日々朝の冷え込みが厳しくなってきている。
駐車場まで下りていく階段は落ち葉に埋まっているようだ。
カサッ、カサと降りていくとパートに向かうオバチャンが、階段を半分登ってきて、「ここからが辛いのよ」と、これが朝のご挨拶のようなもの。
「まあ、あと一息ですから」なんて手を振って、また階段を下りて、クルマにたどり着くと、ドアが完全に凍り付いている。
一二の三で無理矢理にドアを開けると、バリっとイヤな音がする。
車内は全面ガラスが凍り付いて、薄ら明るく、まったくのサイレント。
エンジンをかけて、氷が溶けるのに5分以上かかる。
この何も考えない時間が最近とても好きになっている。
悪くないのだ。
食べ物を買いに行くのだから、人によっては作る料理のことを考える、のだろうか?
残念ながら市場に行くときに、絶対にやってはいけないのが「予め作る料理を考えておくこと」なのだ。
その日、作りますものは「市場が決めてくれるの」であって、ただただいいものを見つけて買い物をするに限る。
クルマで行くこと10分足らずで八王子魚市場、ここを簡単に見て回り、八王子総合卸売センターに。
このとき8時半を回っている。
大急ぎで高野水産に走る。
トラックから降ろしたばかりの荷が店の台に運ばれてくる。
「小振りのヤリイカがあって、(キロ600円で)安いな」なんて、思っていたら、そのヤリイカ目がけてあっちからもこっちからも買い手が伸びてくる。
やっと十本ほども確保して、仲卸でワタと墨袋を取り除く。
胴に縦に走る貝殻(透明な板)も取り除いて、そこにゲソを詰め込む。
午前8時、吹きさらしの市場での水仕事の冷たいこと。
「冷たいな、冷たいよ」
ついついこんなグチをこぼしてしまう。
「バカ野郎、今日なんかあったけーほうだぞ。文句言うんじゃねー」
なんて近所の居酒屋のオヤジから、厳重注意の罵声が飛んでくる。
「わけーのに泣き言いうな、オレなんか50年もそんなことやってるんだからな」
こちらは相模原のレストランのオヤジである。
朝、仲卸のまな板は、いうなれば戦場である。
たかだか小ヤリの下ごしらえに5分もかかっていると、すぐに「おらおら、どけよ」なんて文句が出る。
この日は自宅で仕事。
これがボクの理想なのだけど、こんな日は月に一日か二日しかありはしない。
このところやたらに日が暮れるのが早い。
あたりが真っ暗になったとき、鍋にニンニクとたっぷりのオリーブオイルを放り込んでとろ火をつける。
オイルにニンニクの香りがついたら、玉ねぎと近所から頂いたセロリのコンカッセを投入。
ここにホールトマトを握りつぶしながら入れる。
できるだけ弱火で、鍋のなかがぷつぷつわいてきたらヤリイカを鍋に並べるようにする。
後はじっくり待つのみ。
この料理のコツは出来る限り弱火で、トマトの甘味を逃さないこと。
もうひと味ほしければ、コンソメキューブを加えてもいい。
仕事は後、もう一息。
小一時間で終えたら、夕食の支度にかかる。
アジ煮干しで出しをとり、千葉の海人つづきさんに頂いた里芋をたき、海老名のエビさんにこれまた頂いた柚をおろしてまぶしつける。
水菜のごまみそマヨネーズ和え、アカササノハベラの韓国酢みそ和え。
脇役の小ヤリのトマト煮込みはココットに入れてオーブンで熱している。
粗挽き黒コショウと塩だけで厚切りロース肉を焼き。
ブロッコリーの脇芽をゆでる。
これが今夜の夕食である。
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小ヤリのトマト煮込みはまことに簡単至極、手間いらずな料理だ。
でも魚貝類の料理はおしなべて単純で、簡単な料理法が向いている。
軟らかな小ヤリが甘い。
これはヤリイカの持つ甘味を感じさせるアミノ酸とトマトのグルタミン酸から生まれたもの。
面白いのは煮詰まったトマトの方にもヤリイカの旨味が感じられること。
さて、我が家は朝と夕、必ずご飯をたくのだけど、今日はバゲットとクルミ入りのパンがカゴに乗っている。
当然子供達は大喜び。
お父さんは最近益々貧乏なので多摩自慢無加糖をやる。
2008年12月15日
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ヤリイカへ
http://www.zukan-bouz.com/nanntai/tutuika/yariika.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
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