぜ合わせる。
 ある程度混ざったら、軽く湯がいた芹を加えて出来上がりだ。
 混ぜ合わせたら、大急ぎで食べよう。

 ほんの少しのフキの香りが、ご飯の中で浮き上がってくるのがいいね。
 フキの風味、渋みはほんまに春そのものじゃあーりませんかね。
 アサリの旨味も存分に感じるし、身に甘味があるのがいい。
 さて、混ぜ合わせて、つぎ分けたら、4合炊いたご飯なんて、ほんの10分ほどで消えてなくなる。
 春を感じる混ぜご飯も、もっとゆっくり食べられるといいんだけどな。
 
 軽くお腹を満たした後の、これも島根県松江市米田酒造の『辛口純米 金吾郎』がよろしいな。

fuki080444.jpg
●クリックすると拡大

 アテは当然、「蕗葉の佃煮」となる。蕗の葉をたくと、ひょっとしたら茎の何十倍もうまいのではないか、と思ったりする。

 海老名の海老さん、おいしいフキをありがとう!

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アサリへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/marusudaregai/asari.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、過去に書かれたブログ記事のうちさかな季語事典カテゴリに属しているものが含まれています。

前のカテゴリはお魚三昧日記です。

次のカテゴリはほるもん図鑑です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。