食べる貝・イカタコ学: 2007年12月アーカイブ

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 猿の頬のようにぷっくり膨らんだサルボウを八王子魚市場内『源七』でもらって、船橋の湊人になったかのようにせっせと剥く。これをペティナイフで開いて、掃除して、塩をまぶして滑りをとる。最後の仕上げは足糸をとり刺身の出来上がりだ。

 この三番瀬でとれたサルボウは、船橋湊町ではおかずになる貝だ。アサリに混ざったのを、選り分けて、剥いてから甘辛く煮る。また大きめのを取り分けて、おっかさんが丁寧に刺身にする。
 そんな東京湾岸の匂いを八王子にもたらしてきた『源七』が本拠地船橋に撤退することになった。考えるだに、サルボウを剥きながらも悲しい思いになる。

 唐突な撤退は八王子魚市場が真半分に縮小し、パチンコ屋が進出してくるからだ。ボクはパチンコというものはやらないけど、博打というもののなかではもっとも日常に湿潤してきているもの。所謂、無駄に五月蠅い人たちがカジノを忌避するけど、本当はパチンコの方が悪質。日々の暮らしに、“あってもいいもの”かも知れないが、ボクのような“しない人”にとっては忌まわしい存在だ。市場という、本当に暮らしを支える拠点が、そんな博打の施設に成り代わっても許されるものだろうか?

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 旬を迎えたサルボウは大小合わせて15、16個。これを全部丁寧に剥いても刺身は小鉢に盛るほどでしかない。でもこのフネガイ科のヘモグロビンで赤く染まった身のなんと旨味の濃いことだろう。箸でつまんでヒラヒラする、その一片が舌の上で甘味と渋みと旨味を爆竹のようにはじけさせる。
 酒で流し去ってしまうのがおしい。と躊躇しながらも海老名の海老さんにもらった「泉橋 純米トンボカップ」をやる。

 飲みながら、来年からはサルボウは船橋まで買いに行くしかないなー、と思う。もしくは木更津、きんのり丸さんにお願いして、とってもらおうか。どちらにしろ東京湾のサルボウが遠く、遠くなる。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サルボウへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/funegai/sarubou.html
八王子市場案内へ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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器は竹内立爾さんのまな板皿。いただいたときには、そのよさの半分しかわからなかった。最近、非常に好きになっています。改めて竹内さんに感謝。

 ある日、市場を歩いていたら「淡路から墨烏賊(すみいか)がきたよ珍しいね」と八王子総合卸売センター『高野水産』社長から声がとぶ。
「へえええ」と見ると、どこか違っているのだね。そう外套(胴の部分)の頂点。すなわりコウイカ類のいちばんお尻の部分が、そそうしたように汚れている。ひっくり返すと、これがシリヤケイカなのである。
 シリヤケイカはとれる年と、とれない年があって、極端である。豊漁年にはそれこそ「わく」という表現が的を射ているほどに「とれてとれて困る」。
 大阪湾、淡路島周辺では今期シリヤケイカが多いのかな、と思えるほどに連続入荷である。しかも鮮度抜群で、値段が安いので、ついつい主役のコウイカ(すみいか)を通り越してシリヤケイカに手が伸びる。

 さて、この「尻焼烏賊」という奇妙な名前は、一般に頭の先に見えるが、実は身体の一番後ろ側、それこそ「尻」の当たりから赤褐色の分泌液を出すことから来ている。だから、イカを裏返しにして外套(刺身などにする部分)を押すと、尾籠な話だが、それこそナニをちびったように褐色に汚れてくる。

 市場では「この“すみいか”いいね」と寿司職人に人気があって、飛ぶように売れいくのはコウイカと区別されずに扱われているからだ。

 瀬戸内海では「真烏賊(まいか)」と呼ばれる。これは間違いなく味がいいためだ。
 さて、コウイカと刺身にしてどっちがうまいか食べ比べても、食べている内に区別がつかなくなる。グリシンからくる甘味が強く、旨味も舌に余韻を残していく。そしてモチっとした食感。

 天気予報ではないけれど、シリヤケイカ情報というのはないかしらん。もしあったら楽しいだろうな。
「今期のシリヤケイカ情報。初冬から大阪湾ではシリヤケイカがわいています。わいています。この大発生は今後も続く模様です。また東京湾東部千葉県側でも大発生のきざしがあります(これはフィクションですよ)」
 ラジオからこんなアナウンスが流れてきて、「そうか今年はシリヤケイカを食わないといけないなー」なんて思う。楽しいだろうなー!

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、シリヤケイカへ
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八王子の市場に関しては
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オオマテガイの不幸

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 マルスダレガイ目マテガイ科の二枚貝は美味なものが多い。当然、東京湾でも健在なマテガイのうまさは、最近こそ忘れられているが、その昔は有名であったし、瀬戸内海のアカマテガイ、北海道のエゾマテガイとうまいものだらけ。
 では、マテガイ、アカマテガイ、エゾマテガイが市場にあるかというと、なかなか探しても見つかるもんじゃない。今年こそアカマテガイの岡山県からの入荷を見ているものの、本来は市場には皆無といってもいい。

 それでは市場にマテガイはないのかというと、「これでしょう」と持ってきてくれるのが韓国産のアゲマキである。そして「これは“本まて”」なんて偉そうに出してくると、オオマテガイであったりするのだ。すなわち市場で“まてがい”というとアゲマキとオオマテガイということになる。アゲマキはマテガイ科ではなくナタマメガイ科なので“マテガイの仲間”とするのはおかしい。でもオオマテガイはれっきとしたマテガイ科なので“市場でのマテガイ”は今やオオマテガイということになる。
 オオマテガイで困るのが産地がはっきりしないということ。一様山口県と荷受けなどから回答を得ているが、県内のどの地域かがはっきりしないし、また荷主までたどり着けていない。マテガイ科は汚染や環境変化に弱く、日本中で漁の対象となっている地域自体がほとんどない。それなのに晩秋から春まで毎日のように入荷を見るオオマテガイって、いったいどこでとれたんだろう。

 さて、謎解きはおくとして、とてもうまい二枚貝であることは間違いない。砂を噛んでいなければ、そのまま炭火に乗せて焼く。身はやや硬めだがたっぷりボリュームがあるし旨味甘味がある。そして焼けるそばから香ばしい。
 そして我が家では刺身にもする。刺身にするのは水管と足の部分。オオマテガイを横たえると太い棒状で、漢字の「一」に見える。その左右が「前後」にあたり、水管と足が出てくる。これを剥いて、開いて、湯引きする。

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 水管の口の部分が「ミミズみたい」という寿司職人がいて、確かによく似ているけどこれは湯引きすると目立たなくなる。でも残念なことに湯引きしても色合いが悪いのは変わらない。まるで出来の悪い芋羊羹のようではないか?
 食うまでは箸が動かない典型的なものがオオマテガイだ。実際一口舌にのせ、咀嚼を始めると旨味があって、甘く、食感も申し分ない。「寿司ネタにしてもうまいね」とは『市場寿司 たか』の渡辺隆之さんだけど、その色合いから店に置こうとは決して言わない。でも家庭では見た目よりも味がよければ刺身で食べてもいいのではないだろうか?

 さてオオマテガイも冬到来を告げる水産物のひとつだ。飛騨焜炉を出して、食卓で焼くもよし、また湯引いて刺身として食べるもよし。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、オオマテガイ
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厚岸のマガキ

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 北海道厚岸・厚岸湖の小振りのマガキを初めて見たのは3,4年前だっただろうか、市場の貝担当者と試食して「うまいねー」と顔を見合わせたのが昨日のことのように思い出される。それから厚岸のマガキは毎年のように入荷してくるようになった。そして今や築地を始め関東の市場で見ない日はないほどに人気がある。

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 今回買った厚岸のマガキは他の産地から比べると、かなり小振りである。殻ごと量ると一個70グラム前後。例えば岩手県産でできるだけ小さいのを選んでも100グラム以上あるので、いかに小さいかがわかるはずだ。薄っぺらい殻を剥いても、あれれというほどに痩せている。これは広島県、岡山県、宮城県産などの盛りあがるほどに膨らんだ身とは対照的に思える。

 でも、このやや痩せ気味の身をおもむろに口に放り込んだとき、そこからわき出す硬くしまった食感、そして濃厚で、しかも後口のいいうまさにビックリするだろう。それこそこのカキの食卓を囲む人たちが顔を見合わせるほどにうまいものである。
 マガキの味わいは、どこかグラマラスなものだ。旨味にボリュームがあって、例えば一種の渋みをともなって口の中で膨らんできて、その数個で旨味中枢も食欲も満たされてしまう。ところが厚岸だけではなく北海道のカキの味わいというのは、どこか鋭角的で爽やかな後味で、いくら食べても、食べ飽きない。この双方ともボクとしては好きなのだけど、味の印象は厚岸のマガキが強く残る。

 だから冬になると毎日のように食べるマガキに適当に「厚岸産を食べる」を挟んでいる、2,3日あけて、また厚岸という風に。ここにサロマ湖産があるともっといいのだけど、関東で見る限り、北のマガキは厚岸がいちばん手に入れやすい。

 そして個人的な話になるが今週は幸不幸とりまぜていろいろありすぎた。また年末にかけての慌ただしさも早々始まっている。疲れはたまるばかりで、市場巡りでマガキを手に取る回数が増えている。
 そんなときに北の冷たい湖に育つ、マガキを食べるというのは心癒される気がするのはボクだけだろうか? 北海道ではマガキの育ち方もとても遅く、この小振りのマガキですら幾年も冷たい氷下で沈んでいたのだ。この冷たいが、栄養分にとんだ北の湖のマガキ、風邪気味のボクにも元気をくれそうに思う。違うかな?

厚岸漁業協同組合
http://www.a-uroko.or.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マガキへ
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