水産会社、加工品図鑑: 2007年3月アーカイブ

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 水産加工の世界は広く深く、なかなかとらえどころがない。早くその筋の文献をあさって調べていきたいと思うのだが、とても時間がないという状況にある。
 その水産加工用語のなかでも特に意味がわからないのが「ロイン」という言葉。

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 要するに「カツオなどを四つ割にして急速冷凍超低温で保存したもの」というのはわかるが、それでなぜ「ロイン」なのか。例えば英語でLoinと言うと腰をさす。例えば牛肉の「サーロイン」がそうだ。まさか魚に「腰」はないだろうし、加工法から生まれてきた新語だろうか? どなたか教えていただきたいものだ。

 さて、市場などに氾濫する「ロイン」、その多くがカツオである。今回の気仙沼ほてい「カツオロイン(皮つき)」というのは気仙沼沖でとれた戻りガツオ(?)を港まで運んで4つ割、即急速冷凍したもの。ボクはこの市場で「とろがつお(トロガツオ)」と呼ばれるものがあると便利なのでついつい買い求めてしまう。「とろがつお(トロガツオ)」というのはその土地土地でいちばん脂がのっている時期にとったもの。もしくは「単に脂ののったカツオの冷凍もの」という意味らしい。これは一般家庭の冷凍庫でも1週間くらいなら味が落ちないもので買い置いてとても重宝である。

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これでキロ当たり1000円ほど。腹側で300円と少しの値段。頭もはらわたもないのだから超お得

 驚くことに、この冷凍ガツオは質の悪い生鮮のものよりも遙かにうまい。例えば食べるとシコっとした食感すらあるし、脂ものって旨味も上々である。冷凍でも低い温度で急速に氷らせるためか自然解凍してもまったくドリップが発生しない。だから黙って出されたら、だれも冷凍物だと思わないかも知れない。

 市場を歩いていて、思うのだけれど冷凍など加工品が急速に増えてきている。また割合は明らかに生鮮品を上回っているように見受けられる。例えばサケ科の魚などはほとんど総てが加工品となる。それにマグロ、カツオ、ホタテ、イカ、タコ、干物全般など冷凍加工されるものを挙げていったら切りがない。この加工品は多種多様で、膨大なのである。すなわち養殖されたものでも天然ものでも、その多くが在庫化できるものとなっている。ボクのような魚貝類を動物としても食材としても捉えている人間には、これはちょっと寂しい。でも漁港を訪ねる旅を続けていると、この冷凍や干物などの加工業の存在がいかに漁業を支えているかが明確にわかる。これは鮮魚の大きな値崩れを防ぐとともに、食物の廃棄を避けることができる。

 閑話休題。
 さて、カツオは足の速い食材である。「だからなかなか仕入れられないよ」と市場ではよく聞かれるのだ。もちろん生の旨さには及ばないが、保存性の優れた冷凍ガツオは寿司屋、料理屋にとっても便利極まりないものだろう。だからカツオをどんどん冷凍加工していいという気はしない。それではただでさえ、失われつつある季節感が、より食材に感じられなくなってしまう。このあたりのほど良さが市場にあるのだろうか? 「トロガツオ」を食べていて思うのだ。
 

気仙沼ほてい
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市場魚貝類図鑑のカツオへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 ボクが学生の頃、なぜか知らないが、とあるおんぼろアパート全部が同じ学部、同じ学年で占められていた。すなわち、まるで山賊砦のようであったのだ。当然どの部屋も汚く、そしていつもいつも金欠にあえいでいた。そんなところに毎週ある男のママ(本当にこう呼んでいたのだ)がやってくる。コヤツ、実家が横浜の食料品店をやっている。そのママの愛車が三菱ギャランのいちばん高いヤツであって、その座席にスーパーのカゴが4つ、5つ。中にはインスタントラーメンに缶詰、漬物にお米などなどが、ごっそり大量に入っている。
 さてその大部分が缶詰だった。その多彩な缶詰にはいつの間にか人気のあるなしでのランキングが生まれてきた。ダントツ一位は野崎のコンビーフ、二位はマグロのフレーク、そして堂々の三位というのが「さんまの蒲焼き」であった。ほかにもサケの水煮、シーチキン、桃の缶詰などもあったと記憶するが、貧しい腹減り学生に必要とされていたのは「開けてすぐ食べられる」というもの。そう言えば僕たちは野崎のコンビーフのことを「肉」と呼んでいた。そうだ「肉」に飢えていたのだ。

 三位に位置するのが「さんまの蒲焼き」。角のない長方形の平たい缶に入っていて、「蒲焼き」とあるのに煮つけたような味わい。このしょうゆの味わいを炊きたてのご飯にいきなり2缶、3缶、放り込む。それをしゃもじでグシャグシャに混ぜて混ぜて、それが僕たちの定番朝飯であった。なんと飯を炊くという行為をのぞくと、調理時間1分以下という、飢えている男たちには「素敵なタイミング」料理だった。あとは群馬県出身優等生の持ち込んだ辛い大根のみそ漬け。あの「さんまの蒲焼きまぜこぜ飯」がなぜにあんなにうまかったんだろう。その理由は簡単、腹が減っていたからだ。

 それでは、腹減り度の下降した現在では「さんまの蒲焼き缶詰」を食べていないかというと、ときどきついつい買ってしまうのだ。そして改めてどこのメーカーなんだろうと見てみると、ぜんぜん知らないところなのでビックリした。長年買っていて、お馴染みの缶で、模様で、改めて「ちょうした」という文字に行き当たったのだ。
 この「ちょうした」はロゴマークの菱形の一辺一辺が「丁」の字になっている。そこにカタカナの「タ」で「ちょうした」となる。でもなぜ「丁にタ」なのかはまったくわからない。
 まあとにかく、ボクがときどき買っていたのが「ちょうしたのかばやき さんま」という商品名だったのだ。たぶん八王子綜合卸売センター『三恵包装』が毎回仕入れるのが、たまたま田原缶詰だというだけだろう、と思っていた。それで念のために我が家にある食に関するスクラップを見てみると、ちゃんと田原缶詰のことが載っていたのだ。

 小学館「サライ 1993年11月号」にさんまの蒲焼きの元祖として登場している。これが出来たのが昭和30年代。この平べったい缶を採用したのも田原缶詰の3代目社長、田原久次郎だという。ここに驚くべき事実が載っている。この「ちょうしたのかばやき」の場合、サンマを天日乾燥して間違いなく「焼いていた」のである。今でもそうなんだろうか? またこの缶というのは「二重巻締缶」というものだとある。これはなんだ。
 ここで変なことを思い出した。この四角く平たい缶だけ、山などに行くと「鍋変わりに使っていい」ということだ。これはボク達昆虫少年だけのやり方だろうか? コッフェルで飯を炊き、缶詰を開けてバーナーにのせる。「丸い缶詰は火にかけるな」と言われていたのだ。これと「二重巻締缶」ということにも何か関連がありそうだ。

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 さて、ときどきなぜか買ってしまう。「ちょうしたのかばやき」であるが、いかなるときに食べているのかというと、「中途半端な時間に帰宅したときの酒のアテ」なのである。だいたい10時前後、どこにも引っかからないで帰宅、その中途半端さを持てあますとともにコップ酒でもあおろうかとなる。そこにしょうゆ味の濃厚な「さんまの蒲焼き」がぴったりなのである。こんなときにへたにイカの塩辛など出したものなら取り返しがつかなくなる。だから「さんまの蒲焼き」となる。他の缶詰では「ダメ」なのだけれど、それはインパクトの大小に関わると思う。「優しい穏やかな味」よりも「ちょっと個性的」濃厚でややコクのある味でなければならないのだ。

 ちなみにボクは貧乏極まるお父さんなので立ち飲み屋愛好者である。ときどき立ち飲み屋を見つけると入ってしまう。それでも絶対に入らないのが「酒屋系」というヤツ。関西の「酒屋系」はとても見事なもので、ちゃんとうまい酒のアテがある。ところが東京の「酒屋系」はだめなんだよな。肴がこの「さんまの蒲焼き」、缶詰とか乾きものとか、それをいちいち買い求めて店の隅っこで酒を飲む。それなら帰宅して「さんまの蒲焼き」で一杯の方がよしなのだ。

田原缶詰 千葉市銚子市橋本町1982-1 
遠藤哲夫さんの田原缶詰関連
http://homepage2.nifty.com/entetsu/sabakan.htm


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