食べる貝・イカタコ学: 2006年8月アーカイブ

 銚子以北、北海道からベーリング海まで主に太平洋側に棲息しているとある。ただ未だ本州産のものは見ていない。市場でみかける多くは日高支庁から厚岸まで、そしてオホーツク海のもの。貝殻が厚く硬く、「岩つぶ」と呼ぶ地方もあるくらいである。触ると石のような感触。
 市場では比較的よく見かけるもの。そしてもっぱらBつぶとして扱われる。貝殻が厚いので割るには面倒だし、穴をあけるのも厄介、同然歩留まりも悪いので人気がない。値段はキロ当たり1000円前後から2500円くらいまで。2000円を超ることはまずない。
 味は刺身にして甘味があり、コリコリっとした食感も楽しめる。ただし身の色合いが黄色っぽいのが、うまそうな色合いとは思えないようで残念ではある。
 すなわち、これも手間を惜しまず貝殻つきの姿造りにすると立派で見栄えがいい。その上、味もよくて値段も安いのでお買い得なものである。

atuezo068.jpg

市場魚貝類図鑑のアツエゾボラへ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/ezobai/ezobora/atuezobora.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 福島県相馬市原釜は日本屈指の漁港である。底引き網あり、サケの定置もある、刺し網も、ミズダコのカゴ漁もある。ここで、困るのが食事である。原釜から松川浦にかけては言うなれば観光地なのだ。当然うまそうな飲食店も多いのだが、どれもが観光客目当ての店ばかり、それで賑やかな地域をさけて飛び込んだのが「おいかわ食堂」なのである。駐車場は奥にあって、そこには大型トラックが何台か止めてある。これは間違いなく地元の客を相手にしている素朴な店に違いないだろう。
 それで裏から店に入ると、店内の賑やかなこと、小上がりには長靴が並び仕事を終えたばかりの漁師さんが生ビールに豪快に飲み干している。
 その脇の隅っこ4人がけのテーブルに座り、品書きを見ると中華系の定食などがあるなか「アサリカレー」というのを見つけてお願いした。そして待つほどもなくやって来たのがやや色濃い目のライスカレーである。『カレーライスの誕生』(小菅桂子 講談社メチエ)を読んでいると昭和10年には各地でカレーが普及していき「ほっきカレー(福島)」「馬肉カレー」などが登場しているとある。当然、松川浦から原釜にかけてはほっき(ウバガイ)やアサリが豊富にとれたのだから「アサリカレー」が作られていてもおかしくない。
 そしていざ食うべよ、と目の前のカレーを見るに驚いた。アサリが殻付きでゴロゴロと入っている。そしてルーを味わってみるに確かにアサリらしい風味はあるものの強力なカレー風味に押されてほんの微かなものでしかない。カレー自体の味は決して悪いものではなく、そこに面倒かけますわ、と言って殻付きのアサリがあるだけなのだ。ご飯もやや大盛りでサラダ付き、まあ昼ご飯にはこんなものも面白いかも知れない。

asarikare-oi.jpg

おいかわ食堂 福島県相馬市尾浜字追川186-1


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 日本海、太平洋では鹿島灘以北と生息域の広い刺身つぶ(Neptunea)である。エゾバイ科では真つぶ(エゾボラ)とともにもっとも大きくなるもの。
 市場では入荷の少ないものでまとまってくることはまずない。産地は主だって多いという地域はなく、とくにこれを珍重するのが新潟県である。他の地域では大きなものは別としてBつぶ(その他のつぶ)という評価しかない。当然、新潟県などでは高く、関東築地などで安い。特に太平洋側の福島などではエゾボラモドキと区別しないで出荷する。また、形態的には太平洋側、日本海側似ているのだが、味わい的には日本海からロシア海域までのものが上、また身の色合いも白く美しい。
 値段は新潟県など特産物としている県では高く、他の地域では低い。キロ当たり1000円くらいから大きなもので2500円くらいまでマチマチ。価格は安定しない。
 この、つぶの真価は新潟県人のみが知っていると言っていい。日本海でとれるものは甘味があり、身の色合いが美しい。当然、刺身の旨さは真つぶ(エゾボラ)に勝るとも劣らず。このつぶをBつぶとして扱うのはもったいない限りだ。

tidimiezobora067.jpg
日本海は鳥取県産

tidimimatukawa.jpg
福島県相馬市原釜産

市場魚貝類図鑑のチヂミエゾボラへ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/ezobai/ezobora/tidimiezobora.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 八王子ですし屋といったらとにかく多いのが『鮨忠』という店。これは八王子市南町の『鮨忠本店』からののれん分けした店。この『鮨忠』の中でも「横川町」、「元本郷」、「元八王子」のお三方には、寿司に関していろいろ教えてもらっている。
 土曜日教えてもらったのが青柳の仕込みである。
 八王子上壱分方町の『鮨富』さんから「青柳(バカガイ)を掃除して何も入れていない鍋に身の部分を入れて一握りの塩を加える。これを手でかき混ぜながら火にかけて、手を入れられなくなったら冷水に取る」というのを教えてもらった。これは『市場寿司 たか』の渡辺隆之さんもこれに習っている。
 そして『鮨忠』さんたちのやり方であるが、むき身にしてワタを取り去った青柳を常温の塩水に入れる。これを火にかけて、かき混ぜながら温めていく。そして湯に手が入れられなくなって、青柳の身の色合いが程良く変わったら冷水に取るのだという。
 教えてもらったら、すぐやってみるのがボクの信条である。土曜日に八王子魚市場に残っていた北海道八雲町のバカガイを全部引き取りいざ挑戦。
「鈴木さん(八王子魚市場の貝などの担当)、ごっそり青柳もらって帰るぞ」
 カッコつけて言い放ってみたら。
「あと1キロしかないだろ」
 ニコニコ笑って2百円まけてくれる。あ・り・が・と!

1 むき身にして星(貝柱)、足とワタ、身にわける。

aoyagi061.jpg
身(足)の部分にワタが入っている。またこの時期、北海道のバカガイは産卵期なので、ワタと生殖腺を押し出すように取り去る

aoyagi062.jpg
ヒモなどはみそ汁や煮物に、貝柱は天ぷらに

2 鍋に身と塩を入れて水を加える。

aoyagi063.jpg
このとき水は透明で澄んでいる

3 火にかけて箸でかき混ぜながら時々水の温度を指で確かめる。

aoyagi064.jpg
火にかけると水が微かににごり、身が少しだけ締まる

4 どこか透明であった身の部分が白くなり、微かに仕舞ってきたら、ちょうど指を入れていられない温度になっている。
5 これを冷水にとり、水分を切って、身を開いて出来上がり。

aoyagi065.jpg
冷水にとったら、こんどは流水下で汚れやぬめりを完全に取り去る

aoyagi066.jpg
これがボクの晩酌の肴。青柳の持ち味は独特の苦みと甘味、これに高清水の辛口を2合ほど

 塩と身だけで煎るようにするのと、塩水を使うのと、どちらも甲乙つけがたく味がいい。なにしろ青柳の火の通し方は難しいのだが、このやり方なら簡単に「火の通り」が判断できる。
 寿司などの技術本には熱湯に潜らせるとあるが、明らかにこの『鮨忠』方式、『鮨富』方式の方が上であるように思える。また塩水を使う方が一度にたくさんの仕込みが出来るように思うのだが、これは素人にはわからない。

市場魚貝類図鑑のバカガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/bakagai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2006年8月以降に書かれたブログ記事のうち食べる貝・イカタコ学カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは食べる貝・イカタコ学: 2006年7月です。

次のアーカイブは食べる貝・イカタコ学: 2006年9月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。