さかな季語事典: 2005年11月アーカイブ

 青森県にホタテガイの貝殻を使った家庭料理、貝焼きがある。これがインスタントラーメンを作るより簡単。それにいつでも家庭にある材料で気軽に作れるのだ。これが冬の朝ご飯、また晩酌に持ってこい。家族で取り合いになるほどうまい。

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 大阪の船場は古くから商業の盛んな土地柄、今でも商社などが軒を並べる。さて、その昔の船場の大店といえば、その奥にきっと美しすぎる「こいさん」がいるのだ、というと谷崎潤一郎の『細雪』の世界が見えてくる。この大店、奥には贅を尽くすが、店では始末に始末を徹底している。すなわちワラ屑1本、粉になった炭(塩原多助の世界)すらも無駄には捨てないのだ。
 その始末は食べ物にも及ぶ。食卓に並ぶ、サバ。ここから出る中骨、粗などに一塩、これを取って置いておく。これを出しとして汁を仕立てるのが船場汁なのだ。具はもっとも安くて、その上、食ってはうまい大根である。こんなうまいものを、最低限の材料で作り出すのだから大阪は凄いのだ。
 作り方はいたって簡単である。魚はサバに限らない。今回はヒラソウダガツオを使ったが、マアジ、ゴマサバ、サワラ、はまち(関西のでのブリの幼魚)、どちらかというと回遊する背の青い魚が向いている。使うのはアラや中骨というのが本格的、絶対にいい部分は使ってはいけない。それでは偽物となってしまう。これにかなり強く塩を振っておく、ときに干すと出しに濃くがでる。この塩味の聞いたアラを水から入れて火をつける。ぐらぐら沸いてきたら灰汁をとりながら軽く湯がいた大根を入れて酒、味加減をみて塩を足す。このときアラをそのまま入れて置いてもいいし、取りだしてもいい。今回は取りだしている。これで出来上がり。きっと本来は始めから大根もアラも入れて、酒も使わないのだろうが、これでは今時寂しすぎる。
 好みでコショウを一振りすると味わいが増す。

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 築地など東京では「なめた」と呼ばれているのがババガレイである。主に北海道や三陸から入荷してくるのだけれど、このカレイがくると冬到来を感じないではいられない。
 普通、カレイは菱形状であるがこのカレイは楕円形の鈍い形をしている。そして目のある表はだんだらで黒くカレイの色合い、裏側は漆喰のような白、その皮がだぶついてやや薄汚れて見えるので「婆がれい」なのだと思う。大きくなる魚で2キロ、3キロなんていうのが珍しくない。ただ、どうにも見た目では食指は動かない。
 ところがこのカレイ、東京では高級魚のひとつである。現在にあってキロあたり2000円を超えてしまうと、なかなかスーパーなどに並ぶことはなく、主に小売りではデパートや特種な魚屋に行くことになるが、このきわどいラインを当然のごとく超えて取り引きされている。また、それ以上に驚くのは岩手県や宮城県人のこの魚への熱狂振りである。今はなくなった釜石の橋上市場では、魚屋のいちばん目立つところに置かれて5000円、6000円と値がついている。それに、数人のおばちゃんがとりついて熱心に選んでいるのであるから、ここではこの魚が主役なのだ。岩手では年取り魚としても使われる。
 それでは、どのようにして食べられるかというと、煮つけなのだ。刺身でも、塩焼きでもなく煮つけというのが東北ならではだろう。表面のぬめりとウロコを取り、適当な大きさに切り分ける。真子が入っているので切るときに注意が必要である。それをやや水を多めにした煮汁で炊きあげるのだ。熱を通すとただでさえ分厚く白い身がぶわっと膨れあがるように感じられる。そして皮がしとっとしてくる。これを煮汁ごとむさぼるように食うのだ。絹のような滑らかな繊維質の身が煮汁をすくい上げる。その身と煮汁に濃厚に感じられるのは出しである。ババガレイの旨味が出しとなって煮汁にあり、そして身の方も旨味はありすぎるほどにあるのだ。たぶん、この煮つけを食べると、「煮つけ」というものの価値観が変わるはずだ。
 今年の年取り魚は「なめたがれい」にするつもりだ。

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市場魚貝類図鑑のババガレイのページへは
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 11月の声を聞いて木枯らし一号でも吹こうものなら市場にどっと入荷してくるのが「黒ガレイ」。産地は北海道。この「黒ガレイ」は1種類の魚を差すのではなくクロガシラとクロガレイという似たもの同志を区別しないで呼んでいるのだ。
 11月に来るものは白子も真子も小さくて、そのぶん身の方がうまい。それが歳を越した途端にお腹が膨らんで真子を孕んだメスが人気となる。オスもうまい。でもやっぱり日本人は真子が好きなのだ。そして菜の花の出る頃に旬も終わり、入荷も終わりとあいなる。
 おすすめの料理はずばり煮つけ。真子をたっぷりもったのを田舎風に甘辛く煮つけて、飯のおかずにする。そして残った骨と粗、煮汁に熱湯を注いで、しみじみカレイの旨味を堪能するのがいい。うまいぞ〜!

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市場魚貝類図鑑
クロガレイのページ
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クロガシラガレイのページ
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 秋になると「そろそろカワハギかね」という会話が飛ぶのだ。「肝はまだまだだね、もうちょっと待ちましょ」なんて言っている内に今年は冬に突入してしまって。
「やっと当たりがでたね」と大きな肝を見せてくれたのが土曜日のこと。「今年はやっぱり遅いんじゃないの」という寿司屋に、「温暖化だね、カワハギも肝を冷やしております」なんてオヤジが言い放つ。
 そして金曜日、真鶴の『栄寿司』で見事なカワハギの握りを食べて、感極まったのでした。
 今が旬かな、カワハギさんは……、やっぱり「肝に銘じておきまする」。

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市場魚貝類図鑑、カワハギのページへは
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ぽんだら(マダラ)

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 昨年の初冬である。「ぶわだら(塩蔵のマダラフィレ)」を買っていたら、八王子の魚屋、善さん(西八王子、魚善)が「『ぶわ』買うくらいなら『ぽん』買えよ」という。それに何人かの魚屋が「『ぽんだら』はうまいよ。大ざっぱにトントンとぶつ切りにして、肝とかさ、胃袋とか全部入れて鍋にするのよ、これが意外なくらいうまい」。みんなが口を揃えて買えという「ぽんだら」はマダラの30センチほどのもの。大きなマダラが市場に幅を利かす前にやってくる。これのフライはうまいのはわかっていたが、鍋、みそ汁がうまいのかな。と昨年のちょうど今頃に食べてみた。これがたまらない味わいなのだ。
 鍋に1匹をそのままぶつ切りにして入れて再度沸騰したらアクをすくい、野菜と豆腐を入れる。出しにたっぷりの酒と、塩で味加減。ポン酢がいいな。しみじみいいな。だいたい野菜の栽培地域でも「八王子・日野は高冷地だと思っていいよ」とベテラン農家からアドバイスを受ける。それだけ深々と冷えるのだ武蔵野西部は。そこに「ぽんだら」の鍋。地元の高倉大根、水菜、白菜、豆腐。ふーふーと飽食しながら酒も3合3尺いけますな。

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八王子綜合卸売センター、高野水産にて。仲卸で1匹250円から400円。小売りでも500円前後だろう。親切な魚屋にぶつ切りにしてもらうのだ


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利根川の天然ウナギ

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 秋も終わりの時期だが、今は利根川天然ウナギの漁期にあたる。また利根川河口域での野鴨猟も行われている。そんな時期なので利根川の小見川町から銚子への旅を計画しているのだ。
 これはまた小見川町北総漁協の篠塚さん、宮崎組合長など懐かしい顔にもう一度会いたい、また天然ウナギの蒲焼きを作る名人、菅谷さん夫婦に会って、また「りんず模様」の入ったぼっかを食べたいのです。そんなこんなで秋は、また初冬の時期は短いんです。

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 利根川は小見川町のウナギ職人、菅谷敏夫さんの焼き上げた素晴らしい利根川天然ウナギの蒲焼き。今でも思い出してつばが湧いてくる。

 この天然ウナギ漁の模様は
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また千葉県の魚貝類の旅、目次へは
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 秋になるとぐっとうまくなるのがヨロイイタチウオ。市場ではもっぱら「ひげだら」と呼ばれている。値段は大きいものでキロ/2000円以上。高値安定型の魚で、選び方のコツは出来るだけ大きいものを選ぶこと。
 この魚、世間では高級魚「ひげだら」として知る人ぞ知る存在なのだが、現物を見たことのある人はほとんどいないと思われる。その現物は高級魚とはいえ、なんとも情けない面構え。地方では「なまず」とか「沖なまず」と呼ばれているごとく、どこか醜いのだ。
 その醜い深海の魚がなぜ高いのか? それは全魚類参加の「世界昆布締め大会」で優勝経験があるからだ。まさにオリンピックの金メダリストのように光り輝いて、多くの食通を感動させた。そして食通でもない、ぼうずコンニャクですら旨さに泣けてしまうのだから、小泉首相は国民栄誉うまい賞でも贈呈したらいいのだ。
 晩秋から冬が旬のヨロイイタチウオの昆布締め。料亭で食うか、自分で作ってお安く済ませるかは、勝手に決めてくれ!

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市場魚貝類図鑑のヨロイイタチウオへ
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 ヤリイカは秋になって、小イカが入荷してくる。それが徐々に大きくなって下氷(氷を敷いた上に魚貝類をのせる)で入ってくるようになると冬。冬の始まりの11月ではまだまだ産卵期には遠い。そしてこの時期、ヤリイカの形は小さいものの身は肉厚で甘みも強い。そして寒くなるほど大きくなって、歳を越して梅が咲き始めるとぼつぼつ、卵を持つ時期となる。これから木の芽時くらいまでがヤリイカのシーズンだ。
 北海道ではヤリイカを「冬いか」、スルメイカを「夏いか」という。また冬でもスルメイカがとれる本州でもやはりヤリイカは冬の風物詩と言える。
 コタツを出した、酒は燗をして、冷え切った身体が人心地ついたときに冷たいヤリイカの刺身をするり。そこに燗上がりする山廃の純米酒を流し込んで、これぞオヤジには至福のときなのだ。げそも茹でて、刺身に添えて出して欲しい。春まだ浅い時期から子を持ち始めたら、げそやエンペラなどとともに煮つけ。ほろほろと甘みのある子を楽しむなら焼酎のお湯割りかな。冬はどうしてこんなに酒がうまいんだろうなと、思わず肝臓を手でまさぐってしまうのだ。

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岩手県山田産のヤリイカ。まだ小振りだ

市場魚貝類図鑑のヤリイカへはここから
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「生のり」とはお馴染みの海苔、すなわちおむすびを包んだり、海苔巻きになったりする板海苔の材料である。この「のり」には何種類かあるが東京湾や有明海では、細々とアサクサノリという種も養殖されているが、ほとんどすべてスサビノリという紅藻類の海藻。
 板海苔はいつでも手に入る乾物だが、生が来るのは冬だけなのであって、これが来るとまさに秋は終わりなのだ。生のりの産地は市場で見る限りは宮城県が多いようである。
 この生のり、酢の物に、そのまま天ぷらに、また佃煮などに使える。でもいちばんうまいのは、そのままみそ汁や吸い物に落とすもの。香りがつんと立ってたまらない。

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市場魚貝類図鑑のスサビノリへは
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 10月の終わりから11月になって、目立ってきたのがシバエビである。芝浜でとれたから「芝海老」なんでしょうけど東京湾ではほんの少ししかとれません。とれると事件とでも言えましょうか? この産地は三河湾、大阪湾、有明海など。江戸前天ぷらの材料はほとんど西日本から東海でとれると言うわけです。秋から初夏まで長くとれるエビですが、いちばんの旬は11月だと思います。
 二、三本、束ねて「ちょぼ揚げ」すなわり天ぷらにする。またかき揚げ、すり身にして握りの玉子焼きに混ぜる。でんぶもいいもんですね。

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