さかな季語事典: 2005年12月アーカイブ

 寒になるとマガキがうまくなる。市場でみるマガキには缶などに入った加熱用のむき身と、パック入りの生食用がある。この違いはどこにあるかというと「鮮度」ではなく殺菌しているかどうかである。生食用は紫外線で無菌状態にされた海水に一定時間つけられて体内の菌を取り去ってしまっているのだ。ただ、この無菌の海水にはエサとなる生き物もいないわけでマガキはお腹ペコペコの飢餓状態。当然旨味も失われている。反するに加熱用は産地で剥いて汚れをきれいに洗い流しただけ。熱を通して食べるなら加熱用がいいに決まっている。
 加熱用のマガキをたっぷり買い込んで、冬の夜は、かきのみそ鍋でいっぱいやるのだ。

粉雪を 払い落として 牡蠣のみそ鍋(秋野一人)

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市場魚貝類図鑑 副読本
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かきのみそ鍋(かきの土手焼き)の作り方
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 秋から冬が旬であるのがカワヤツメ。それが昨日、秋田県秋田市の、なべ婦人から送られてきた。一般に言うところの八目鰻だ。鳥目にいいとか精力回復腎虚に効くとか、いろいろ言われている。でも我が家では今のところアイドル並みに人気者であり、水を張った発砲の中で丸い口を吸盤のように押しつけてこっちを見ている。これをまた家族がさっきからずーっと見ているのだが、本当に貝焼きにしていいものか悩み始めてるのであった。

街の灯に 八目鰻の 貝焼き鍋(秋野まさし)

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 我が家の定番鍋に豚三枚肉とカキの鍋がある。出しは昆布とほんの少しのかつお節、酒、塩だけ。シンプルに行くと鍋は成功する。また鍋の支度は腕白小僧に立ち戻ってせいぜい暴れて作るとうまいのが出来る。夕食時に暴れてしまうのだ。
 作り方は出しとる。それに信じられないくらいたっぷりの日本酒と吸い物よりやや控えめな塩で味つけする。また豚三枚肉、カキは予め湯通しして置く。野菜は、白菜、芹、春菊、ニンジン、ネギ、もやしもいいし、ブロッコリー、ターサイやチンゲンサイもいい。霜が降りるとあちこちから野菜をもらうことってないだろうか? そんなもの全部ぶち込んでみる。キノコはシイタケ、エノキ、あればなんでもいい。豆腐はご自由に。鍋は大らかに作るんだと心にとめて作るべし。ゴマだれは摺りゴマに砂糖、しょうゆ、ほんの少しの水。ポン酢は少しの出し煮きりみりん、酒、しょうゆ、スダチを合わせる。
 出しに豚三枚肉とカキを入れてポン酢かゴマだれで食べるのだが、野菜も白菜を中心に不愉快になるほどぶち込む。ときに普通鍋に入れないブロッコリーなども入れてみるといい。霜が降りるようになって育ちは悪いが味はよくなっている。こんな無造作にやると鍋には何を入れてもいいんだということを思い知る。後半はここにうどんなどを入れて出しごと食べて一滴の出しも残っていないようにするのがベスト。
 疲れていたり体調を崩したときにはこれに限るといった鍋ですが、カキだけより、豚肉だけよりも合わせて使うとどどーっと身体が回復するのはグリコーゲンと豚肉のビタミンDのお陰かな?

夜寒の日 腕白小僧よ 鍋つくれ(秋野一人吟)

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 秋田といえばハタハタ。このハタハタ、今では高級魚となってしまったが、「昔はトロ箱いっぱい、何十円だったかな」という時代があったのだ。その秋田であるからハタハタの食べ方・料理も多彩で見習うべきところが多い。
 その秋田に我がサイトの協力者である、なべ婦人がいて、今年もハタハタの三五八漬けを送っていただいた。これがうまいのだ。届いた時にはまだ漬かり方が浅めかなと思って大急ぎで飛騨コンロを出して焼いてみる。試しに1本だけのつもりが疲れ果ててしまっていたためか、ワンカップを冷蔵庫から出すうちに3、4本と焼きながら食べてしまった。赤い菊姫のワンカップが、この麹がきいたハタハタに合うのだ。
 さて「三五八漬け」とはなにか、まず数字は塩=3、麹=5、米=8のこと。これで野菜や魚などを漬け込んでしまうのだ。味わいは塩辛さのなかに麹の香りと甘さが感じられて、我が家では大人の味。酒のすすむ「あて」となる。
 秋から冬にかけてとれるハタハタを漬け込んで、温かいコタツで食べるのがハタハタの三五八漬けを焼いて食うのだから冬の季語となるだろう。
 秋田のなべ婦人に感謝いたします。

荒海を 思いてハタハタ 三五八漬け(ぼうずコンニャク吟)
俳句はぼうずコンニャクの戯れです

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「鍋こわし」とは鍋をこわすほどにうまいのか? またあまりにまずくて鍋を投げつけてこわしてしまうのか? 後者の方が面白いのだけれど、間違いなく「うまい」方である。
 それでは、その美味な「鍋こわし」の正体はいかなるものか、というとトゲカジカのことである。カジカの中では大きくなるモノで2キロ、3キロにもなるらしい。これを寒い北海道で夕食用に荒縄で縛って持ち帰り、荒々しくぶつ切りにしてみそ仕立ての鍋にする。たぶん北海道だから馬鈴薯(ジャガイモ)やニンジン、玉ねぎなんかもぶち込んで無造作に作るのがいいな。まさに厳冬が旬の「鍋こわし」である。

鍋こわし 食らいて暑いと 窓開ける(ぼうずコンニャク吟)
俳句はあくまで遊びです

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 初めて青森に行ったのは青函トンネルの開通の年、1988年のこと。中でも面白いのはモスソガイの串刺し。モスソガイを丸ごとゆでて、べろーんと伸びた足に串を刺し通している。あんまり見事なので見とれていると。
「いでんつぶ(最初の言葉が聞き取れない)っていうんだよ」
 真っ赤なホッペのおばさんが薄暗く狭苦しい市場の端っこから教えてくれる。その市場は青森駅前にあり、真新しい建物もあるのだが、これが山盛りになっていたのは古めかしくも謎めいた空間であった。煌々と光る裸電球が照らし出す、モスソガイの串刺し、サメの頭、巨大なマダラの尾が店の大から垂れ下がっている。この情景のなんと魅力的なことか。今は建てかえられてすっかりきれいになったという青森駅前市場、きっと北国の良さはないのだろうな?
 市場を歩きながら「いでんつぶ」とはなにか? と友と話した。「遺伝つぶかな」いや「“いでん”という地名があるのだ、と結局それがわからないままに青函トンネルをくぐったのだ。それからまた2年ほどして青森に行き、それが「おでんつぶ」なのだと知った。おばさんは我々に「おでんに入れるとうまいよ」とでも言いたかったのだろう。
 確かに煮ても硬くならないモスソガイはおでんや煮つけに最高の味わいを発揮する。また「べろつぶ」とも呼ばれているのが長い軟らかな足を舌に例えているのだろう。
 この貝がいちばんうまいと言う旬がわからない。それでもあえて冬の季語としたいのは、「おでんつぶ」という呼び名からである。

青森の冬の市場におでんつぶ(ぼうずコンニャク吟)

ぼうずコンニャクの俳句はあくまでシャレですからバカにしないでね!

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寒メジナ

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 寒い時期になると変身するがのごとくうまくなる魚がいる。メジナもそのひとつ。メジナは子供の頃には岸辺の港回りなどに群れていて貪欲にエサを追う。これがために子供達のよき遊び相手だ。また伊豆などでは旅館の泊まり客が浴衣で釣りを楽しんでいる。これなど旅館のサービスなのだろうか。あるとき曾我廻家明蝶そっくりの初老の方がメジナを釣り上げて、「まあ、こんなに黒い、ちっさい魚が釣れましたがいな」なんて言っている。これは伊豆は稲取の防波堤でのこと。この光景になんだかしみじみ詩情を感じたものだ。
 そんなメジナであるが、夏でも食べられるには、食べられるが独特のクセがある。また臭いがなくても、けっしてうまいものではないのだ。それがどうだろう。磯などで竿を振るのさえ寒くて辛いような日のメジナは苦労を購うだけの味わいなのだ。刺身にして身は白濁しているのだけど、これは脂。これに磯臭さが微かにあるものの、これも風味と思えるほどに心地よい。やはりメジナは寒に食うのがいいのだ。

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市場魚貝類図鑑のメジナへは
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 今年も沼津の菊貞・山丁 菊地利雄さんから「塩かつお」(潮かつお)をいただきました。これは西伊豆でとれたカツオに塩をして年末まで干しあげたもの。伊豆の正月には欠かせないものです。
 我が家での食べ方はまず三枚におろす。そして中骨、また身は適当に切って軽くあぶり、熱湯をそそいで、お吸い物をつくる。身は薄く切りこれもあぶって酒の肴に、お茶漬けにします。また薄く切って清酒に漬け込む「酒びたし」も本場新潟県村上市のサケのものに負けぬ味わいとなります。どちらにしろ正月早々「酒びたり」になりそうです。
 また東京で伊豆ならではの産物を、地元の方と同様楽しめるのも幸せというもの。菊地さんには感謝いたします。

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魚武水産 静岡県賀茂郡賀茂村安良里665-1


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 魚自体もそうだが料理としての「鮟鱇鍋」の旬がこれからの季節。その「鮟鱇」とはアンコウではないといったら判じ物めくが、種名で言うとキアンコウという魚。市場で、またスーパーで売られるほとんど総てがキアンコウである。そして方やアンコウはどうしたの? と思われるかも知れないがどうも獲れる量自体が少なく、やはり味も少し落ちる。アンコウの仲間では他にはやや南に棲息するシモフリアンコウも食用になりうまいものだ。
 さて旬を向かえたキアンコウだが肝心要の肝が大きくなってきて、本体以上に注目を浴びる。市場では、そのせいだろうか、腹を割って肝を見せて売られているのだ。その肝の色合いを真剣に見ているのが魚屋や飲食店のオヤジ。それぞれ持ち帰ると肝は丁寧に筒型に巻き蒸してしまう。そして身はぶつ切りにする。それを合わせて鍋物に仕立てる。これが江戸風の鮟鱇鍋。ワイルドに肝も身もワタなどを全部まとめて鍋物用にするのは地方から来た魚屋が多いようだ。
 さて骨と歯以外は捨てるところ無しのキアンコウ、鍋に使うに胃袋から卵巣まで分けて「七つ道具」と呼ぶ。それを羅列すると【「えら」「ひれ」「かわ」「肝臓」「水ぶくろ(胃)」「ぬの(卵巣)」「身」】とも【「えら」「皮」「肝」「水袋(胃)」「ぬの(卵巣)」「柳(ほおの肉)」「とも(尾の肉)」】とも言われる。
 キアンコウは近年中国などから輸入が行われておりスーパーなどで手軽に買えるし、もっと家庭でも楽しんだ方がいいと思う。また街の魚屋などでせっせとキアンコウならではの「吊し切り」に励んでいる店も見受ける。これなど国産の上物である可能性が強い。見かけたら多少高くても買ってみることをお勧めする。高くても満足できるはずだ。

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キアンコウ
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アンコウ
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シモフリアンコウ
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天然マガキ

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 今日も厚岸の天然ガキを買ってしまった。この天然のマガキは秋よりも冬に買いたいもの。12月、1月、2月と毎日でも食べたいと思う。
 天然ガキの産地は北海道に多く、厚岸とサロマ湖のものが有名である。ともに私的には小振りなヤツがいいのだ。貝殻が小さいと言っても中身はたっぷり膨らんでいる。そして味わいが濃い。濃いくせに後味はさらりとしているのも不思議なほどである。
 この北のカキを暖かな部屋でツルリとすすり込む。そこに冷えた純米吟醸をゴクリ。これが冬の最大の楽しみだ。

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佐呂間町多田商店
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 年末になると入荷してくるのがマハゼの卵巣である。どうもこれは千葉の東京湾各地、宮城県などから来るらしい。
 これをあっさり炊いて食うと「冬だな」と思う。そしてそのほんの少し感じられる日向のような臭いから、深みに落ちて産卵の時を待つマハゼの母さんの行く末を思うのだ。この落ちたマハゼが春早く卵を払う(産卵する)。そして孵化した稚魚と出合えるのが木の芽時から梅雨、夏にかけてである。この小さなハゼの子を「できはぜ」などと言って釣り人が水っぺりに集い、長閑なハゼ釣りを楽しむのだ。

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市場魚貝類図鑑 マハゼには
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 毎年寒い時期になると福島県から入荷してくるのがアカドンコ。見た目は他に例えようのない顔立ち。まあどう見ても不気味としかいいようがない。コヤツをどうするか? 身はぶよぶよ、初冬では肝も小さい。
 あんまり味があるとは思えないが鍋にするのがいちばんだ。ぶよんぶよんとしたのをポン酢とネギで身をすすり込むように食べると、どうしてどうして、うまい鍋を食べているような気がしてくる。まあ、湯豆腐を食べているような気分になって、豆腐と思って噛みしめたらジワリと旨味が浮き上がってきて「これはなんだと」感動してしまうような状況に陥る。それが、この魚の持ち味である。
 こんな魚、居酒屋などで売れるんだろうかと思っていたら八王子では大人気である。何箱かもってきて仲買が総て売り尽くしている。
 でも、この面相は凄いよね、と驚くよな。驚いて腰を抜かした婆がいるくらいだ。それを見て仲買が「婆がばばあを見てビックリした」と喜んでいる。そう、福島からの箱に一度だけ「ババア」と書かれていたのだ。
 まあ、とにかく食べてみる価値は大とぞ思う。

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市場魚貝類図鑑 アカドンコへは
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 ガンゾウヒラメという魚、市場ではめったにお目にかかれない。来ても、あまり人気がないように感じるのだ。そんなガンゾウビラメのぱっとしない印象が、『はまかぜ通信』の寺井さんから来たもので全然、違って思えてきた。
 そろそろ初霜、初氷かなという今、届いたガンゾウヒラメは30センチ以上、そろそろ40センチはあろうかという大物。やや斜に構えた目が「刺身で食べてくれい」と言っているようだ。そうかそうかと5枚下ろしにすると、身がなんだかねっとりときめ細かく感じられる。これは脂のせいだうか。皮を引きへぎ造りにしてスダチを添える。
 この刺身がいとおしいくらいにうまい。口に入れるとシコっとして旨味があるのだ。その上、ヒラメの縁側ならぬ、ガンゾウの縁側のうまいこと。ぷるぷるとした食感に脂がある。そして脂が微かに甘いのだ。「うまいな冬のガンゾウ」と飲むのは当然、日本酒となる。
 冬が旬のガンゾウビラメ、食べてみたいなら『はまかぜ通信』まで。

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はまかぜ通信へは
http://www1.odn.ne.jp/~cdz95680/

市場魚貝類図鑑のガンゾウヒラメへは
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