水産会社、加工品図鑑: 2008年2月アーカイブ

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 島根県浜田市は水産加工業の盛んなところ。港で水揚げを見た後に空き時間があったので、地元のトーボさん、ヤマトシジミさんに案内されて「浜田食品市場」(島根県浜田市黒川町)という小さな市場をのぞく。この小さな市場で、ほんの短い間歩いただけで面白いものが五万と見つけられた。
 この市場の素晴らしいところは、観光化されていないせいもあって、地元の昔から食べられていたものが無造作に並んでいることだ。乾物、調味料、クジラ、練り物、菓子パンにお弁当、惣菜、すし。どれを見てもボクには面白く、興奮をおぼえるものばかりだ。

 今回とりあげるのは、中でももっとも地味で、しかも名品だなー、と感心した「いかの酢漬」。

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「いかの酢漬」は昔からある、浜田では、あまりにも在り来たりで目立たない加工食品であるようだ。
 スルメイカで作ったものと、「真いか(ケンサキイカ)」の2種がある。うれしいのはイカはどちらも地元浜田にあがったものであるという。
 安くて、うまそうで惹かれるところ大なのだけど、ひとつだけ問題点があって、ボクが旅の途中であり、この一袋がかなり重い。それをおしてついつい買ってしまった。

 佐々木商店に電話を入れて、この「酢漬」のことをお聞きした。すると「酢漬」を作り始めたのが先代のときで40年ほど前。原材料は地元産のスルメイカと「真いか(ケンサキイカ)」。ケンサキイカのものは水揚げ量が少ないので貴重であるとのこと。浜田市内でともに1袋たっぷり入って400円前後。
 地元での料理法は酢の物に入れるのが一般的。だから主に夏の食品との認識があるようだ。

 松江、浜田などで買った食料品は益田の「JFしまね」佐々木さんにご迷惑ながら宅急便にて送ってもらったものが、ボクが帰宅した日に到着していた。
 真っ先にとりだして食べてみたのが、この「いかの酢漬」である。
 調味された酢に漬かったままを食べると、かなり酸っぱい。それで、これに「ゆずほの香(白だしぽん酢)」を加える。これは家人などが喜んで食べたが、やはりまだ酸っぱい。
 そこで取りだしたのが鹿児島県種子島で使われている独特な大根のけん突き。これは大根をややささくれだったケンに突き出すもの。粗塩をまぶして少し置き、水洗いする。

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種子島のケン突きは非常に優れもの。だんだん作るひとが少なくなっていると言うが大丈夫だろうか?

 これを「酢いか」と混ぜてガラスの大鉢に無造作に盛りつけてみた。急場なので薬味、色味の野菜は用意できなかった。見た目は白っぽくて悪いが、味は絶品というか身体が癒されるもの。
「白いか」は、小さくてもケンサキイカなので柔らかく、酢に漬かっていても微かに旨味甘味が感じられる。そこに塩で殺した大根のケンが合わさって、塩味と酸っぱさが絶妙に釣り合っている。
 家族は、これにまた「ゆずほの香(松江市 米田醤油店)」をふりかけて食べている。おお、こうするとますます酒との相性がよくなる。

「浜田市にこのような伝統的だけど目立たない食料品が、末永く残るといいなー」とつくづく思う。そして、この「現代の文化財的食料品(これはボクの勝手な造語)」が生き残っていくためには「浜田食品市場」のような地方の小さな市場が「絶対必要」だ。浜田市民で食に感心のある方達よ、この小さな市場を大切にしていただきたい。
 また中国からの輸入食品などでの農薬混入が問題になり、国あげての“食育”が叫ばれている。そんなご時世に、このような身近で優れた食品を忘れたら「あきまへん!」。

 遠く島根県浜田市からの「いかの酢漬」を肴に熱燗を傾けながら、旅の疲れが徐々に蘇るのを感じている。
●2月16日記す。

佐々木商店 島根県浜田市国分町1981-197
●『佐々木商店』は浜田市でカレイの干物、酢だこ、焼きイカなどを製造している。

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 島根県を東西に横断するというのは大変だ。その昔、出雲の国と石見の国と分かれていて言葉も習慣すらも違っていた。その両国をながながとクルマで走る。
 その石見の国の江戸時代においての一大産物「銀」と「銅」を積み出していたのが大田市の港港なのだ。

 出雲から岩見に向かう行程は大変であった。地元を知悉するヤマトシジミさんは押し気味の時間を稼ぐため、それこそ道なき道を山越えに次ぐ山越えで大田を目差す。
 その車中での会話。
 トーボさんが
「和江には漁協蒲鉾という名物があるんですよ」
「ええ、漁協蒲鉾は商品名なんですか? それへんでしょー。もっとよく考えてつけて欲しいな」
「でもうまいんですよ」
 こんなときのとトーボさんの表情がどこか不可思議で印象的である。「わかってないなー」という思いが顔に出るのかもしれない。
 さて、この会話が後々になってヤマトシジミさん、トーボさんの失笑を買うことになる。

 幾山越えて着いた和江の港は雪と大波寄せくる荒れ模様だった。これがボクのせいかのかトーボさん、もしくはヤマトシジミさんのせいなのかはおくとして。
 水揚げもなく、いろんな人とお話ばかりで寂しいな、と思っていたときに思い出したのが「漁協蒲鉾」のこと。
 お願いすると漁協の竹下佳伸さんが工場に案内してくれた。
 この方が漁協蒲鉾を積極的に開発され、販売促進に回られた方だった。ステンレスのテーブルに蒲鉾をとりだしてからの竹下さんの手つきが鮮やかだった。
 和江名物の「漁協蒲鉾」は練り製品の区分では「す巻きかまぼこ」と呼ばれるもの。愛媛県八幡浜や山口県萩などでも盛んに作られている。その昔は麦わらを蒲鉾型に成型したすり身をぐるっと巻き上げて蒸す。これが現代ではプラスティックに取って代わっている。蒲鉾のプラステックのストローは輪ゴムで止めているのだけど、竹下さんはそれをを外して、両手でゴムをひっぱり、そのまま蒲鉾に押しつけてきれいに切ってくれる。
 あまりにも手つきが鮮やかなので見ほれてしまう。後々聞いたことからすると、こうやって全国に販売促進に回っていたのだと思われる。

 実はこの蒲鉾が思いもかけぬ名品であった。島根県大田というと、東京からするとかなり鄙の地である。きっと泥臭いものだろうと考えていたのが、愚かであった。
 目の前にあるのは非常に洗練された、質の高い練り製品なのである。なによりも適度に足(弾力)があるのがいい。しかも旨味が感じられて、甘味が程良い。
 なぜにこれほどうまいのかというと、基本的にスケトウダラのすり身を加えてはいるが、地元産の小魚。例えばクラカケトラギス、マエソ、季節によっては「れんこ(キダイ)」を使っている。今回のものはトラギスだが、「れんこ」の蒲鉾はどんな味がするのだろう。想像するだけで唾がわいてくる。

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 そしてそしてこの名品がなんと300円だというのに驚愕する。関東の市場、惣菜仲卸に並ぶ、どの蒲鉾よりも味がよく、小田原の特級品とも互角以上の味わい。「それが300円なのかーーー」。
 しかもしかもここで終わったわけではない、なんと今回のは並製品であり、地魚だけを使った特上品787円というのもあるという。この特上品は地魚がまとまって上がったときにだけ作られると言うが、なんとしてでも手に入れてみたい。

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 蒲鉾とともに試食した「燻製蒲鉾」も素晴らしかった。
 お土産に一本頂いた上に、地元のバシさんが「これもどうぞ」と言ってもう一本。ありがとう、バシさん。

 帰宅して、さっそく我が家の蒲鉾評論家である姫に食べてもらう。姫はただ無言のまま、ほとんど2本を独り占めにしたのだ。

 蛇足の蛇足だが、大田和江を浜田に向かう車中。トーボさんが
「漁業蒲鉾ってダサイんですよねー」
 この言い方いやだなー。この人、本当は子供の頃はいじめっ子だったのではないか。
「ごめんなさい。漁協蒲鉾もあり、ですね」
 漁港蒲鉾も「あり」、「あり」なんてものじゃないよ、これは。毎日でも食べたい「漁協蒲鉾」じゃないかね。
「早合点はうまいものを逃す」とは、ぼうずコンニャク五十路の悟りである。

島根県大田市和江漁協
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 長い島根の旅を益田(県の最西端)で終えようとするときに、同行してくれたヤマトシジミさんから、この缶詰をいただいた。
 初めて、「隠岐さざえ」を見たのは境港のJFしまねの支所。ここに飾られてあって、見た目の素朴さになんとなく好感をもった。地方の産物はこれくらいデザイン性が低くて、素朴度が高い方がいい。そして持ち上げて、あれっと驚いたのだ。缶の大きさから想像していた重さからすると、意外なほど軽い。大型の缶を見て、持ってみたら、だまされたような、不思議な気分になる。
 値段は1400円とかなり高い。ただし例えば缶詰の高級品というとニチロのベニザケ缶詰がスーパーなどでは1000円台、タラバガニの缶詰が4000円くらいだから、「サザエという珍しさ」から値段は良識的だ。
「来月は隠岐」というとき、島の土産として買うべきか? と考えると「持ったときの不自然な感覚」から止めてしまうかも知れない。そんな思いでいたときに手渡されて、実を言うと大いに期待をした。期待を抱かせたのはヤマトシジミさんからいただいたため。この人の食への探求心は本物である(ちょっとご本人に注意をしたいことがあって、ここに書く、まだ若いのだから、うまいもんと日本酒に溺れないように)。

 遠路帰宅して、また毎日の市場がよいが始まったのだけど、八王子の市場にめぼしい魚がない。手ぶらで帰った夕食に、さっそく「隠岐さざえ」を開けてみる。
 開けると、缶の半分よりやや大目の偏った醤油色の煮こごりがある。そこにゴロゴロしているのがサザエの身だけど10個以上までは数えられた。とすると貝殻つきのサザエにすると1キロ以上入っていることになる。

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 当日、サザエの価格がキロ当たり1200円だから。中身の値段だけでも卸値で1200円以上することになる。商品なのだから普通は、これに加工費、利潤が乗る。産地とはいえ採算は大丈夫なのだろうか? 心配になる。

 まずは煮こごりごと身を5個ほどすくい取り湯煎にかける。これを武内立爾さんの六角皿にとる。辰砂に醤油の濁りのない汁が美しい。魚貝類を煮つけるときにいちばん気をつけたいのが、「濁らせないこと」なのでこれはまことに見事だ。

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 味の方も見た目の美しさに、勝るほどいい。醤油と砂糖だけで煮たとあるが、汁に出ているサザエの風味、旨味が濃厚である。そして軟らかな身。これは缶詰の王様かも知れないと食べながら思う。
 さて、たった5個の身で酒のつまみとし、我慢に我慢をして後は残す。なぜかと言うに、缶詰の横にこんなことが書かれているのだ。
「酒のつまみに、また汁を使って炊き込みご飯(一缶でお米三合分)にしてもおいしくいただけます」
 そう、朝ご飯に「隠岐さざえ」の炊き込みご飯を作ることに決めたのだ。

 翌朝、用意したのは二合半のお米、そこに煮汁を入れて、ゴボウ、ニンジン、竹の子を加えて炊く。我が家は小型の羽釜で炊くので、強火で釜が吹いてチリチリ吹いてきたら、弱火で八分。ここでサザエの身を適宜に切り加えて、強火で30秒数える。後は15分ほど蒸らすのみ。

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 早朝の柔らかな日差しの中、炊き込みご飯の湯気がのぼるのだけれど、それがなんとも香ばしく甘い。その上、この味をどう表現すべきか迷うほど、この炊き込みご飯はうまい。調味料は砂糖と醤油だけとのことだけど、本当なのだろうか? もっと複雑に、より濃厚に旨味を感じるのはサザエ自体の味ってこと? あまりの味のよさに我が家だけで食べてしまうのが惜しいので、『市場寿司 たか』の渡辺隆之さんにも試食してもらう。

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「これ本当に缶詰なの。いい味だね。サザエの身もうまい」

 さて、この絶品缶詰を作った隠岐浦郷の方達に感謝したい思いとなる。当然、島根最強の食の冒険家であるヤマトシジミさんにも感謝感激。
 最後に、どうして缶詰の中に空洞の部分が必要なのだろう。缶詰の大きさと、重さがアンバランスなので、買う側に躊躇させる要素となる。例えばタラバガニの缶詰が小振りなのに、なかから圧縮された思った以上のカニの身が出てくるように出来ないのだろうか? 「隠岐さざえ」のファンになってしまったので、ちょっと残念。
 
JFしまね浦郷支所
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