2006年7月アーカイブ

 千葉県船橋などで増えているのが北アメリカ原産のホンビノスガイである。これがどうにも「売れなくて」こまっている。困っているけど「うまくないんだから仕方ないか?」なんて思っていたら。
「おい、おめーなホンビノスうまくないと思ってるだろ」
「うん、うまいかな。どうかなうまいことはうまいようだけど」
 こんな時は誤魔化すに限る。
「ちょっとコレ食っててみよや」
 八王子魚市場内『源七』の若だんなが偉そうに言ってくれる。
 と見ると、ホンビノスの酒蒸しが置いてあるのだ。そして手前にはうまそうな白みる(ナミガイ)もある。当然、ナミガイを一切れ二切れ三切れ、
「いやあーなかなかうまいな」
「そうだろ、うめーだろ酒蒸し。オレが蒸したんだからな」
 まだ酒蒸しは食ってないよ。
 そしてだ、酒蒸しも貝殻をもって「シャブリ」と口に放り込む。
 すると豊かな貝の旨味、そして甘味がある。身も硬くないのはどうしてなんだ。
「だからな、普通にというか、上手に酒蒸しにすればうまいわけよ」
 しかしまことにうまい。ついつい二個三個と食ってしまうほどにうまい。
 ここにホンビノスがうまい貝であることを証明するのだ。

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市場魚貝類図鑑のホンビノスガイへ
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 沼津人が100人寄れば、100軒の干物屋を教えてくれる。最近、驚くとともにあきれる思いがする。でもそのことごとくが「うまい」のだから、またまたまた驚いてしまうのだ。さすがは「鰺の開きの生産量日本一」を誇るだけのことはある。でも個人的には志下の「カネマル笹市」が最高だと思っていた。
 でもやはり沼津の干物屋は奥が深い。沼津・魚の案内人「山丁」菊貞・菊地利雄さんからいただいた「伊藤水産」の干物が非常にうまいのだ。沼津で定番ともいえそうな鰺の開きがうまい。焼いては食べ焼いては食べして5枚があっという間になくなってしまう。
 キンメダイもイボダイもイワシも、どれを食べても見事なできだ。こんど沼津に行くとお土産は「カネマル笹市」にするか「伊藤水産」にするか苦しまなくてはならない。

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「山イ(やまにんべん)」伊藤水産 静岡県沼津市志下485の1


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 フジイロエゾボラはBつぶの代表的なもののひとつ。東北から北海道まで棲息している。非常にきれいなつぶであり、こぶし状から細長いものまで形は様々だが特徴は貝殻に非常に太い螺肋(貝殻に浮き上がるようにしてあるひも状の縞)がある。
 エゾバイの仲間は形態的(形色合い)に似通ったものが多く、なかなか見分けるのが大変なのだが、フジイロエゾボラはなかでも特徴がはっきりしていてわかりやすい。
 産地は内浦湾(噴火湾)から根室までが多い。値段は安く1000円から高くて1800円ほど。
 味は刺身つぶのなかでもよい方だと思うが小振りなものが多いので歩留まりが悪い。

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これは産地不明。札幌の市場からきたもの

市場魚貝類図鑑のフジイロエゾボラへ
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 いったい何時間眠っていたのだろう。目覚めると8時前。さっきトイレに起きて、5時過ぎだなと思っていたら、もう強い日差しが外から射している。姫を起こして市場に向かう。時間帯を考えると駐車場があいていないだろうと思い自転車で甲州街道に出る。

 八王子魚市場には8時半。自転車をとめて場内に入ろうとしていたら顔見知りの魚屋に「飲み過ぎだろう」といきなり言われる。そして場内。
 鈴木さんのところで磯つぶ(エゾバイ)を少し。サンマは値を下げてきている。そして特種にはギンポ。『海老辰』まできたらここにもギンポがある。ギンポの入っている箱にはパッチも業者名もない。当然産地がわからない。

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 八王子魚市場から中央線のガードをくぐり八王子綜合卸売センターに。水産棟では『八王子淡水(ウナギ屋)』が疲れた顔をしている。『南京軒』の前に自転車を止めて、八王子総合卸売協同組合に入る。
『光陽』でコロッケ定食、姫はラーメン。光陽のお母さんに「昨日寝てないんでしょう。でも食欲があるんなら大丈夫だね」と言われる。

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激安市の八王子総合卸売協同組合。ここは比較的人の流れの少ないところ。肉屋が並ぶ通りは身動きできない

 八王子綜合卸売センターにもどり八王子一値段の安い肉屋『平成食品』でダウンしていると、ケータイ。
「あのさ、ケンちゃんのところにいるんだけど、誰かがカサゴをくれてるよ」
 八王子小宮の『スーパーイシカワ』さん。
 20センチ上のユメカサゴがあって、どうも八王子のそば屋『まつ浅』さんからのプレゼントであるようだ。「ありがとう」。

 八王子総合卸売協同組合『河村青果』でシロレイシとスダチ5個。
 八王子綜合卸売センター『平成食品』で豚ショウガ焼き用ロース1パック500円のところ450円にしたもらう。ありがとう。『高野水産』には松輪(神奈川県三浦半島)からのマサバ。脂ののりは今ひとつながら見事なもの。大きくて850グラムもある。キロあたり800円と格安なので一本。八百屋の『ビックリ屋』でシイタケとショウガ。

 さて帰ろうか、というところで炎天下に出て動けなくなる。姫が「飲み物買え」というのでAsahiの「ドデカミンゴールド」500ミリリットルのペットを買う。姫は最近こればっかり飲んでいる。「男は黙って金を飲め、マカ配合さ」とあり、まあちょっと元気が出てきた。

 浅川の土手にのぼると一面にワルナスビの花。コヤツら、この炎天に生き生きしておる。
 憎いヤツじゃな ワルナスビ 引き抜こうとして返り討ち
 いたたたた棘を気にしながら手を伸ばしたのに人差し指に血がにじむ。

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多摩地区に多いのが北米原産のワルナスビ。これ移入は古く命名者は牧野富太郎

 帰り着いて冷たいシャワーを浴びると眠くなる。居間で「永六輔の土曜ワイドラジオ東京」を聞きながら横になっていたら「掃除の邪魔」だと言われ、パソコン部屋にマットを敷き退去。そのままうたた寝、気がつくと3時過ぎ。
 大急ぎでユメカサゴの撮影。画像の整理、寿司図鑑作成。寿司図鑑はやっと400種達成。ぜんぜん嬉しくない。

 夕食はひとりっきり。最近お気に入りのホッピー黒。肴はゴマフグの唐揚げ、磯つぶ煮、締め鯖、ユメカサゴの焼き切り。後半「新政 純米酒」に代えて録画していた「なんでも鑑定団」を見ていると家族が帰ってくる。ここに楽しいひとときは終わってしまったのだ。

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ユメカサゴの刺身は「皮をつけて」が原則である

 姫が「お父さん、宅急便さん来たようだけど」という。見ると沼津の山丁・菊地さんからの荷物。どうも居眠りしているときに来ていたのだ。
 姫達はベランダに椅子を持ち出している。そう言えばさっきから「ドンドン」となっている。これは花火大会の音だったのだ。家人は「なんでも鑑定団」を勝手にやめてテレビ東京の「隅田川花火大会」を見ている。外からも「ドン」であって、内からも「ドン」なのだ。つまらないこっちゃ!
 ひとりパソコン部屋に退散してたまりにたまった画像を整理保存する。


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寿司図鑑が400種に

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寿司図鑑はいささか行き詰まっています。市場にくる魚貝類も少ない時期であるし、過去にため込んだ画像も底をついてしまっている。そんななかやっと400種までは到達できた。これからとりあえずは500種をめざす。

市場魚貝類図鑑・寿司図鑑へ
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 北海道八雲『ヤママル勇内山鮮魚店』という荷主で八王子魚市場にバカガイが来ていた。1キロあたり1100円の卸値。1個80グラム見当であるから90円前後の値段。すし屋はこれを剥いて開いて、湯通ししてつかう。なかなか手間のかかる仕事なのだ。

「鈴木さん、これどうかな?」
「剥くといい色してるね。味もいいと思うよ」
 そこへ、八王子市横川のすし屋、「横川町鮨忠」さんがやってきて、
「これよかったよな。この前のは50グラムくれーかな。これだけは殻付きのほうがいいな」
「横川町さん(八王子には鮨忠という店が多く、それぞれ市中心部の「鮨忠」から暖簾分けした店)、1キロくらい持っていきます」
「そうだな。もらっていくよ」

 これを勝手に1個だけいただいてきて剥いてみた。北海道のバカガイは今が産卵期であるはず、ところが中身を見る限り、成熟していないのではないだろうか? 甘味があってうまい。

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市場魚貝類図鑑のバカガイへ
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 市場の休日で早朝からデータの整理をする。睡眠時間4時間ほどではかどらない。整理の対象は総てエゾバイ科のNeptuneaであり、ウネエゾボラとフジイロエゾボラのみの整理をするつもりが行き詰まる。ウネエゾボラの定義がままったくわからないのだけれど、典型的なフジイロエゾボラを探すとまた疑問が湧き上がってくる。また八戸産にカブラエゾボラとしか思いようのないものがあってこれも宙に浮く。

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しかしエゾバイ科の整理には膨大な時間がかかる。どうして八戸産なのにカブラエゾボラに近いのか?

 朝食はお弁当作りの残りと、シジミのみそ汁、マルハラフーズのサンマのみりん干し、ご飯。
 マルハラフーズは銚子のメーカー。フレッシュフード福泉で聞くと千葉県の味つけはやや甘口でくどい。でもそこに人気の秘密があるという。確かに今回に限るとその通り。

 午前中はずーっと寿司図鑑作成とNeptuneaの整理。八戸のカブラエゾボラを何度も見返して息苦しくなる。

 11時に外出。昨日までの曇り空が嘘のように晴れている。そして蒸し暑い。この熱暑にタケニグサが津から強い、また映えるな。中央線は夏休みのためか空いている。
 四谷駅で総武線に乗り換えて、車内の高校生があんまりうるさいので市ヶ谷で下りてしまう。お堀端の釣り堀はなかなか盛況である。しかし暑い。気温は炎天下では30度を遙かに超えているだろう。そこでウキを見つめるのも遊びとは言え大変である。

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 飯田橋で雑事、食堂を見つけて定食を食べて仕事場まであるく。その暑さたるや風呂に浸かっているがごとく。お茶の水には午前1時過ぎまで、帰宅は2時過ぎ。眠れなくて新聞を読みながらワンカップ。午前3時半にダウン。


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 シーフードショーで長崎漁連(長崎県漁業協同組合連合会)の方からお土産にいただいたもの。いただいたものをほめるのはわざとらしく嫌なのだけど、実を言うと家族に食べさせないで独り占めにして食べてしまった。すなわちボクの嗜好にぴったりはまったものなので絶賛してもしくはない。
 これは長崎県対馬厳原でとれたヒジキを味つけしてスナックのようにそのまま食べられるようにしたものだ。甘味も塩分濃度も適度なもので、ややしっとりしている。またヒジキといっても比較的長さがあるので指でつまめる。これはビールにも日本酒や焼酎にもあう。
「こりゃいい酒の肴だ」と言ったら、少しだけ皿に残るものを口に入れた家人が「おやつにもなるでしょ。ぜんぶ食べた、バカ父ちゃん」と怒っていた。実を言うと我が家では乾きものはまったく買わない。健康面から言っても子供にも悪いからだ。その点、これはいい。
 対馬と言えば長ヒジキの産地でもあるし、その他の海産物も豊富である。そんな厳原で「ひじキング」をとりあげるというのも変かも知れないが、厳原町漁協さんごめんなさい。

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厳原町漁協
http://www.o-sakana.com/jf-iduhara/
長崎県漁業協同組合連合
http://www.o-sakana.com/jf-iduhara/


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 一般に「ぼたんえび」と呼ばれるのはトヤマエビである。日本海は京都から北、北海道の噴火湾からオホーツク海、ベーリング海をへてカナダにまで分布している。甘エビ(タラバエビ科)ではもっとも大きくなるもので20センチを超えるものも珍しくない。
 標準和名はトヤマエビなのだが、別に富山湾に多いわけではなく種として登録するときに富山湾のものがあったというだけ。むしろ京都、福井、富山、新潟ではほとんどとれず、市場には秋田、青森から少量入荷するていど。多くは北海道日本海側と噴火湾(内浦湾)でとれるもの。この「ぼたんえび」というのも噴火湾あたりでの呼び名であるようだ。
 味わいは甘味がありながら筋肉に弾力がありプルンとした食感で非常に美味である。甘エビ(ホッコクアカエビ)よりも水分量が少ないので焼き物にしても美味。
 市場ではありふれた存在ながら値段は非常に高く、大きければ大きいほど高い。小さなものでキロあたり2000円前後、大きくて鮮度がいいと10000円を超えてしまう。甘エビの仲間では生命力が強く近年活けでの入荷も見られる。またロシア、アラスカ、カナダなどからの輸入もあるが、冷凍ものであっても値段は高く安定している。
 ときとして魚屋、スーパーなどでも見られるが冷蔵流通で大きいものはすし屋、高級料理店でしかお目にかかれない。

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北海道島牧町「山下水産」からきたもの。見事としかいいようがない

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トヤマエビは焼き物や、画像のようなしゃぶしゃぶにしても美味である

市場魚貝類図鑑のトヤマエビへ
http://www.zukan-bouz.com/ebi/tarabaebi/toyamaebi.html
エビなど甲殻類の目次へ
http://www.zukan-bouz.com/zkanmein/koukakumokujiebi.html#tarabaebika
エビについての詳しい情報は宮木屋さんの「赤えびエイト」へ。非常に勉強になる
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/8495/untitled4_001.htm


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 市場でBつぶと呼ばれるもののなかにエゾボラモドキがある。太平洋側では鹿島灘、日本海側では丹後半島から北、北海道を経てベーリング海にまで広く棲息する。
 このエゾボラモドキの同定が非常に厄介である。エゾボラモドキの特徴は螺肋(巻き貝の周りを回っているひも状の隆起)が顕著でたくさんあること。また貝殻は茶色ではあっても茶褐色ではなく、当然焦げ茶色でもない。貝殻の内側はオレンジ色である。これを当てはめていくと様々な矛盾点が出てくる。「螺肋は多いのであるが細かくはない」という特徴が当てはまる。なぜなら螺肋が細かいものにチヂミエゾボラがいるからだ。また茶色一色であるが焦げ茶ではないというのは濃い茶色のものにクリイロエゾボラがあるからだ。そしてこの総てに中間的なものが存在する。だからそれらを総称して「Bつぶ」という言葉が生まれたのだろう。

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この2つはやや典型的なエゾボラモドキ

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これはチヂミエゾボラではないかと思われるがエゾボラモドキの箱に混ざって入荷。確信が持てないもの

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クリイロエゾボラだと思われるが、すこし怪しい

 産地としては厚岸、樽前など道東、福島などが多い。値段は真つぶ(エゾボラ)よりも安く、キロあたり1000円代前半。ときに値崩れしてキロ当たり600円なんて値がついていたりする。
 味は真つぶ同様によくて刺身にすると絶品だと思う。刺身つぶなので唾液腺はかならず取り去ってしまうこと。また小振りなものは焼きつぶにも向いている。


市場魚貝類図鑑のエゾボラモドキへ
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 最近思うのだけど市場の加工品や塩干で扱っているものには、当たり前だがうまいものが目白押しだ。でもその多くがあまり名の知れない(一般には)メーカーで商標もしっかりしたものが見つからないので再度同じ会社の製品を買おうとしても買えない不便さを感じる。そして今回も同様の製品。
 サンマの西京漬けなのであるが、味がいい。こがさないように慎重に焼くと中骨から簡単に剥がせて、小骨もろとも香ばしく食べられる。これは酒の肴にご飯にとても合うのだ。でもこの美味なサンマの西京漬けだが、 もう一度手に入れたいと仲卸にいったらもう在庫はないと言う。もう一回こないのかな? というと「どうかな」だし。まったくきっとこれっきりなんだろう。
 これほどいいものを作っているのは「山太YT」という不思議な名のメーカー。これはいったい会社名なのか、それとも暗号のようなものか?全然理解できない。どうも加工品を作るメーカーというのは知名度は不要と感じているらしい。

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山太YT 愛知県知多郡南知多町大字豊浜月の浦1の83


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 ボタンエビを食べたことがある人は少ないのではないか? 「そんなバカなときどき寿司屋で食べているよ」という方が食べているのは間違いなくトヤマエビである。実際に築地などを歩いていても「ぼたんえび」と呼ばれているのはトヤマエビなのであって、ボタンエビではないのだ。
 面白いのはあまりお目にかかれないボタンエビが十数年ぶりにたくさん入荷したのが2003年。このとき多くの仲買が「これがボタンエビである」ということがわからなかったはずだ。知っているのはエビを専門に扱う店の店員のみ。
「なんだか色合いの悪いエビだな」
 値付けに苦しんでいる仲買を実際に見ている。

 さてこのボタンエビであるがだいたい宮城県以南の太平洋、東シナ海までの深海に棲息する。色合いはやや黄色みが買ったオレンジ色。ここに紅のボタンの花びらを散らしたような文様がある。銚子から茨城にかけの底引き網、東京湾、相模湾、駿河湾でのエビカゴ漁、駿河湾、熊野灘などでの底引き網でそこそこに漁獲されていた。それがすぐに資源が枯渇。今では銚子、駿河湾での底引き網で少量揚がるのみ。当然、日本海側である程度の漁獲量を誇っている「ぼたんえび(トヤマエビ)」と比べるとなかなか市場でも見かける機会は少ない。
 味わいは甘エビ(ホッコクアカエビ)よりも甘味は少ないものの、ブルッとして食感があり、非常に美味である。また身に含まれる水分量があまり多くないので焼く、煮るなどの料理にも甘エビよりも向いている。
 価格はやはり甘エビの仲間では高い方で最低でもキロあたり2500円、高いと10000円くらいする。当然、小売りではなかなこれを扱える店はなく、主に寿司屋、高級料理店で味わうことになる。

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銚子産ボタンエビ。築地場内にて

市場魚貝類図鑑のボタンエビへ
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 刺身つぶ=エゾバイ科Neptuneaであるというのを書いた。この仲間の特徴は足の上部にある唾液腺にテトラミンという毒を持っていること。その代表格が標準和名のエゾボラである。市場では「真つぶ」もしくは「Aつぶ」と呼ばれている。当然、この呼び方は北海道での呼び名を踏襲している。
 もともとは北海道ならではの貝であったのが今では都市部では普通に見られるようになっている。関東の市場で見る限りエゾボラがないときはないといった現状である。
 産地は噴火湾から根室までが多く、また中でも様似、樽前、厚岸などからは毎日のように入荷してくる。
 値段は刺身つぶのなかで最も高く、卸値で1400円から3500円近くする。大きいものほど高く、だいたい1個200〜300グラムなので安くて250円、高いと1000円以上することもある。

 この刺身つぶの仲間も見分け方が難しい。エゾボラの見分け方をまとめると以下のようになる。
1 貝殻の各層が角張っていて表面がほころびて板状にせり出している。
2 貝殻がやや薄い。
3 貝殻の内側を見るとオレンジ色であり、透明感がある。

 さて、どうして真つぶが「刺身つぶ」の中でいちばん値がいいのか、というとまずその色合い。刺身にする足の部分が白くやや黄色味をおびている。また塩もみ、もしくはぬめりを取り去って刺身にきる。この刺身の食感が適度によく、また硬すぎない。味わいも非常に良くて、爽やかな食感から夏にふさわしい魚貝類であると思われる。寿司職人によってはネタとして好む人も少なくない。
 これに加えて貝殻がやや薄いことも高値がつく理由となるだろう。例えばサザエと同じくらい。例えば同じように刺身で食べるボウシュウボラ(内臓は食べられない危険)と比べると遙かに薄い。同属のアツエゾボラ、マルエゾボラなどと比べても薄いのである。これは歩留まりからいっても優れているのだ。
 また過去に書いたがエゾボラ(刺身つぶの仲間はほとんど同様)は貝殻を割らないで身が取り出せる。これなら料理店で刺身の盛り合わせにつかったときにも見栄えがいい。

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市場魚貝類図鑑のヒメエゾボラへ
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 一般に甘エビを知らない人はいないだろう。「甘海老」「甘えび」「アマエビ」、刺身で食べて甘いから「甘エビ」というわかりやすいネーミングである。この「甘エビ」の正体がホッコクアカエビなのである。でもこの標準和名を知る人は皆無だろう。知っているとしたらかなりの魚通。
 このホッコクアカエビとはどういったエビなのか? 大まかに説明するとエビであることは間違いない。エビの仲間のタラバエビ科に属している。ではタラバエビ科とはなんぞや? と言われると意外に多くの方達がホッコクアカエビ以外のエビにも接しているのである。ただ、このタラバエビ科を分類学的な呼び名で説明しても多くの方がとまどいそうである。それで「タラバエビ科」のなかで唯一一般の方でもエビの姿までたどり着けそうな「甘エビ」すなわちホッコクアカエビをさす言葉を使って説明する。

 ここでは以後、タラバエビ科=「甘エビの仲間」として説明する。また、この甘エビ類で、よく食べられている順番に揚げてみる。

ホッコクアカエビ=甘エビ
ホンホッコクアカエビ=甘エビ(アイスランド、ノルウェーなど)
トヤマエビ=ぼたんえび
モロトゲアカエビ=しまえび
ボタンエビ=ぼたんえび
ヒゴロモエビ=ぶどうえび
ホッカイエビ=ほっかいしまえび
スナエビ
ミツクリエビ
パナマミノエビ=サクラボタン(パナマなど)
以上が市場で見かけるもの。

ジンケンエビ
ミノエビ
アカモンミノエビ
テラオボタンエビ=はくぼたん
これは一部の産地ででまわる。

ブドウエビ
テンジクジンケンエビ

まず一般には見ることすらない

 この市場で流通するエビはどれもやや値のはるものばかり。またトヤマエビ、ホッコクアカエビなどは輸入も盛んである。この甘エビ(タラバエビ)の仲間をていねいに解説していきたい。

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新潟県能生町であがったばかりの「甘エビ(ホッコクアカエビ)」。当地では「なんばんえび」「こしょうえび」と呼ぶ。「なんばん」「こしょう」ともに赤い唐辛子の意味

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掲載種 1776


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 北海道に「焼きつぶ」というのがあって名物であるという。それで函館にいったときも真っ先にたのんだのが「焼きつぶ」である。これが冷えていてまずいものだったが、貝殻だけは持って帰ってきた。これが1987年のこと。図鑑でみて北海道の「つぶ」とはヒメエゾボラのことだったのかと早合点したのは恥ずかしい思い出となっている。そしてまた青森駅前市場でわざわざ買ってきたこともある。
 考えてみると関東の市場にも見かけない日はないくらいに入荷してきている。わざわざ土産に買ってくるほどのこともない。また北のものといった思い込みがあって、茨城県で見たときには「意外」な感じがしたが大型の魚屋のオヤジは「ここいらでいっぱいとれる」という、考えてみれば生息域なんだから当然である。

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色や形は多彩である

 さて、このヒメエゾボラが市場では「青つぶ」と呼ばれている。日本海、茨城県以北の浅い磯から100メートルの水深ふきんにまで棲息する。もっとも値の安い「つぶ」の仲間である。産地は岩手県福島県が多い。意外に北海道からの荷が少ないのは値が安く商売にならないためだろう。

 この「青つぶ」、東北北海道では庶民的な「つぶ」として親しまれている。「Neptunea」の仲間だから刺身でもいける。貝殻が硬いので割った方が早い、またエゾボラ同様穴を開けてもいい。身を取りだしてこれまた「Neptunea」であるからテトラミンのある唾液腺を取り去る。あとは塩もしくはよくもみ洗いしてぬめりを取り去り刺身にする。甘味がありコリっとした食感が楽しめてうまい。
 またヒメエゾボラといったら何と言っても「焼きつぶ」である。我が家ではまず殻のまま軽く茹でる。身を取りだして唾液腺を取り去る。そしてもう一度貝殻に戻して焼き、酒醤油で味つけする。

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 北海道を旅したときに、ヒメエゾボラを前にして、
「これ食べると酔っぱらったようになるでしょ」
 函館の朝市での話だけど、
「あんたなら2個くらいは大丈夫っしょ」
 そんなことを言われたが、ここは安産第一でいく。ただし、このテトラミン、戦前戦後の物資のないときアルコール代わりに食べて、酔っぱらった状態になり、酒を飲んだつもりになっていたそうだ。まあ、そんなに危険なものではないのだろうか?
 値が安くて、味のいいヒメエゾボラも知っておくとお得な「つぶ」である。真つぶ(エゾボラ)が1キロあたり2500円もするときに、かたわらで600円〜700円で売られている。市場でこれを買って帰る調理人をみると「やるな!」と思う。そんな店はおすすめだな。


市場魚貝類図鑑のヒメエゾボラへ
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 肥満の軽減のためにときどき自転車で遠乗りする。いつもやや上り坂の高尾あたりまで行くのだけれど、西の空当たりからドドドッ、グドルングドルンと重苦しい音が響いてくる。ここがちょうど西八王子駅の入り口。左折して西八王子駅南口に回り「スーパーアルプス」を越えて『魚善』を探す。

『魚善』は間口2間ほどの小さな魚屋、表から、
「善さん、いるかい」
 声をかけるとまだ開店準備中らしく冷蔵ケースには発泡スチロールのフタを貼り付けている。
「善さん、なんでこんなフタ貼り付けてるの。みっともないだろ」
「まあね。格好悪いんだけど、ここ触ってごらん」
 ケースの発砲ののっていない部分を触れと言う。触るとひんやりする。そして発砲をどかせると、
「触ってみて」
 発砲の下はひんやりではなく冷たく痛いくらいだ。
「わかっただろ。この差が大きいんだよ。ウチなんてお客が来るのが夕方だからさ、まだ準備中ってこと」

 空は真っ黒になって風が出てきた。店内に入ると、マイワシの酢締めの仕込みをやっている。気温は30度を遙かに超えているだろう。店内に入るとほっとする。青白い蛍光灯の下でみると、ちょっと善さんの髪の毛薄くなったなと思う。でもだからといって疲れている風でもなく、いつもながらに淡々としてマイペースの語り口を崩さない。

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「やっぱ、今、サバはダメだな」
 手開きにして塩をしたマイワシを酢に浸す。薄くなった髪の毛のことが気になって、つい、
「善さん、店は始めてどれくらい」
 突然紋切り型の質問を投げかけた。
「そうだね。魚屋になって40年目だから、どれくらいかな。ここは25年くらい」
 善さん、娘が成人を過ぎているとしても、どう見ても50代前半、40年はないだろう。
「昔さ、練馬の東伏見、西武新宿線の、12くらいだったかな、『魚善』という店でアルバイトしてて、そのまま14年くらいいたかな」
「じゃ、なに、善さんがこの店を始めたわけ、次いだんじゃなくて。練馬からののれん分け」
「そう、練馬の『魚善』はなくなちまったけど、そういやあ子供のときも好きでいってたんだろうね」

 
「オレさ、魚屋が好きでね。なんて言うのかなお客が来てさ、いろいろ聞いてね。刺身を引いてあげるだろ。一言二言話をしてさ」

 外を見ると行き交う人が傘を差している。雷の音も凄まじい。
「梅ジュース飲む」
 グラスに氷、そこに梅ジュースを入れて水で割ってくれる。
「これウチのの手作り」
 まな板に向かってマコガレイ、ヒラメの縁側を切り発砲の船に乗せてラップでくるむ。そのマコガレイがいい色合いである。『魚善』では養殖魚を使わないので、白身が多くなるんだと思われる。また塩ゆでした磯つぶ(エゾバイ)をこれもパック詰め。

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「あのさ、こっち(八王子)へきて驚いたの。こっちはさ魚屋だと刺身切ってパックに詰めとくじゃん。これいやなんだよね。できればさ、客の注文で切りたいわけよ。だってさ切って時間が経つとどんどん味が悪くなるだろ。そんなの食って欲しくないんだよな」
「でも今時、魚屋とあれこれ話していく人も少ないだろ。仕方ないよ」
「わかってるんだけど、この前も女の人が刺身を買うっていうんだけど、それがさ、お父ちゃんが帰ってくるの11時過ぎだっていうの。それなら自宅で刺身に切って欲しいって言ったわけ」
「それじゃ商売になるわけないだろ」
「そうだよね。でも注文受けてから切りたいよね」
 外は土砂降りの雨、ここがいちばんの降りと思われた。
「もう少しだね。西の方が明るくなっている」

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 電話が頻繁にかかってくる「お弁当用のサケの切り身とっておいて」だとか刺身の予約。またあとから奥さんが来て配達もする。
「まあ、オレ、魚屋が好きなんだね。おいしい魚売って、店で『おいしかったよ』って言ってくれる。これがいいんだね」
 店の前の平のケースには丸、切り身が満杯になっている。そして刺身も並んできて、
「がんばってよ善さん」

 嵐は去っていったが雨は降り止まぬ。傘を借りて帰ってきた。浅川の上にかかる虹の美しいこと。


魚善 東京都八王子市散田町3丁目21-25 電話042-664-2130


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 しかし猛暑である。その上湿度が高いのだろうか? 居ても立ってもいられない。そんな日々、市場は意外や活気がある。
 特に金曜日は凄かったな。『高野水産』は人人人人。とてもじっくり魚を見ている暇がない。この賑わいはまずプロが、そして少し経って一般人が魚を取り合うようにして持って帰る。

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『高野水産』が持ってくる荷で目立つのが福島からのもの。今、原釜であがっている活けだこ(ミズダコ)、マイワシ、丸がに(ヒラツメガニ)。これがあっという間になくなるんだから凄い。

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「ヤ印」から来た丸がに(ヒラツメガニ)。小さいのでみそ汁用

 そして八王子総合卸売協同組合に回って『やまぎし』に並んだサンマを見たら、やはり虫食いが目立つ。たぶんサンマヒジキムシが大発生しているんだろうけど、値段にも影響しているようで漁業者にも影響が出ていそう。

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 土曜日の八王子魚市場、こちらはサンマがずらりと並ぶ。大きさ事に並んだものを魚屋・スーパーが真剣に選んでいる。

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 また特種にヨシエビとサルエビがあって驚いたことに羽幌産。北海道西部日本海側でサルエビはいいとしてもヨシエビが混ざるのはおかしいのではないか?

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箱は明らかに羽幌からのもの。入れ替えた痕跡もない。またヨシエビが多く、サルエビは少ない。箱にも「ヨシエビ」と書かれている

 八王子綜合卸売センター、『ケン水産』に丸みをおびたいいマアジがあって、これを3本。『丸幸水産』、『やまぎし』などを覗いて帰ってくる。


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 八王子魚市場、入って目に飛び込んできたのが熊本産ハマグリ。これが見た目にハマグリ【北海道南部から九州の内湾干潟などに棲息】には思えず、むしろシナハマグリ【朝鮮半島西部から中国大陸】と思えそうな代物。

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 そこに鈴木さんがやって来て
「これなに」
 これがコタマガイ【北海道南部から九州、朝鮮半島。どちらかというと砂地に棲息。波打ち際などにいる】。石川県産であるという。昨日は八王子総合卸売協同組合「丸幸水産」でも見ているのが、この貝は突然湧くらしいのでこれからの入荷が楽しみ。

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 坂本君とサンマの話。
「今年は脂がないっていうけど、刺身で食べてうまいっすね」
「そうだね。7月のサンマは焼くより刺身じゃなかな」
 考えてみると佐藤春夫の「秋刀魚の歌」は秋の日のこと。北海道から南下して脂がなくなって和歌山県新宮市あたりでとれたもの。これなど脂が抜けたサンマで作られる千葉県の干物、白干しと同じものだろう。サンマを食べるに「脂、脂」と言うのもおかしいのかも知れない。「7月のサンマは刺身がうまい」と考えるといい。

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『源七』にまわると八王子の善さん(八王子の『魚善」)がしきりに淡路島からきた小振りのマアジを見ている。これがキロ/1800円と高い。
「小さくても一本100円はするぞ。一本買ってけ」
 あんちゃんが言う。
「これ小さいけど脂がのってるんだよね」
 善さんの濃い眉毛が思案に暮れて上下している。善さんのところは養殖魚を使わないので、仕入れる魚はいつも魚屋としてはワンランク上のもの。「仕入れたいな」と思っているようだ。
 そんなバカバカしい話をよそにウナギの串打ちが行われている。土用丑の日が近いのだ。

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 八王子総合卸売協同組合『丸幸水産』に寄るといきなりクマゴロウが
「カツオ半身持ってかない、持っていくよね」
 とタダでさえ恐い顔でにらみつける。
「600円でいいよ」
 仕方ないので持って帰る。消費税はオマケしてくれる。一応「ありがと」。

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 八王子綜合卸売センター『高野水産』、『総市』にはサンマサンマ、そして大量のカツオ。八百屋の『ビックリ屋』で大安売りのミョウガをどさっと買う。
 帰り際に、あっちゃんから呼び止められて「見て見て」というので段ボールをのぞき込むと白黒の可愛らしい子猫たち。優しいあっちゃん、子猫を拾ってきては飼い主を探しているのだ。

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●ここで突然であるが猫が欲しい人は八王子綜合卸売センター『ビックリ屋』の、あっちゃんまで


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 エゾボラの刺身の作り方というのは案外に知らない方が多い。非常に簡単なのだが面倒なのか知らないままで、つぶを敬遠している。
 これを簡単に説明する。
 エゾボラの刺身はクセのない味わいとコリコリした食感が信条。夏にもってこいの一品になる。

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1 絶対に貝殻は割らない。貝の口をこちらに向けて、アイスピックの当てているところに小さな穴を開ける。

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2 穴が開いたらアイスピックを上に向けて深く刺す

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3 そのまま身の部分を切断するかのように下に向けてこじる

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4 フォークなどでフタの下を差して軽く引き出してみる。出なかったらもう一度こじる。

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5 そしてフォークできくように引き出すと身とワタが出てくる

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6 とりだした身をふたつ割にすると中から白い(クリーム色のときもある)唾液腺が出てくるので取り去る。ここには毒であるテトラミンが含まれていて、当たると船酔いしたような症状がでる。そして身を塩などでもみ洗い、またぬめりをとって刺身に切る

市場魚貝類図鑑のエゾボラへ
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 前回は「灯台つぶ」は何かというのを書いた。その「灯台つぶ」とエゾバイ、コエゾバイ、またやや深いところにいるエチュウバイなどの仲間を「Buccinum」という属にくくられることを覚えて置いて欲しい。これらは刺身にもなるが主に煮たり焼いたりされることが多い。
 対して「Neptunea」というグループがあり、こちらを代表するのが真つぶ(エゾボラ)、青つぶ(ヒメエゾボラ)などである。真つぶでわかるように主に刺身に使われるのであえて「刺身つぶ」と呼びたい。
 この「刺身つぶ」はいちばん北から真つぶ(エゾボラ)、またマルエゾボラなど正体のわからないもの。クリイロエゾボラ、フジイロエゾボラ、アツエゾボラ、エゾボラモドキ、チヂミエゾボラ、青つぶ(ヒメエゾボラ)、日本海側ではもっとも西にいるセイタカエゾボラ、太平洋側でもっとも西にいるヒメエゾボラモドキまで種類が非常に多く見分け方はまた難しい。
 市場では一般的に青つぶ(ヒメエゾボラ)だけは三陸からの入荷が多く別格であり。真つぶ(エゾボラ)を別名「Aつぶ」、他のものを「Bつぶ」と大変おおざっぱわけるだけ。
 これを真つぶからはじめて詳しく解説してみたい。

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 やっぱり水曜日だな、という八王子魚市場。でも夏に旬という魚はいっぱいある。イサキにタカベ、神津島からのヒメダイ、アオダイ。そして福島県相馬市原釜「いちまる水産」からのマイワシの見事であること。1匹230グラム、100グラム250円だから575円となる。結構高いね、とは思うがそれ以上に魅力的。マイワシの旬というのは6月から晩秋まで。

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 これを見ていた鈴木さん、
「梅雨鰯だね」
「そんな言葉あるの」
「しらないけど、テレビでやってた」
 考えてみると梅雨の時期からうまくなるマイワシだからあってもいい言葉。でも「梅雨かつお」「梅雨アオダイ」なんでもアリかな。確か「梅雨めじな」というのはあったはず。
 サンマは昨日よりも大きくて虫食いも少ない。これが1本700円。

 八王子総合卸売協同組合『丸幸水産』クマゴロウが「この貝なんて名前」。見るとコタマガイ。そのまま隠してしまう。これは売約済みということ。また新子があってキロ/18000円。
「記念に写真撮っとけば」というので素直に撮影。

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『清水保商店』にはお盆のお菓子があって、やっぱり干物は少ない。嫌な時期になってきた。
 八王子綜合卸売センター『高野水産』にはスズハモ、ハモ。厚岸から真つぶ(エゾボラ)が来ていて1個だけ買う。
 帰りがけに『市場寿司 たか』で無駄話。帰宅する雑木林に大きく育ったタケニグサ、またヤブカンゾウ。どちらにしても、梅雨は明けぬのだ。
●値段は総て卸値です


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 10日に漁の解禁、そして翌日の今日一斉に関東までたどり着いたのが新サンマ。八王子魚市場特種にあったのをおずおずと手にとって値段を聞くと1本600円。重さからするとキロあたり3000円だろうか? 高いには高いが、一頃の1本1300円、キロ8000円だ10000円だというのは遠い昔の話のように思える。

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 これを八王子の魚屋が囲んで
「こりゃ、虫が付いてるね。これがついてるとやせてるんだよね」
「まあどっちにしろ魚屋が買える値段じゃない」

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これは高値で1本600円也

 これを見て八王子綜合卸売センターに回り、『高野水産』にくると
「うちは300円だね」
 これならキロあたり1500円くらい。
「でもね。やっぱり虫食いがあるだろ。いやがる人はいるね」

 八王子総合卸売協同組合、『丸幸水産』では2500円。これはなかなか立派だが、虫食いがある。同『やまぎし』は2300円と1000円が並ぶ。1000円(1本200円弱)は脂がないと思われる。比べるに2300円は虫食いも少なくなかなか脂があるようなのだ。これを1本買って450円。
「そうか200グラムないんだね」

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これが最安値のキロ当たり1000円で1本170円

 大急ぎで『市場寿司 たか』に向かっていたら八王子綜合卸売センター『総一』にあったのがキロ/2200円。パチンコに弱いオジサン曰く。
「やっぱさ、6000円(キロ当たり)だ8000円だしないと新サンマは盛り上がらねーな」
 まったくその通りだ。「何時になったら仕入れられるかな、誰が持っていたって?」なんて話題になるからいいのであって、今年も寂しいサンマ解禁である。
●実際に食べてみたのだが、感想は『寿司図鑑』へ
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●値段は総て卸値


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 市場には鱧(スズハモ、ハモ)がたくさん入荷してくるようになった。そしてタコとハモを食べて半夏生も終わり、そろそろ本格的な夏が始まろうとしているのだ。そしてまだ若い玉ねぎの皮が茶色に変わり、干されて甘味がぐんと増してきた。この玉ねぎの産地が泉州、今の和泉地方である。
 半夏生(夏至から11日目。春から続く農作業が一段落つく)にハモを食べるのは和泉地方のある大阪湾岸から淡路島までがハモの産地であったことによる。
 この鱧、活けで輸送に強く京都にまで送られて、なにやら「ぼたん鱧」やら「鱧ずし」になって仰々しくなってしまっているが、大阪人にとってはおかず魚であった。この「泉州玉ねぎと鱧」というのも夏の夕べ、お父さんの酒の肴に、またご飯のともにもなるまったく庶民的な味わい。よくはもちりなんて言うが、それはやはり昆布だしであっさり食べる上品なもの。でも泉州の「はもすき」はハモを骨切りしてすき焼き地で玉ねぎと甘辛く炊く。ハモの旨味が玉ねぎに、玉ねぎの甘味がハモと合わさって、酒の肴よりもご飯に合うといったもの。
 これがなんとも夏の夕べにうまい。食欲が落ちた梅雨明けに、この甘味が食欲をそそり、炎天下で疲れた身体を癒す。ぼたんはもだけがハモ料理やおまへん、ハモの甘辛いすき焼きで今夜はいってみまひょ!

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市場魚貝類図鑑のスズハモへ
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市場魚貝類図鑑のハモへ
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 市場に溢れてきたのが冷凍流通しているウナギの蒲焼きである。
「土曜の丑の日も近いからね。高いんだけど在庫をたっぷり仕入れなきゃ」
 八王子綜合卸売センター『フレッシュフード福泉」の社長が苦笑い。
 今年は中国産が少なくて国内産勝負。
「1パック800円前後が狙い。高いと買わないし、賭だよね」
 卸値がこれなら小売りは1000前後、特売で980円だろう。まあどちらにしても現代の消費傾向からすると決して安くない。まあ贅沢なもの。
「これ、うまいのかな」
「うまいと思うよ。味見して仕入れてるんだから。気になるんだったら食べてみればいいじゃない」
 まあ正論である。論より証拠、一枚買って帰ってみる。
 そしてここでとまどいを感じた。
「どうやって食べればいいの。レンジでチンかな」
 家人が言うのにラベルを見ると食べ方がのっていない。これでレンジで温めて食べたがうまいことはうまいが蒲焼きの醍醐味とも言うべき香ばしさに欠ける。そして後日もう一度。こんどは魚焼き器を熱して強火であぶる。これはさすがに専門店には遠く及ばないながらも、なかなか美味である。
 と言うことで市販のウナギの蒲焼きも捨てがたし、ただし香ばしさには欠けるので一工夫なのだ。
 さて、市販の蒲焼きであるが数年前には1パック700円まで値が下がっていた。これに中国からの輸入ものがあって1パック350円というのまである。いかに卸値とは言え安すぎる。そして今年の価格であるがフレッシュフード福泉によると妥当だろうという。
 中国からの輸入量によって値崩れするよりも国内もの国内加工もので小売価格が1000円前後が最低ラインというのが仲卸の希望的価格なのだ。ちなみに国内産といっても加工が国内で行われただけであり、ウナギの産地はわからない、産地台湾と言うこともあり得る。

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市場魚貝類図鑑のウナギへ
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サンライズフーズ 愛媛県伊予市宮下613


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 朝方、6時に起きる。外は曇り空ながら雨は降っていない。姫を起こして市場に向かう。

 八王子魚市場、やはり土曜日で低調。そんななかに1袋のアレがあるではないか!
「坂本君、アレ、幾らかな」
「今日は安いすよ1万8千円ですから」
「そうなんだ。昨日は?」
「3万6千円かな。すぐ売れましたけど」
 そうか今年もそんな季節になったんだな。築地での初物値段はいくらだったろう。4万、5万、もっとかな。「高いんだから触るなよ」、知り合いの魚屋がわしゃ関係ないよ、と通り過ぎる。この時期のアレとは当たり前だが新子(コノシロの稚魚)である。「市場寿司 たか」では3枚つけくらいで仕入れるのだが、1袋2000円を割ってから、やっと「買おうかな」という気持ちになるらしい。この「高嶺の花」誰が買っていくのかな? 1かん幾らになるんだろう?

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『源七』に回ると若だんながでっかいメバチをおろしている。その脇にうまそうな「かきだし(中落ちからスプーンでかきとったもの)」。
「幾らかな」
「幾らだといいの」
 Vの字を出すと横を向く。当たり前だ! 手を開いて(500円という意味)、
「これだといいな」
「仕方ないなもってけ」
 これで今夜はうまい酒が飲める。

 八王子総合卸売協同組合、『光陽』でアジフライ定食、姫は冷やし中華。
『三恵包装』でお菓子と素麺を買い。
『丸幸水産』には天然の本鮪(クロマグロ)、尾長(ハマダイ)もいい。
「クマゴロウおはよう」
 これは姫のお言葉。

 八王子綜合卸売センターに回り、そろそろ年貢納めどきかと『高野水産』でたまっていた借金を払う。
「謝金払うと気持ちいいだろ」
 高野の恐いお姉さんがポツリ。
「気持ち悪い。オエだ。伝票一枚くらい計算漏れしてもいいよ」
「バカ言うんじゃないよ。これっくらいの額で」
 後ろにいたお千代姉がケツで思いっきり押してくる。
「まったく邪魔なんだから、冷蔵庫入れないだろ」
 早々に退散。後ろからお姉さんが爽やかさに欠ける声で
「次はすぐ払えよ」

『フレッシュフード福泉』でめかぶを買う。
「うまい干物ないの」
「ダメなんだよ。時期的な問題かな、コレというのがなくてさ」

『総市』には解凍サンマ。解凍サンマを見かけるようになるとそろそろサンマ漁の解禁近しである。

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一箱950円(税込み1000円)。25本入りなので1本あたり40円。スーパーの目玉商品にして2本で100円ということもあり得る

『ビックリ屋』で枝豆、ミョウガ、青じそ、一本ネギ、卵を買う。

『河辺ハム』にまわって。
「なんか安くてうまいもんないかな」
「そうだなうちは全部安くてうめーんだけど。三角バラ持ってく」
「高いな580円(100グラム)だろ」
「なに言ってんだ。デカイ腹して。これぐらい買ってやれよ」
 これはお隣の「プラカロ八王子」(冷凍食品卸)の社長。
「大きなお世話だ。好きで腹がデカイんじゃねえ」
「それじゃ、牛はやめようか、これどう」
「これなに」
「ラムなんだけど、うめーぞ。負けてやるから買えよ」
 負けてくれるなら素直に買うのだ。

 帰宅は8時半。そして悪戦苦闘の一日が始まるのだ。


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 寿司図鑑作成もデータ整理もすすまぬままに、時間をかけてサイトの不具合を改訂している。これは過去に使っていたドメインを海外の食品メーカーが登録してしまって、サイトに残る古いリンクをしてその不愉快なサイトに飛んでしまうからだ。弱小な個人のサイトに対してこの海外の食品メーカーのなんと悪質なことか、と憤るとともに無味乾燥な改訂を続ける。


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 スルメイカの別名を「夏イカ」という。市場にばらイカ(スルメイカの小さなもの。形が小さすぎて並べられない)、下氷(大きくなって氷を敷き詰めた上に並べる)もある。そこにとうとう本格的な入荷が始まったのが「活けスルメイカ(略して活けスル)」である。これは決して水槽で元気に泳いでいるわけじゃなく、身は生きて、吸盤を触ると吸い付いてくる、まるで「活け」のようであるというもの。
 産地は千葉や伊豆半島周り、三重、和歌山などである。それぞれ関東など消費地に近いところであり、すべて釣ったもの。しかもたくさんの釣りロボットを使い大量にとるのではなく、一本一本丁寧に釣り、氷入りの海水で急速に締める。これを冷やした海水をはった発砲に入れて、ビニール袋に入れた氷をそえる。すなわち輸送中にも海水は薄まることなくスルメイカの生きて泳いでいるときのままの状態にある。あとは翌日の消費地での競りまでに運び、その日の内に消費者のもとに届けられる。漁師さん、また流通ともに一丸となって「活け」のスルメイカが我々のもとに到来するのだ。
 旬の夏とはいっても、「スルメは使わないよ」といった寿司屋も多いのである。これは同じく夏が旬のアオリイカと比べて身の透明感、旨味でかなわないがためである。ところがこの「活けスル」の登場で庶民派のスルメイカもちょっと上等になった。すなわち寿司屋のネタとして認知されてきたのだ。
 しかし手間のかかった「活けスル」最初こそは値があがったものの、近年目新しさがなくなったのか求めやすくなってきている。安いとキロ/800円、1本あたり300円以下での取り引き。これでは漁師さんや流通業の手間からすると割に合わない。もっと「活けスル」は評価されていい。透明感のある身、そして弾力、甘味、寿司屋も上握りの主役に選ぼうではないか? 夏の「活けスル」。
 また街の魚屋を見て歩いていて、しっかり「活けスル」が並んでいる。大量に流通させることで成り立つ大型店舗では無理でも魚屋を覗けば「活けスル」が手にはいるのだ。食卓に「活けスル」の刺身、川本三郎さんの真似をしてビールというのも新鮮な気分になる。

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殺菌海水にビニール入りの氷、泳いでいる活けスルメイカの筋肉はまだ生きていて、吸盤を触ると吸い付いてくる

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青魚の夏

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 青魚の夏だな。マアジ、マサバ、ゴマサバ、カツオにホソトビウオ、ツクシトビウオにサワラ、それぞれ価格も安定してきたし、脂ものってきた。

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 5キロ判のマアジ5000円を前にスーパーの一角で魚屋を営業する人が悩んでいる。
「こりゃいいな、値段もいいな。ウチは毎日大安売りだかんな。3500円だって高いよな〜」
 考えながら、ついつい声に出してしまう人って意外に多いんだなと思うのは
「なんだこりゃ、マサバがいい値だなっと思ったらゴマもそんなでもない(7入り3キロ判?1700円。そんなに安くない)、じゃあ真サバに行きますか」
 青魚の前にいると八王子を始め多摩地区ほとんどの魚とご対面となる。それが一箱ずつ持って帰るのだから山はどんどん寂しくなっていく。

「アジがなければ始まりません、と」
 鼻歌を歌っている人がいる。
「アジよくなってきました」
「いいよー、とってもいいの。ウチは店先で焼いたの売ってるんだけどー、脂があるよ」
 そうだ最近の魚屋で意外に売行きがいいのが「焼き魚」なんだという。しかも「アジ、サバが売れるね」と脇から別の魚屋が顔を出す。

 そこへ相模原の寿司屋の若だんな。
「お、珍しいね。寿司屋が箱買いかい」
「そうなんすよ。つまみにアジのたたきを出してくれって、宴会なんです」
「いまどき珍しいね、宴会なんて」
「法事ばっかじゃね。派手な料理だせないでしょ。たまの宴会うれしいすね」

 このオヤジ達の会話がなかなか世相を反映して面白い。マアジはまさに今が旬、マイワシ、マサバも脂がのってきている。そして気仙沼まで北上したカツオ。どれを選んでもハズレなし。

「浜田のアジ安いよ、2500円。ブランド品だよ浜田のアジは」
 市場職員のかけ声も不要と思えるくらいに売れ行きは上々。これで外に出ると雨、後は梅雨明けを待つのみ。


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 アカハゼの産卵期は初夏から夏。ぎりぎり今が旬であるアカハゼを知る人は少なすぎる。これは誠に残念、残念だー!
 ここから後は藤山寛美、ちょっと抜けてるのか賢いのかわからない「子ばか風」に読むこと。

 と見事なアカハゼが大阪中央市場にあったとする。産地は和歌山県雑賀崎。これこれは希なこと。名うての板前がこれを見てると、そこにアホな丁稚どんが来て。

「なにしてますの」
「なにって魚見てるのやないか」
「あかん」
「あかんて、なんでや」
「ここは魚屋ですよ」
「知ってるよ。バカ(関西ではアホよりバカの方が言葉としてきつい)だな」
「バカ、バカとはなんですか、涙がぽろり」
「これこら泣いたらあかんて」
「バカはおっちゃんの方やで。ここは魚屋です。魚は水族館に行って見てくださいね。シ、シ」
「なにを言うてるのや、おいしそうなアカハゼがあったから買うて帰えろ、思てるのや」
「あきまへん」
「なんで」
「こんな不細工な魚は売れません。わての美意識がゆるせないの」
「ゆるせないのって、不細工でも食うたらうまいもんのあるやろ、アカハゼちゅうのはそう言うやっちゃで」
「だめ。ワテのようにですよ、器量よしで食べてうまい。魚島(大阪で旬の時期のマダイを贈答する風習)の鯛にしなはれ」
「なにゆうてるんや、鯛は1本1枚(一万円)、こっちゃ100円で3つ。名を捨てて実をとれ言うやっちゃ」
「だめ、ダメダメ、だめなのよ。そんな賢いことされたらうちの店つぶれるでしょう。そしてわてはおまんま食べられないの。涙がぽろり」

 ここ数日の睡眠不足で頭はすっからかんに干上がっている。そうなるとついつい浮かんでくるのがバカバカしいことばかり。

 閑話休題すぎますな。
 さて、アカハゼは安くてうまい。どうして安いのかというとマハゼより身が柔らかく鮮度が落ちやすいのと、まさにその不細工な顔にある。だいたい無精ヒゲまで生やして汚らしい。でも食べてみたら楊貴妃が裸足で逃げるほどの傾城である。
 だいたいただ塩焼きにしてウマイという魚は少ないのだが、アカハゼなどはほっぺたが落ちてもう元にはもどりまへん、と言うくらいにうまい。身がホクホクホックリしている。味わいが深い。これは煮ても同じ。とれとれピチピチなら刺身もいけまっせ! 大阪人の喜ぶ値安うして激うま、食べてみなはれ。

●今回のアカハゼは青森県陸奥湾のパラ・ペツさんから。これは素直に塩焼きでいただきました。卵もうまいのは今回大発見。ありがとうございました。

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お魚三昧日記があまりの多岐にわたり、作っている、ぼうずコンニャクにも訳がわからなくなってしまいまして、ここに分野ごとにブログを作成しました。お魚三昧日記の記事を徐々に移していきます。コメントなどいただいた方、申し訳ありません。

魚貝類以外の食べ物の話、街と旅の話は「うまいもん日記」へ
http://bouz-oisii.seesaa.net/
野菜と自然、植物のことは「四季の野菜図鑑」へ
http://bouz-yasaizukan.seesaa.net/
酒の話は「酒日記」へ
http://bouz-sake.seesaa.net/
本のページはこれまで通り
http://bouz-hon.seesaa.net/


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 市場では木の芽時になると寿司屋が「かつぶし入ってるかな」と茹でシャコを光にすかしているのが見られる。
「ちゃんと子持ちって書いてあるでしょ」
 仲卸が言うと、
「入ってなかったら大変だろ? こっちは客に出すんだから」
「かつぶし」とは関東でのシャコの卵巣のこと。この卵巣が千金に値する。この「子持ちシャコ」が到来すると夏近し、また夏なのである。そう言えば大阪湾の住吉さん夫婦の今年のシャコの水揚げはどうだたんだろう。

 さて、7月になって、東京では連日30度を超える暑さ。そんなときに我が家に送られてきたのが青森県陸奥湾産の大きなシャコ。これは当地でホタテ養殖をなさっているパラ・ペツさんからのもの。
「シャコ送りました」
 連絡をいただき。
「そちらではどうやって食べているんですか?」
「醤油とみりんでたくんです」

 到着したばかりの荷を開けるとビックリするほど大きなシャコ。オスメスに分けられている。雄は「刺身で食べてください」とあるが、これには少々手こずる。また「醤油で煮て食べてください」とあるものを、さっそく醤油とみりんでたいて、食卓に出した。これは思った以上に面白い味わい。シャコ自体の旨味というか、甲殻類にはふさわしくない表現だが脂がのっているというか、濃厚でしかも豊かな味わい。そこにみりんの甘味が微かに感じられるのと、当然だが醤油の植物系の旨味成分が加わって素朴な味わいとなっている。
 また、今回はみりんでやや品よく作りすぎた感がある。たぶん、陸奥湾の浜では、みりんではなく砂糖を無造作に投げ入れて、醤油をドボリ。それでシャコをざざっと大量に煮あげてしまう。それを老若男女、手づかみで食うのではないか? その方がうまそうだ。

 ぼんやり考え事をしながらシャコを食べていると、
「お父さん、ちょっとたきすぎだよ」
 かつぶしが硬いと娘に文句を言われてしまったが、新しい味わいに満足満足なのだ。

 陸奥湾のパラ・ペツさんありがとう。

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 ヒモマキバイやオオカラフトバイ、シライトマキバイなど北海道から千葉県銚子まで徐々に南下してきて、太平洋側、相模湾、駿河湾から土佐湾までの深海に棲息するのがスルガバイである。北の3種がまとまった漁獲量を維持して市場を賑わしているのに対して、このスルガバイは相模湾でのカゴ漁、駿河湾以南の底引き網などで細々ととられているものの流通するほどにはまとまらない。
「灯台つぶ」というのは北海道でのヒモマキバイ、オオカラフトバイ、クビレバイの呼び名。これが太平洋側を下ると産地では「灯台つぶ」という呼び方はしないのだが、築地などでは経験上、いつのまにか三陸、福島、茨城などのシライトマキバイを混同して「灯台つぶ」として扱っている。だから「三陸産灯台つぶ」というシライトマキバイの名称を値付けに書くのである。そしてもっと南下してスルガバイに対して「灯台つぶ」という呼び名は当たり前だがまったく使われない。
 スルガバイは駿河湾では珍しい貝でもなく、かといって出荷できるほどにはまとまらない、まあ言うなれば漁師さんの「おかず」的な巻き貝として特別な呼び名すらなくなってしまう。また、分類学的に見るとシライトマキバイが福島県沖、茨城県沖までくると「スルガバイ形」としか言いようのないものが混ざり、南に行くほど膨らんだ形態になる。門外漢ではあるが、銚子に揚がった「スルガバイ型シライトマキバイ」をスルガバイと比べても区別がつきかねる場合がある。
 この地域による変化というものを把握することが巻き貝では重要となる。例えばオオカラフトバイは根室から来る荷に多く、厚岸、森町とヒモマキバイが多いように思える。また典型的な「オオカラフトバイ型」は根室産からしか見つからない。それに比べると「ヒモマキバイ型」は不安定ではないか。シライトマキバイは道東から見られるがここでは典型的な「シライトマキバイ型」である。これが福島県沖まで南下すると多少ふくらみをもった「スルガバイ型」が混ざる。そして銚子に揚がるものなど半分以上が「スルガバイ型」になるのである。
 さて、スルガバイはときどきまとまって揚がる。当然、まとまってもわずかだが、産地の沼津や三河湾では市場などで目にする機会が少なくない。また値段も安い物なので、見つけたら買ってみるといい。刺身、煮る、焼くとまことに美味である。
●「灯台つぶ」というのは北海道に置いての「ヒモマキバイグループ」の呼び名。これに関してはスルガバイが最後となる。日本海、また道東でのヒモマキバイ、オオカラフトバイなどもっと、典型的なものから中間的なものまで個体を集めて比較する必要性がある。これをまた「市場魚貝類図鑑」に反映していきたい。

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アカガイの卵巣

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 夏になると卵を抱えるのがアカガイ。この時期、やはりアカガイの味は落ちるのだけれど、なかには卵を抱えていないものもいて、年中なくてはならないものだけに寿司屋なんかは一喜一憂するのだ。
 毎朝、大量のアカガイを剥くのが『源七』のあんちゃん、
「お〜い、卵あったぞ」
 呼ばれていくと、半分に割った身に濃いオレンジ色の卵巣が見える。なかなか大きくて、これはネタとしてだめだな。こんな話をしていると、西八王子の魚屋『魚善』ぜんさんが近寄ってきて、
「卵食べると当たるって本当かな」
 まさかそんなことはないが、やはり口に入れてうまいもんじゃない。この部分は名人あんちゃんに取ってもらって、刺身で食べるのがいい。
「これから真夏にかけてのアカガイは難しいべな」

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アカガイの卵巣は完全にとらないと刺身が汚れてしまう。また味にも悪影響を与える

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