食べる貝・イカタコ学: 2008年9月アーカイブ

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 関東の市場に、必ず、毎日ある二枚貝は何種類だろう。
 アサリ、シジミ、シナハマグリにほっきがい(ウバガイ)、ホタテガイ。
 それと目立たないけどムラサキイガイ。
 9月19日に実際に見たら、八王子の仲卸全店共通して置かれてあったのは6種類だった。
 そのムラサキイガイを来る日も来る日も食べている。

 最近、ムラサキイガイに付着するフジツボに興味があって、面白いフジツボを見つけると、ついでにムラサキイガイも買い求めてくるのだ。
 ムラサキイガイにつくものはアメリカフジツボ、アカフジツボと撮影した後は、当然食べることになる。
 改めて思ったことだけど、ムラサキイガイはまことに美味だ。
 一週間くらい毎日のように食べても飽きが来ない。
 また食べたくなる。
 目的のフジツボのことは、どうでもよくなって、ムラサキイガイにのめり込んでしまう。

 さて、食べるだんになると、標準和名のムラサキイガイでは「うまそうに」思えない。
 やはり、ここではムールガイと呼び名を変えよう。
 ちなみに「Moul」だけでいいので「かい」は不要だ。
 けれども、「ムール」だけでは「ルーム」の間違いであるように思えるし、その上「貝」でない気がする。
 ということで「ムールガイ」と書いているので悪しからず。

 よく外食でムールガイが出る。
 例えば、パエリアだとか、オードブルにだとか。
 そこには1個か2個のムールガイがあるだけで、いったい何の意味があるんじゃい、とボクなど憤りを感じる。

 この黒っぽくて、目立たない貝は例えば女性が「私脱ぐとすごいのよ(こんなこと言われたことがない)」的な感じで「ワイン蒸しにすると、すごいのだ」。
 そしてやたらに食える、食らえる、切りがない。
 だから我が家では、一人前で両手の平いっぱいを目安にする。
 鍋に白ワイン、少量の水を加えて、洗ったムールガイをよいこらしょと放り込む。
 後は強火で蒸し上げる。
 調味料はなにひとつ必要としない。
 あえて加えるなら、白コショウとか香り漬けにパセリか。

 ムールガイを食べるときは必ず野蛮に手で食べるべきなのだ。
 二枚貝から身を取り出すと軟体から黒い髭のようなものが出ている。
 これを親指と人差し指でつまんで歯で身をしごき取るように食べる。
 レストランなどでは予め、この毛を取り去っている。
 その作業する時間がムールガイをまずくしてしまう。
 しかもお毛毛を取り去ると、無駄にジュ(エキス)がこぼれる。
 「レストランでムールガイを食べるな」も鉄則だろう。

 昔、大正期に国内に現れたムラサキイガイを食べた人が、「なんだか味付けしたような貝だな」と言い。
 戦後でも「味の素をいれたような味だ」なんてくどくて嫌がられたようだ。
 その濃厚な味わいがなんとも言えずいい。
 しかも、ボクにはこの旨味がくどいなんて全然思えない。
 軟らかくて、ほどよく舌の上でつぶれる軟体はまるでムースのように感じられる。

 白ワインで蒸して、白ワインを飲むのが基本形で、なにやらムールガイを食卓にのせると、レストラン気分になる。
 もちろん、脇で太郎なんかが「イチ、ニ、サン」なんてお笑い芸人の真似をしているのが気にくわないけどね。
 今回料理にも使い、食卓で飲んだのが、モーゼルワイン。
 モーゼルにも比較的辛口があるのだな、なんて今回はオマケ的な発見までしたのだ。
 その辛口でうまいワインの銘柄だけど読めませーーん。

市場魚貝類図鑑のムラサキイガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/igai/murasakiigai.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

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 春から夏にかけて入荷してくるのが、関東での「麦いか」、市場では「ばらいか」と呼ばれる小振りのスルメイカだ。
 これは基本的に箱売り、またバラで買っても単価を考えるとあるていどまとめ買いすることになる。
 いろんな料理に使うのだけど、あまったらゲソと胴を分けて冷凍する。

 今回は、夏から秋に作る定番料理であるきゅうりもみに使う。
 冷凍麦いかは解凍しておく、そこに振り塩。
 きゅうりは薄く切り、強い塩をしておく。
 このまま四半時も待つ。
 水洗いしながらもみ、塩を抜く。
 もみながら何度も味見して、丁度よい塩梅となったら水分を切る。
 よくよく水気を絞り出す。
 今回はキュウリにニンジンの繊(せん)を混ぜ込んだ。
 甘酢を作る。
 これは酢と砂糖を合わせるだけ、決して三倍酢を作ってはいけない。
 麦いかを強火で焼く。
 熱をさませて、細く切る。
 これをきゅうりと合わせて、和えて、甘酢をかけまわす。

 そう言えば、きゅうりもみにも季節感がなくなっている。
 だいたい食卓に「きゅうりもみ」がないと寂しいものだから、地生えだろうが、温室だろうが、F1だってなんでもいいのだ、とにかく、きゅうりは欠かさず、冷蔵庫に入っている。

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アラスジサラガイはきゅうりもみには適さない。味が淡泊すぎる。

 だから白貝(アラスジサラガイ)と合わせて失敗したりする。
 きゅうりと「何」を合わせるか、これを試行錯誤するのも楽しい。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、スルメイカへ
http://www.zukan-bouz.com/nanntai/tutuika/surumeika.html
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 我がご近所に住むnicさんにおいしい「ゆずこしょう」をいただいた。
 宮崎県児湯郡西米良村というところで田爪とみ子さんがつくったもの。

「ゆずこしょう」の「柚」はわかりやすいけど、「こしょう」は説明が必要だろう。
 これはコショウではなく、唐辛子のことなのだ。
 コショウは国内に入ってきたのは古く、天平時代(8世紀)にまで遡る。
 対するに唐辛子は室町時代。
 コショウの木が国内で育たないのに対して唐辛子は国内で手軽に栽培できた。
 当時輸入品はそれこそ気が遠くなるほどに高く、庶民には見ることもできないもの。
 唐辛子の「唐」は単に異国をさすもので、「異国から来た辛い食べ物」として名がある。
 胡椒というのも「胡」は秦・漢時代(紀元前3世紀から、紀元0年まで)から西域を表すもので、これも「異国」であって「胡椒」自体が「異国から来た香辛料」をさす言葉でもあったのだ。

 庶民の手に届いた唐辛子が「こしょう」とも呼ばれたのは当然のこと。
 これは九州だけでなく、北陸から東北日本海でも唐辛子を「こしょう」と呼ぶ。

 青い唐辛子をするおろし、柚の皮と合わせて、寝かせて発酵させたものが「ゆずこしょう」である。
 主に九州東部で作られている。
 この香りが高く、辛さに独特の旨味をともなった調味料は、ある意味、どんな料理にも合う、
 我が家では、釜揚げうどんを、そうめん汁に、ときに焼いた豚肉に、また蒸し鶏に、刺身に和え物にと活躍している。

 今回はやっと出始めた下氷のスルメイカをひも状にして、ささっと「ゆづこしょう」であえる。
 ほんの少し、生醤油を垂らしているのだけど、これがとても味わいを深いものにする。

 五十路になって、ますますこのような単純極まりない料理がうまいと思うようになってきた。
 8月の軟らかいが旨味が少ないスルメイカが、9月になってぐっと旨味を増している。
 そこにユズのなんともいい香りが包む。
 青唐辛子の強い辛さが、イカの甘味と口の中で闘っている。
 いいのである、この口中の抗ううまさが。

 酒は明らかに焼酎でなければならない。
 今回のものは同じく宮崎県の「八重桜 麦」とした。
 この麦焼酎と「スルメイカのゆずこしょう和え」がとても相性がいい。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、スルメイカへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 今や全国に広がってしまったのがイワガキの産地。
 その昔、イワガキを食べる地域は秋田、山形、新潟、鳥取、千葉などで、そんなに多くはなかった。
 どの地方でも「ここでしか食べられない」、「ここでしかとれない」なんてうたい文句に「夏のイワガキ」を食べていたはずだ。
 でも図鑑を見る限り、イワガキの生息地は広く、ある意味「どこにでもいる平凡な生き物」でしかない。

 そして今では、それこそ日本全国津々浦々からイワガキがやってくる。
 棲息しない北海道、沖縄県は無理でも、本州四国九州と産地をあげると切りがない。
「どこのイワガキを食べても味は同じであるわけはない」だろうと、違う産地のものを見つけるたびに片っ端から食べてみる。
 秋田、山形、新潟、富山、石川、京都、鳥取、島根(養殖)、岩手(養殖)、静岡、愛知、三重(天然、養殖)、徳島、愛媛、大分、宮崎。
 これで全部かなと確かめるのが大変でもある。
 産地産地で「うまいまずい」があるのを発見した年ともなった。
 やはりまずい地域もあるのだ。

 そのトリとなったのが広島県倉橋島のイワガキだ。
 まだ漁業の対象ではないので「生で食べられるか」という細菌や貝毒の検査は受けていない。
 ボクの自己責任で「少しだけ」じゃなくて「いっぱい食べてしまった」倉橋島のイワガキである。

 倉橋島のイワガキの大きさは天然物としては中くらい。
 同じ日に入荷した同じくらいのイワガキが一個500円であった。
 特徴は平たく丸いことだ。
 この生はうまかった。
 あまり濃厚すぎるわけではなく、さっぱりしているのだけど殷々と旨味と微かな苦みが続く。
 これを酒で洗い流したときの「旨味のもどり」「旨味の消え去り方」がいい。
 5個でも6個でも、うまさを繰り返し楽しめる。

 蒸しても、焼いても上々であった。
『市場寿司 たか』の渡辺隆之さんと、八王子総合卸売センター『さくら』夫婦にも食べてもらって、この加熱処理をした味わいも好評をはくした。

 倉橋島のある広島県はマガキの大産地である。
 出荷検査体勢もととのっているように思える。
 日美丸さん、倉橋島のイワガキを出荷してみないかな?

日美丸へ
http://ww5.enjoy.ne.jp/~kogera0401/
市場魚貝類図鑑のイワガキへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/kaki/iwakaki.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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