水産会社、加工品図鑑: 2007年6月アーカイブ

kotomitorigai0706.jpg

 愛知県一色は三河湾での漁業の一大基地である。そこにあるのが毎味水産。三河湾の小エビ、世界中から輸入した冷凍エビの加工販売や三河湾の魚貝類を各地に送る荷主でもある。この毎味水産の藤井社長は、ボクに三河湾の魚貝類のことを教えてくれ、また一色での魚貝類調べにはひとかどならぬお世話になっている。
 その藤井社長がときどき送ってくれるのが三河湾の海の幸である。

 それは5月のある日、
「あのよ、今ここでトリガイがとれてての」
 ようするに「トリガイが三河湾でいっぱいとれて、毎味水産で加工しているから食べて見ろ」ということだ。

 送られてきたのは簡便なパッケージに入った湯通しのトリガイだった。これが在り来たりのものなら、別にブログに書くこともなかったのだが、驚くべき代物だったのだ。例えば市場には活けのものは春から夏に多く、年間を通しては冷蔵物の湯引きトリガイがくる。それがキレイに並んではいるものの、味は今イチなのだ。でもこれは違う。うまいのである。ボクだけがうまいといっているなら尻高鰤さんなど眉につばを塗るかも知れない。でも今回、「うまいねー」と感激した人間がもう一人、それが『市場寿司 たか』の渡辺隆之さんである。
「この火の通し方は、プロだね。これが出来るというのが凄いよ」

 毎味水産の藤井社長が言うように今年はトリガイが大豊漁、当然安い。でもこの安い活けのトリガイを自分で仕込んでもなかなか毎味水産のものほどに至らない。

「甘味がいいね。身の弾力性もいちばんいいところになっているし、寿司ネタとしても使いやすい」
 たかさんの評価がまったく僕の評価だと思って欲しい。これは毎味水産が取り引きするサミットなどで手にはいるのだろうか? 藤井社長に聞かなくては……。

毎味水産の水産物は一色さかな広場『一二味』へ
http://www.katch.ne.jp/~ishikisakana/KOTOMI/kotomi.html
毎味水産のことは
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/aitiken/mikawa/issiki05.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

tirimen07061.jpg

 京都府美山町というのはボクがもっとも行ってみたい地のひとつ。京から若狭に抜ける鯖街道とも呼ばれる周山街道の中間にあり、まだまだ美しい日本家屋の多く残る場所。そこでとても美しい女性が大釜で「ちりめん山椒」を炊いている。いいなーー、これ! まるで「番台に上がった若だんな」の気分になってくる。
 そう言えば鞍馬など京都府の山間部で「ちりめんと山椒を炊く」という発想がいつ生まれたのだろう。よく乾燥した、ちりめんは古くから若狭からも、大阪湾、和歌山、淡路島からも、京都にもたらされてきていただろう。それとまわりいちめんに自生する山椒を合わせる。きっと本来は、ちりめん、山椒に醤油だけのとても単純な料理であったはずだ。そう言えば、醤油の登場は室町以後だから、「ちりめん山椒」の歴史も室町あたりまではたどれそうだ。

tirimen07062.jpg

 尻高鰤さんにもらった「京ちりめん山椒」の製造元『京和楽』の住所を見ながら、その昔朝日新聞の日曜版にのっていた美山町のかやぶき屋根の写真を思い出し、思いはどんどん辺の方向へ行く。
 このとき都バスは有楽町のガードをくぐり、そのまま東京駅南口に着こうとしていた。ボクは完全に酔っぱらっていて意識朦朧。でも「お土産だけは落とさないぞ」としっかり「京ちりめん山椒」をポケットにねじ込んだのだ。

 当日の夕食はうまいもんてんこ盛り、その日は築地土曜会があって、めじまぐろ(クロマグロの幼魚)、ちりめんに愛媛県産「そーめん(海藻のフトモズク)」、銀子(銀鮭の卵巣)」などなどボク以外の家族はたくさんの美味を堪能する。

 その翌日のこと、かすかに前日のアルコールが残ったまま、気分はなぜか落ち込んでいる。朝ご飯になにも作る気にならず、それでもお釜の火をつけて、思い出したのが「京ちりめん山椒」である。尻高鰤に「ほいっ」と渡されたので期待しないで食卓に出したら「うまい」。ああそうだ尻高鰤さんはあんまり「うまい」「うまい」と言うなよと釘をさされたが、やっぱり「うまいなー」これ。
 なによりも甘味がほとんど感じられないのがいい。舌を刺激するのは、まずは山椒の辛み、ちりめんの旨味であり、しょうゆの風味(決して醤油の辛みではなく)があいまって、少しだけ口の中で甘味を残して消えていく。

tirimen07063.jpg

 カレースプーンいっぱいをご飯にのせて、もういっぱいと思ったら、すでに紅茶スプーン一杯分くらいしか残っていない。それを確保してもう一度じっくり味わってみる。やはりちりめんの旨味が噛みしめるほどにジワリと浮いてくるし、山椒も生の実を使っているのか香りほどよく鼻を抜けていく。気になって原材料を見てみると、「ちりめん、実山椒、清酒」だけである。これはもっとも理想的な、ちりめんの炊き方であって、しかももっとも難しい。今回の「京ちりめん山椒」は近年食べた中でももっともうまい「ちりめん山椒」である。

 話は変わるが「京和楽」という文字をみるとボクとしては「いかがわしい」ものに思える。どうにも「和楽」という言葉自体が気恥ずかしく、このような言語を真っ向使う人類が赦せないのだ。本来京に暮らし、京都を愛する人に、こんなわざとらしい言葉が必要だろうか? まったく理解できない次元の造語感だ。でも一転、商売を考えるなら「許してもいい」かなと思う。だいたいこの国の消費者というのはボクも含めて愚者が多いのである。それを「買う気」にさせるには、ある意味、あざとい手を使う必要がある。
 また食品加工業でいいものさえ作っていれば会社名などまったくどうでもいいのだ。こんかいの「京ちりめん山椒」なんてボクにとってその最たる物だろう。以後「京和楽」という文字を見ると期待してしまうかも知れない。

京和楽 京都府南丹市美山町下新中巻5


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

saimi070608.jpg

 よほどのことがないと買わないものに「●●かまぼこ」と言うものがある。例えば「カステラかまぼこ」「豆腐かまぼこ」など。この2種類は言うなればお菓子、豆製品とのクロスオーバー的存在なのであって、発想は面白いのだけど今まであまりうまいものにも出合っていない。ということで見つけてもまったく買い込もうなどとは思いも寄らない。そしてもうひとつの存在が「刺身蒲鉾(さしみかまぼこ)」である。「刺身」=「生」であるのに蒸す、焼くを前提とする蒲鉾とどう結びつくのか、「前代未聞の矛盾した存在」である「さしみかまぼこ」はいったい蒲鉾界にあってどういった存在なのだろう。

 それで八王子の「四十物(あいもの)」仲卸で見つけたのを期に聞いてみると、どうやらかなり影の薄い存在でしかないようだ。
「まあ安けりゃ仕入れるけど、意外に単価が高いのよ。賞味期限もわりかし短いし」
「じゃあ、売れないわけじゃない」
「そうだね。ときどき聞いてくる人もいることはいるな。売れる物ではあるかな」
 なんだかはっきりしない答えばかりが返ってくる。

 仕方なく、2本だけ買ってくる。当然初めて食べるのではない。過去になんども各地で“ついつい”買ってきてしまっている。でも日常的な場所(住まいの近辺)で買うのは初めてだろう。ボクが思うに「さしみかまぼこ」はお土産ものといった概念がある。

 今回のものは「山上蒲鉾」という小田原の業者のもの。小田原と言ったら蒲鉾の本場、当然多党競争のまっただなか製品なのだからきっと期待してもいいだろう。
 包装はいたって庶民的。真空パックのビニールに「さしみかまぼこ」とあって「しなやか絹仕上げ」とあるだけ。下にある「手造り」なんて模様にしか見えない。
 これを取りだして刺身のように切るだけ、とても簡単だ。味付けはやや甘め、魚の持つ匂いはほとんどなく「旨味」だけがある。この旨味は魚のものにアミノ酸調味料が加わったもの。原材料にスケトウダラだけではなくシログチやイトヨリダイが使われているためか、その旨味は安すぎる蒲鉾ほど単調ではなく、ほんの少しイトヨリの味の個性が浮かび上がる。塩分濃度は低めながら、そのまま食べてもいいだろう。
 さて、それでは「さしみ」とつく意味合いだが、それは足(練り製品で使う独特の表現で強う弾力)ではなく、プルンとして適度に柔らかいことが上げられるだろう。ボクにはこの無個性な上品すぎる絹ごし豆腐のようなババロア風でもある味わいはもの足りない。やっぱり豆腐は木綿だと言う人には不向きかも知れない。これを食べていてやっぱり薬師神かまぼこ(宇和島市)のじゃこ天のうまさが思い返されたものだ。ボクにとっては練り製品も味わいだなと改めて思う。

 ところが一箸、2箸つけてぼんやり考えている間に、「さしみかまぼこ」はすっかり食卓から消えてしまっている。家族はこのプルンとクセのない味わいにはまってしまって、「明日も買ってきてね」という。我が家は9人家族、ボクを除く全員が「うまい」と言っているのだから、「さしみかまぼこ」は人気者だなー。ボクとは大違いだ。

山上(やまじょう)蒲鉾店
http://www3.famille.ne.jp/%7Eyamajou/index.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2007年6月以降に書かれたブログ記事のうち水産会社、加工品図鑑カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは水産会社、加工品図鑑: 2007年5月です。

次のアーカイブは水産会社、加工品図鑑: 2007年8月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。