食べる貝・イカタコ学: 2007年5月アーカイブ

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 昨日八王子魚市場に来ていたのが『日海水産』の貝柱。箱を開けると目を引くのがイタヤガイらしき赤いイラスト入りのパッチ。そこに「かい柱」とある。これは小振りのホタテガイを茹でたもの。この『日海水産』のは、味が良く、ボクなどお気に入りのひとつなのだが、市場ではこれを誤って「いたや(貝)」と呼ぶ。
 これが不思議でならない。確かにイタヤガイの茹でたものも非常に希に出回っているようだ。イタヤガイは大発生したり、いなくなったりと水揚げの一定しない二枚貝。例えば鳥取県の民謡『貝殻節』はイタヤガイの貝殻を粉に引きながら唄われたもの。粉(漆喰や肥料になる)に引くほどとれていたイタヤガイは、また突然いなくなるというのを繰り返す。
 だからたくさんとれたときには『日海水産』でもイタヤガイを茹でて出荷するという。しかしそれは数年に一度といったことで、通常めったにイタヤガイのボイルは手に入らない。また箱の真横には原材料名が明記されていて、比較的大きな文字で「ホタテ」と書かれているのだ。

 それでも、どうしても『日海水産』の赤いイタヤガイらしきイラスト入りのパッチを見ると、関東の市場では「いたや」と言うことにしてしまう。面白いことに市場の職員すら、「今日のは“いたや”ですよ」と原材料を無視して説明してくれるから困ったものである。

 この誤解のもとにあるのは「過去にイタヤガイ」が大量に入荷してきたことがあり、その最大の加工会社が『日海水産』であった。または、ホタテガイなのに「ゆで貝柱」を「イタヤガイ」と慣例的に表示した時期があったということも、ありえる。
 ちなみにイタヤガイというのは、ふだんは水揚げの少ないもの。関東の市場ではほとんど見かけない。まあ一箱にまとまって入荷することなどゼロに等しいだろう。だから市場で見慣れているホタテは知っていてもイタヤガイは知らないという人の方が大勢なのだ。でもこのありふれた存在のホタテガイだってその昔は、珍しい、そして高級な二枚貝であったのだ。たぶん昔はイタヤガイとホタテガイは入荷量的には同じ程度だったはずだ。
 養殖ホタテガイが今のように大量に出回る前、茹でた貝柱の原材料はむしろイタヤガイであった可能性が高い。なぜならばホタテガイは古くから貝柱になっても、生でも高級なもの。だから養殖が試みられたという経緯もあるのだろう。これを比較的惣菜的な加工品である「ゆで貝」にすることはまずなかったと思われる。それに対してやや小振りな二枚貝のイタヤガイは大量発生することからも「ゆで貝」にするしかなかった。または干しても、生でも庶民的な存在だったのだろう。だから「ゆで貝柱」を見ると「ゆでたイタヤガイ」という認識が市場に残存しているとボクは考えている。
注/イタヤガイも隠岐などでは養殖されている。これはなかなか高価なもので刺身などになる

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 さて、話を『日海水産』の「かい柱」にもどすと、この原料となるホタテガイは「養殖の途中で間引かれたもの」ではなく「ゆで貝柱」用にわざわざ陸奥湾などで養殖されているのである。だから「ゆでる」にちょうどいいサイズを、優れた技術をもって生産しているものなのだ。これほど味のいい、「そのまま食べられる」という優れものにしては値段が安すぎると思う。昨日の八王子魚市場での値段がキロあたり2200円でしかない。これは消費者にはありがたい値段であるが、漁師さん、加工屋さんには申し訳ないように思う。せめても酒の肴としながらこれを「作り出してくれた方」に感謝したいものだ。

 市場での魚貝類を調べていると、こんなところにも大いなる疑問を感じ、調べていくと魚貝類の歴史が表面にあぶり出されてくる。

市場魚貝類図鑑のイタヤガイ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/itaya/itaya.html
市場魚貝類図鑑のホタテガイ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/itaya/hotate.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

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 5月3日、原釜ではナガウバガイを探していた。選別する女性達に聞くと、
「そりゃ、“ひらっけい”じゃないか」
 この“ひらっけい”がわからない。なにしろ浜の人はすこぶる早口なのだ。
 なんども聞き直すと「ひらがい」と言っているのがわかる。
「ほっきよりひらったいずらよ、それで“ひらっけい”だ。わかんねーけ」
 なにを聞くんだろうな、このオヤジは、というような顔つきで教えてくれる。

 浜の女達が「平貝」にそっけないのは、値段が安いせいだ。底引きに、ときにまとまって入るが、あまり知られていないせいで浜値は「安いねー」と言う。

 ナガウバガイはバカガイ(青柳)に近い種である。剥いてみたら、それがよくわかる。身の色合いも貝の前後にある貝柱もバカガイと寸分違わない。違いは渋み、貝臭さのあるなしでしかない。

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 寿司職人の渡辺隆之さん曰く、
「青柳が寿司ネタとしていいのは渋みというか適度な味の個性があるため」
 だとしたら渋みも風味もほとんどないナガウバガイは存在感がないということになる。だから関東に来ても人気が出ないのだ。
 でも、それをいい方にとらえると、クセのない上品な味わいで万人向きとも言える。

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これは開いてさっと茹でたもの。作り方は青柳(バカガイ)と変わらない

 さて、原釜で2個だけあがったナガウバガイ、お願いしていただいてきた。これを剥き、青柳のように開く。たった2個なのでさっと塩水にくぐらせて、寿司ネタにする。その顛末はまた後に語るとして、やっぱり上品、かつうまいな。

 原釜に隣接する松川浦あたりにはお土産屋、飲食店、漁協運営の魚屋などがある。ときどきそこで売られているようだから、相馬に来た折にでも食べてみて欲しいものである。

市場魚貝類図鑑のナガウバガイ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/nagaubagai.html


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 原釜の底引き網に揚がる二枚貝は少なく、「平貝(ナガウバガイ)」とホタテガイの2週類だけ。ナガウバガイの話は別の機会にするとして、ここでは純天然のホタテガイのこと。
 原釜の底引き網で揚がるホタテガイは1日にせいぜい数十個ていど。主に「きんき(キチジ)」やマダラなどを狙うときに混ざるものだから競り場でもまばら。でもこれがなかなか大きく見事なものばかり。
 疲れ果てて、しかも便乗による原釜行きだから、あまり魚貝類を持ち帰るわけにはいかないが、ホタテを数個買い求めてきた。
 天然だから貝の裏側、いつも砂地に面しているところは真っ白。しかも貝のふくらみが養殖物よりも明らかに強い。帰宅して疲れ果てていたので、ただ単に刺身とする。当然、ヒモは塩もみ。ちなみにこのヒモにある黒い点々は光を感じる器官。「眼」といっていいのか疑問を感じるが、ヒトデなど天敵に襲われたときに役立つのだろうな。

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 このホタテがさすがに天然物であって、身はより弾力に富み、甘味も強いように思える。疲れているときに、この貝の持つタウリンの効果が有効なんだろう。味わうに癒される気がする。
 産地ではないので原釜のホタテはあまりお高いものではなく、むしろ天然なのに格安なのだ。旅に出るとこんな味の発見が楽しいものである。

市場魚貝類図鑑のホタテガイ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/itaya/hotate.html


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 原釜で「まきつぶ」というのがシライトマキバイ。巻き貝の中ではもっとも水揚げの多いものだと思われる。これを『八巻水産』などでは競り落として、“むきつぶ”に加工する。これがなかなか原始的。貝殻が柔らかいので手で押しつぶし、足、すなわち腹足の部分だけにする。これをよく洗い1キロ単位にして出荷する。この“むきつぶ”は刺身にもなるし、焼いても煮てもうまい。

 この作業を見ていたら、貝殻をどついていたお姉さんが、「食べてみる」と言う。「うんうん」とうなずくと足を半分に開いて、海水で洗い、「そこの真水でもう一度洗って食べなさい」とでも言ってるんだろう蛇口を肘で指し示す。
 言われたとおりにすると、「ほんとはね。別に水で洗わなくてもいいんだ」と大笑い。まことに原釜の女性はよく笑うのだ。

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 シライトマキバイが刺身でうまいのはよく知っている。ときどき八王子綜合卸売センター『高野水産』でいただいてきて(ちゃんとオクレと言ってね)晩酌の友にする。でも改めてとれたてを野性味溢れる出荷現場で食べるとうまさも一入である。
 真つぶ(エゾボラ)などと比べるとコリコリ感に乏しいと思っていたら、意外に勝るとも劣らずの食感があり、苦みがくるとともに甘味が口に広がる。早朝から立ちっぱなしの歩きづめで疲労はピークにある。そこにこの新鮮味がとても心地よい。

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 さて、北海道でも東北太平洋側でも“むきつぶ”の材料はシライトマキバイをはじめとする数種のヒモマキバイグループで身の色合い、味ともに同じである。関東の市場で1キロあたり2000円前後か? 殻付きで1キロあたり800円から1000円くらい。どちらにしてもシライトマキバイはうまくて安い。お買い得な巻き貝に違いない。

市場魚貝類図鑑のシライトマキバイ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/ezobai/himomakibai/siraitomaki.html


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