食べる貝・イカタコ学: 2006年5月アーカイブ

源七のトリガイ

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 八王子魚市場内、源七に着いた途端目に飛び込んできたのが見事なトリガイ。食べたいなと源七の若だんなの方を見る。しかしうまそうなトリガイ、ついつい手が伸びるだろう?
 きっとそんなの見え見えなんだろうな、近寄っただけで若だんなが
「これ1個150円はするかな」
 こ、これは独り言ではない。警戒線のひとつである。でも小さいのならいいかなと思った途端に、あんちゃんが「金払えよ」とにらむ。買ってもいいんだけど、これがあるとついつい酒が欲しくなる。毎日酒を飲める体調でもなく、寂しく諦める。あんちゃん、もっと優しくなろうね。

 トリガイは貝殻から取り出す、そして大きいのは開き、小さいのはワタをきれいに取り、そして軽く湯がく。そして最後にそーっと水分をきる。その間、いかに足の部分に触らないか、当然こすらないか、とこの作業が繊細なのだ。これはトリガイの黒い表皮が非常にもろく、軽くこするだけではげてしまう。しかも値段が「いかに黒いか」できまるため貝の町船橋っ子の若だんなをしていつになく真剣にさせているのだ。でも1個くらいいいんじゃないかな。

 江戸前のトリガイは今が旬、そしてもうすぐ終了。

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市場魚貝類図鑑トリガイへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 古く末広恭雄などの著書に「灯台つぶ=クビレバイ」というのがある。これを信じ込んでしまっていて市場で見る「灯台つぶ」は総てクビレバイだと思いこんでいた。ただ、その余りにも多種多様な形態にすぐに疑問符が浮かんできて産地によって種を判断するようになってくる。
 すると「灯台つぶ」でもっとも入荷量の少ないものがクビレバイであることがわかってくる。クビレバイは日本海から北はオホーツク海にまで。これからすると大武、枝幸のオホーツク海沿岸、また留萌、増毛などの北海道日本海側から山口県までの地域からの入荷でクビレバイ型のものを探すことになる。これがまあめったに来る物ではなく、ここ10年以上見ていても数えるほど。そのなかの典型的なものが島根県産のもの。これなどややのっぽでいながらふくらみが直線的であるクビレバイの特徴がよく出ている。
 これを我が家で焼きつぶにしてみた。「灯台つぶ」にはまつぶ(エゾボラ)のようにテトラミンがなく、そのままサザエの壺焼きのように焼くことができる。また刺身にしても美味である。

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市場魚貝類図鑑のクビレバイへ
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尻高はバテイラだ

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「困ったなぁ。突き出し(居酒屋で最初に出てくる簡単なつまみ)が見つからないよ。昔ぁーこれも突き出し使えたんだけどな」と顔なじみの居酒屋の店主が一分刈りの頭をなでなでぼやいている。目の前にあるのがバテイラである。このときの値段が1キロあたり2800円だ(当日の相場からしたらかなり格安。当日のアサリの値段がキロ/800円)。これを100グラム280円として1個14グラム、大きいと18グラムあるとすると「(突き出しには)3個は欲しいね」で50グラム、原価140円見当になる。「なあんだ料理に使う酒や醤油はほとんど材料費に加えなくてもいいくらいだから安いもんじゃない」といった意味のことを言うと「冗談じゃないよ。うちは突き出しサービスだよ。これじゃ元取るにしても最低350円はもらわなきゃダメだろ。この不況でダメダメ」。ちなみにこれを4〜5個で1品料理に使うとして80グラムだとする。すると原価235円となる。普通定価3倍として700円になるわけだが大衆居酒屋では500円とるのも難しい。そして貝殻ばかりで食べられる部分の少ない嗜好品的な4〜5個の「尻高」にそんなお金を払うオヤジがいるんだろうか? こんなことをあれこれ考えてみるとバテイラの値段、もしくは現在の市場での位置がわかるのではないだろうか。
 さてバテイラは青森県以南の太平洋側の磯や浅い岩礁地帯に棲息している。関東の市場では「尻高(しったか)」と呼ばれる。これは貝殻がやや高い、もしくは長いという意味合いを持っている。でももっと細長く高い貝はあるわけで、それでも「高」がつくのは、このバテイラが棲息する磯で同じように利用できる巻き貝のなかでは「比べて高い」と言う意味合いだと思えばいい。じっさいに磯で貝をあさっていると岩に付いている貝ではバテイラがいちばん背が高い。
 関東の磯でバテイラとともにとれる食用貝はほとんどがニシキウズガイ科。他にはクマノコガイ、クボガイ、ヘソアキクボガイ、コシダカガンガラ、スガイ(これだけがサザエの仲間)などがある。なかで漁獲されて市場で流通しているのはヘソアキクボガイ、クボガイを含めて3種となる。これを日本海、もしくは全国にまで広げて考えるとバテイラと同じように高値で取り引きされるオオコシダカガンガラ、とクマノコガイが加わる。また市場で「尻高」と呼ばれているのはバテイラとオオコシダカガンガラの2種になってしまっている。これら磯の小さな巻き貝が全国から市場に集まり流通するようになったのも最近のことだと思われる。とすると関東の市場での「尻高」は本来バテイラ一種を差す言葉であったはずで、これなど調べてみたい事柄である。

 さて冒頭を受けて、なぜにこのように価格が上がってきたのかというと、生息地である磯場を次から次にコンクリートで固めてしまったために生息数が激減したためだ。乱開発、乱獲のために本来食用とされてきたアワビ、サザエが少なくなり増殖事業が行われるようになった。とれなくなったこれら主役に加わったのがバテイラだろう。これもとれなくなってクボガイ、ヘソアキクボガイ、クマノコガイまで加わり、これまた減少。いまではこれら磯物と呼ばれていた巻き貝を海外から輸入するまでの危機的状況に陥っている。実際に20年以上通っている千葉県外房でみると、乱開発の元凶のひとつが港の整備である。これによって多くの磯場がなくなってしまった。当然、ニシキウズガイ科の巻き貝だけでなくメジナ、カサゴなどの魚、海藻、総てが減少してきている。しかも漁師の高齢化と相まって港に繋留する船の数も減ってきているのだ。こんな皮肉な顛末をコンクリートが大好きな政治家や役人は想像していたんだろうか?

 閑話休題。寄り道しすぎてしまった。
 さて、バテイラは酒、しょうゆで煮る。または酒、水、塩で酒蒸しにしてもうまいものだ。楊枝でくるんと身を取りだし口にいれると、まず磯の香りが口中に広がり、ワタの苦みと身(足)の甘味が一度期に押し寄せてくる。ただ1個でほんの一口にもあたらない小さなものなのでその味わいのときは短い。この短いときを楽しむのが「尻高」の醍醐味なんだろう。
●文中の値段は卸値

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「千葉県外房産じゃないの」と仲買は言う

2種類の「尻高(しったか)」
市場魚貝類図鑑のバテイラへ
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市場魚貝類図鑑のオオコシダカガンガラへ
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 オオカラフトバイとヒモマキバイは非常に紛らわしい。とても2種を分けて考えられないほどである。だからしてオオカラフトバイと大まかな部分は同じと思っていい。
 オオカラフトバイが根室以北、もしくはやや北にかたよって棲息するのに対して、ヒモマキバイは東北以北に棲息。主に厚岸から噴火湾にかけてが産地。
 形態的には螺肋(貝殻の周りにある浮き出た線)が際だつこと、また貝殻の表面に赤い火焔のような斑紋がでる。

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ヒモマキバイ
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 オオカラフトバイは根室から入荷してくる「灯台つぶ」である。たぶんオホーツクなどから来れば、このタイプが多いのではないか? 近縁のヒモマキバイに酷似したものがあり、また形も微妙に、そして連続的に違っている。また困ったことに北海道の根室、オホーツク海などでヒモマキバイと生息域が重なる。そのために市場に両種の特徴をもったものが混雑してくるときもあって、こうなるとよほどの専門家でなければ同定は不可能となるだろう。
 味わいは「灯台つぶ」に共通する。身(足)には黒い筋、もしくは斑紋があり軟らかい。塩で揉んでもエゾボラ(まつぶ)のようなコリコリ感はでない。その分煮ても軟らかく食べやすい。身とワタには甘味と旨味があり、かなり美味。また唾液腺にテトラミン(毒)がないので予め取り除く必要がなく、そのまま焼きつぶにしてもいい。
 値段は「灯台つぶ」全体に言えることだが安くて、これなど居酒屋などで出してくれると懐具合からしてありがたいのだが。

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左はオオカラフトバイであると確信が持てる。右はヒモマキバイである可能性もあるもの

市場魚貝類図鑑のオオカラフトバイ
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ホンビノスガイ

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 八王子魚市場内『源七』の前で社長の呼び止められた。
「おい、あれ、あれなんて名前だったかな。それ」
 なにを言ってるんだこのオヤジと知らんぷりしていたら、どうもホンビノスの話らしい。船橋でアサリなどの問屋を営む『源七』、その前海で繁殖しているアメリカンを無視できなくなっているのだ。

 それは今を去ること15年以上前、東京湾で発見された貝。
 小さなホンビノスを見つけた人がいて「見たことありませんね」ということで研究機関に持ち込まれた。そして千葉県立中央博物館の黒住耐二、岡本正豊(敬称略)のお二方が調べて、これぞアメリカに棲息する「Mercenaria mercenaria」であると結論を出したのである。
 当時から東京湾奥は移入種(他の生息域から人為的に入ってきた)の宝庫であった。地中海からのチチュウカイミドリガニ、アメリカのイッカククモガニ、ヨーロッパからムラサキイガイなど在来種よりも移入種の方がどうみても多いんじゃないか? というのは京浜運河を長年見てこられた青野良平さんの弁。
 ホンビノスガイは発見以来、どんどん生息数が増えてきている。アサリなどを捕っているとデカイのがゴロゴロまざるのだ。これが他国で重要な食用貝であるということで船橋でも利用できるかもしれないと動き出したのだ。
 でもこの貝がいかんせんうまくない。湾奥であることなどから「生はこわいな」と言うのもあるし、熱を通すと硬くなってしまう。
 そして、久しぶりに我が家にホンビノスガイがやって来ました。これは千葉の海人つづきさんが漁したもの。今回のはデカイし、しっかり砂抜きもしているという。
 さて、どうやって料理するか?

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ホンビノスガイ
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ビノスガイ
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チチュウカイミドリガニ
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イッカククモガニ
http://www.zukan-bouz.com/kani/kumoganika/ikkakukumogani.html

東京湾 品川 京浜運河の貝
http://members12.tsukaeru.net/aono/index.html
紫煙さんの 京浜運河の生き物
http://homepage3.nifty.com/keihin-unga/
市場魚貝類図鑑生き物の旅
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