猿の頬のようにぷっくり膨らんだサルボウを八王子魚市場内『源七』でもらって、船橋の湊人になったかのようにせっせと剥く。これをペティナイフで開いて、掃除して、塩をまぶして滑りをとる。最後の仕上げは足糸をとり刺身の出来上がりだ。
この三番瀬でとれたサルボウは、船橋湊町ではおかずになる貝だ。アサリに混ざったのを、選り分けて、剥いてから甘辛く煮る。また大きめのを取り分けて、おっかさんが丁寧に刺身にする。
そんな東京湾岸の匂いを八王子にもたらしてきた『源七』が本拠地船橋に撤退することになった。考えるだに、サルボウを剥きながらも悲しい思いになる。
唐突な撤退は八王子魚市場が真半分に縮小し、パチンコ屋が進出してくるからだ。ボクはパチンコというものはやらないけど、博打というもののなかではもっとも日常に湿潤してきているもの。所謂、無駄に五月蠅い人たちがカジノを忌避するけど、本当はパチンコの方が悪質。日々の暮らしに、“あってもいいもの”かも知れないが、ボクのような“しない人”にとっては忌まわしい存在だ。市場という、本当に暮らしを支える拠点が、そんな博打の施設に成り代わっても許されるものだろうか?
旬を迎えたサルボウは大小合わせて15、16個。これを全部丁寧に剥いても刺身は小鉢に盛るほどでしかない。でもこのフネガイ科のヘモグロビンで赤く染まった身のなんと旨味の濃いことだろう。箸でつまんでヒラヒラする、その一片が舌の上で甘味と渋みと旨味を爆竹のようにはじけさせる。
酒で流し去ってしまうのがおしい。と躊躇しながらも海老名の海老さんにもらった「泉橋 純米トンボカップ」をやる。
飲みながら、来年からはサルボウは船橋まで買いに行くしかないなー、と思う。もしくは木更津、きんのり丸さんにお願いして、とってもらおうか。どちらにしろ東京湾のサルボウが遠く、遠くなる。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サルボウへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/funegai/sarubou.html
八王子市場案内へ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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